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第24回:優れた設置性を誇る低価格入門機
~日立のホームシアター参入第1弾「PJ-TX10J」~


 日立製作所は同社初のホームシアター向け液晶プロジェクタ「PJ-TX10J」を発表、8月下旬より出荷を開始した。既に実売価格は16~17万円台となっており、コストパフォーマンスの高さから、カジュアルユーザーからの注目度も高い。今回は,このPJ-TX10Jを評価してみたい。


■ 設置性チェック~上下左右にレンズシフトが可能

日立初のホームシアター向けプロジェクタ「PJ-TX10J」。標準価格は22万円
 本体重量は3.6kgと、このクラスとしては標準的な重さ。取っ手などはないが、移動はたやすく行なえる。設置面積はA4ファイルサイズノートPCよりも若干大きい程度だ。

 天吊り金具の純正オプション設定は無し。しかし、投写モードとしては上下反転、左右反転、上下左右反転を備えるため、台置き設置以外に、リア投影、天吊り設置の全ての組み合わせに対応する。本体上面は比較的フラットなので、ホームセンターなどで市販されているゴム足などを貼り付け、本棚の最上段に上下逆さで設置する疑似天吊り設置も可能だろう。

 本体にチルトスタンドはないが、前足2本がフットアジャスタ付きなので、回転方向への補正は可能。また、フットアジャスタを伸ばすことで仰角も調整できるが、仰ぎ過ぎると台形補正が必要になる。垂直方向の台形補正が可能だが、デジタル補正なので映像情報の劣化は免れない。

 もっとも、たとえスクリーンが上の方にあったとしても、レンズシフト機能が搭載されているので、仰ぐように投写する必要性はないかもしれない。レンズシフトは上下のみならず、左右にも可能。投写映像を形を歪まさずに上下左右に移動できる。上下左右のレンズシフト機能は、三洋電機のLP-Z1、LP-Z2以外では、業務用の上級機でも採用例は多くない。このレンズシフト機能こそが、PJ-TX10Jにおける「最大の特徴」といっていいだろう。

 シフト量は左右方向に75:25~25:75の範囲、上下方向には100:0~0:100の範囲で行なえる。水平方向の台形補正機能はないが、左右方向のシフト機能を最大限に活用すれば、台形補正なしに斜めからの投写が行なえる。

排気は正面から行なう。本体の形状はデータモデル「CP-S210J」と似ている レンズ周り。上下と左右のレンズシフトが可能 右側面にあるのはフィルター交換用ドア

 レンズは光学2倍ズームと倍率が高く、しかも100インチ(16:9)の最短投写距離が2.6mという短焦点性能も持ち合わせている。これは最近の競合機と比較してもトップクラスだ。まさにホームシアター用プロジェクタに適した光学性能を有している。

 フォーカス、ズーム及びレンズシフトの各調整は手動式で、回転ツマミを回して行なう。フォーカスとズームはそうでもないのだが、レンズシフトのツマミが堅く、力を入れれば入れたでガクンと回りすぎてしまうため微調整が難しい。操作感がちょっと安っぽいのでこのあたりは改善が必要だろう。

 ファンノイズは、ランプ動作モードを「静音モード」に設定した場合はプレイステーション 2(SCPH-30000、以下PS2)より静かだが、「標準モード」ではPS2よりも騒がしくなる。

 光漏れは本体前面と側面にある吸気/排気スリットから若干あるが、投写映像に影響が出るほどではない。ランプ交換は本体底面からユーザー自身で行なうことができ、交換ランプ「DT0611」の価格は25,000円。ランニングコストはこのクラスとしては標準的だ。


■ 操作性チェック~電源投入後、約30秒で投写を開始

付属のリモコンには蓄光ボタンを採用
 電源投入後、約21秒後(実測)で製品ロゴが投写され、その約10秒後(実測)に入力映像が投写される。つまり電源投入後、約30秒で入力映像が出る。最近の機種としては平均的な速度だ。

 リモコンのボタンは蓄光式を採用。使用頻度の高い入力切り替えについては、独立ボタンが設けられている。現在入力中のソースを検出する[SEARCH]ボタンもある。

 入力切替の所要時間(実測)はSビデオ→コンポーネントで約4秒、コンポーネント→Sビデオで約2.7秒となった。新機種にしては若干遅めだ。

 アスペクト比切り替え操作は[WIDE]ボタンを押すことで順送りで切替られる。所要時間は、ビデオ系は0秒に限りなく近いのだが、アナログRGB入力時は約10秒(実測)もかかる。なお、色調モード(ガンマモード)の選択、そしてユーザーメモリの選択も独立ボタンで呼び出しが可能だ。

