■ ソニーは「スゴ録」でシェア争いに食い込めるか? PSXの発売もカウントダウンが始まり、メディアなどに大きく取り上げられてきている。その一方で、SONYのDVDレコーダ浮上の象徴としてリリースされたのが「スゴ録」。テレビCMや電車広告にも力が入り、すでにご存じの方人も多いだろう。 コクーンシリーズとは違ったベタなネーミングでコンシューマーへのアピールを図る「スゴ録」には4モデルある。中でも主力商品となるハイブリッドレコーダは、250GB HDDを搭載した「RDR-HX10」と、160GB搭載の「RDR-HX8」だ。機能的な違いはHDDの容量だけだが、フロントパネルのデザインも若干違っている。こういう部分は他メーカーではデザインを統一してコストダウンを計るものだが、わざわざ別デザインにするあたり、SONYならではのコダワリだろう。 DVDレコーダに関しては周回遅れと言われたSONYだが、今まで製品がなかったわけではない。コクーンシリーズにもDVDを搭載した「NDR-XR1」があったし、DVD単体レコーダの「RDR-GX7」もあった。 今回の「スゴ録」は、型番から邪推するとコクーンのバリエーションではなく、むしろRDR-GX7のHDD搭載モデルと考えていいだろう。SONYのDVDレコーダのホームページでも、いつのまにかGX7が「スゴ録」シリーズにちゃっかり組み込まれている。 さて、今回はその「スゴ録」シリーズ中で最もハイエンドとなる、「RDR-HX10(以下HX10)」をお借りすることができた。この年末商戦、SONYは「スゴ録」でレコーダのシェア争いに食い込むことができるのだろうか。さっそく見てみよう。
■ ボディはガッチリ まずデザイン的な面から。ボディ全体がメタリックなイメージで、印象としてはGX7の路線を継承している。アルミのフロントパネルに暗めのハーフミラーを合わせて、ストレートだが重量感があり、落ち着いたデザインに仕上げている。 フロント左側には電源ボタンのみ、中央部にはDVDドライブがある。対応フォーマットはDVD-R/RWとDVD+RW。DVD+RW対応レコーダは、ヨーロッパではフィリップスやヤマハなどからリリースされているが、国内では今のところSONYだけということになる。
ボタン類は右側に集中しているが、ジョイスティックもあり、本体側でもメニュー操作などかなりのコントロールが可能だ。また本体下部のパネルを開けると、外部入力端子とチャンネル変更、インプットセレクトなどのボタンがある。
背面に回ってみよう。アンテナ入力はアナログ地上波とアナログBS。GR(ゴーストリダクション)は搭載していない。 AV入力は前面と合わせて3系統、出力は2系統の他に、D2端子とコンポーネント出力、デジタル音声出力は光デジタルと同軸を装備する。コストダウンのため端子類を削る傾向のあるレコーダ製品にしては、豊富な方だろう。ただしGX7にあったDV端子はなくなっている。 またネットワーク端子もないことから、コクーンのようにWebと連動したりキーワードが更新されたりといったサービスはないのがわかる。そのあたりが差別化ということだろう。 リモコンは細身で握りやすい。ボタン類もそれに比例して小さいが、配置がわかりやすいため、使いにくくはない。ボタンレイアウトはほとんどGX7のものと同じで、共通の操作感が得られるだろう。
■ やっぱり便利なEPG では実際に使ってみよう。まず番組表だが、G-GUIDE(データはTBS系列で放送しているEPG)を使える。HX10では番組表をチャンネル別やジャンル別にソートして見せてくれるほか、キーワードを自分で登録してそれに該当する番組を自動的に録画してくれる「おまかせ番組表」がある。
「おまかせ番組表」設定は、キーワードの入力のほか、時間帯やジャンルも設定できる。それらの項目に対して、いずれかの項目を含むか、すべての項目を含むかが設定できる。基本的には、G-GUIDEの番組表に含まれる番組情報の語句が検索対象となる。キーワードはうまく設定しないと、1つも引っかからなかったり、たくさん引っかかりすぎたりするので、しばらく使ってコツを覚える必要があるだろう。 惜しいのは、検索条件として「not」が設定できないところだろうか。「グルメ」というキーワードで集めるが、「ドラマは除外」といった設定ができれば、番組をもう少し効率的に絞り込めるのだが。
