■ 海賊ブームの波に乗れ
私は「海賊モノ」と言われると、アニメ「小さなバイキング ビッケ」が頭に浮かぶが、現在の海賊人気を支えているのは、集英社・週刊少年ジャンプで連載中の漫画「ONE PIECE」(ワンピース)だろう。 1~30巻までの累計発行部数が日本だけで8,500万部を超え、初版発行部数252万部という出版記録を残すほどの人気作品。当然アニメ化、ゲーム化、映画化され、いずれも大ヒット。将来の夢を聞かれて「海賊!!」と答える子供もいるとかいないとか。 そんな海賊ブームの最中、今年の8月に公開されたのが「パイレーツ・オブ・カリビアン」だ。その名の通り、ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」を題材にしたアクション映画で、米国での興行収入は2億8,000万ドル、日本でも公開2日で40万人を動員した。 前述の背景を踏まえ、日本でこの作品が紹介される時はONE PIECEの人気も引き合いに出されることが多かった。だが、それゆえ公開当時から気にかかることが1つある。それは、「海賊をどんな風に描いているか?」ということだ。 ONE PIECEでは、海賊は単なる悪人ではなく、自由・夢・仲間などに命を掛ける若者達として清々しく描かれている。だが、実際の海賊は残虐非道な荒くれ者だ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」が、海賊をリアルに描いた映画ならば、「海賊の映画だ!!」と喜んで劇場に向かった子供達は、スクリーンで民衆を虐殺する無法者の群れを見てゲンナリするかもしれない。
■ くねくねジャック船長 物語の舞台は、カリブ海に浮かぶ英国植民地の港町・ポートロイヤル。総督の娘エリザベス(キーラ・ナイトレイ)は、上流階級の暮らしに息が詰まりそうな日々を送っていた。そんな彼女は、子供の頃に海で助けたウィルという少年から手に入れた黄金のメダルを宝物として身に付けている。 一方、精悍な若者に成長したウィル(オーランド・ブルーム)は、密かにエリザベスに想いを寄せている。しかし、鍛冶屋で働く彼と総督の娘では身分が違い過ぎた。そんなある日、バルボッサ船長率いる呪われた海賊「ブラックパール号」がポートロイヤルを襲撃する。ウィルは、剣を手に勇敢に立ち向かうが、エリザベスをさらわれてしまう。 彼女を救うため、ウィルは、ブラックパール号の行方を知るという一匹狼の海賊ジャック・スパロウの脱獄に協力。彼と手を組み、大海原へと旅立った。 ストーリーは良い意味で単純だ。海賊にさらわれたお姫様を勇敢な青年が助ける図式、つまり「海賊は悪」だ。しかし、ジャック・スパロウという男がこの単純な構図を打ち砕く。船も持っていないのに、自らを船長と名乗る彼の存在が、この映画の肝であると言っても過言ではない。 ジョニー・デップ演じるジャック船長は、敵なのか味方なのか、強いのか弱いのかよくわからないキャラクターだ。何も考えていないようで、深い考えがあるようにも見える。酔っ払ったタコのような芯の無い動きと、飄々としたその態度からは、船長の風格は微塵も感じられない。だが、それゆえ底が見えず、ついつい彼の言動を追ってしまう。実に不思議な男だ。 彼が物語を引っ掻き回してくれるおかげで、単純なストーリーが魅力溢れるものに変貌する。何よりも自由を愛し、仲間を裏切らず、海賊の掟を重んじる。彼の正体が明らかになるにつれ、当たり前だった「海賊は悪」という図式が気持ちよく崩れていく。このあたりのストーリー展開は見事だ。 物語が終盤にさしかかると、もはや勇者ウィル君と、ジャック船長、どちらが主人公かわからなくなってくる。私はてっきりウィル青年が主人公だと思っていたが、ジャケットをあらためて見てみると、真ん中に陣取っているのはジャック船長。出演者の名前も、ジョニー・デップが一番上。なんだ船長、やっぱりあんたが主人公だったのか。 娯楽色の強い作品だが、描写そのものはリアル。ボロ雑巾のような海賊達は、いかにも不潔で匂いが漂ってきそうだし、街を襲う場面では民衆も犠牲になっていく。だが、残酷なシーンが続くと息抜きでコミカルなシーンが必ず挿入されるなど、細かい工夫が随所に見受けられる。リアルさを残しながら、嫌悪感を残さない。このあたりの微妙なバランスはディズニー映画ならではの見事なものだ。 ストーリーのテンポも良く、まるでアトラクションの「カリブの海賊」に乗っているような気分で鑑賞できる。映画製作にあたって、実際に3隻の船が建造されたそうだが、メイキングに出て来るスタッフは「毎日ディズニーランドにいる気分で撮影した」とコメントしている。 素晴らしいクオリティの作品だが、唯一不満点を挙げるとするなら配役だ。ジョニー・デップの演技は素晴らしいし、ロード・オブ・ザ・リングで大ブレイクしたオーランド・ブルームもウィルのイメージにピッタリ。だが、ヒロイン役のキーラ・ナイトレイだけが頂けない。彼女は総督の娘でありながら自由な海賊にあこがれるおてんばな少女という位置付けなのだが、いかんせん外見的年齢が高すぎる。「大人の女性」ではなく、もっとチャーミングな女性が演じていたらなぁ……などと思ってしまった。