 使用頻度の高い選択項目については、独立した専用ボタンで直接調整できる。しかし、ボタンの大きさ形状が一様で配置も整然としているので、指であたりを付けながら押すのが難しい。ぜひとも後継機にはボタンを自発光させるか、リモコンのボタンに「AV機器らしいかっこよさ」を演出してほしい。

 投写する映像のタイプに適した色調モードは、「シネマ」、「ダイナミック」、「ノーマル」のプリセットプログラムが3つ、ユーザー定義が可能な「カスタム」が1つ用意されている。この色調モードは実際には、投写映像のガンマ補正を調整するもので、「カスタム」では、ガンマ係数、色温度、RGBごとの出力バランスに対し、ユーザー設定が可能になっている。

 「色の濃さ」、「色合い」、「コントラスト」、「明るさ」などの、一般的な画調パラメータはマイメモリー機能を使って4つまで記憶できる。こちらも、独立ボタンで任意のマイメモリーを呼び出せる。

 1つ留意すべきなのは、前出のガンマの「カスタム」と、マイメモリーは全く独立管理という点だ。整理するとガンマモード4個×マイメモリ4個で、結局16個の組み合わせを選択できることになる。

 リモコン受光部は本体前面にしかないので、リモコン操作はリモコンをスクリーンに向け、赤外線信号をスクリーンに反射させて行なうことなになる。ただし、受光感度そのものは悪くない。むしろ問題は、メニュー操作そのものの遅さにある。メニューが出てくるまで1秒ほど待たされ、メニューカーソルの移動もモタモタしている。もうちょっと小気味よく動くと使いやすいのだが……。

メニュー位置はカーソルキーで任意の位置に配置可能。各メニューは左から「メイン」、「映像1」、「映像2」、「入力」


■ 接続性チェック~ビデオ系、PC系の双方に対応

本体背面の入出力端子部
 映像入力端子は、コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子、コンポーネントビデオ端子、アナログRGB端子と、基本的なものを1系統ずつ実装する。D端子、DVI端子は装備していない。

 アナログRGB端子は、別売りのアナログRGB-コンポーネントビデオ変換ケーブルを用いることでコンポーネントビデオの入力も可能とマニュアルにあるが、純正オプションとしては設定されていない。

 ステレオ音声入力端子も2系統もっており、1系統はアナログRGBに、もう1系統はビデオ系端子と連動する。入力はステレオだが、本体内蔵のスピーカーはモノラル。AVユーザーが本格的に常用することはないだろう。

 D-sub9ピンのRS-232C端子は制御用で、PCから画調パラメータを変更したり、入力切り替えを行なったりすることができる。


■ 画質チェック~16:9の854×480ドット液晶パネルを採用

100インチ投影時の拡大写真。白色の部分に緑と縦にずれたマゼンタが確認できる
 公称最大光出力は700ANSIルーメン。最近の人気中堅機と比べるとスペック上は低く、実際1,000ANSIクラスと比べると暗い。しかし、間接照明などの薄明かりでも映像の内容を判別できるレベルにある。なお、ランプ動作モードを「標準モード」から「静音モード」に変更すると輝度が落ちる。周りが薄明るいときは「標準モード」を、部屋を真っ暗にできたときは「静音モード」を活用するといい。

 映像エンジンは0.55インチ型透過型液晶パネルを3枚使ったもの。日立製作所製ということでLCOSパネルを期待したファンもいたかもしれないが、本機はレガシーなエンジンを採用している。パネル解像度は854×480ドット。640×480ドットパネルをアスペクト16:9に横方向に拡大したサイズだ。

 映像を見てみると、解像度が高くないことと、画素間の隙間が大きいこともあり、100インチクラスまで拡大して投影すると全体的に粒状感が漂って見える。誇張していうならば、木綿の布に投写したような感じだ。上手くアンチエリアス処理されているので目立ったジャギーは見えないが、高輝度色の単色面でこの格子感が強く出る。もちろん、これは今回、100インチサイズで投影したためで、60インチ以下で投影した場合はそれほど気にならない。また、大画面投影すればするほど、各画素は上方向に色ずれが大きく出る。

 コントラスト比は800:1。このクラスの透過型液晶モデルとしてはかなり高い値だ。黒の沈み込みも透過式にしては良好で、いわゆる黒浮きも驚くほど抑えられている。スターウォーズ エピソードIIのような宇宙戦闘シーンの場面でも、宇宙は黒く、レーザーや爆発などの閃光は明るく、画面全体としての表現力の幅、ダイナミックレンジは非常に高い。

