■ テレビはPCの一部? デスクトップPCの常識を変えるとして、センセーショナルなデビューを飾ったVAIO W。最初のモデル「PCV-W101」が2002年2月発売だから、まだ1年ちょっと前のできことである。が、もうすでに他社からフォロワーモデルが登場し、まるでこのスタイルは「最初からありましたぁ」みたいなところまで世の中に定着してしまった。 さてSONYとしては新ジャンルを開拓して、また追われる立場となったわけで、これからこのVAIO Wをどう料理していくのか注目されていた。そして2003年夏モデルとして登場したのが、新VAIO W「PCV-W500」だ。事実上VAIO WのトップモデルとなるW500は、「僕のテレビは、バイオだ。」のキャッチコピーにもあるとおり、テレビ視聴環境の充実を掲げた設計がなされている。 またバイオ2003年モデルでは、ほぼ全機種にテレビ視聴アプリケーション、「Giga Pocket」が搭載された。TVチューナがないモデルにもである。これの意味するところは、別売のTVチューナユニット「PCGA-UTV10」を繋げば、どんなバイオでもテレビが見られて録画もできる、ということだ。 またバイオ全モデルに搭載されているVAIO Mediaは、別のバイオに取り込んである音楽や番組を別のPCで見たり聴いたりする、サーバー・クライアントシステム。今回夏モデルに搭載された新バージョン2.5では、従来の家庭内LANだけという環境から、さらに外のPCからも接続可能なまでに進化した。 バイオのテレビ環境は一体どこまで来たのか。その全体像を探ってみよう。
■ 似てるようで違いが大きいW500 まずは新VAIO WことW500から見てみよう。視聴環境の充実をテーマとしたW500では、基本的なコンセプトは従来機と同じだが、15.3インチワイド液晶から17.5インチワイド液晶に大型化した。だが全体としては、それほど大きくなったという印象は受けない。元々このデザインに対する定番サイズの刷り込みがあまりないせいであろうか、旧モデルと一緒に並べて初めて、ああそういえばデカいかも、と思う程度。 ただ実感として、重さは結構ある。全体で13.5kgと、軽く棚の上とか置こうかとか考えていると苦戦する重さだ。だいたいバイオのデスクトップ、RZシリーズの本体部と同じ重さなので、それ相応の覚悟が必要となる。 デザインとして正面から目に付くのは、スピーカー部のデザイン。ユニット自体はそれほど大きくないが、グリルを縦に四角く区切ることで、スマートな印象を持たせている。
背面ボディ部は、従来機のようにモニタにくっついてる半月状断面といったイメージが若干後退し、モニタ部とはヒンジで繋がっている構造となった。ボディ部は若干薄くなり、スタンド部分に至までなめらかな曲線で繋がっている。 もう1つデザイン的な進化としては、キーボードの扱いがある。従来からキーボードは上に跳ね上げることで省スペースにはなったが、そこに積極的なメリットを見いだせなかった。そこでW500では、キーボードが中間部で折れて畳めるようになった。その背面には専用ボタンが設けられ、畳んだ状態でも最小限のコントロールができる。 またこのキーボードの折りたたみ方で、3つの動作ポジションに分かれる。まず普通にキーボードを開いた「PCポジション」、旧モデルと同じくキーボードを跳ね上げた「オーディオポジション」、そしてキーボードを中折れさせた「テレビポジション」だ。
この3つのポジションに対して、それぞれオーディオとモニタ画質の設定切り替えが可能になっており、キーボードの位置で自動的にその設定になる。折りたたむアクションで使用シーンが変わるということを明確に意識した設計となったわけだ。
■ 向上した映像と音声品質 注目はやはりテレビポジションでの動作だろう。キーボードを折りたたむと、自動的にGiga Pocketが起動してテレビ画面がフルサイズで表示される。テレビッ子には便利極まりない機能だ。また「ナチュラルカラーコントローラ」が入る設定にしておけば、モニタのガンマがテレビ向きに変わる。若干赤の発色を強調しすぎるきらいもあるが、全体的には色の乗りがしっかりしていてPCモニタ臭さがなく、液晶テレビとして違和感なく使えるだろう。 録画品質も改善された。従来のVAIO WではMPEG-2のエンコードをソフトウェアで行なっていたため、解像度352×240ドットの3Mbps CBR固定でしか録画できなかったのだが、W500ではHSシリーズと同じハードウェアエンコーダカードを搭載した。これにより、ほかのデスクトップ機と同じように、高画質、標準、長時間が使い分けられるようになった。
