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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第123回:夏休みの工作再び! 今度は真空管CDプレーヤーだ
~ 待望の復刻、エレキット「TU-878CD」 ~


■ 個人的にもリベンジ

 夏休みも終わり、学生はいつものように学校へ通い始める。今年はこれまた良くしたもので、9月1日が月曜日であり、新学期早々の1週間をフル稼働とはご苦労なことである。

 さて、オトナの夏休みは会社や業態によっていろいろだが、だいたい4~7日といったところだろう。交代で夏休みを取るという人はこれからかもしれない。そんな方に捧げるオトナの夏休みの工作第2弾は、エレキットの真空管CDプレーヤー「TU-878CD」である。

 エレキットでは以前、同じく真空管CDプレーヤー「TU-876CD」というモデルをリリースしたことがあるが、製造中止となって久しかった。筆者も旧モデルはラジオ会館内で完成品を見かけたことがあり、同時に興味もあったのだが、どうしようか悩んでいるうちに入手できなくなってしまった。今回のTU-878CDは、前モデルに改良を加えて再登場、筆者としてもリベンジということになる。

 デジタルデバイスに真空管? と疑問に思われる方もいるだろう。アンプなどは最初に真空管の時代があって、それがトランジスタなどに置き換わっていったわけだが、CDプレーヤーが誕生した時には、最初から真空管は使われていなかった。すなわち今回のキットは、真空管なしでも作れるんだけど敢えて使ってみました、という製品なのである。

 出来合いの製品でも、真空管を使ったCDプレーヤーは少ない。ざっと探したところ、「Njoe Tjoeb 4000」というのがあった。意外なところでは、Panasonicがカーオーディオ用として」CQ-TX5500D」と言う製品を昨年リリースしている。

 真空管をCDプレーヤーのどこに使うのか、といえば、バッファアンプ部である。CDプレーヤ全体から見れば根幹部分とは言えないが、それでも真空管らしいサウンドを楽しめるだろう。8月28日発売で限定2,000台のみというTU-878CD、さっそく作ってみよう。


■ 工作は一番易しい

 まずはキットの中身を見てみよう。部品点数は、以前作成したパワーアンプ「TU-870」と大して変わらないようだ。すでにCDユニット部はできあがっていて、組み込むだけになっている。ユニットまで組み立てだったらスゴイかもしれないが、さすがに調整などは測定器でも持ってないと無理そうだ。

TU-878CDの電気パーツ類一覧 同シャーシ類一覧

 使用するCDユニット部は、前モデルで採用されたものとは違うようだ。プレイモードが1曲、全曲、ランダム、イントロと大幅に増え、アンチスキップ機能もある。 特性としては、高調波歪率が大幅に減少しているという特徴がある。本体から伸びているフレキケーブルの先には、ステータス表示用の液晶ユニットが着いている。

既に組み立て済みのCDユニット部 使用する真空管はPhilips製5963

 電気的に自作するのは、電源部とアンプ部がメインで、そのほかスイッチ類などだ。使用する真空管はPhilips製「5963」で、1本のチューブの中に2系統の3極管を収めたものである。カタログには「12AU7」とあるが、5963はその同等品だ。

 早速メイン基板から作ってみる。工作の難易度としては、パワーアンプ「TU-870」よりも部品数が少なく、簡単だ。実はこないだ「TU-870」を作って以来、オレのハンダゴテ魂が止められず、エレキットからステレオプリアンプ「TU-875」も注文して、既に作っている。これはさすがに入力が4つ、出力2つもあるだけのことはあって、部品数はかなり多かった。工作の難易度からすれば、「TU-878CD< TU-870<TU-875」という順番になるだろう。

 メイン基板ほかスイッチ類の基板を作成するまで、だいたい2時間ぐらいだろうか。続いてCDユニット部の組み立てである。ユニットはピックアップ側はできているのだが、フタに液晶表示を挟み込んでユニットを完成させる。

