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第116回:USB 2.0対応Audioインターフェイス「UA-1000」
〜 開発者に聞いたUSB 2.0採用のわけ 〜


UA-1000
 7月末に発売になったEDIROLの「UA-1000」。世界初のUSB 2.0対応オーディオインターフェイスであり、24bit/96kHzに対応するとともに10in10outを装備。また、高性能なマイクプリアンプを4つ搭載したり、adatオプティカルの入出力も持つなど機能的にも充実している。価格はオープンプライスだが、店頭小売価格は85,000円前後となっており、コストパフォーマンスも高い。

 また7月に行なった性能テストにおいても非常に良い結果が出ており、音質面でも期待できる。しかし、初のUSB 2.0製品ということで、不安に感じている人も少なくないだろう。また、現在いくつかの製品が出ているIEEE 1394対応のオーディオインターフェイスにすべきか、USB 2.0対応のUA-1000にすべきかと悩む人も少なくないだろう。

 そこで、今回は浜松近郊にあるローランドの開発部隊を訪ねた。というのも、EDIROLブランドの製品であるが、開発はローランドのDTMP開発部が行なっているのだ。話をうかがったのは、DTMP開発部プロデューサーの伊志嶺馨氏と、同じくDTMP開発部プロデューサーの西川雅士氏。開発の背景やUSB 2.0周辺の情報、また今後の展開などについて質問をぶつけた。(以下、敬称略)


■ 低レイテンシーでのアイソクロナス転送が鍵

DTMP開発部プロデューサーの西川氏と伊志嶺氏
藤本:先日UA-1000を使わせていただきましたが、なかなかいい性能でした。また技術的にもいろいろと興味があります。今回このUA-1000についていろいろと教えていただきたいのですが、まずはUA-1000を開発することになった背景についてお聞かせください。

伊志嶺:ご存知の通り、我々がUSBオーディオに取り組んだのはUA-1000が初めてというわけではありません。'98年にUSB 1.1対応の世界初のオーディオインターフェイス「UA-100」をリリースしたのを皮切りに、「UA-5」や「UA-700」、「UA-3」、「UA-20」など数多くの製品を開発し、歴史を重ねてきました。

 しかし、USB 1.1の場合、トラック数が少ないという問題がありました。基本的にはいずれの製品もUSB 1.1の転送速度の問題から2IN2OUTとなっていました。しかも、24bit/96kHz対応の場合には、入力のみか出力のみのいずれかでしか動作させることができない。どうしてもこの辺が限界だったのです。したがって、USB 1.1から次のプラットフォームに移らなくてはならないのは、自然の流れです。

西川:選択肢としてPCI、FireWire、USB 2.0がありました。このうちPCIに関しては「DA-2496」で使用しています。しかしPCIバスの場合にはノートパソコンでは使えないこと、一方でマーケットの大きいWindowsパソコンではUSB 2.0は今の新製品にはほぼ100%の搭載率となっていること、そして、USB 1.1からつちかってきた技術を生かせること、などからUSB 2.0での開発にフォーカスがしていきました。

藤本:ヤマハでは早い時期からFireWireに着目して、mLANという規格を推奨し、徐々に製品群も揃ってきています。中には「ヤマハがFireWireだから、ローランドはそれに対抗してUSB 2.0を選んだ」なんていう声を聞くことがありますが、この辺の真相はいかがでしょう?

伊志嶺:少なくとも、ヤマハさんに対抗するためにUSB 2.0にしたということはありません。実際、我々も1394taには参加しております。純粋にお客様のニーズや技術的インフラや優先順位などを考慮した結果、USB 2.0が先になっただけです。

藤本:なるほど、別に対抗意識からUSB 2.0を選んだわけではない、わけですね。

伊志嶺:そうです。ただ、世界初をやりたいという気持ちは強く持っており、私自身としてはそこにこだわりがありました。FireWireの場合はMOTUさんがいち早く製品を出していたので、いまこれを出しても、後発というイメージが強い。それなら世界初でUSB 2.0を出すほうが、開発者としてのモチベーションも上がりますよ。

藤本:実際、USB 2.0対応のオーディオインターフェイスを作るということで、動き出したのはいつごろなんでしょう?

