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第121回:ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
~ その3:iPodとiTunesの音質を検証 ~


 ポータブルHDDオーディオの性能をチェックするシリーズの3回目となる今回は、Appleの「iPod」をテストした。ちょうど先日、AppleからWindows版のiTunes 4の日本語版もリリースされたところなので組み合わせて使って、iTunes 4によるAACエンコード結果も含めて検証した。



■ AACに対応した「iTunes for Windows」

 今回取り上げるAppleのiPodの20GBモデルは、1台でMacintoshとWindowsの双方に対応しているが、Windows版のバンドルアプリケーションは「MUSICMATCH Jukebox」だった。

 もちろん、MUSICMATCH JukeboxでもCDからのリッピング/エンコード、転送などは可能だったが、10月31日、ようやくApple純正のiTunes for Windows日本語版が完成。無償でダウンロード可能となった。


iTunes for Windows

 MUSICMATCH JukeboxとiTunes 4の最大の違いの1つとしては、iTunes 4では音質の良さのセールスポイントの1つともなっているAACをサポートすること。MUSICMATCH JukeboxではMP3でのエンコードしかできないため、iTunes 4が使えるMacintoshユーザーと比較するとWindowsユーザーにとってはiPodの魅力が若干見劣りしていた。

 ここではiTunes 4の使い勝手や、これと連携しているiTunes Music Storeについて特には詳しくは触れないが、無償でダウンロードして使え、特にiPodユーザーでなくても利用できるので実際に試して欲しい。購入できるのは米国のみだが、1曲99セントで購入できるオンラインミュージックストア「iTunes Music Store」は大きな話題になるだけあって、非常に面白い。国内での展開は未定となっているが、とりあえず海外サイトへ接続し、試聴だけならできる。これだけでも結構な価値はあると思う。


■ iTunesで作成したAACのオーディオ品質をテスト

AACエンコーダを選択

 iPod本体の検証に入る前に、まずiTunes 4によるAACエンコード音質を検証した。

 以前、AACについては松下電器から単体で発売されている「SD-Jukebox」、NECの「SmartJukeBox Ver2.0」(販売終了)、liquid audioのサイトから、無料でダウンロードできる「Liquid Player Six」の3つのソフトでチェックしたことがあったが、それらは同じAACでもファイル的には互換性がなく、音質にも違いがあった。


ビットレートは16kbps~320kbpsまで選択できる

 iTunes 4の設定画面を見てみると、ビットレートは16kbpsから300kbpsまで選択できるが、ここではデフォルトの設定である128kbpsを使うことにした。Appleによれば、この設定で、MP3と比較して圧倒的に音質がいいとのこと。

 チェック方法は、従来と同じ方法で比較した。具体的には音楽データと、1kHzのサイン波、スウィープ信号の3つをエンコードした結果の周波数スペクトラムをとった。より詳しく結果を見るためFFTの分解能を少し上げているが、基本的には同じ実験だ。

 実は今回、従来と同じように、オーディオドライバにデータが流れる直前で音をキャプチャするツール、Total Recorderを利用したかったのだが、どうもうまくいかない。調べてみると、AACのデコーダはiTunes 4本体が持っているのではなく、いっしょにインストールされるQuickTimeが持っているようだ。

 そこで試しに、いつも使っている波形エディタのSoundForgeを使って、iTunes 4が出力したAACファイル(拡張子.m4a)を読み込んでみたら、問題なく読み込めた。これをwavファイルとして出力し、いつものようにWaveSpectraを使って見てみた結果が以下のものだ。

サイン波のスペクトラム スウィープ信号 楽曲の録音・再生

 この実験をする前に、とりあえず耳で音を聞いたところ、128kbpsのMP3に比べてすごくいいという印象はなかった。倍音成分の多い音色などはMP3と同じような感じでくすんでおり、MP3とそれほど変わらない。ただ、全体を通して違和感はなく、キレイな音であることは確かだった。

 その上で、改めてこのグラフを見てみると、やはり高域は16kHz以上でバッサリと切られていることがわかる。ただ、1kHzのサイン波をエンコードした結果は、かなりキレイな波形となっていて、変な成分はあまりないように見える。以前の3種類のAACのグラフと比較して、松下のSD-Jukeboxのエンコード結果とは結構近い。同じエンジンを使っているかどうかは定かではないが、現在のAACフォーマットの音質のレベルを示しているのだろう。


