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第124回:大幅機能強化した「SONAR3」
VST対応や各種プラグインを同梱


 EDIROLから11月28日、DAWソフトSONARの最新版「SONAR3 Producer Edition」と「SONAR3 Studio Edition」が発売された。今回、見た目にも大きなバージョンアップが行なわれるとともに、ミキサーコンソール周りを中心に大きく機能向上している。

 今回は、SONAR3の概要に加え、CakewalkのGreg Hendershott CEOにインタビューすることができたので、その内容も併せて紹介する。



■ UIも大幅に進化した「SONAR3」

SONAR3

 SONARが2.2から3へとメジャーバージョンアップした。SONAR1からSONAR2へは見た目もあまり変わらないマイナーバージョンアップ的なものであったが、今度のSONAR3はデザインも大きく変化した。

 Cakewalk製品はこれまで見た目がカッコ悪く、カッコよくなったといわれたSONARでも、CubaseやLogicなどと比較するとかなり見劣りした。それが、今回Cubaseなどとデザイン面でも張り合える雰囲気になったのだ。

 この夏にリリースされた「Project5」というソフトシンセ・ワークステーションでも、デザインがかなりいい感じになっていたので、きっと専任のデザイナーを入れたのだろうと思っていた。Greg氏にさっそくその疑問をぶつけたところ返ってきたのは意外な答えだった。

 「これまでの製品開発では機能に力を注いできましたが、Project5を開発する際に従来のユーザーとは違う人、とくにリミックスなどをしているユーザーなど幅広い層に受け入れてもらえるように、デザインにも力を入れ始めました。実際、これまでは安定性、機能、スピードを優先するため、デザインにはそれほど力をいれていませんでした。しかし、デザイナーを新たに迎えたわけではなく、従来のメンバーで開発しています」

 デザイン面の強化については「マシンパワーが向上したから」というのがその理由だが、この1年で劇的に向上したというわけでもない。実際、ヨーロッパのソフトなどは、従来から機能とデザインを両立してきたわけだから、もうちょっと早く取り組んで欲しかったようにも思う。

 ともかくデザインが良くなったのは嬉しいところ。とくに注目したいのは、ミキサーコンソールであるコンソール・ウィンドウ。見た目もそうだが、これが従来と比較してかなり使いやすく高機能に仕上がっている。

 これは上位モデルの「Producer Edition」と下位の「Studio Edition」でちょっと違うところなのだが、Producer Editionの場合、各オーディオトラックに6バンドパラメトリックEQがビルトインされている。もちろん、従来通りプラグインエフェクトを組み込むことは可能だが、すぐにEQが利用できることで、実際のミキサーコンソールと同様の使い勝手を実現している。このコンソール上では、4つしかパラメータが表示されていないが、別ウィンドウを開くことにより、さらに細かい設定が可能。同様に、組み込んでいるエフェクトのパラメータも4つまでコンソール上に表示できる。

コンソール・ウィンドウ EQの設定画面

 また、バスが自由に増やせるようになったのも大きなポイント。SONAR3のユニバーサル・バス・アーキテクチャはバスを無制限に追加し、好きなようにルーティングして信号を流すことができる。AUXバス、モニターバスのように用途が決められているわけではなく、自分の用途や目的にあわせて、バスを作ることができる。

 これは実際の制作現場では非常に便利なもので、ある意味、高価なプロ用ハードウェアミキサー以上に使いやすくなっている。デフォルトではMaster、Subgroup 1、Effect Send 1の3つのバスがあらかじめ作成されているが、それぞれマスター用、グルーピング用、センドエフェクト用にルーティングされているだけで、そのルーティングを変更すれば、用途を変更することが可能だ。

トラック・インスペクター

 なお、このコンソール・ウィンドウは、EQ部を非表示にするとか、エフェクトのパラメータを表示させるなど、さまざまにカスタマイズできるようになっているのも魅力の1つである。

 同じくユーザーインターフェイスの変更で非常に使いやすくなったのが、トラック・インスペクターの採用。これは昔からCubaseに搭載されていたのとそっくりのものだが、各トラックの設定状態をトラック・ウィンドウ左側に縦で表示するというもの。これにより、トラックの状況が一目で確認できるのとともに、設定の変更も簡単にできるようになった。

 さきほどのコンソール・ウィンドウと比較するとわかるように、このインスペクターはコンソール・ウィンドウの1トラック分をここに表示しているようなもの。したがって、ビルトインEQの設定なども、トラック・インスペクター上で行なうことができるわけだ。


■ プラグインも充実

Cakewalk VSTアダプタを同梱

 SONAR3で強化されているのはプラグインの部分にもいろいろある。まず大きいのはCakewalk VSTアダプタというユーティリティを同梱したことにより、VSTおよびVSTiのプラグインをDirectX/DXi化することができ、結果としてSONAR3で利用可能にしていること。

 ご存知の方も多いと思うが、これはもともと英FXpansionが開発したもので、3月にこのソフトをCakewalkが買収したことにより、Project5やSONAR3にバンドルされるようになった。また、EDIROLではその日本語版を4,980円でダウンロード販売している。