西川:そもそも当初のWindows XPではUSB 2.0はサポートされていませんでした。カードメーカー製のドライバを使用すれば使える状況でした。その後、Windows XP SP1で多くのコントローラがサポートされ、広く使える段階に入ってきた頃から本格的な開発を進めていけるようになりました。

藤本:これまでのUSB 1.1での開発経験があるので、USBオーディオの勘所は十分に掴んでいたのだと思いますが、今回のUA-1000の開発で一番ネックになったのはどの辺だったのでしょうか?

伊志嶺:それは、一言でいえばアイソクロナス転送に関してです。

藤本:アイソクロナスですか。アイソクロナスについて詳しく教えてください。

伊志嶺:“isochronous”と書き、日本語にしたら等時性と訳すようです。まあ、あまり一般に使う言葉ではないと思います。このアイソクロナス転送は、データ転送の帯域幅を確実に確保して転送する方式で、USBにおいてはバルク転送と対比して使われる言葉です。

藤本:なるほど、バルク転送の場合は回線が空いていれば一気にデータが送れるけど、回線が空いていないと転送が間に合わない場合もある。でもアイソクロナス転送なら確実に帯域を確保しているので、オーディオに向いているということですね。そのアイソクロナス転送がなぜネックになったんですか?

伊志嶺:アイソクロナス転送自体はできるようになっていたのですが、レイテンシーを4msecといった小さな設定にすると大きなCPU負荷がかかってしまうという問題がありました。これはWindowsのシステム側が、そこまでレイテンシーを小さく設定することを想定していなかったためであり、我々だけではどうすることもできない問題だったのです。そこで、マイクロソフトにWindowsをアップデートしてくれるよう訴えかけていきました。

藤本:そうしてできたアップデータがUA-1000にバンドルされているものなんですね。でも、これはUA-1000専用のものなんでしょうか? また、マイクロソフト側からダウンロードできるようになったりするものなのでしょうか?

伊志嶺:マイクロソフトがアップデータをリリースするタイミングがうまく合わなかったので、先行して、アイソクロナスの最適化を図るアップデータをバンドルして発売する形をとりました。UA-1000専用ではありません。実際、マイクロソフトの技術情報として掲載されています。いずれ何らかの形でアップデータがダウンロードできるようになると思いますが、そのスケジュールなどについては我々ではわかりません。


■ ヘッドフォン出力専用のDACを搭載

藤本:ところで、UA-1000を使う場合、PCとUSB 2.0で接続した状態でしか使うことはできないのですか? つまり、PCと接続しないスタンドアロンの状態で、マイク入力した信号をアナログアウトさせたり、adatやS/PDIFに出力できないんでしょうか。

伊志嶺:実際に試してみればわかりますが、何も問題なくできます。UA-1000はPC側で入出力のパッチ設定ができるようになっていますが、ここでマイク入力をadatに出すというようにしておけばいいのです。その設定の後に、PC側の接続を切り離しても大丈夫です。

藤本:その場合、UA-1000の電源を一度落としても大丈夫なんですか?

伊志嶺:ええ、UA-1000は電源を落としても前回の設定を覚えていますので大丈夫です。ただ、一度設定を変更してしまうと本体のみでのパッチの設定変更はできません。そんなときのために、USERSETというモードが用意されています。ここに各種設定を記憶させておけば、どんな設定を行なってもスイッチをUSERSETにするだけで一発で記憶させた状態に戻すことができます。

藤本:それからもう1つ。ヘッドフォンでの音が非常にきれいという噂があるし、実際聞いてみてなかなかいい音のように思えるのですが、何か細工をしていたりするのでしょうか?

