~ 「KORG Legacy Collection」の魅力とは? ~ |
MS-20 | WAVESTATION |
ご存知ない方に簡単に紹介しておくと、MS-20は'78年に発売されたモノフォニックのアナログシンセ。2VCO/2VCF/1VCA/2EGという構成で、パッチを使って接続を行ない、さまざまな構成を作り出すことができるというのが大きな特徴だった。シンプルながらも図太い音がでるこのMS-20は今でもレトロシンセとして人気が高い。
またPolysixは'81年に発売されたプログラマブルな6ボイス・ポリフォニック・アナログシンセサイザー。1VCO/1VCF/1VCA/1EG構成で、まだポリフォニックが珍しい時代に登場した名機である。
そこか時代が経て、PCM音源が主流となってきた中、登場したのがWAVESTATIONだった。これは、複数波形の合成/連結により新しいサウンドが創造できるというアドバンスト・ベクター・シンセシス・システムを搭載したもの。膨大な搭載波形から選んだ4つのオシレータをジョイスティックによるミックス/モーフィング機能でコントロールする。
これら3つのレトロシンセに加え、MS-20とPolysixを組み合わせて新音源へと仕立て直した「Legacy Cell」も加わる。
付属のUSBフィジカルコントローラ「MS-20 Controller」 | ミニプラグながら、本物さながらにパッチの接続も可能 |
しかし目玉となるのは、バンドルされる「MS-20 Controller」というUSB接続のコントローラだろう。実機の体積84%とのことだが、それ以外の見た目の違いは、本物が37キーのフル鍵盤だったのに対して、37キーのベロシティー・センス付きのミニ鍵盤になっていることと、パッチのジャックが標準プラグだったのに対してミニプラグになっていること。あとは、各パラメータのボリュームやロータリースイッチLEDとなっており、その配置などは、本物を思わせるもの。
ソフトシンセの復刻版の場合、「よく似ている」というものは多いが、まったく同じにしているというのは結構少ない。しかも、それを画面だけでなく、ハードウェアで本物さながらにコントロールできるというのは、これが初だろう。
それにしても、驚くのがパッチも本物同様に用意されていて、実際にパッチ接続ができるということ。ReasonやMoog Modular Vなどパッチ接続を可能にしたソフトシンセはあったが、物理的に接続するというのは画期的だ。もちろん、このパッチ接続は単に接続されたことをコンピュータ側にコントロール情報として知らせているだけで、この中に信号が流れるわけではない。したがって、これをオーディオ機器へ接続したりすると壊れる可能性があるので、やってはいけない。が、試しにヘッドフォンを接続してみたら、プチプチした信号音が聞こえた……。どうやら、すべてのパッチ部にパルス信号を流して、どのような接続になっているかを検知させているようだ。
■ VSTやAudio Unitsにも対応。夢のポリフォニック化も
とにかく、セッティングさえ終えてしまえば、MS-20の新品を使っている感覚で触ったり、演奏することができる。スタンドアロンで起動させると、MS-20の画面が表示され、LEDの表示、点滅などは画面もMS-20 Controller側もまったく同じになっている。
ソフトシンセ側のMS-20 | ローパスフィルターとハイパスフィルターを装備 |
MS-20はアナログのレトロシンセとしては珍しく、ローパスフィルターとハイパスフィルターの両方を備えているが、MS-20 Controllerを利用すれば、ローパス、ハイパスの両方を同時に動かすことができ、かなり独特なサウンドを作り出すことが可能。先日、MS-20を駆使していた某ミュージシャンと話をしたのだが、彼によると、片手で複数の指を使ってこれらのパラメータを同時にコントロールしていたのだとか……。実際試してみたが、本当に違和感なく操作ができた。
