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第110回:本編ディスク2枚の画質へのこだわり
昭和最大のスパイ事件を描く「スパイ・ゾルゲ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 昭和最大のスパイ事件を描いた大作

スパイ・ゾルゲ
DTSデラックス・エディション
価格:6,000円
発売日:2003年11月21日
品番:TDV2752D
仕様:片面2層3枚
本編収録時間:約182分
画面サイズ(本編):ビスタ(スクイーズ)
音声:日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
   日本語(DTS)
字幕:日本語キャプション/英語
発売元:アスミック
販売元:東宝

 「スパイ・ゾルゲ」は、構想10年、製作費20億円という大作映画にして、瀬戸内三部作や梟の城などの篠田正浩監督の引退作品。

 昭和最大のスパイ事件といわれる「ゾルゲ事件」については、ご存知の方も多いかと思うが、この「スパイ・ゾルゲ」はその中心となったソビエト連邦の国際スパイ「リヒャルト・ゾルゲ」の生涯を描いた物語だ。

 今年6月の公開時にはかなりのプロモーション展開していたと記憶している。大ヒットには至らなかったが、上半期の邦画ではかなりの話題作だったことは間違いないだろう。

 さらに今作は、改造したパナビジョンカメラを利用したフルデジタル撮影とのこと。同じ篠田監督による前作「梟の城」もその高画質で話題を呼んだDVDだけに、画質面での期待も高まる。ということで早速購入してみた。

 初回限定の「DTSデラックス・エディション」とのことで、パッケージは通常のトールケース2枚分ぐらいの厚さの特殊形状。ディスクは本編ディスクが2枚に特典ディスクが1枚という構成だ。特典として、「スパイ・ゾルゲと彼が駆け抜けた激動の時代」と題されたブックレットが封入され、ゾルゲ事件の時代背景や、年表、人脈図などが簡単にまとめられている。

 価格は6,000円とやや高めだが、特典ディスクや本編が2枚組みなどの仕様からも邦画のDVDとしては妥当な線と言えるだろう。



■ 政権中枢に食い込むスパイ組織

 舞台は太平洋戦争直前から対戦中の中国と日本。ソ連の国際スパイ、リヒャルト・ゾルゲ(イアン・グレン)は、上海でコミンテルンの一員としてスパイ活動に従事していた。そこで、朝日新聞の記者として中国に赴任していた、尾崎秀美(本木雅弘)と出会う。

 尾崎は、共産党員ではないものの、日本の中国/アジア政策への疑問から、ゾルゲらの活動に協力を始め、同時に中国/アジア問題の専門家としての地位を高めていく。

 その後日本に帰国し、新聞記者としての活動を続けていた尾崎だが、やや遅れてゾルゲも日本での諜報活動を開始。尾崎との接触をはじめる。諜報団のメンバーとしては、アメリカで共産党に入党した沖縄生まれの画家 宮城余徳(永沢俊矢)、ドイツ人無線技師クラウゼン(ウォルフギャング・セッシュマイヤー)、クロアチア人ジャーナリスト ヴェケリッチ(アーマン・マレヴスキー)らから構成され、彼らはともに共産党員。しかし、尾崎は党員ではなく、独自の理念より活動を行なう。

 ゾルゲは、新聞記者を装い駐日独大使館に潜入。後にドイツ大使となるオット大佐の信頼を得て、大使館の私設顧問となり、ドイツの機密情報を次々と入手。ソ連に打電する。その中には独ソ戦の開戦情報なども含まれていた。

 尾崎は、日本の満州政策の中心となる満州鉄道や、近衛文麿内閣の嘱託となり、内閣のブレーンとしての活動を開始。米国による石油の禁輸措置による影響調査から、御前会議の情報まで、あらゆる情報がゾルゲらに伝達された。

 政府中枢にまで及ぶ強力なスパイ組織を構築した彼らだが、しかし本作での描写は、いわゆる「スパイ映画的」なアクションや諜報活動などほとんど無い。いかに相手に取り入り、信頼を得るかという部分に力点が置かれている。そうした意味で、「スパイ活動」目当てで観るとやや肩透かしかもしれない。

 また、彼らの同士である女性ジャーナリストのスメドレー(ミア・ユー)や、ゾルゲの妻や、愛人の三宅華子(葉月里緒菜)、ヴェケリッチの妻 山崎淑子(小雪)らの関係を交え、異国で変貌しつつある、ゾルゲらの心情の変化が描かれる。もちろん、スターリンによる粛清なども彼らの関係に変化を及ぼし、彼らの運命も急転していく……。

 特典ディスクに詳しいが、この作品への篠田監督への意気込みは大変なもので、「日本/ドイツ/ソ連というそれぞれの国の狭間に立ったゾルゲから読む昭和史」が本作のテーマとなっている。そのため、単なるスパイ映画としてではなく、歴史の転換点をゾルゲを元に描こうという意思が感じられる。

 ゾルゲ事件に関する事前知識がないと、やや理解が難しい点もあるかもしれないが、182分という長編の中で、そうした監督の目的はある程度達しているように感じた。ただ、やや気になったのが、ゾルゲの話す言葉が英語ということ。諜報団のメンバーなどとは、英語で話していたかもしれないが、ドイツ大使館の会話が英語というのはちょっと、興をそがれた。英語でドイツの機密情報を語った後に、ヒトラーの写真に敬礼されてもなぁ~。



■ 鮮烈な解像感のある画質。CGの多用も目立つ

 本編ディスクは2枚組み。そのため、当然本編途中でディスクを交換することとなる。当初2枚組みと全く気づかずに観ていたため、ディスク交換を促すメニューが出たときには、驚いてしまった。