一方オーディオ面だが、ここでも改善された部分がある。初代VAIO Wではスピーカーユニットの小ささ故、低音の表現にはキビシイものがあった。W500でもユニットのサイズはあまり大きくないが、SRS Labs, Incの「TruBass」を採用することで、この弱点をカバーしている。これはスピーカーから本当に低音を出すわけではなく、倍音の操作によって低音を感じさせる技術だ。いわば一種の錯覚なのだが、その効果は高い。もう1つの技術「WOW」は、TruBassにプラスして、スイートスポットを広げる「SRS」と、音の輪郭を強調する「FOCUS」を組み入れたものだ。
テレビ視聴時には、WOWにより十分な音質が得られるだろう。しかし音楽鑑賞となると、これでも物足りなさを感じる。前回のレビューでも同じ点を指摘したが、やはり別途サブウーファなどがあればそこそこまとまるのに、という思いは今回も変わらない。
■ 難しいことを簡単に
これを行なうには、まず最初にVAIO MediaクライアントソフトをノートPCなどにインストールする。バイオでは2002年秋から全モデルにプリインストールされているが、それ以外のPCにはバイオにクライアントソフトのインストーラが入っているので、それを使って別PCにインストールできる。
次に機器登録だ。いきなり外から繋いでみるというのはセキュリティ的に無理な話で、本当に見せてもいい相手かどうかを判別するために、最初だけサーバー機とクライアント機をLANで繋ぎ、認証の鍵と鍵穴を作るわけである。このあたりを受け持つのが、「VAIO Mediaコンソール」というソフトだ。
いろいろ調べて結局わかった原因が、2つ。SRX7には有線LANと無線LANが2系統ある。機器登録の時には、どちらかをコロして片方ずつ別々に機器登録をしなければならない。これはここで配布されている設定マニュアルに記述があった。 もう1つの原因はどこにも記載がなくてしばらくわからなかったのだが、実はウィルスバスター2003のパーソナルファイヤーウォールが邪魔していたのである。もともとバイオにプリインストールされているウイルス駆除ソフトはNorton AntiVirusで、これにはパーソナルファイヤーウォール機能はない。従ってプレーンなバイオ同士であればすんなり認証されるのだろう。登録時だけ一時的にパーソナルファイヤーウォールをOFFにすることで解決した。
あとはサーバーを動かしたりゲートウェイサーバーを動かしたりといったことは、VAIO Mediaコンソールで行なう。しかし外からアクセスするためには、本来ならば固定IPがなければ無理な話。そこでそのあたりの中継をやってくれるのが、MEETサービスだ。今年秋まで無料で利用できるこのサービスに申し込み、IDとパスワードを貰って入力すると、外からテレビ録画した映像のストリーミングが楽しめる。 もちろんWAN経由なので、MPEG-2のデータがそのまま来るわけではない。サーバー側がリアルタイムにMPEG-4に変換しながら、ストリーミングするわけである。VAIO Mediaの設定では、512kbps、280kbps、160kbpsの3通りから選択できる。サーバーで設定しておくのではなく、クライアント側からその時々の接続速度で映像品質を選ぶことができるのは現実的だ。普通は素人が個人でストリーミングサイトを立ち上げるなんてのはどだい無理な話だが、ここまでの道のりは、そう難しくはない。
試しにインプレスの某会議室の回線を借りて試してみたところ、512kbpsで接続して十分な速度であった。肝心の画質だが、512kbpsでは想像していた以上に綺麗で、外から見ているということを考慮に入れれば、十分納得できる画質だろう。280kbpsではちょっとブロックが酷くてフル画面表示はキツいかな、160kbpsではゲロゲロって感じである。(なんだよそれ) 外出先でも、空いた時間にテレビが見られるのはまあ便利には違いない。が、それにはまず回線の確保が必要だ。HotSpotのような無線LANサービスも徐々に広がってはいるが、社会人にとって空いた時間というのは、ほとんどの場合移動中だろう。しかし、現時点では移動体で512kbpsのストリームを流せる高速通信は無理がある。せっかく外からテレビを見る技術があるのに、機会がないというのが現実かもしれない。
■ ノートでGiga Pocket 移動体通信が難しいのであれば、ノートPCにダイレクトで録画しとけばいい。そこで出番なのが、バイオ テレビチューナユニット「PCGA-UTV10」である。USB 2.0対応のテレビチューナはもう珍しいものではないが、SONY初の外付けチューナユニットということで、注目している人も多いだろう。
