■ DIGA中、最も独自性の強い位置付け 今春、一挙5機種のDVDレコーダを発売する松下電器。「DIGA(ディーガ)」と名づけられたラインナップ中、最も異彩を放つのが「DMR-E70V」だろう。これまでにも「再生専用DVDプレーヤーとVHS」、「HDDレコーダとVHS」という例はあったが、記録型DVDとVHSの組み合わせは珍しい。もちろん、DVD部、VHS部ともに録画でき、DVDとVHSの相互ダビングも可能。スペックから受ける印象はずばり、「長年録り貯めたVHSをDVD化できるハードウェア」であり、そのニーズは多いはず。
左にVHSの挿入口、右にDVDのトレイを配置した前面パネルは、中央の黒い線をアクセントに使ったDMR-E30(2002年3月発売)からの流れを受け継ぐもの。一時期ミラーデザインに傾いたDMRシリーズも、現在はこの楔型フロントパネルのデザインで落ち着いたようだ。それでも、ハーフミラーを使用した表示パネル周りなどに、ミラーデザインの面影は残っている。 面白いのは、DVD、VHSそれぞれに停止と録音の各ボタンを配置していること。表示パネルも、左にVHS、右にDVDのタイムカウンタを仲良く表示する。複合機の持つ複雑さをなるべく排除し、それぞれの機能で単体機の使い勝手を実現しようという配慮が感じられる。 また、D2出力端子を1系統備え、プログレシップ出力にも対応する。DVD映像のほか、チューナの画像もプログレッシブ化できる。プログレッシブ再生時には、プログレッシブのON/OFFをメニューで切り替えられるほか、プログレッシブ化モードをAuto1、Auto2、Videoから選択できる。 さらに、DVDモード時にチャンネルを「TP」にすると、なんとVHSテープのプログレッシブ再生が可能になる。プログレッシブで見るVHSの映像はなかなか鮮烈で、より細かい部分が見えるようになる。 DIGAシリーズは共通して、デジタル3次元YC分離、デジタル3次元ノイズリダクション、TBC(タイムベースコレクタ)を備えている。特に、入力信号のジッタを低減するTBCは、VHSのDVD化にこそ威力を発揮する機能だ。E70Vにはうってつけの装備といえる。
DVDビデオの画質は、ノーマル、シネマ、ファインの各モードとも色が浅く、階調も平板な印象。コントラスト、色合い、ガンマなどを個別に調整する機能もない。プログレッシブに対応しているとはいえ、DVDプレーヤーとしては凡庸な性能だ。このあたりのクオリティは、DMR-E30とほとんど変わっていない。
■ DVD-RAM上で「追いかけ早見再生」が可能に DVDレコーダ部の録画機能は、DMR-E30をほぼ踏襲している。録画モードはXP、SP、LP、EPの4モードで、DVD-RAM/R(片面)にそれぞれ1時間、2時間、4時間、6時間の録画が可能。録画予約時には、ディスクの残り容量から録画ビットレートを自動計算する「FRモード」も設定できる。録画ビットレートを細かく設定できないので、マニアックな設定を楽しみたい人には、あいかわらず物足りない仕様だ。チューナは地上波用のみを搭載し、BSアナログチューナは非搭載。音声はドルビーデジタル2chで記録し、PCMでの記録には対応していない。Gコード予約が可能で、DIGAシリーズでは唯一、リモコンにGコード確認用の液晶ディスプレイを装備している。 もちろん、追っかけ再生、同時記録再生記録といったDMRシリーズの特徴はそのまま継承(DVD-RAM記録時のみ)。メニュー構成もほぼE30から変化していない。チャンネル切り替えやメニューのレスポンスも相変わらず高速で、待たされるとすれば、プログラム(番組)を削除したときぐらいだ。 画質もE30と同等。特に、5Mbps程度と思われるSPの画質は、他社製品の同等のレートと比べてもいまだに秀逸。極端にブロックノイズが目立つシーンもあるが、全体的には輪郭がしっかりしていて、低レートの割には実用的な画質となっている。
CMカット編集はシンプルで、削除したい部分のイン点、アウト点を設定し、1カ所ずつカットしていく方式。他社製品のような「チャプタを打ってからまとめて削除する方式」に比べると、幾分アナログ的でまどろっこしいときもある。しかし、とっつきやすさと操作のレスポンスの良さは、いまだに他社製品の一歩先を行く。 なお、DIGAシリーズになってから、1.3倍の音声付き再生が追加された。音程を変えずに早口で再生する機能で、録画済のプログラムだけでなく、早見でオンエアを追いかけることもできる。ただし、録画中の早見は、SP、LP、EPでの録画中のみ。また、DVD-RやDVDビデオには適用できない。
