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第92回:「Hi-Bit Edition」の実力とは
織田裕二主演の大作「T.R.Y.」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 織田裕二の2年半ぶりの映画主演作「T.R.Y.」

T.R.Y. トライ

価格:4,700円
発売日:2003年7月16日
品番:PCBE-50528
仕様:片面2層2枚組み
収録時間:本編ディスク 約105分
      特典ディスク 約136分
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.日本語(ドルビーデジタル2.0ch)
   2.日本語(DTS-ES)
総発売元:「T.R.Y.」パートナーズ
発売元:角川書店
販売元:ポニーキャニオン

 今週取り上げるのは、織田裕二主演の2003年のお正月映画「T.R.Y. トライ」。織田裕二の2年半ぶりの映画主演ということもあり、大量にCMが打たれ、パブリシティが大々的に行われたのは、記憶に新しいだろう。

 公開から半年少々でDVDがリリースされたわけで、最近のDVD化の早さを実感する。

 ただ、T.R.Y.の映画自体は前評判に比べれば、封切後はどちらかというと尻すぼみになり、あまり話題にならなかったような印象だ。実際、DVDが発売されることを知って、「そいうえば、そんな映画もあったな」と思い出したぐらい。弊誌で掲載しているDVD売り上げランキングでも、集計期間的に不利ではあるものの、初登場15位で爆発力はなかった。

 とはいえ、同じく織田裕二主演の「踊る大捜査線THE MOVIE 2」も7月19日に封切られるというタイミングのよさと、「Hi-Bit Edition」(詳細は後述)の実力を見るという意味でも、4,700円とちょっと高価ではあるが購入を決意した。


■ 最強・最悪の敵をペテンにかける!

 映画「T.R.Y.」は、第19回横溝正史賞に受賞した井上尚登の小説「T.R.Y.」(角川文庫刊)を映像化したもの。日中国交回復30周年を迎え日韓ワールドカップが開催された2002年に、日中韓の3カ国のキャスト・スタッフが集結して製作された。

 混沌を極めている、20世紀初頭の魔都「上海」。広大な中国の利権を狙って、欧米列強諸国、そして日本もこぞって進出し、野心と欲望が渦巻くその街に、謎めいた過去を持つ日本人「伊沢修」(織田裕二)が闊歩していた。

 上海で気楽に暮らす自称三流のペテン師、伊沢は、甘いマスクと、カミソリのように切れる頭脳を武器に、金持ちや悪党を手玉に取ることを生業としていた。

 しかし、騙した武器商人が報復のために放った、凄腕の殺し屋肖丁(ピーター・ホー)から命を狙われる羽目に陥った。そんな伊沢に、圧政を敷く清朝打倒を目指す結社“中華黎明会”の革命家、中華黎明会の若きリーダー関飛虎が目を付けた。関飛虎は、殺し屋から身を守ることを条件に、伊沢を革命計画の仲間に引き入れた。

 その計画は、革命に備えて、大量の武器と弾薬を日本陸軍から騙し取るというものだった。武器弾薬を管理する、日本陸軍中将東正信(渡辺謙)を相手にした、詐欺計画をスタートする。

 伊沢は、「革命なんかに興味ないんだ」と言いながらも、「俺が助けなきゃ、丸腰で戦っちまうような馬鹿」な仲間たちを見放すことができない。仕方なしに、陸軍きっての若きエリート、頭脳明晰にして猜疑心の固まり。ペテンにかけるのには最悪、最強の敵、東正信に立ち向かう。

 3カ月のおよぶ撮影の大半は、広大なオープンセットを持つ上海電影集団公司の全面バックアップを受け、上海で行なわれている。日本映画にありがちな、狭さを感じさせない映像に仕上がっている。上映時間は1時間44分で、ストーリーはテンポよく進む。ラストのクライマックスでは、原作にはないエピソード、設定、騙しの仕掛けで、大迫力の爆破シーンが繰り広げられる。



■ Hi-Bit Editionの実力は?

 DVD「T.R.Y.」は、本編ディスクと特典ディスクの2枚組み。さらに、本編ディスクは、同社のオリジナルブランド「Hi-Bit Edition」となっている。

 「Hi-Bit Edition」とは、特典映像や日本語吹き替え音声などの本編映像以外のものは収録せず、映像と音声データのみに容量を割り当てたもの。メニュー画面を静止画で構成したり、本編映像にHDテレシネからのマスターを使用するなど、高画質、高音質にこだわった仕様となっている。

 主な特徴は以下のとおりだが、ほかの映像特典と違って、本編ディスクに入れなければならない、オーディオコメンタリを入れられないのが残念なところだ。

【Hi-Bit Editionの主な特徴】

  • 映像ビットレート:7Mbps以上 (各面平均)
  • 音声ビットレート:1.5Mbps (DTS音声のフルレート)
  • 収録音声:DTS-ES(6.1ch)と、ドルビーデジタル2.0chの2種類
  • 字幕:未収録(T.R.Y.では日本語以外で喋っているシーン用の字幕を収録)
  • チャプタメニュー:静止画で構成
  • 特典映像:未収録
 Hi-Bit Editionという名のとおり、DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た本編ディスクのビットレートは8.96Mbpsと、実写のDVDとしては非常に高い。また、ビットレートの変動も小さいことがわかる。実際の画質も、量子化ノイズは見当たらず、非常に良好。全体的に暖かみのある色調で、フィルム的な質感よりも、ビデオのようなクリアな画質を狙っているようだ。

 音声は、ドルビーデジタル2.0ch(448kbps)、DTS-ES(1,536kbps)の2種類だけ。ドルビーデジタル2.0chにしては高めのビットレート448kbpsではあるが、DTSを聴ける環境を持っていれば、選択の余地はないだろう。

