■ 噂のあいつがやってきた!
先週の土曜日に華々しく発売になったわけだが、報道ではどこも「意外に行列ができなかった」といった論調のようだ。だがそもそもビデオレコーダの発売日に行列ができるという事自体異様なわけで、こればかりはレコーダ3強と言われる松下、東芝、パイオニアも成し遂げられなかったのは事実だ。やはりソニーとプレイステーションというブランド力というか、神通力未だ衰えずといったところだろう。 行列はたいしたことなくても、実際には予約やネットで購入という人も相当数に上ると思われる。もっともビデオレコーダがクリスマスプレゼントなんてのはずいぶん豪勢な話なので、実際には自分で使うために買うという、「クリスマスプレゼントフォーミー大作戦」ということだろう。
多くの人が既に購入し、静観を決め込んでいた人も品切れを心配してそわそわしてきたことだろう。そんな年末商戦の核弾頭、PSXとはなにか。じっくり試してみよう。なお、今回は下位モデルのDESR-5000を試用した。
■ 家電的要素を排除したデザイン重視の外観 まずはいつものように外観チェックだ。既に同様のレビューは多く出ており読者諸氏にはいささか食傷気味かもしれないが、一応これをやっとかないと落ち着かないもんで。 まずトータルなイメージは、凹凸の少ないすっきりしたキューブ。前面、天板ともに樹脂製だが、非常に光沢があり、手触りもなめらかな素材を使っている。予備知識のない状態で「ナニに見えるか」と聞かれたら、おそらく「ナニにも見えない」というデザインで、抽象的でありながらも、何かモノリスのような象徴性を感じさせる作りの上手さはさすがだ。
前面もシンプルで、電源ボタン、イジェクトボタン、DVDスロット、QUIT GAMEボタン、HDDとDISCのREC LEDがライン上に並ぶ。DVDレコーダでスロットインにしたのは、おそらくこれが初めてだろう。 ここでちょっとしたウンチクを披露すると、CD-R時代には結構あったスロットインのドライブが今まで記録型DVDで出なかったのは、記録メディアがホコリや汚れに弱いからである。常時隙間が空いた状態のスロットインスタイルでは、メディアの回転によってホコリを吸い込んでしまう可能性がある。またメディアの持ち方も、スロットインになると記録面をベタッと触ってしまう人も出てくる。そんなところから、多くのドライブメーカーが敬遠してきたわけだ。 既にPC Watchには分解記事も出ており、中の構造からは徹底的に防塵対策が施されているのがわかる。ここまでやらないと、記録型DVDスロットインは実現できなかったということである。
上下左右のボタンは通常十字に配置するものだが、そこはユーザービリティよりもデザイン優先で作られている。このあたりも従来の家電部隊が考えるレコーダとは一線を画す判断だろう。さらにその横にはUSB端子とメモリースティックスロットがある。
縦置きできると聞いて連想するのは、正面パネルを前に向けた状態で縦にするという状態だ。しかしPSXではフロントパネルを上にして縦置きする。しかもそのとき正面になるのは天板という設計になっており、天板部にもリモコンの受光部やアクセスランプがある。だがそういう置き方では、なんだか縦置きしたことで余計に場所をとりそうな気配である。
各コネクタの名称は天板の裏側に書いてあるのだが、これがまた混乱しやすい。いや1つしかない端子は間違わないのだが、天板裏の図は実際のコネクタに対して90度の位置に書いてあるわけで、オーディオのINとOUTなどどっちが手前なのか奥なのか、よくわからないのである。実際の配線は、マニュアルを見ながらのほうがいい。 また、すでに多くの人が指摘しているように、アンテナ線のスルー端子がないことにも注意が必要だ。分配器が必要なのは確かに手軽さには欠けるかもしれないが、画質面を考えたら機材をいくつもスルーするよりも、分配器を使った方がメリットがあるという点を指摘しておこう。さらにその分配器だが、1,000円程度のものは信号損失が大きいので、値は張るが損失の少ないものを使うことをお勧めする。いいものは5,000~6,000円はするが、そこだけはケチらないほうがいいだろう。
