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第122回:ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
~ その4:gigabeat G20とRio Nitrusの音質を検証 ~


 ポータブルHDDオーディオ市場で、iPodと人気を二分するgigabeat G20、そしてとにかくコンパクトということで話題のRio Nitrus。ポータブルHDDオーディオの性能をチェックするシリーズの4回目となる今回は、この2機種をこれまでと同様の方法で音質チェックしてみる。



■ gigabeat G20とRio Nitrusをテスト

 これまで、クリエイティブメディアのNomad Jukebox Zen NXとAppleの第3世代iPodの20GBモデル「M9244J/A」の音質チェックをしてきた。これら2機種はともにWAVファイル、MP3ファイルは扱える一方、Zen NXではWindows Media Audio、iPodではAACをそれぞれサポートしていた。WMAとAACを直接比較するわけにはいかないが、アナログ部分の性能比較という意味で、無音状態でのノイズレベルやサイン波のスペクトラム比較をすると、それなりの違いが見えた。

 今回もこれら2機種と同じ実験を東芝のgigabeat G20とRio JapanのRio Nitrusで行なった。gigabeat G20とRio Nitrusは、いずれもMP3とWMAをサポートしたプレーヤー。ただし、gigabeat G20はWAVファイルも扱えるのに対し、Rio NitrusはHDD容量が1.5GBしかないためか、WAVファイルは非サポートだ。そのため、アナログ性能の完全な横並び比較はできないことになってしまうが、実用面においてはMP3の部分を見れば十分だろう。

gigabeat G20 Rio Nitrus

 また、いずれの機種にもデータ転送用のソフトがバンドルされているが、gigabeat G20は完全に転送用でリッピングやエンコード機能は備えていない。一方のRio Nitrusはリッピングとエンコード機能は持っているのだが、MP3のエンコードについてはオプション扱いとなっていた。そのため、今回の実験素材には、以前に生成しておいたFraunhofer IISのエンジンでエンコードしておいたMP3ファイルを用いることにした。

 なお、Rio Nitrus添付のソフトでは、OggVorbisやFLACといったロスレスのフォーマットでのエンコードもできるようになっているが、Rio Nitrusは非対応なので無視することにした。これらはRio KARMAがサポートしているようなので、今度それを取り上げる際にでもチェックしてみることにする。


gigebeatの転送ソフト「TOSHIBA Audio Application」 Nitrusの転送ソフト「Rio Music Manager」


■ iPod/Zen NXとはやや異なる特性

 実験方法は従来と同じく、各プレーヤーのヘッドフォン出力をEDIROLのUA-1000の入力に接続し、レベルマッチングを計ってから、無音状態のノイズレベルの測定、1kHzのサイン波の測定、一般の楽曲およびスウィープ信号の測定を順に行なっていく。

 これまでZen NXやiPodを扱った際には、プレーヤー側のレベルを80~90%程度の音割れしない音量の大きめなポイントを設定していたが、今回はちょっと事情が違った。どちらも音量レベルが低いのだ。正確な比較ではないが、感覚的には、Zen NXやiPodの50~70%のレベルがgigabeat G20やRio Nitrusの最大レベルといった感じであった。

 最初、従来同様に80~90%のレベルに設定していたのだが、UA-1000にとっての入力レベルが小さく、これのプリアンプで増幅してレベルマッチングをとると、プリアンプ側のノイズがかなり大きくなってしまい、本来行なうべき比較ができないほどだった。

 どちらかというとgigabeat G20のほうがより出力レベルが小さいため、プリアンプのノイズがとても目立ってしまった。仕方ないので、両機種ともに最大音量で測定することにした。こうすることで、UA-1000のプリアンプノイズはほぼわからなくなり、しっかりした実験を行なうことができた。また、最大音量においていろいろな楽曲を演奏させて聞いてみても、音割れなどはなく再生できていたので問題はないだろう。

 以上のことからも分かるように、大音量大好き派の人にとってはgigabeat G20もRio Nitrusも物足りないものと感じるかもしれない。もっとも個人的にはこれだけのレベルがあれば、騒音の多い電車の中などでも十分であったが……。

・gigabeat G20

gibabeatの無音状態でのノイズレベル

 というわけで、それぞれの実験結果を順に見ていこう。まずはgigabeat G20から。無音状態でのノイズレベルは-83dB程度。ノイズが少ない部類の値であるが、電源だけ入っている状態と無音のWAVファイルを演奏している状態ではだいぶ異なるようで、前者では-90dB以下にまで下がる。

