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i.LINKや自動音場補正機能「MCACC」を搭載した中級AVアンプ
パイオニア 「VSA-AX5i」
発売日:10月中旬
標準価格:198,000円


■ 自動音場補正の代名詞「MCACC」とは

VSA-AX5i-N
 ここ数年、世代交代の激しかった民生用AV機器といえば、AVアンプではないだろうか。2002年から2003年にかけては、ドルビーデジタル EX、DTS-ESといった6.1/7.1chフォーマットへの対応が下位モデルまで進行した。

 それ以前はAAC対応、さらにその前はDTSのサポートといった具合に、なかなか落ち着きを見せないのがこのジャンル。現在はエントリークラスを除いた中上級機におけるDTS 96/24のサポートが一段落したところだ。

 対応フォーマットの増加以外にも、THX準拠、i.LINK、USBオーディオ機能などの装備が緩やかに進む。その一方でカジュアルユーザーをターゲットとする薄型のデジタルアンプ搭載機が充実し始めるなど、いざ購入するとなるとタイミングや機器選びが難しいジャンルといえる。

 そうした混沌としたAVアンプ市場の中で、パイオニア製品の最大の特徴といえば、2001年11月に初めて上級モデル「VSA-AX10」と「同AX8」に搭載された「MCACC(Multi Channel Acoustic Calibration System)」だろう。

 MCACCとは、各スピーカーの接続の有無に始まり、「サイズ(LARGE/SMALL)」、「リスナーからの距離」、「音圧レベル」、「周波数特性」を付属のマイクで測定し、それをもとに自動で補正するという機能。音圧レベル程度ならテストトーンで何とかなりそうだが、スピーカーごとの周波数特性の補正ともなると、個人ユーザーでは難しい。それだけにMCACCに寄せる市場での期待も高いようだ。

 また、徐々に同社の下位モデルに波及し、現在は「VSA-AX3」以上の機種にMCACCを、「VSX-D912」、「VSX-D812」、「VXA-C501」といった下位モデルには周波数特性の補正などを省いた「MCACCセットアップ」を搭載している。なお、MCACCセットアップ搭載機では、マイクを使った自動補正に対応していない機種もある。

 さらに、2002年10月発売の「VSA-D1011」からはMCACCもブラッシュアップされ、補正後のマニュアル補正が可能になった。MCACCの全項目にテストーンを用意し、より精密な調整ができるという。今回はMCACCのほかに、i.LINK、USBオーディオ、ハイサンプリング、学習リモコンと、20万円を切る価格ながら機能が豊富な「VSA-AX5i」を試した。


■ フロントスピーカーのバイアンプ接続も可能

 VSA-AX5iは、現行モデル中、「VSA-AX10i」、「VSA-AX8」に次ぐポジションにある中級機。実用最大出力は130W×7chで、対応フォーマットは、ドルビーデジタル、ドルビーデジタル EX、ドルビープロロジック、ドルビープロロジック II、DTS、DTS-ES、DTS 96/24、DTS Neo:6、MPEG-2 AACと、現行のサラウンドフォーマットは、ほぼすべてフォローしている。さらに、ルーカス・フィルムが提唱する再生品質基準「THX Select」にも準拠する。

 音声入力はデジタル6系統(同軸2/光3/RF1)、アナログ5系統。光デジタル入力は前面のシーリングパネル内にも装備し、ポータブル機器とのデジタル接続も容易に行なえる。映像入力はコンポーネント/D4を2系統装備。S映像/コンポジット入力は5系統と充実しているが、他社製品に見られるコンポーネントへの変換機能はない。

 スピーカー出力端子はすべてバナナプラグに対応。7.1chではなく6.1chで使用する場合は、サラウンドバックのL/Rのうち、Lだけを使用する。また、サラウンドバックのL出力とフロントスピーカーのL出力を使い、フロントスピーカーをバイアンプ駆動することも可能。対応スピーカーのユーザーには面白い選択肢だ。また、サラウンドバックのLを別の部屋のスピーカーに接続する「Second Zone接続」も行なえる。