伊志嶺:他社さんの製品にはヘッドフォン端子がついていないものも多いのですが、EDIROL製品には利便性の向上を図るため、USBバス電源で動作する機種を含めて数多くの製品にヘッドフォン端子を搭載してきました。真剣にモニターする場合、ヘッドフォンでというケースが多いでしょうから、ここの音質に対するニーズは高いことは間違いないと思います。そこで、UA-1000では多くの方に満足いただくために、ヘッドフォン専用の高性能なD/Aを搭載しました。

藤本:ということは、これはほかのオーディオ出力とは別系統で搭載したという意味ですか?

伊志嶺:その通りです。デジタルデータをヘッドフォン用にダイレクトにアナログに変換しているため、ノイズ混入やほかの信号が回り込むことがないのです。しかも、性能の良いD/Aを使っているので、音質もよくなっています。

藤本:ローランドとしてUSBオーディオの開発をゼロから社内でやってきたことがよくわかりましたが、掲示板などでよく「EDIROLのオーディオインターフェイスはM-AudioのOEM」だ、なんて声がありますよね。その辺、実際のところはどうなんでしょうか。

西川:そうですね、「UA-5はM-AudioのOEMなので性能が良い」とおっしゃる方もおられるようですが、折角なら「OEMなのにUA-5の方が性能が良い」とまで言って頂きたいところですね(笑)。冗談はさておき、実際には、USB 1.1からUSB 2.0までずっと、私達で開発しているのが本当のところです。

藤本:でも、名指ししてM-Audioという噂が出るには、それなりの理由があったと思うんです。以前、M-Audioからローランド仕様のオーディオ接続インターフェイスであるR-BUSのPCIカードが発売されて、それにおいてローランドとの協力関係にあることがWeb上でも発表されていました。またR-BUS関連のローランド製品に一見してM-Audio製とわかるドライバが組み込まれていて、それが噂の発端になっていたのではないでしょうか?

西川:藤本さんのおっしゃるとおりかもしれませんね。しかし、実際のところは先ほど申し上げてきた通りで、OEMというようなことはありません。

藤本:わかりました。では、最後に今後のUSB 2.0関連での製品の開発予定などについて教えていただけますか? とくに、とくにUA-1000の下位モデルの登場予定や、先日Appleが発表したUSB 2.0対応のPower Mac G5への対応予定などを教えていただきたいのですが。

伊志嶺:もちろん今後もUSB 2.0関連製品は開発していきますが、残念ながら詳細をお話できる段階にはありせん。またMac対応に関しては、お客様のニーズとOSの状況など様子を見ながら検討していきたいと思います。


 今回、開発現場でのインタビューを行なったが、やはり新しい規格に対応したデバイスを開発するというのは、かなりのパワーを必要とし、1社ですべてが完結するわけではない。国際的な連携がとられているということを改めて実感した。

 気になるのは、今後他にもUSB 2.0対応のオーディオインターフェイスが出てくるのか、そしてそれがいつ頃になるのかということ。エディロール自身はその開発計画について明らかにはしてくれなかったが、普通に考えても第2弾、第3弾が登場してくるはず。ただ、UA-1000の動向を見極めた上でのことになるだろうし、下手にすぐに廉価版を出してしまうと開発パワーのかかったUA-1000の利益が出ない。しばらくは様子見で、新製品は来年以降と考えるのが自然だろう。

 もちろん、これは競合他社の動向次第だが、UA-1000の登場とともにWindowsがアップデートされたので、他社にとっても開発しやすい環境になったことは間違いない。ユーザーとしてはぜひ、複数の製品が出てきて選択肢が広がることを願うところだ。また、PowerMacにもUSB 2.0が搭載されることになったので、そちらへの対応もぜひお願いしたいところである。

□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/UA-1000.html
□関連記事
【7月14日】【DAL】ついに登場したUSB 2.0オーディオインターフェイス
ローランド「UA-1000」をテスト
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030714/dal108.htm

(2003年9月22日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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