Lexicon Pantheon Reverb

 またプラグインのエフェクトもいろいろと追加されているが、なんといってもその目玉はLexiconのPantheon Reverb。

 これは、あのLexiconのリバーブをプラグインソフト化したもの。プロ御用達のLexiconのリバーブは、基本的にハードウェア製品だが、ProToolsのプラグインであるTDM用としてLexiVerbというものはあった。しかし、これまでVSTやDirectXとしての製品がなかったのだ。それが今回はじめてSONAR3にバンドルという形で登場したので、これだけでも大きな価値があるだろう。

 実際に使ってみると、さまざまなプリセットが用意されており、これを試すだけでもLexiconのすごさを実感できる。なお、Studio Editionには機能縮小版であるLexcon Pantheon LEがバンドルされている。

Ultrafunk Sonitus:fx Suiteの「fx:wahwah」

 もう1つエフェクトでは、Producer EditonにUltrafunk Sonitus:fx Suiteというものがバンドルされている。これは、プラグインのセットであり、以下の独立した10種類のエフェクトがバンドルされている。

  • fx:compressor
  • fx:delay (with tempo sync)
  • fx:equalizer (parametric)
  • fx:gate
  • fx:modulator
  • fx:multiband (compressor)
  • fx:phase
  • fx:reverb
  • fx:surround
  • fx:wahwah

VSampler 3.0 DXi

 一方、ソフトシンセで新たに加わったのがソフトサンプラーのVSampler 3.0 DXi。プラグイン型のソフトシンセとしてはSteinbergのHALionやIK MultimediaのSampleTankが有名だが、このVSampler 3.0 DXiはそれらに勝るとも劣らない高機能・高性能なもの。

 音色をかなり細かく設定・エディットできるのとともに、さまざまな音色データを読み取れるというのも大きな特徴だ。具体的にはSoundFont、DLS、GigaSamplerフォーマット、HALionフォーマット、LM-4/9フォーマット、さらにはAKAIフォーマットなど普及しているサンプラーのデータフォーマットをほぼすべてカバーしており、さまざまなライブラリが利用できる。現在、国内では単独販売されていないが、これだけを目的にSONAR3 Producer Editonを購入してもいいほど。

 ただ、実際に使ってみると、初めて使うユーザーにはちょっと取っ付きづらい雰囲気がある。どこをどう触るのか、慣れるまでその構造が把握できないというのが難点。逆にいえば、それだけ機能いっぱいのソフトシンセなのだといえるだ。



■ CEOインタビュー

 さて、このようにプラグインについて見てくると、いずれもCakewalkオリジナルソフトというわけではない。前バージョンのSONAR2でもXLにはSonic Timeworksのマスタリング用のエフェクトが搭載されていたわけだが、この辺の事情についてCEOのGreg氏に尋ねてみた。

 「確かにこれまで、会社自体を買収したこともあるし、ソフトのソースコードを買収し、バンドルしたケースもあります。たとえば、Ultrafunkは会社ごと買収していますし、VSTアダプタはソフトのソースコードを買い取っています。さすがにLexiconはHarman Specialty Groupという大きな会社の一部門なので、そうしたことはできません。しかし、今回はエクスクルーシブな契約を結んでいて、Cakewalkでしか出ていないソフトとしてPantheon Reverbをリリースしています。既存のユーザーには、新しいサプライズを与えたかったのとともにギフトという位置付けでもあります。今後も、こうした戦略はどんどん打っていきたいと考えています」と説明する。

 もう1つ聞きたかったのは、これまで完全にVSTと対抗する形でDirectXとDXiに取り組んできたのに、VSTアダプタを使うことで、VSTへ歩み寄ったのは、どんな理由からで、今後積極的にVSTに取り組む可能性があるかということ。同様にASIOもサポートし、Steinbergの規格にかなり寄ったのでは? という点についてだ。

 これに対してGreg氏は「最初から競合したいと思っていたわけではなく、Windowsにもっともよい仕組みがどうなのかを検討した。その中で、Windowsオリジナルのシステムで、できるだけパフォーマンスをあげるという観点で、DirectX、DXiを採用することになりました。確かに傍から見ると対決のように思えたかもしれないが、我々としては、あまり意識したことはないです。VSTやASIOに対抗したというよりもdigidesignがASIOをサポートし、プロの世界においてもASIOが1つの標準となったため、SONAR 2.2より利用できるようにしています」と話してくれた。

 また、以前はOvertureというMacintosh関連の製品も扱っていたことがあったが、数年前にGenieSoftに売却して以来、Macintosh製品は出していない。Macintosh向け製品については「今後絶対にないとはいえないが、当面Windowsにすべてのリソースを振り向けていく」ということだった。

 来年もまた驚くような製品をリリースするということを明言してくれたが、実際どんなものが登場するのか楽しみである。


□EDIROLのホームページ
http://www.roland.co.jp/DTMP/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/SONAR3/
□関連記事
【10月27日】【DAL】各社の新製品が登場した「2003楽器フェア」
~ YAMAHAの「O1X」や、Rolandの「SONAR3」などに注目~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031027/dal120.htm

(2003年12月1日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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