 これまで見てきた機種では、ほとんど差がなかったので、ちょっと面白い傾向だ。HDDの回転ノイズが影響しているのかもしれない。

 次にWAVファイルでの結果。1kHzのスペクトラムを見ると、この1kHzの信号以外はほとんど音が出ていない非常にキレイなグラフだ。3kHz=3倍音に-100dB程度のレベルが出ているのがちょっと気になるところだが、音質的に大きく影響するようなものではないだろう。スウィープ信号はとてもフラットだし、楽曲での波形もオリジナルとほぼ同じキレイなグラフとなっている。


サイン波のスペクトラム スウィープ信号 楽曲の録音・再生

 次にMP3とWMAの場合を見てみよう。スウィープ信号や楽曲の結果を見ると、MP3よりもWMAのほうが高域まで出ており、いいようにも思うが、サイン波を見ると、MP3のほうがオリジナルに近く不要な音が少ない。これらはそもそもの圧縮性能の違いによるものなので、あまり気にしなくてもいいと思う。

1kHzのサイン波
MP3 WMA
スウィープ信号
MP3 WMA
楽曲
MP3 WMA

 それより気になるのは、楽曲のグラフの高域部分。本来であれば、MP3なら16kHz以上、WMAなら19kHz以上でバッサリと切られるはずなのに、結構自然な形で音が出ているのだ。波形からはKENWOODのSupremeのような補間技術を利用しているように思えるが、gigabeat G20のパンフレットなどは特に記載はなく、なぜこうなっているのかはわからない。

 ただ、実際に音を聞いていると、原音とは明らかに違う圧縮音ではあるものの、なんとなく聞き心地よく感じられたのは、この辺の影響であったのかもしれない。

・Rio Nitrus

 次はRio Nitrus。通勤の電車の中などで使ってみたが、シャツの胸ポケットに入れても気にならないほど軽いし、HDDの駆動音や振動などもなく、使っていて気持ちいい。バッテリの持ちもいいので、こんなものが登場すると、もはやメモリー型のプレーヤーの存在意義すら薄れてきそうだ。

 電車の中での使用なら、ノイズレベルなどほとんど気にする必要もないのだが、厳密に測定してみるとどうなのだろうか? その結果を見ると、基本的には-85dB程度と高性能だが、ちょっと山ができているのが気になるところだ。

Rio Nitrusの無音状態でのノイズレベル 無音状態でのノイズレベルを時間軸を広げてチェックしたところ

 そこで、時間軸を広げて俯瞰してみると、やや妙な傾向があるのが見えてくる。周期的にノイズの山があり、最大で-74dB程度にまで至る。計算してみると、小さいほうの山の周期が23Hz程度、大きい山が4Hz程度だから、50Hzの電源がどこからか回り込んだというわけではなさそうだ。はっきりとはいえないが、HDDの駆動モーターからのノイズが入り込んでいるのかもしれない。

 もっとも、最大-74dBであり、+の位相側で出ているだけだから、普段の使用では気になるようなものではないだろう。

 また前述したとおりWAVファイルは扱えないため、アナログ部分での性能評価はあまりしっかりできないが、MP3、WMAの結果からそれなりの予測はつくだろう。

1kHzのサイン波
MP3 WMA
スウィープ信号
MP3 WMA
楽曲
MP3 WMA

 これを見ると、スウィープ信号や楽曲においては、MP3やWMAの特性がそのまま表示されているといった感じだ。一方、サイン波のほうを見ると、これまで見てきた機材と比較すると、ちょっとノイズが多めといった感じだ。細かく見るとMP3もWMAも倍音、2倍音、3倍音……と高調波が結構でているし、低音についても出ているのが分かる。これらはMP3やWMAに圧縮したためのものではないし、単純に先ほどのノイズが理由であるわけではない。したがって、アナログ性能の一端を表していると思われる。

 以上、gigabeat G20とRio Nitrusについて見てきたがいかがだっただろうか。これまで見てきたZen NXやiPodの結果も横並びで比較しながら、検討してみるのもいいだろう。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□製品情報
http://www.toshiba.co.jp/mobileav/audio/meg200j/products.htm
□Rio Japanのホームページ
http://www.rioaudio.jp/
□製品情報
http://www.rioaudio.jp/products/rioNITRUS.html
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(2003年11月17日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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