■ 画質音質に問題なし、特典はもう一声欲しい DVD BitRate Viewer 1.4で見た本編ディスクの平均ビットレートは6.49Mbps。最近では標準的な数値と言えるだろう。グラフを見ると振り幅が大きく、人物のアップや昼間のシーンに多く容量を割り当てていることがわかる。そのためか、ブロックノイズや輪郭の不自然な点も無く、安心して視聴できた。 物語の展開上暗闇のシーンも多いが、暗部の階調性もある程度確保されている。発色は可も無く不可も無くというレベルだが、どちらかと言うとフィルムライクで、しっとりとした質感の仕上がりだ。 音声は、英語がドルビーデジタルEXとDTS-ES、日本語がドルビーデジタルEXという豪華な仕様。ビットレートは、英語のドルビーデジタルEXが448kbps、DTS-ESが768kbps、日本語のドルビーデジタルEXは384kbps。 視聴は基本的にDTS-ESで行なったが、サブウーファを揺らす低音が凄まじい。全域に渡って音に厚みがあり、海賊船が放つ大砲や、嵐の海の風音も迫力満点だ。また、轟音の中でも剣と剣がぶつかり合う金属音は、埋もれずに生々しく収録されている。残念ながら我が家には6.1chの視聴環境がないため、EXやESの真の実力は体験できなかったが、5.1ch環境でも包囲感は十分に得られた。
特典ディスクのメインは約38分のメイキング。作品を企画した動機から、キャスティングにまつわるエピソード、CG技術の解説など、見ごたえのある内容だ。メイキングを通して感じられるのは、昔ハリウッドで人気を博した「海賊映画」を復活させたいというスタッフの意気込みだ。 綿密な時代考察を基に再現されたセットや衣装、小物などの解説を聞いていると、あまりの細かさに驚いてしまう。例えば、劇中に登場する銃器はいずれも美術スタッフが作った偽物だが、ジャック船長が持っている銃だけは本物で、1760年にロンドンで作られた銃を購入したという。歴史的価値も加味されるので、価格がいくらかなのか見当もつかないが、スタッフのこだわりを感じさせるエピソードの1つだ。 なお、海賊映画が廃れてしまった原因は「費用がかかりすぎるため」だという。確かに、撮影に使う船の建造費は莫大だろうし、海上で撮影するスタッフに食事を届けるだけでも一苦労だ。そして、そんな困難な作品が再び製作された一番の理由は「CG技術の進歩」。「海賊映画はあまりヒットしない」というジンクスがあるそうだが、新しい技術を駆使して、今までの海賊映画の枠から脱却したいという熱意が伝わるメイキングだった。 特典映像はほかにも、「撮影の舞台裏」や「撮影ダイアリー」、「NGシーン集」、「未公開シーン」、「絵コンテから完成までのプロセス」などを収録する。だが、どれもメイキングと良く似た内容なのが残念だった。個人的には、実際の海賊達の歴史や、彼らの生活を紹介するコンテンツなども見たかった。
■ 年末年始に活躍する1枚 子供向けの単純な勧善懲悪作品だろうと思って観ていると、良い意味で裏切られる映画だ。海賊という悪役を喜怒哀楽のあるキャラクターとして描き、登場人物がそれぞれの思惑に乗っ取って行動した結果として、深みのある物語が作り上げられている。 何度も繰り返し観るという作品ではないかもしれないが、ディズニーランドのアトラクションのように、観終わった後の満足度はかなり高い。2枚組みで3,800円という価格は標準的だが、それに見合う価値はあるだろう。 また、前述した通り、子供に見せたくないシーンも無いので、家族での鑑賞にも適した作品と言える。クリスマスや年末年始など、家族で過ごすことが多くなるこの時期。1枚用意しておけば、子供から大人まで楽しい時間を過ごせることだろう。
□ブエナ・ビスタのホームページ (2003年12月16日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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