前面のシーリングパネル内 背面 学習機能付きリモコン

 なお、サラウンドバックスピーカーを接続した場合、5.1chでも常に音声を出力する「ON」、6.1ch再生検出信号があったときのみ駆動させる「AUTO」、サラウンドバックスピーカーを使用しない「OFF」を選択可能。また、5.1ch環境では、仮想のサラウンドバックチャンネルを作り出す「バーチャルサラウンドバック」機能も用意される。その場合も、常にバーチャルサラウンドバックを再生する「ON」、6.1ch再生検出信号があったときにONになる「AUTO」、バーチャルサラウンドバックを常時使用しない「OFF」の3種類を設定できる。

 ハイビットサンプリングを行なう「オーディオスケーラー機能」も特徴の1つ。説明書には「ダイナミックレンジの拡大や周波数方向の広帯域化を行なう」とあり、ソースによっては確かにその効果が感じられる。ただし、SACD、DVDオーディオのマルチチャンネル再生では利用できない。また、小音量時に高音と低音を強調する「ラウドネス機能」も装備する。

 i.LINKは、SACDやDVDオーディオなどのマルチチャンネル信号をデジタル伝送するためのもの。また、i.LINK接続時にSACD再生すると、AVアンプ内のDSP回路ではなく、DSD方式で再生する「SACDダイレクトモード」も選択できるようになる。

 USBオーディオ入力も備えており、パソコンのUSBオーディオデバイスとして使用できる。対応OSはWindows 98/98 SE/Me/2000/XP。再生音にはドルビープロロジック IIやNeo:6などの音場モードを付加できる。ただし、オーディオスケーラーやラウドネス機能は適用できない。

 付属のリモコンには各社のテレビ、DVDレコーダ、BSデジタルチューナ、CDプレーヤーなどのリモコンコードがプリセットされ、プリセットにないリモコンについては学習機能で対応できる。さらに、「マルチオペレーション」と呼ぶマクロも搭載し、連続動作は5つまで設定可能。

 また、バックライト付きの液晶パネルを装備するほか、全ボタンが発光するなど、リモコンのつくりはシアター用途を強く意識している。さらに、リモコンに登録した他機種の操作を行なうと、アンプの入力が連動して切り替わる「Direct Functionモード」も利用価値が高い。


■ 簡単かつ強力なMCACC。今までの苦労は何だったのか……

付属のMCACC用マイク
 MCACCの実行手順は以下の通り。付属のマイクをシーリングドア内の専用入力端子につなぎ、視聴ポイントに設置。その際、説明書ではマイクスタンドの使用を勧めている。また、補正中の操作はスピーカー配置の外側から行ない、周囲が静かな時間帯を狙うことで、補正の精度が高まるという。ただし、実行時のテストトーンはかなり大音量なので、深夜や早朝の実行には覚悟が必要だ。

 補正が始まると、まず暗騒音を測定してから、マイクや各スピーカーの接続チェックが行なわれる。その後、各スピーカーについて、低域再生能力(SMALL/LARGE)、リスニングポイントまでの距離、各チャンネルの出力バランス、周波数特性と、測定と補正が進行する。進行状況はOSD表示や前面パネルで確認できる。すべてのチェックが終わるまで、ユーザーは何も行なわなくていい。所要時間は3~6分ほど。

 最小測定単位は、距離が10cm、出力レベルが0.5dB。周波数特性は、63Hz/125Hz/250Hz/4kHz/11.3kHzの5バンドを0.5dB単位で補正する。

 今回、まずマニュアルで調整した後で試したところ、MCACCに大きく補正されてしまった。メジャーを使って各スピーカーを等距離に設置したつもりだったが、MCACCの判定では微妙にバラついており、特にサブウーファが実際よりかなり遠い。説明書によると発音の遅延を計算に入れているためだという。また、購入して間もない16cm径ウーファのフロントおよびリアスピーカーが、すべてSMALLと判定されてしまったことに軽いショックを受けた。

 なお、全スピーカーをフラットにする「ALL CH ADJUST」以外に、特性をフロントスピーカーに揃える「FRONT ALIGN」が選択できる。

トップメニュー スピーカー設定 MCACC実行中の画面
スピーカー距離測定の結果 スピーカーレベル補正の結果 フロント左スピーカーのF特補正結果
センタースピーカーのF特補正結果 フロント右スピーカーのF特補正結果 サラウンド右スピーカーのF特補正結果