 階調性は正確。漆黒から最大輝度白へのグラデーションは非常になだらかで美しい。明色系では色グラデーションでマッハバンドが目立つようなことはなく、色深度は深めだ。しかし、暗色系では上級機に比べると、ダイナミックレンジが狭め。暗いシーンでは色バンドが時々見えることもある。

 色温度はK(ケルビン)指定ではなくて「高・中・低」の3段階で指定するタイプ。「高」ではかなり色合いが水色っぽくなり、映像鑑賞なら「中」か「低」がお勧めだ。なお、「中」は白が純白に近くなり、「低」ではかなり赤みを帯びる。

 前述の通り、鑑賞映像ジャンル別のプリセット色調モードは「シネマ」、「ダイナミック」、「ノーマル」の3つ。

プリセット色調モード
●CINEMA
 ガンマを2.0にしてトーンを落とし、緑と青を押さえ込んだ色合いになっている。階調自体は非常に自然で暗部から明部までが視覚上リニア。映像の暗部のディテールまでがよく見えるが色味は若干淡い。ソースにもよるが、こちらよりもNORMALやDYNAMICの方が映画鑑賞に適している。
 
●DYNAMIC
 ガンマを2.5にしてトーンをきらびやかにし、白も純白に調整している。明部階調はリニアな感じを維持するが、暗部階調は死に気味になる。そのため、映像全体がしまりがでてくるので、見た目の印象は悪くない。アクション映画などはこのモードだと迫力が増すだろう。
 
●NORMAL
 ガンマ値を2.2にして上記2モードの中間的なトーンにしている。白も純白に近く、原色の発色が艶やかになっているのでアニメ視聴などにも向いている。階調性はシネマ同様暗部から明部までが正確で、“死に”や“飛び”がない。利用頻度の高いモードだろう。
 

 いずれのモードでも、色は若干緑が強く出る傾向にあるので、暖かい人肌を求めるならば色補正で緑を少し抑えるといい。

 好みはあると思うが、ガンマ値を2.2、色温度調整をユーザー設定にしてR100/G80/B90、色の濃さをR+0/G-5/B±0のように、緑をやや押さえ気味に調整するとクセが軽減される。ただし、引き替えに、白が赤みを帯びるようになる。

●DVDビデオ(コンポーネントビデオ入力)
 PJ-TX10Jのリアル解像度は854×480ドット。DVDビデオの映像は720×480ドットなので、単純に考えれば、横方向のみ解像度変換が行なわれることになる。

 つまり、解像度変換(スケーリング処理)が最小限に抑えられる。なお、本機のキャッチコピーにも「DVD映像を拡大補正しないで表示」という一文がある。

 実際にその投写映像を見てみると、拡大スケーリングの際に生じるによるぼやけは少なく、収録された映像情報が過不足無く表示されている実感がある。

 プログレッシブ化回路は2-3プルダウン対応で、プレーヤー側にプログレッシブ化回路がなくても高品位に表示されていた。PS2で再生するDVDビデオをインタレースで出力し、本機のプログレッシブ化回路を利用して投写すると驚くほど美しくなる。

 
●S-VHSビデオデッキ/LD(Sビデオ/コンポジット入力)
 「プログレッシブモード」をデフォルトの「フィルム」から「TV」にすると2-2プルダウン処理が行なわれ、ちらつきのないフレーム単位での美しい映像が見られる。S-VHSビデオデッキからの再生映像やS-VHSビデオデッキをテレビチューナ代わりにした活用では、この使い方が基本になる。

 また、PJ-TX10JにはS-VHSビデオデッキやLDプレーヤーなどのレガシー機器の映像に対する、別の高画質化機能も備わっている。

 1つは「VIDEO NR」機能、いわゆるノイズリダクション機能だ。表示フレーム上の色境界で起こるにじみ等を軽減するもので、コンポジットビデオ端子で入力した映像に大きな効果を発揮する。設定を「大」にすると若干ぼけた感じになるが、輪郭付近や文字のエッジで頻発する虹色のちらつきが軽減できる。

 もう1つは「3次元YC分離」機能で、こちらはコンポジット入力専用の機能になる。「静止画モード」と「動画モード」の2つがあり、それぞれに適したモードを選択しないと画質が劣化する。例えば、静止画モードは複数フレームをバッファリングし、各フレームの平均を取っているような映像になる。パネルやスライド表示のような、静止画主体の教育番組などを視聴するときに適している。