 アクション活劇ということで、銃声など迫力のある音を聞かせてくれる。特にチャプタ5で、背後から不意打ちされるた時には、飛び上がるほど驚いた。そして、聴き所はやはり、クライマックスの大爆破シーンだろう。サラウンドの迫力を実感させてくれる。

 映像・音声ともに、邦画のDVDとしてはトップクラスの完成度といえるだろう。

DVD Bit Rate Viewerで見た本編の平均ビットレート

 ストイックなまでに映像・音声にディスク容量を使用した本編ディスクに対し、特典ディスクは凝った作りになっている。メニュー画面も作品の雰囲気を醸し出す。

 主な内容は、序章/小説から映画へ(約8分)、メイキング(約45分)、特撮メイキング(約15分)、製作会見(約10分)、完成披露試写会の舞台挨拶(約10分)、衣装紹介(約6分)、未公開シーン(3本)、終章/その後の伊沢修(約1分)、音響効果メイキング(約7分)、織田裕二や邵兵などメーンキャストのインタビュー(約14分)など、計約136分と盛りだくさん。

 メインコンテンツであるメイキングでは、監督によるナレーションで苦労話も語られる。本当の刑務所を撮影で使っていることや、ダンスシーンで「最初はポルカだったが、下から苦情がきてワルツにした」ことなどが明らかにされる。メイキングの中で、織田裕二が「日本で、できたらいいなっと思っていたことが(上海では)できる。町も協力的。日本でも早くこうなってほしい」と話していたのが、印象に残った。

 未公開シーン3本だけだが、各シーンの冒頭に監督の解説がある。ただ個人的には、解説の内容より、監督の背後にある「松田優作BOX」、「ゴジラ VS ヘドラ」、「七人の侍」などが並ぶ、ラックの方が気になってしかたなかった。

 特撮メイキングでは、特撮監督の佛田洋インタビューと、「上海 20世紀初頭」、「連絡船」、「蒸気機関車」の裏側が紹介される。特に、爆破シーンの蒸気機関車が、板金による模型であることが、初めてわかった。爆破シーンは100倍速のカメラを使って、80倍速で撮影したという。迫力がなかったら、あとでCGで追加することも考えていたそうだが、結局CGは使わなかったという。実際、本編だけ見たときには模型だとは思わなかった。

 個人的には一番面白かったのが、音響効果メイキング。DVDの特典では、映像や撮影についてのメイキングが入っていることは多いが、音響について解説されることは珍しい。

 整音の瀬川徹夫のインタビューにより、「外国人の日本語がどうしても納得いかないので、現地に飛んで、口移しでせりふをしゃべってもらい、録音しなおした」ことがわかるほか、「ビデオ用2.0ch」、「劇場公開用オリジナルドルビーデジタル5.1ch」、「DVD用DTS-ES」についても解説される。

 DVD用DTS-ESについては、「銃声や、機関車の音などを効果部に新たに発注して、リアセンターに定位する音を加えた」とのことで、非常に手が込んでいることがわかる。

 また、ドルビーデジタル2.0ch/ドルビーデジタル5.1ch/DTS-ESの聴き比べ用に、クライマックスの蒸気機関車の爆発シーン約3分が各フォーマットで収録されている。本編ディスクにはない、ドルビーデジタル5.1chも入っているので、DTS-ESと聞き比べることでリアセンターの効果を確認することができる。6.1chシステムのユーザーであれば、非常に楽しめるコンテンツだ。


■ もう少し低価格なら……

 ハリウッドの大作のDVDが、2枚組みで4,000円以下で発売される現在。ハリウッド映画と邦画が置かれている状況の違いは理解できるが、やはり高いというのが正直なところ。ハリウッド映画より万人にオススメできるともいえない。

 本編ディスクの映像や音声、特典ディスクの内容などを見れば、DVD化にあたって、かなり気合が入っていることが伝わってくる。とはいえ4,700円では、やはり邦画や出演者のファンしか購入しないのではないだろうか。日本の映画の裾野を広げる意味でも、もう少し購入者層の拡大を図ってほしいと思う。

 そうそう、大森監督といえば、京都府立医大在学中の'80年に製作した、実質的な監督デビュー作「ヒポクラテスたち」が有名。その後、「ゴジラ対ビオランテ」、「わが心の銀河鉄道~宮沢賢治物語」、「ナトゥ 踊る!ニンジャ伝説」、「走れ!イチロー」など、ノンジャンル悪く言えば節操なく監督しているが、人間の内面を描くことがうまい監督だと思っている。T.R.Y.でも大スペクタクルよりは、騙す方、騙される方の心の内に重心を置いたほうが、もっと面白かったのではと考えてしまう。

 ヒポクラテスたちは、その後有名になる、故 古尾谷雅人、柄本明、内藤剛、阿藤海や、すでに有名人の伊藤蘭、鈴木清順、手塚治虫、軒上泊も出演している、一学生であった大森監督が、これほど顔が広かったことに驚くしかないが、いろいろな意味で邦画史に残る良作なので、未見の方は是非。大森監督を、T.R.Y.やゴジラ対ビオランテなどだけを観て、誤解しないでいただきたいと切に願う……。

●このDVDについて
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前回の「「猫の恩返し & ギブリーズ episode 2」のアンケート結果
総投票数800票
購入済み
302票
38%
買いたくなった
301票
38%
買う気はない
197票
24%

□ポニーキャニオンのホームページ
http://www.ponycanyon.co.jp/
□「T.R.Y. トライ」のオフィシャルページ
http://www.try-movie.jp/
□製品情報
http://www.ponycanyon.co.jp/wtne/dvd/030716_try.html

(2003年7月22日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]



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