AV入出力は1系統ずつと、シンプルだ。だが出力の方はコンポジット/S映像とアナログ音声に加え、D2端子と光デジタル音声出力があるので、実際には2系統あることになる。これらを活用すれば、さほど不自由はないだろう。1系統の入力に関しては、例えばCSチューナとBSチューナからも録画したいという人には不便かもしれない。だがそういうAV環境が整っている人が、そもそもレコーダエントリーモデルであるPSXを買うか? ということもあり、実際には問題はないのかもしれない。
一般的なレコーダのリモコンと同様、映像の再生、早送りやチャンネルボタンがあるが、大きく違うのはプレイステーション 2(PS2)などのコントローラと同様○×△□ボタンがあることや、L1~L3、R1~R3ボタンがあることだ。 また中央のジョイスティックは、ちょうどその裏面が指を入れるスペースとしてえぐれており、持ちやすい。PSXはこの周辺にあるボタンで、ほとんどの操作ができる。
■ GUIはどうか
すべての設定や操作は、リモコンの「ホーム」ボタンで起動する。テレビのチャンネルが縦に並び、横に移動するとビデオ、ミュージック、フォト、設定となる。各ジャンルに含まれるコンテンツや項目は縦列に並び、縦横を移動しながら操作するといった感じだ。 表示されるサムネイルなどはさほど大きくないが、いろいろな機能がすっきり配置されており、全体で何ができるのかが理解しやすい。
ではそれぞれ機能を試してみよう。まずは肝心の映像系だが、この価格でチャンネルごとに設定できるGRまで乗っているのは立派。NRも搭載し、設定は「切」も含めると録画で4段階、再生で3段階だ。デフォルトではどちらも「切」になっている。
NRの効きはさほど大きなものではなく、両方を最大にセットしても先週の「スゴ録」よりは効きが浅い。NRの設定は好みの分かれるところだが、MPEGエンコーダ側からすると録画NRはかけておいた方が、効率の良いエンコードができる。 画質モードはHQからSLPまでの6段階。「スゴ録」のようなHQ+モードはないが、ステップとしては十分だろう。既に画質サンプルが上がっているので、そちらも参考にして欲しい。
筆者の印象では、チューナの質も悪くないし、なかなか綺麗な映像が楽しめる。だがどうも3次元Y/C分離が弱いようで、絵柄によっては若干クロスカラーが出ることがある。
続いて録画予約を見てみよう。ご存じのようにEPGを搭載しているため、番組予約は楽だ。おまかせまる録やマイキャストのような自動実行機能がないのは、「スゴ録」や「コクーン」との差別化だろうか。しかしキーワード検索ができるし、ジャンル別表示では、さらにサブジャンルまで選択することができる。これらの機能をうまく使えば、手動ながらもかなり番組情報を絞り込むことは可能だ。
番組予約をすると、DVDダビング時の使用量をパーセントで表示してくれるのは便利だ。これによって画質モードを調整できる。というのも、PSXではDVDに映像をダビングする際に、再エンコードする機能がない。録ったレートのままでしかDVD化できないのである。あくまでも高速ダビングにこだわって、そのへんは割り切ったということだろう。 また手動録画では、○ボタンを2回押す「クイックタイマー」は便利な機能だ。これは今見ている番組を録画するものだが、クイックタイマーではその時点で番組表を参照して、自動的に録画終わりのケツを決めてくれるのである。とりあえず録画しとけば、あとはほっといても勝手に止まるのは便利だ。
■ 優れた編集、一本道なDVD
またこのA-B間指定による編集では、フィルムロール表示が使える。この部分がまさにPS2の描画エンジンの威力を堪能できるところで、実に快適なスクロールだ。初めて表示する部分のサムネイルは徐々にやってくるという感じだが、早送りなどですでに通過した部分ではまさに飛ぶような表示だ。これに並ぶものと言えば、TMPGEnc DVD Autherに実装されている編集機能ぐらいだろう。筆者はこれまで多くのレコーダを見てきたが、編集のやりやすさという点では、PSXが1番だ。
ではそのDVDダビング機能を見てみよう。「ビデオ」モードの録画コンテンツが並んだ一番上に、「ダビング」メニューがある。普通ならこんなはじっこにあると使いづらいところだが、高速な画面スクロールですぐに一番上まで到達できるので、さほど不便はない。