こうして設定した条件に合う番組は、特に録画を指定しなくても自動的に録画されていく。これが「おまかせ・まる録」機能である。スゴ録がHDD容量が潤沢なのは、この機能を十分に活用するためだ。「おまかせ・まる録」で録画された番組は、HDDの残量が足りなくなると自動的に古いものから消去されていくので、見ないままほっといても困らないようになっている。また設定次第では、番組表を作るだけで自動録画しない、ということもできる。
ただコクーンのように、気に入った番組に対してリアクションすることで次第に賢くなる「マイキャスト」機能は搭載していない。自分に合わせてくれないのは残念ではあるが、コクーンだってそれほど賢くはならないという話もある。 こういったエージェント機能は、米TiVoのサービスを参考に作られているわけだが、番組データまで自社で管理していない現状では、そこまではあってもしょうがないのかなという気もする。そういう意味では嗜好抽出を含む「マイキャスト」がないというのは妥当と言えるかもしれない。 次に録画モードを見てみよう。予約時に画質選択が可能なわけだが、モードプリセットは6段階と、結構細かい。その代わりマニュアルによるビットレート設定機能はない。また最高画質のHQモードは、セットアップでの変更により、HQ+というモードに変更することができる。これはDVDでは規格外となる15Mbpsで録画する、超高画質モードだ。当然このモードはHDDにしか記録できず、DVDにダビングするときは再圧縮することになる。HDD録画したHDDとDVDの録画時間は以下の表を参考にして頂きたい。
画質を語る前に、NR(ノイズリダクション)について述べておく必要があるだろう。HX10では録画時のNRと再生時のNRがある。再生時にはY、C別々にNRがかけられるほか、ブロックノイズを回避するためのBNRもある。さらに輪郭補正もあるなど、補正項目はかなり細かく揃っている。サンプル画像は録画時NRを3に設定したものだが、皆さんがサンプルをダウンロードしてPCなどで再生すると、再生NRなしの状態が確認できるということになる。HX10で再生すると、再生時NRも効くことになるため、筆者の印象と読者のものとは若干違ったものになるだろう。
HX10での再生画質は録画時のNRを3にすると、どうもNRが効き過ぎのせいか、残像感が強い。ブロックノイズはだいぶ押さえられているが、ディテールもかなりのっぺりした感じとなり、全体的にキレの甘い絵になりがちだ。磨りガラスごしに画面を見ているといった感じだろうか。筆者の環境では、NRの設定は1ぐらいがちょうどよかった。 HQ+モードは、従来のDVD規格内にビットレートを収めていたレコーダ群と違って、破格のビットレート15Mbpsを誇る。画質もさぞやと思われるかもしれないが、実際のところ、アナログ放送波程度ではその真価は発揮できないのではないだろうか。だが後述する再エンコードダビング用の素材としては、これだけビットレートがあれば安心材料となるだろう。 筆者の見た感じでは、SPモードまでならほとんどの人は満足できると思われる。だがそれ以下では解像度がガクッと落ちるため、鑑賞するようなコンテンツの録画には向かないだろう。印象として、録画性能はGX7と同等であるように思える。
■ 意外に複雑なダビング機能
次にダビング機能を見てみよう。現在DVDレコーダはマルチドライブを搭載するようになってきた。一般的なマルチドライブで使えるメディアはDVD-R、DVD-RW、DVD-RAMの3種類だが、フォーマットはDVDビデオとDVD-VRの2つである。DVD-RAMがVR専門で、DVD-RWはどっちでも使えるため、使えるメディアが増えてもフォーマットに関しての混乱はあまりないようだ。だが、HX10の場合はDVD+RWを搭載し、さらに+VRが使えるので、3種類のメディアと3種類のフォーマットを使い分ける必要がある。
できることがさほど変わらないのであれば、それほどの混乱はないのだが、HX10の場合はメディアごと微妙に使い勝手が異なる。大きな違いは、編集機能だ。まずHDD内の番組からCMカットなどの編集を行なうときは、A-B間消去になる。だがDVD-RWにDVD-VRフォーマットで録画したときのみ、A-B間消去に加えてプレイリストによる編集ができる。