メイン基板を作成 CDユニットのフタを組み立て

ユニットと基板を配線して、ほぼ完成

 前モデルでは液晶表示はフロントパネルにあったが、今回はフタの上部に設けられている。また前モデルのフタは、鍋のフタみたいに完全に取り外してCDをセット、上に乗っけるだけ、という作りであった。これは案外不評だったようで(筆者はいいと思うんだが)、今回は奥にヒンジが設けられてパカッと開くようになっている。

 表面には3カ所違った大きさの穴が空いており、内部のCDが見えるようになっている。もちろんここはちゃんとクリアパネルを挟み込んで、ホコリが入らないようになっている。

 ここまで来ればほぼできあがったも同然だ。本体シャーシにトランスを取り付け、CDユニットと基板を配線する。




■ 真空管の裏に反則技?

電源を入れてテスト。LEDはソコで光るのかヨ!

 ざっと組み上がったところで、真空管を挿して電源を入れてみる。注目すべきは、真空管の奥に見える2つのLEDだ。組み立てている時は、パワーのインジケータだろうと思っていたのだが、実はこれ、単なる照明代わりだったのである。

 というのも、今回使用する真空管5963は、電源を入れてもあまり赤々と光らない、見た目地味な管なんである。それをバックライトで照らして真空管らしさを演出しようということだったのだ。なんだー、基板から8mm浮かすと書いてあったのでノギスで計りながら一所懸命取り付けたのに、なーんかダマされた気がしないでもないが、それが自作だからネタバレするあたり、キットならではのおかしさである。もっとガビーンと光らせるなら、15mmぐらい浮かして取り付けてもいいだろう。

 音出しのテストもOKのようなので、シャーシ類を組み立てて完成となった。TU-878CDの基本的なデザインは、エレキットの他の製品と合わせてある。フロントパネルにアルミが使われているのも同じだ。だがTU-878CDはCDユニットのフタ部分が広いため、ひどくのっぺりした印象だ。

他の製品より若干大柄なTU-878CD 3つの穴からCDが見える。その奥には液晶ディスプレイ 背面も出力が1つあるだけと、至ってシンプル

スリットからLEDの明かりが見える

 外寸も若干アンプ類に比べると大きい。高さは同じなのだが、横幅が23mm大きく、奥行きも37mm長い。プリアンプとパワーアンプはぴったり同じサイズなので、全部並べると余計大きく感じる。

 電源を入れると、トランスのカバーに付けられたスリットからほの赤く真空管が光るのが見えるってのは嘘で、実はLEDのライトである。まあたしかにこうして作り上げてみると、多少嘘でも赤く光って欲しいのが人情だ。LEDはその人情に応えた結果なのである。

 改良されたフタは、センサーと連動して開くと自動的にCDの回転が止まるようになっている。それはいいのだが、ヒンジには全然抵抗がないので、指でつまんでそっと閉めないと、勢いでバチンと閉まってしまう。フタがボディとあたる部分には、ゴムラバーのクッションでも貼った方が良さそうだ。


フタを開けたところ

 フタ部分に移動したステータス表示は、意見のわかれるところだろう。スイッチ類と連動するステータス表示は、同じ面にあったほうが使いやすいのではないだろうか。このモデルでは、ステータスを確認するためにいちいちCDプレーヤーを上から覗き込む必要がある。

 採用したCDユニットの都合でこうなったのかもしれないが、筆者は前面パネルにあったほうが良かったと思う。


■ 出音は個性的

 次に音を聴いてみよう。エレキットTUシリーズは、廉価な割にはなかなかいい音がするというので人気だが、このTU-878CDも質は高い。

 全体として押しが強く、歯切れのいいドライなサウンドだ。中域から低域に関しては、なかなか豊かな音を出す。密度の濃い、前に出てくる音である。ただ高音域の伸びに若干わざとらしさがあり、無理に引き出した感じがする。ハイハットやシンバルのあたりがやや歪みっぽい印象だ。

