ヤマハの新ブランド「MusicCAST」は、無線LANを利用したオーディオ配信システム。80GB HDDとCD-R/RWドライブを搭載した音楽配信を行なうサーバー「MCX-1000」と、クライアント「MCX-A10」、専用スピーカー「MCX-SP10」で構成される。 同社は、2002年にHDD/CDオーディオレコーダ「CDR-HD1300」を販売するなど、HDDを利用したオーディオジュークボックスシステムには比較的早期に取り組んできた。今回の「MusicCAST」では、同社の所有するルータ技術などを取り込み、無線LANによる配信システムとして登場した。 最近では、オンキヨーがネットワーク配信プロトコル「Net-Tune」を利用した、PCベースのオーディオジュークボックス「NC-500X」を発売したり、NECのHDDビデオレコーダ「PK-AX20」のNet-Tune対応で、ジュークボックス機能を追加するなど、熱心にオーディオジュークボックスに取り組んでいる。オンキヨーがどちらかといえばPCベースのジュークボックス志向なのに対し、ヤマハのMusicCASTは「オーディオ機器として独立した操作性を目指た」とのことで、「オーディオ機器」として展開していく予定だという。 また、MusicCASTは、サーバーが約20万円、クライアントとスピーカーのセットで8万円強と、価格的にも決して安価ではなく、新しいオーディオシステムの提案といった側面が強い。実際の使い勝手はどうなのか? MusicCASTシステム「MCX-1000/MCX-A10/MCX-SP10」の各機種を利用して検証してみた。
■ 重厚なサーバーと、壁掛け可能なクライアント
サーバーの「MCX-1000」は、ハードウェア的には80GBのHDDと、同社独自の高音質録音機能「アドバンスト・オーディオマスター」を搭載したCD-R/RWドライブから構成される。外形寸法は435×434.5×135.5mm(幅×奥行き×高さ)と、フルサイズのオーディオ機器で、重量は11.5kgとなっている。 出力端子は、光デジタル音声出力、同軸デジタル音声出力、アナログ音声出力、ヘッドフォン出力を各1系統装備。また、光デジタル音声入力、同軸デジタル音声入力、アナログ音声入力も1系統ずつ搭載し、外部機器からの録音も行なえる。S映像/コンポジットのOSD出力も備えている。 100BASE-TX対応のEthernet端子と、無線LANカードを内蔵し、DHCPサーバー/クライアント機能を搭載。特にネットワークのない環境でもクライアントに無線LAN経由での音楽配信が行なえる。
「MCX-A10」は、自社開発の17W×2chのデジタルアンプを内蔵した、MusicCAST用クライアント。液晶ディスプレイを搭載し、ディスプレイ脇のボタンや付属のリモコンから、サーバー上のオーディオライブラリ表示や各種設定が行なえる。 入出力端子として、スピーカー出力、ライン出力、サブウーファ出力、ヘッドフォン出力、ライン入力を各1系統装備する。スピーカーターミナルはワンタッチ式。端子類を覆うカバーも用意されている。無線LANのほか、Ethernet端子も装備している。外形寸法は210×79×244.5mm(幅×奥行き×高さ)と薄型で、壁掛けにも対応する。重量は2kg
「MCX-SP10」は、MCX-A10専用のスピーカー。10cmコーンウーファと、2.5cmドームツィータを搭載したバスレフ方式の2ウェイ2スピーカーで、許容入力は20W。再生周波数帯域は100Hz~27kHz、出力音圧レベルは89dB/2.83V/m。インピーダンスは4Ω。 外形寸法210×79×210mm(幅×奥行き×高さ)で、デザインを「MCX-A10」にあわせており、壁掛けにも対応する。重量は1.2kg。
■ 設置、録音、再生は簡単
MCX-1000では専用のOSDを搭載し、ビデオ出力からテレビにOSDを表示し、各種のコントロールが行なえる。基本操作は本体のELディスプレイを見ながらも行なえるが、詳細設定などの際には、OSDの利用が必要となる。 ネットワークに関しては、MusicCAST自体が無線LANルータ機能を有しており、特に他の無線LANルータなどは必要なく、音楽配信が行なえる。なお、MCX-1000をパソコン用の無線LANルータとして利用することはできない。 CD-R/RWドライブに音楽CDを入れると、HDD内のCDDBから自動的に曲情報を取得し、そのままPCMでの録音が行なえる。対応するオーディオ形式は、PCMとMP3で、MP3のビットレートは160/256/320kbpsの3種類が選択できる。