 MCACCの結果をもとに、マニュアルで再調整することも可能。本体にはMCACCによる設定値のほか、再設定した値を2つまで保存できる。特に、MCACCではサブウーファのクロスオーバーをTHX基準の80Hzに固定するため、クロスオーバーを再設定するケースが多くなるだろう。マニュアルでは50/80/100/150/200Hzから選択できる。

 MCACC適用後、マルチチャンネル収録のDVDビデオをいくつか視聴してみた。各チャンネルのレベルと位相が合っているため、驚くほど臨場感が高い。包囲音や移動音の再現性に何の問題もなく、「今までの苦労は何だったのか」と悩むほど。特に、前方と後方のつながりが改善されたようで、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のブラッジャー、「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」の矢、「デアデビル」の杖など、前方から後方に高速移動する音がくっきりと浮き出るようになった。また、「グラディエーター」のコロシアムなど、包囲音のつながりにも切れ目がない。

 さらに、無意味に膨らんだ帯域がなくなったせいか、全体的にしまりのある音になった。セリフもタイトになり、細かい環境音もはっきり再現されているのがわかる。低音の切れも鋭くなり、劇場のビシっとした低音が再現されたかのようだ。若干帯域が狭まった印象もあるが、私の環境の場合、MCACCによる効果は予想以上に高かった。

 サラウンドソースの再生中には、THX再生モードが選択できる。通常再生との差は、映画館向けの音声特性を家庭用機器に修正する「Re-Equalization」、リスニングエリアを拡大する「Adaptive Decorrelation」、フロントとサラウンドのつながりをスムーズにする「Timbre Matching」、サブウーファの最大レベルを設定する「Bass Peak Level Manager」、視聴位置から各スピーカーまでの距離の差を調整する「Loudspeaker Position Time Synchronization」が適用されること。試してみたところ、スピーカー間のつながりが滑らかになり、よりリアルで落ち着いた雰囲気になった。ただし高域が落ち込むので、場合によっては通常再生の方が好ましく感じることもあった。

 なお、MCACCによる補正値を介さないダイレクト再生も可能。2ch再生で利用したい機能だが、2chの音楽CDの再生時においても、私の環境ではMCACCの方がバランス良く感じられた。


■ 長く使えそうな予感の中級モデル。他機種にないアピールポイントも多い

 MCACCの効果は高く、その補正精度はホームシアター初級者から上級者まで十分満足できる内容といえる。頼り切るとセッティングをつめていく楽しみが奪われることになるが、各チャンネルにイコライザが付いていると考えると、より深いセッティングに挑戦できる可能性もある。

 また、学習機能付きのリモコンもポイントが高い。リモコン自体の操作感も良く、長時間握っていてもそれほど疲れなかった。SACDおよびDVDオーディオファンにとっては、i.LINKの搭載も強力なアピールポイントだろう。USBオーディオ機能もパソコンユーザーにはうれしい機能だ。これから6.1/7.1chに挑戦しようかと考えていて、さらにCDからSACD/DVDオーディオへの移行も念頭にあるなら、コストパフォーマンスの高い選択肢といえる。


【VSA-AX5iの主な仕様】
実用最大出力 130W×7ch
対応フォーマット ドルビーデジタル、ドルビーデジタル EX、ドルビープロロジックII、ドルビープロロジック、DTS、DTS-ES(ディスクリート6.1/マトリクス6.1)、DTS 96/24、DTS Neo:6、MPEG-2 AAC
ライン入力SN比 103dB
入出力 i.LINK 2系統
映像入力 コンポーネント×2系統、D4×2系統、S映像×5系統、コンポジット×5系統
音声入力 7.1ch入力×1系統、同軸デジタル×2系統、光デジタル×3系統、RF×1系統、アナログ2ch×5系統、USB×1系統
映像出力 コンポーネント×1系統、D4×1系統、S映像×3系統、コンポジット×4系統
音声出力 光デジタル×2系統、アナログ2ch×2系統、7.1chプリアウト×1系統
外形寸法 420×464×188mm(幅×奥行き×高さ)
重量 20kg

□パイオニアのホームページ
http://www.pioneer.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.pioneer.co.jp/press/release400-j.html
□製品情報
http://www.pioneer.co.jp/catalog/ht/vsa-ax5i-n.php
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【8月18日】パイオニア、自動音場補正/i.LINK搭載のAVアンプ
-THX Select準拠。10万円のMCACC搭載下位モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030818/pioneer.htm

(2003年10月16日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]


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