A-B間消去は実際にオリジナルのMPEG-2ファイルにハサミを入れてしまうので、やり直しが利かない。だが編集したものでも高速ダビングが可能というメリットはある。一方プレイリストでは、オリジナルのファイルをいじらないので、失敗してもやり直しが利く。多くのレコーダでは、全体に渡ってプレイリスト方式を採用しているのだが、HX10の場合は基本をA-B間消去に置いている点が違っている。 しかしなぜDVD-RWでDVD-VRフォーマットにしたときだけしかプレイリストが使えないのか。いや構造的に仕方がないのかもしれないが、DVD-RWだけそんなことができても、あんまりメリットがないと思う。 また音声多重放送がそのままダビングできるのも、DVD-RWにDVD-VRフォーマットで記録するときだけである。それ以外のメディアでは、主音声/副音声いずれかのトラックのみになる。また画質モードでは、DVD+RWのみSLPモードの高速ダビングができない。最低画質の保存をどれぐらい行なうかと言われれば、あまり機会はないかもしれないが、このあたりフォーマットの規格に振り回されている感がある。 以下に、1時間番組を各モードで高速ダビングしたときの速度比を表にしておく。
一方録画モード変換ダビングでは、2パスエンコードで低ビットレートへ変換できる「ダイナミックVBRダビング」機能がユニークだ。これはHQ+やHQモードで録画した番組を、HSP以下のモードに変換するときに使用できる機能だ。2パスエンコードは、普通なら2倍の時間がかかるものだが、HX10では最初にHDDに録画する際に1パス目のデータも一緒に取ってしまう。そしてモード変換ダビングのときに、そのデータをもとに2パス目をエンコードしながら記録するのである。
これはなかなか賢いやり方で、結果的に実時間で2パスができることになる。現実的な速度の2パスエンコードを実現した、最初の例だろう。試しにHQ+を各モードに変換ダビングしてみた。
■ 総論 やはり型番から予想したように、「スゴ録」は機能やメニュー構成など基本的な部分は、GX7がベースになっていると考えて良さそうだ。だが単なる2in1になっておらず、ちゃんと2パスなどのユニークな機能を積んでくるところあたり、さすがSONYといったところだ。残念ながら録画や再生画質で「これは」と思うところは感じられないが、EPGの導入やおまかせ・まる録機能など、ユーザービリティでは最も進化したDVDレコーダだと言えるだろう。 先週のVictorにしてもそうだが、生き馬の目を抜くレコーダ業界では、いかに後発ならではの持ち味を出していくか、というところが難しい。ジャンケンなら後出しの方が有利だが、先行する3社が既にかなりのところまで手を広げてきているので、後を追うメーカーとしては難しい部分に挑戦していかなければならなくなってきている。 SONYのこれからの課題は、自分で手を広げたDVD±R/RWドライブのメリットを、いかに訴求ポイントに持ってこられるかというところだろう。いまのところ各フォーマットの複雑さも手伝って、かえってデメリットになっているようにも思える。 DVD+RWはCPRMに対応していないなど将来に不安を残すが、DVD+VRフォーマット自体はどんどん追記でき、ファイナライズも自動でなおかつDVDビデオと互換ありと、DVDビデオフォーマットとDVD-VRフォーマットのいいとこどりをしているフォーマットだ。さらに別のDVD+RWレコーダや、PCに持ち込んでも再オーサリング可能といった互換まで実現している。例えばこれをDVD-RWでも使えるようにするとかといった大胆な展開も、裏技としてあっても面白いかもしれない。 「レコーダでSONY復活」のお株はどうもPSXに取られそうな気配だが、テレビのタイムシフターとしてレコーダを捕らえている人にとって、「スゴ録」はリーズナブルな選択と言えるだろう。
□ソニーのホームページ (2003年12月10日)
[Reported by 小寺信良]
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