なお、高音質なキャプチャのための配慮からか、音楽CDから直接MP3の変換は行なわず、まずはPCMで録音。その後バックグラウンドでMP3化を行なう形式となっており、PCMを残すか消去するかは設定画面で選択する。 MP3への変換は、PCMで録音した後にバックグラウンドで行なわれるため、特にユーザーが意識することなく、自動的にMP3化が行なわれる。なお、HDD上にCDDB情報がない場合は、インターネットからCDDB情報を取得することも可能だ。 インターネットから曲情報を取得する際は、当然インターネット接続が必要となるため、MCX-1000側でも、DNSサーバーなどのネットワーク設定が必要となる。ネットワークやコンピュータに疎いユーザーが設定を行なう際には、やや敷居が高いといえそうだ。そのためデフォルト状態では、インターネット経由での自動曲情報取得はOFFになっている。このあたり、あくまで「オーディオ機器」として、製品を展開して意向というヤマハの意思が伺える。
電源投入時の動作音はほとんど感じないレベル。しかし、リッピング時にはやや高周波の回転音がする。初代プレイステーション 2の稼動音よりやや小さい程度だが、いかにも「高速回転してます」的な音なので若干耳障りではある。ただ、音がやや気になるのはリッピング時のみで、CDの再生時やHDDからの再生時などは静かなので、音楽を聞く妨げになるようなものではない。 リッピングの時間は、オーディオマスター機能により変化する。試しに49分54秒のアルバムをPCM化した際の録音時間は3分32秒。その後自動的にMP3へのエンコードが開始された。 AVアンプに接続し、HDDに内蔵したオーディオデータ(PCM/MP3)と音楽CDを再生してみたが、再生クオリティは高い。MP3の160kbpsでも満足いく再生品質と感じたが、より高音質を求めるユーザーには、256kbps/320kbpsとよりハイビットレートなモードも用意されている。
ただ、ビットレート選択は、リッピング前にメニュー画面からシステム設定-[レコーディング]と、階層を辿って行なう必要があるため、やや手間がかかる。「このアーティストはPCM」、「別のアーティストは320kbpsのMP3」、「さほど聞かないアーティストは160kbpsのMP3」など、リッピング時に柔軟にビットレートや、PCMの有無を設定できるようなモードがあっても良かったかもしれない。 リモコンは、メニュー呼び出しの専用ボタンや、戻りボタンの配置もわかりやすく、設定操作なども容易に行なえる。ライブラリの操作も簡単で、付属のボタン上部の[ARTIST]、[ALBUM]、[GENRE]ボタンから任意のリストに移行し、簡単にアルバムやアーティストごとの再生が行なえる。レスポンスも良好だ。 リモコン本体は、なんとなくアメリカン? なデザインだが、操作感は総じて優秀と言える。この手のオーディオジュークボックスを利用したことのないユーザーでも、容易に操作が行なえるだろう。
また、プレイリスト再生やシャッフル再生も可能となっている。基本的にリモコンで全ての操作が行なえるが、プレイリスト名や曲名の編集時には、本体前面のPS/2端子にキーボードを接続し、日本語入力も行なえる。プレイリストはクライアントからアクセスし、再生することもできる。 HDD上のデータのCD-R/RWへの録音にも対応する。利用するCD-Rは音楽専用のみで、データ用CD-Rをトレーに挿入しても認識されない。HDD上のリストから曲を選択し、CDへの書き出しが行なえる。高音質録音機能の「アドバンスト・オーディオマスター」を搭載しており、CD-Rへの書き出しは等速/2倍速/8倍速となっている。
■ クライアントに音楽を配信