 いろいろなCDを聴いてみたのだが、AORやジャズなど、音に隙間があって粒立ちがいいような音楽に対しては、ダイナミックレンジの追従など申し分ない。一方ロック系など、音がべたっと混み合った音楽では、混み合ったままをグシャッと前面に出してくるという印象を持った。特性としては良くはないが、熱いサウンドとでも言おうか。全然優等生ではなく、ちょっと不良っぽいけど根はいいヤツ、みたいな感じである。

デフォルトでアンチスキップがONになってしまう

 もう一つ難点をあげるならば、デフォルトでアンチスキップ機能がONになっているところだ。CDを入れ替えたりするたびに、必ずONになってしまう。ポータブル機じゃないので、アンチスキップはどうしても音飛びしてしまうCDにしか使わないと思う。デフォルトはOFFのほうがユーザー層に合うだろう。

 このTU-878CD、素性は悪くないのだが、音質に関してはもうちょっと手を入れないとダメかな、とも思う。CDユニット自体はなかなかいじれないが、コンデンサなど換えたりすれば多少は良くなるのだろうか。あるいは真空管か。新シリーズは発売されたばかりで、回路に詳しいマニア諸氏の研究結果はまだ見あたらないが、追々解析されていろいろな改造結果が披露されることだろう。エレキットのシリーズは、そういった動きの中で楽しむ製品でもある。

 なお説明書には、CD-R/RWには対応していない旨書かれているが、試しにCD-Rに焼いた音源を再生してみたところ、ちゃんと再生できた。だが、やはりメーカーでは保証していないことには変わりないので、自分の責任において楽しむべきだろう。


■ 総論

 真空管オーディオというと、そこにはどうしてもマニアのイメージがつきまとう。眉間にしわ寄せた怖いオジサンが老眼鏡の奥から上目遣いにジロリと一瞥、「あと10年したら来な」と追い返されるか、いきなり正座させられて小一時間説教されるかどっちか、みたいな雰囲気なのである。あと10年経ったらお店なくなってそうなんですけどという言葉はぐっと飲み込んでだな、なんかもう高そうな寿司屋に連れ込まれたかのごとくおとなーしくしてないと怒られちゃうみたいな雰囲気を感じる。それはやはりその手のオーディオショップの雰囲気とオーバーラップするのだろう。

 だがエレキットのTU-878CDは、そういったベクトルとはまったく違うアプローチから真空管オーディオを楽しめるキットだ。真空管界の回転寿司なのである。工作としては難しくなく、しかもCDユニットは組み立て済み。アンプはちょっと大変そうだと思った方も、気軽にチャレンジできるレベルだ。子供のころ、なぜあれだけプラモデル作りに熱中したのか。それと同じ答えがエレキットにはあるような気がする。所詮はキットなので、同梱のパーツを使えば誰が作っても同じなのだが、それでも作りたがる自分がいるのである。

 結局のところ、いまどき1万円も出せばそこそこ気の利いたCDプレーヤーが買えるというご時世に、わざわざ3万円弱のお金を出して自分で作ることにはどういう意味があるのか。このポイントは、やはり自分で作ったものから音が出るという「達成感」だったりする。いまどきCDなんて、パソコンでもDVDプレーヤでも聴けるのだ。しかしそれとはちょっと違って、プリミティブな「機械」を使ってCDを鳴らしてみるのもまた楽しからずや、である。

 エレキットのサイトでは既に初期ロットは完売だそうで、待望の復刻というだけあって、出足もまずまず好調のようだ。CDが誕生して20年余、改めてCDプレーヤーを手作りしてみるのも、悪くない。


□イーケイジャパンのホームページ
http://www.elekit.co.jp/
□製品情報
http://www.elekit.co.jp/catalog/TU-878CD.html
□関連記事
【7月9日】【EZ】真空管パワーアンプ「TU-870」を作ってみた
~オトナの夏休みはコレで決まり!!~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030709/zooma116.htm

(2003年9月3日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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