 一方、「動画モード」では、動きのあるインタレース映像で起きやすい櫛状の色ずれを軽減してくれる。なお、この機能は「VIDEO NR」と排他になる。どちらもVHSビデオ再生時や、LD再生時に活用するといい。

 
●ハイビジョン(コンポーネントビデオ入力)
 パネル解像度こそ854×480ドットと低めだが、BSデジタルチューナなどからのハイビジョン映像の投影にも対応している。ただし、解像度比にして4分の1以下に圧縮されるため、ハイビジョン特有の圧倒的な解像感というものは損なわれてしまう。具体的にいえば、力士の顔は目鼻立ちがくっきりしているものの、木々の葉などは、ディテールがつぶれがちになる。

 ただし、DVDなどと比べ、映像自体がもつ情報量の多さは投写画面にも自然と現れる。また、ダイナミックレンジの高さが際だつハイビジョン映像のうまみはよく表現できており、投写映像にはSDTVとは一線を画した立体感が表れている。簡易表示ながら、実用レベルには達している。

 
●PC(アナログRGB接続)
 各画面モードにおける表示テストの結果は以下のようになった。なお、投写テストで使ったMatrox G550ではなく、画面モードの多いGeForce3Ti200を使用している。

 もっとも美しかったのは、パネル上の画素と表示画面画素が1対1にマッピングされる848×480ドット。パネル全域を使ったアスペクト比16:9の画面モードとしては、1,280×720ドットもあるが、解像度変換の副作用でかなりぼやけた感じになる。常用するならば848×480ドットの方だろう。

解像度 アスペクト比 結果
640×480ドット 4:3
800×600ドット 4:3
848×480ドット 16:9
1,024×768ドット 4:3
1,152×864ドット 4:3
1,280×720ドット 16:9
1,280×768ドット 5:3
(1,360×768ドットと誤認)
1,280×960ドット 4:3
1,280×1,024ドット 5:3
1,360×768ドット 16:9
1,600×900ドット 16:9
(1,200×900ドットと誤認)
1,600×1,024ドット 3:2
(1,200×900ドットと誤認)
1,600×1,200ドット 4:3

 
●ゲーム(コンポーネントビデオ入力)
 PS2のインタレース映像は「プログレッシブモード」を「TV」にすると、解像感が増して見違えるようになる。ゲームプレイするならばこのモードを活用したい。単板式DLPプロジェクト違い、さすがは3板式、3Dレーシングのようなゲームをしても残像や色ずれはまったく起こらない。


【PJ-TX10Jの実写画像】


■ まとめ~荒削りな部分は高いコストパフォーマンスでカバー

 実際に使ってみて気になったのは、やはり画素格子の太さだ。100インチ程度に拡大すると、画素間の隙間が良く目立つ。解像度が低い場合の透過型液晶の宿命なので、導入する際にはそのあたりをあらかじめ納得しておくか、このアラが目立たない画面サイズで活用するのがいいだろう。

 画質に関して付け加えるならば、プリセット状態では色にクセがかなりある。ユーザー調整の範囲内ではあるが、テレビメーカーでもある日立の製品だからこそ、もう少しチューニングを詰めて貰いたかった。

 活用面で気になったのは、ユーザー設定を記憶しておく「マイメモリ機能」について。画調パラメータは記録できるが、「プログレッシブモード」、「VIDEO NR」、「3次元YC分離」といったパラメータが記録されない。そればかりか、「プログレッシブモード」については、入力系統ごとの設定記憶も不可能。「プログレッシブモード」をSビデオ端子入力では「TV」、コンポーネントビデオ端子入力では「フィルム」といった活用を許してくれないのだ。

 実売価格16~17万円という低価格モデルであることを考えれば、PJ-TX10Jのコストパフォーマンスの高さには文句の付けようがない。854×480ドットパネルは解像度的には決して高くないが、DVDビデオ再生を第一に考え、原信号至上主義のAVユーザーには訴求力も高いはずだ。レンズ以外の部分にももう少しチューニングが進めば、このクラスで最も競争力の高い製品になるだろう。

※台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態

□日立のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□製品情報
http://av.hitachi.co.jp/homeproj/
□関連記事
【7月15日】日立、同社初のホームシアター向け液晶プロジェクタ
-22万円でワイドパネル、上下左右レンズシフト機構採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030715/hitachi.htm

(2003年9月12日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2003 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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