クライアントも設置は容易で、「MCX-AX10」と、専用スピーカーの「MCX-SP10」は、壁掛けにも対応する。付属の卓上用スタンドを利用すると、やや上向きに設置される。 最初に利用する前にクライアント側から認証を行なうだけで、サーバーとの通信が可能となる。通常のネットワーク環境であれば、液晶画面から[Setup]-[Network]の項目を選び、サーバーの指定を行なうだけで、クライアント-サーバー間の認証は完了する。
クライアントで音楽再生は、レスポンスも良好で、タイムラグを感じることはない。アルバム一覧表示のスクロールなどでも途切れなく表示され、「サーバー側と通信してから表示している」と感じさせられることは皆無だ。リモコンは小型のため、操作には若干慣れが必要だが、操作体系はサーバー側と統一されており、わかりやすい。 配信可能な音楽形式はMP3とPCM。MusicCASTでは、MP3の場合、無線LANで最大5台、有線LANを含めると最大7台までの配信が可能となっているが、PCMでは無線LANの帯域上1台までの配信の対応となる。PCM配信はデフォルトではOFFに設定されているため、サーバー側でONに変更する必要がある。また、サーバーの電源は待機状態でも配信可能となっている。
実際に音楽を再生してみると、スピーカーの特性からか指向性が少なく、リスニングポイントを選ばない印象。音質的には、低域が若干弱い印象はあるが、反応はよく、十分な再生クオリティを有していると思う。 定位や音像がきちんと決まっているというよりは、店舗のBGMのように、部屋のどの場所で聞いてもきちんと聞こえるという方向で音作りがされているようだ。 「決まった場所でしっかり聞きたい」といったユーザーであれば、スピーカーを好みのものに変更した方が楽しめるかもしれないが、部屋のどこでも気軽に音楽を楽しむことがでいるというのが、本機のコンセプトと思われる。そうした意味では、用途に非常によくあった設計と感じる。 なお、パソコンとの連携については、開発当初よりPCからのコントロールなどは検討したが、コピーコントロールの問題や、オーディオ機器として単体で動作することにこだわり、誰でも簡単に操作できるように配慮したため、対応は見送られたという。 また、ファームウェアのCD-ROM提供によるシステムのアップグレードも検討しているという。第1弾として、Broadcastモードの追加を予定している。これは、リモコンの[Broadcast]ボタンを押すと、全てのクライアントで同じ音楽を再生するというもので、店舗やマルチルーム環境などでは重宝する機能だろう。アップグレード費用についてはCD送付の実費程度になる見込み。
■ まとめ
据え置きのオーディオ機として利用できるHDDジュークボックスシステムとして、操作性や、インターフェイスデザインなどは非常に洗練されており、初心者や、パソコンやネットワークに詳しくないユーザーでも、容易に利用できると感じた。 そういう意味では、パソコンベースのシステムと比べて敷居が低いとも言えるが、価格的にはシステムで導入すると1クライアントでも、25万~30万円程度と、決して安いものではない。しかし、各部屋にオーディオシステムを導入したり、有線でこうしたジュークボックスを導入する際は、ケーブルを床に張りまわしたりなど、設置だけでも手間と費用がかかった事を考えれば、妥当な価格といえるだろう。 誰でも簡単な操作で、オーディオジュークボックスを楽しめるという点では、画期的な製品だ。個人的にはHDDに全てのオーディオライブラリを貯めるのであれば、300GBぐらいの大容量HDDを搭載して欲しかったと思う。 既に米国では販売開始されており、家庭内へのオーディオビジュアルシステムの導入などを一括して行なう、いわゆるカスタムインストーラを中心に反応はいいという。日本では、一般のオーディオショップのほか、住宅展示場などでの販売なども検討しているという。こうした取り組みから、日本におけるオーディオジュークボックス市場が、今後どのように展開するかという点も興味深いところだ。
□ヤマハのホームページ
(2003年10月31日)
[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp
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