■ iPodのオーディオ品質をテスト

 次に、iPod本体の音質をチェックした。この実験では音量の調整をした上で、無音状態でのノイズレベルをチェックし、1kHzでのスペクトラム、スウィープ信号の周波数特性、楽曲の周波数特性のそれぞれを見ていく。なお、この際、再生に利用するデータとしては、非圧縮のwavファイルと、先程のAAC 128kbps、MP3の128kbpsの3つを使う。また、MP3へのエンコードもiTunes 4の機能を用いて行なった。

iPodの無音状態でのノイズレベル

 まず、音量調整はiPodのボリュームを動かしながら聞いてみて、約90%でも音割れなく再生できたので、この位置で実験することに決め、入力インターフェイスであるEDIROL UA-1000で入力レベルマッチングを行なった。その上で、無音状態でのノイズレベルを測定したところ、最大で-84dB程度と極めていい結果となった。

 前回測定したNOMAD Jukebox Zen NXも決して悪いものではなかったが、-78dB程度という結果だったので、それよりもかなりいい結果となっている。

 アナログ回路などの基本性能を見るのであれば、非圧縮のwavファイルを使うのが一番いいと思うので、この結果を見てみよう。まず1kHzサイン波は、非常にキレイなグラフで、高調波やノイズも少ない感じだ。参考値としてのS/NはNOMAD Jukebox Zen NXのそれより劣るが、見た目上はスッキリしている。一方、スウィープ信号や楽曲のグラフについては、NOMAD Jukebox Zen NXのものとほとんど変わらない。いずれも周波数が上がるとレベルが下がるという傾向にある。

iPodで1kHzサイン波を再生した際のスペクトラム スウィープ信号 楽曲の録音・再生

 実際の使用において、wavファイルを用いるということはあまりないと思うので、実際に即したAACおよびMP3の128kbpsでの結果についても見てみよう。まず1kHzのサイン波の結果から。

1kHzのサイン波の結果
AAC MP3

 これを見ると、やはりAACの方が波形はキレイ。高域、低域でのノイズ成分などはほぼ同等だが、1kHz前後の形が少し違って見える。

 次に、スウィープ信号については、AACの結果を見ると、先ほどエンコードのテストで見たグラフがほぼそのまま反映されているといった感じだ。一方のMP3は、20kHz近くまでフラットに出力されており、これだけを見るとAACよりも圧倒的にいい結果となっている。これは単純な波形であるため、高い周波数がカットされていないものと思われるが、悪い結果ではないだろう。

スウィープ信号
AAC MP3

 実際、これを楽曲で試してみると、やはりMP3の方がやや高域まで出ているが、オリジナルデータを反映しているわけではなく、ときどき高域が出ることがあるので、ピーク値として表れているようだ。

楽曲の録音・再生
AAC MP3

 AACとMP3を聞き比べた結果としては、それほど違いがないように感じられる。「言われてみるとAACの方がいいようにも思える」といった程度だろうか。AACへの過剰の期待は禁物だが、iPodというハードウェアの音質という意味で捉えれば、今あるMP3ファイルをAACに変換するほどではないが、これからエンコードする新譜については積極的にAACを使う方がいいだろう。


□アップルのホームページ
http://www.apple.co.jp/
□iTunesダウンロードページ
http://www.apple.co.jp/itunes/
□iPod製品情報
http://www.apple.co.jp/ipod/
□関連記事
【10月20日】【DAL】ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
~ その2:Nomad Jukebox Zen NXの再生性能を検証 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031020/dal119.htm
【10月6日】【DAL】ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031006/dal118.htm
【10月31日】アップル、iTunes for Windows日本語版を公開
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【10月23日】Apple、iTunes for Windowsをアップデート
-Windows 2000やCD書き込みソフトとの互換性を向上
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031023/apple.htm
【10月21日】アップル、iTunes for Windows 日本語版の公開を延期
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【10月17日】アップル、iTunes for Windowsの説明会を開催
-Music Storeの国内展開は「まだ時間がかかる」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031017/apple3.htm
【10月17日】アップル、iTunes for Windowsの提供を開始
-日本語版は10月21日から
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031017/apple1.htm
【9月8日】アップル、iPodに20GB/40GBモデルを追加
-15GB/30GBモデルから価格は据え置きで容量増加
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【2002年2月18日】【DAL】圧縮音楽フォーマットを比較する
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020218/dal44.htm

(2003年11月10日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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