ここから先はウィザード形式になっており、メディアをフォーマットしてから番組を選択、書き込み、ファイナライズと進んでいく。迷う要素は全然なく、一本道である。 ただDVD-RWのVRモードの扱いがちょっと変わっている。VRモードでは、編集した結果が無視されて番組まるごとのダビングになる。また、-VR機能的にはそのまま記録可能な2カ国語放送も、「設定」で決めた音声トラックに絞り込まれてしまう。さらに自動的にファイナライズされて、ファイナライズ解除ができない。つまり一気書きのみで、追記できないのである。もう1つオマケに、DVDメディアからHDDへダビングできない。 せっかくDVD-RWというリライタブルメディアを使っているのに編集や追記、書き戻しができないというのは、単なる「リサイクルメディア」にしかならない。これじゃなんのためにVRモードを搭載しているのかさっぱりわからないし、「ビデオモードと同じことしかできないVRモード」が存在すること自体めっちゃわかりにくい仕様だと思うのだが。
■ そのほかのお楽しみ機能 そのほかの機能もざっと見てみよう。まずCDの音楽取り込み機能だ。記録フォーマットはSONY製品ではお馴染みATRAC3である。せっかくネットワークが付いているのだが、CDDB2といった曲名登録機能はなく、手動でアルバム名から付けていく必要がある。 将来的にこういった機能はオプションで付けられるのだろうか。曲名をいちいち入力するのはキーボードがあったってかったるいのに、それをジョイスティックで入力していくのは非現実的だ。
また音楽取り込みは結構遅い。計ってみたところ、4分の曲を132kbpsで取り込むのに1分10秒かかった。まあざっと4倍弱である。PCでのリッピング速度を考えると、かなり遅く感じる。 さらに現在のところ、取り込んだ音楽はPSXから聞くだけで、そこからどこかに取り出せたりすることはない。現時点ではあんまり使い出のない機能だが、将来的にNet MDなどが繋がったりするようになれば、もっと広がりが出ることだろう。 続いて写真取り込み機能だ。メモリースティックで取り込むぶんには、いずれにしてもSONY製デジカメになるので、互換は問題ない。一方USB接続では、仕様上はSONY製カメラのみ対応となっているが、試しに三洋の「Xacti C1」を繋いでみたところ、あっさり認識された。おそらくストレージクラスに対応しているカメラなら繋がる機種が多いのではないかと推測される。
取り込んだ写真のフォルダを指定して、スライドショーで表示させることができる。ランダムにいくつかのパターンで写真が切り替わるあたりにも、PS2の描画エンジンが生かされているのであろう。
■ 総論 話を聞く限りでは、AV機器としてどうなのーみたいな懸念もあったPSXだが、実際に現物を見て触ってみると、意外と言っては失礼だが結構良くできている。マニア向けの高機能機ではないが、親しみやすく、基本機能はしっかりしているという印象を持った。懸念した画質も良好で、なるほど、これなら「クリスマスプレゼントフォーミー大作戦」もアリだろう。 ただDVD-VRの扱いに関しては、若干の謎が残る。この部分が、HDDレコーダとしては決して出遅れていないが、DVDレコーダとして出遅れたSONYの弱点と言えるのかもしれない。 期待したいのは、ネット越しのアップデートによるメンテナンスや機能拡張で、どこまで成長できるのかだ。こういった方法は、かつて一部のコクーンでも試みられたが、今のところあまり成功しているとは言い難い。だが未来感のあるビジネスモデルだし、ユーザー側でもオプションで成長する機器というのは魅力的だと思うので、これをきっかけにこのような機能が広く認知されて欲しいものだ。 デザイン的な意味でも、ゲーム機と一体化したというコンセプトでも、いままでのビデオレコーダのような所帯臭さがないところがPSXのポイントだ。最初のレコーダがPSXという人は、かなりシアワセだと言えるだろう。
□ソニーのホームページ (2003年12月15日)
[Reported by 小寺信良]
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