 撮影には、ソニーの「HDW-F900 24P」をベースにしたパナビジョンのカスタムモデルを利用し、10bit無圧縮データをHDD記録したという。そのためか、解像感は高く、階調性も非常に豊かだ。

 DVD BitRate Viewer Ver.1.4で観たビットレートは、Disc1が9.22Mbps、Disc2が9.11Mbpsと非常に高く、グラフを見てもわかるように、ほぼ9Mbps付近を推移し、8Mbps以下となることがほとんど無い。暗い日本家屋の電灯下などMPEG圧縮には非常に厳しいシーンが多いが、ノイズを感じることはほとんど無く、広い再現域を持ちながら、鮮烈な解像感が得られている。

Disc 1
DVD Bitrate viewer 1.4でみた平均ビットレート
Disc 2
DVD Bitrate viewer 1.4でみた平均ビットレート

 非常に高画質なディスクだが、気になる点も何点かあった。昭和初期の銀座や上海の全景などCGを多用しているのだが、明らかにCGとわかってしまうシーンが散見されるのだ。CGシーンがやや綺麗過ぎるという印象で、例えば上海の全景をCGで再現しているシーンは、壮観で見ごたえあるが、絵画的というか、他の映像ときっちりマッチしていないような質感の箇所が見受けられた。また、二・二六事件の戦車の隊列の動きなど違和感を抱くシーンが何度かあった。

 音声はドルビーデジタルが448kbps、DTSが768kbps。派手なアクションの少ない映画だが、聞きどころは多く、例えば冒頭のゾルゲの回想シーンでは、戦場の砲撃音と音楽が、うまくミックスされ、独特な高揚感を演出する。また、後方の物体の動きや、飛行機の旋回シーンなどで、やや誇張した感じながら、うまくリアチャンネルを利用しており、5.1chをフルに使おうという意図が非常に強く感じられる音作りとなっている。


■ HD撮影/CG関連の特典が充実

 特典は、本編ディスクに篠田正浩監督と、浜本正機監督補によるオーディオコメンタリを収録。特典ディスクに「わが心のスパイ・ゾルゲ ~妻・岩下志麻が見た監督・篠田正浩」や未公開シーン、「篠田正浩フィルモグラフィ」、「ゾルゲと彼を取り巻く人物たち」と題した出演者インタビュー、HD撮影の解説「HD 1080i/24Pについて」、VFXシーンの解説、ロケ地マップ/撮影風景、製作/完成発表会見など、120分を超える特典映像を収める。

 興味深いのは、HD撮影とVFXの解説。撮影の鈴木達夫氏が、HD撮影を「色の階調が増え、色再現は非常に良くなっている」と評価するほか、篠田監督は、とにかくCGとの親和性を強調し、「昭和八年の数寄屋橋をどうやって撮るかといったら、これ(HD撮影)しかない。1フィートのフィルムも廻していない。“Good-bye, Film. Good day, Digital”という感じ」と語る。また、「新しい浮世絵として、デジタル映像が日本のお家芸にならないといけないと思う。今はSFXが、アクションの補助という役割になっている。でも、現代の浮世絵として、失われた景色、見たい景色は全部CGで作れる。そのために最初からデジタルで撮ったほうがいい」という。

 多用したCGには時折、顕著に合成とわかってしまうシーンもあったが、VFX解説を見ると、CGの使用頻度の高さには驚かされる。ほとんどの屋外シーンでCGを利用しており、「ここもCGか」と初めてわかったシーンが数多くあった。また、10bit非圧縮HDD記録の採用により、合成時の画質劣化を抑制したという。非圧縮デジタルでの収録は日本初という。

 なお、編集に膨大な時間/システムがかかるため、通信放送機構(TAO)の産学協同プロジェクトとしての承認を受け、埼玉県本庄市のTAOの本庄情報通信研究開発支援センターを利用し、編集に当たったという。また、VFXスーパーバイザーの川添和人氏は、最も苦労した点を「色の再現」と語る。当時の資料はほとんどモノクロで、手がかりとなるのは絵葉書ぐらい、その中で色を決めていく作業の困難さを説明している。

 「わが心のスパイ・ゾルゲ ~妻・岩下志麻が見た監督・篠田正浩」は、本作の裏メイキングとも言える内容で、本作への監督の想いが強烈に伝わってくる。オーディオコメンタリは、篠田監督と浜本正機監督補が、撮影時の苦労などを映像にあわせて解説。細かい小道具へのこだわりのほか、CG撮影を利用した冒頭のゾルゲ逮捕シーンなど、個人的にCGとは気づかなかったシーンについてもその撮影テクニックなどが解説されるので非常に面白い。ロケハンの苦労話や、本編のテーマについてもしっかり説明しているので、本編を一度視聴した後に見直すと、新たな発見も多い。


■ 高画質ディスクファンなら初回版を

 本編も特典も充実しているが、6,000円という価格は、やや高めといわざるを得ない。それでも、仮にビットレートを落として本編1枚で3,800円ぐらいで売られるよりは、本編が2枚のディスクに分かれた高ビットレート/高画質で見てこそ、意義がある言えるだろう。それぐらい画質の鮮鋭感のインパクトは大きい。

 昭和初期という時代や、ゾルゲ事件に興味を持っていることは当然として、そうした人以外のAVファンにも訴えるような強烈な説得力のある映像。こうした点に引かれる人であれば、押さえておくことをお勧めしたい。

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□アスミックエースのホームページ
http://www.asmik-ace.co.jp/
□製品情報
http://www.toho-a-park.com/video/new/spysorge/d_index.html

(2003年12月2日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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