今回のDIGAシリーズ中、E70Vだけが折り畳み式のコンパクトなリモコンを採用している。再生、停止、早送り/早戻しといった主要ボタンを表側に大きなボタンで配置し、基本的な再生操作に不満はない。配置やボタン種別の絞り方からは、複合機という多機能な製品を誰でも簡単に使えるようにした工夫が見て取れる。 また、文字入力が携帯電話方式になり、テンキーで文字を選択できるようになった。これはこれでありがたいのだが、折り畳み式のE70Vの場合、テンキーが蓋の内側、決定が蓋の外側に配置されている。文字の選択後は必ず決定を押さなければならないため、1文字選択するごとに、その都度蓋を閉じることになる。E70Vに限っていえば、従来通り、カーソルキーで文字を選択する方法が無難だろう。 編集部注:初出時に、「リモコンにコマ送りボタンがない」と記述しましたが、カーソルボタンの左右に割り当てられています。お詫びして訂正いたします。
■ VHSをDVD化すると画質が向上 最も期待がかかる機能は、やはりVHSからDVDへのダビングだろう。とりわけ、ボタン1つで自動的にダビングを開始する「ワンタッチダビング」がその真骨頂だ。DVD-RAM、DVD-Rの両方で実行でき、テープの頭出し信号(VISS)を基に、自動的にプログラムを切り分けることも可能。テープの終端になると、ダビングは自動的に停止する(途中で強制停止も可能)。VHSのDVD化を目論んでいた人にとって、かなり使えそうな機能だ。ほかにも、一時停止ボタンを使い、テープの任意の位置からダビングを開始する方法もある。要するに、アナログ時代からの伝統的な手法だ。ダビングを一時停止することで、不要な部分を飛ばしならコピーすることも可能。もちろん、どちらの方法でもダビングは等速で行なわれる。また、ダビング時にはVHS、DVDともふさがっているので、予約録画は動作しない。 驚いたことに、VHSの画像をE70VでDVD化すると、画質がかなり良くなることがわかった。輪郭線がびしっとしまり、録画したVHSデッキのグレードが数段上がったかのよう。TBCが利いているためと思われるが、DVD化の有効性をはっきりと感じることができた。ただし高画質に感じたのはXPだけで、SP以下では、VHSよりも画質が劣る結果になった。 悩ましいのはワンタッチダビングを使うか、それとも伝統的な一時停止方式を使うかの選択だ。DVD-RAMへダビングした場合は、その後にカット編集が行なえるが、DVD-Rへのダビング後は編集不可。かといって、一時停止を使う伝統的な手法も面倒だ。 本格的なDVD化を目指すなら、手持ちのVHSデッキをDMR-E80Hなどのハイブリッド(HDD+DVD)レコーダにつなぎ、外部入力経由でHDDに保存、HDD上で編集してからDVDへ書き出すのがベストだろう。結局、HDDというバッファのないE70Vの場合、編集をあきらめ、次々とDVD化するのが実用的だ。 それと、VHS側がS-VHSの簡易再生(SQPB)しかできないのも惜しい。DVD-Rにしてまで残したいテープとなると、AVファンの場合、S-VHSという可能性は極めて高い。入力側が高画質だと、DVD化したものはより高画質になると思うのだが。S-VHSの普及度とメカ部のコストを考えると、致し方ないのかも知れない。 なお、DVDの映像をVHSにダビングすることも可能だ。DVDプレーヤーのない配布先に対しても、VHSで手渡せる。もちろん、コピープロテクトのかかったDVDビデオはVHSにダビングできない。
■ まとめ ダビング機能にスポットが当たるE70Vだが、AVファンが求めるDVD作成マシンとしては、機能的にはいまひとつ中途半端な印象を受ける。価格も決して安くない。本格的なダビングを考えるなら、やはりハイブリッドレコーダと手持ちのVHSの組み合わせをおすすめしたい。もっとも、ダビング後の編集にそれほどこだわらないのなら、E70Vの持つ一体型やワンボタンの利便性が生きてくる。事実、E70Vで何本かダビングが終わった頃には、等速でダビングするだけで時間が過ぎ、編集する気にはとてもなれなかった。私見になるが、E70Vはディスクレコーダの導入に当たり、最も家族の同意を得やすい機種だと思う。万が一、家族がDVDレコーダ部を使いこなせなかったとしても、VHS部は従来通りに利用できるからだ(VHSデッキだと考えるとかなり高価だが)。つい最近も普通の主婦から、DIGA、なかでもE70Vについて意見を求められたことがある。「すべてのVHSをDVDレコーダに置き換える」というDIGAシリーズの売り文句からすれば、E70Vこそ、次のステップに向けた重要な戦略製品なのかも知れない。
□松下電器のホームページ
(2003年4月4日)
[orimoto@impress.co.jp]
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