形状はかなりユニークで、正面から見ると逆三角形、後ろから見ると三角形。全体的に三角ポリゴンで構成されている。正面にはチャンネルアップダウンとREC、REC STOPボタンのみで、電源スイッチはない。PCにUSB接続すると、それを検知して自動的にパワーが入るようになっている。入出力端子は標準的で、RF入力のほかにS映像を含むアナログAVのINとOUTがあるだけ。チューナのスペックとしては、3次元Y/C分離、3次元NRを搭載しているが、ゴーストリダクションはない。 対応機種としては、今年の春モデル以降のVAIOノートとなっている。ただしVAIO GRはポートリプリケータですでにテレビチューナを搭載しているので、対象外だ。今年の春モデル以降というところがキモで、このあたりのモデルからUSB 2.0搭載となり始めたという背景がある。 ではPCカードでUSB 2.0のインターフェイスさえ用意すれば旧モデルでも使えるのか、と思って自分のSRX7にインストールを試みたが、「対象外のPCです」として冷たくあしらわれた。Celeron 600A MHzのVAIO Uでさえ使えるのに、納得いかーん。今後サポート対象機種を広げてくれることを期待しよう。 しょうがないんでとりあえず借り物のVAIO TRにインストールしてみた。使用感はもうまったく普通のGigaPocketと同じだ。強いてあげれば録画モードが標準と高画質の2つだけで、長時間がないところか。標準と高画質ではビットレートなどは資料がないが、調べたところ高画質では7.4Mbps、標準では3.5Mbps程度のCBRのようだ。
またこのUTV10はハードウェアエンコーダとしても機能する。高画質モードで録画した2時間番組は、普通DVD1枚には入らないが、UTV10が適切なレートに再エンコードしてくれる。もっともこれをやるにはClick to DVD(Ver.1.2.1以降)とDVD-R/RWドライブが必要になってくるが、デスクトップでの楽しみをノートPCでも同じように味わえるのは、なかなか魅力的なソリューションだ。
■ 総論 VAIOシリーズこの夏のテーマは、どうもテレビソリューション強化のようだ。今まではPCなんだけどテレビが見られますよ、録画もできますよ、といった付加価値的なところで進んできたPCでテレビというソリューションだが、もう一歩踏み込んで、PCならではのテレビ環境とはいったいなんだろう、というところからもう一度スタートしようという製品作りを展開しつつある。 突き詰めていけば、ようやくコンシューマーでも映像のデジタル伝送が始まったということになるだろう。えっ、今頃そうなの? と思われるかもしれないが、よく考えてみてほしい。オーディオのほうはコアキシャルやオプチカルなど、結構早くからデジタル伝送は行なわれて、そこそこ普及もしている。しかし映像の場合、デジタル化は行なわれてきても、デジタル伝送を行なってきたのは、実はDV端子ぐらいしかない。MICROMVやBSデジタルチューナからi.LINK端子でMPEGのストリームを流し始めたのは、結構最近の話だ。 プロ業界では映像のデジタル伝送は当たり前なのだが、コンシューマーでのデジタル伝送は著作権のカラミがあって、プロテクトがはっきりしないことには踏み切れないという事情がある。かつてDATのように、デジタルコピーにキビシイ制限を突きつけられたあげく、コンシューマ用途ではメディアそのものが衰退したという例もある。コトは慎重に運ばなければならないのである。 そういうナーバスな部分をSONY VAIO部隊では、ネットワークのセキュリティ技術を使って解決しようとしているのではないか、という気がする。だからネットワークで映像配信という方向性へ向かって猛然と突き進んでいるのではないだろうか。 さらにさらに、そういうインフラを構築してしまうまでのタイムリミットは、すぐソコに迫っている。そう、デジタル放送が本格始動するまでにある程度既成事実化しとかなきゃ、我々はえらい不自由を背負わされることになるかもしれないのだ。
そう考えるととにかく我々は、PCローカルで一所懸命DVDとか焼いてる場合ではなく、ネット方面にももっと注目しておくべきだろう。
□ソニーのホームページ (2003年6月11日)
[Reported by 小寺信良]
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