また、パッチの接続も面白い。筆者自身は、MS-20は昔々に横浜の某楽器屋の店頭でときどき触らせてもらっていた程度で、本格的に使い込んだという経験はないのだが、改めて使ってみてもかなり楽しい。どこをどう接続すればいいのかなど、真剣に考えながら丸一日遊び続けてしまったほどだ。パッチ用のケーブルが10本付属しているので、これらを使ってパッチを組んでいく。たとえば、ベンダーの信号出力をVCOに突っ込んでピッチを変化させたり、LFOの出力をローパスフィルターに入れてモジュレーション効果を出すなど、さまざまな使い方が考えられる。
このように各パラメータ変更したり、パッチを操作するとリアルタイムに画面にも反映されるようになっているのも興味深いところ。もちろん、コントローラを使わなくても、ソフトの画面上でパッチを含めたすべての設定は可能なのだが、画面だけで行なうのとハードウェアで実際に触って行なうのだと、その操作性、理解度などは断然ハードウェアを用いたほうが高い。レトロシンセを楽しみたいユーザーにはもちろんだが、アナログシンセを勉強してみたいというユーザーにとって意義あるハードウェアといえるだろう。
なお、パッチのパネルの一番下の列にはEXTERNAL SIGNAL PROCESSORという外部信号を元にフィルターをかけたり、その結果を電圧信号に変換させる機能がある。もともと、MS-20では、ここにはマイクで拾った音やギターの音などを入れて、ボコーダーやギターシンセ的な使い方を可能にする拡張機能だったのだが、前述したとおり、MS-20 Controllerには直接外部のオーディオ信号を入力することはできない。MS-20のLFOやエンベロープジェネレータなどの出力であれば問題ないが、本当に外部のオーディオ信号を入れたい場合は、どうするのだろうか。
EXTERNAL SIGNAL PROCESSORも再現。入力端子はオーディオインターフェイスのものを使う。ASIOドライバなどを設定できる | 左端の「VOICES」を調整すればポリフォニックにもなる |
実はオーディオインターフェイスに入力すればいい。オーディオインターフェイスとしてはWindowsの場合、ASIO、MME、DirectSoundのいずれから選択できるが、通常はASIOを選んでおくのがレイテンシーの低減の観点からも無難だろう。実際、マイクの音を入れて、その増幅結果をパッチでフィルターやVCAへ接続してみたところ、モガモガというボコーダー風なサウンドにすることができた。
本物のMS-20になかった機能もある。その1つがポリフォニックへの対応。Editという画面モードに切り替えると、パラメータ表示画面が拡大されるとともに、左側にパラメータが登場する。ここでPolyモードを選択し、最大32音までの範囲で、何音ポリにするかの設定をするとポリフォニックシンセに変身する。またユニゾンの設定をすると、同時にもう1つ同じ音を出すことができ、そのデチューンやスプレッドを設定することで、より広がりのあるサウンドを作り出すことも可能だ。
そして何といっても大きい違いは、すべてが安定しているということ。昔のアナログシンセは温度や湿度によって音が変化してしまうことがあったが、当然そうしたことはない。
また、実機ではすべての目盛りをメモして毎回音色を再現していたのに対し、ソフトウェアでは当然、パソコンに記憶させることができる。それに伴い、デフォルトでさまざまな音色が用意されている。まずはこれを使ってMS-20の出音を確かめてみるといいだろう。
プリセットトーンも用意している | EXTERNAL SIGNAL PROCESSORを使えば、VSTプラグインのエフェクトとしても利用可能 |
本物にはないもう1つの機能が、WindowsならばVSTインストゥルメントおよびVSTプラグインのエフェクト、Mac OS XならばVSTに加え、Audio Unitsとしても使えること。プラグインのソフトシンセとして使う場合については、単純にCubaseSXやLogicなどのDAWソフトで利用できるということを意味する。
ではエフェクトとして使うというのはどういうことかというと、先ほどのEXTERNAL SIGNAL PROCESSORを利用するということに通じる。つまり、MS-20をエフェクトとして使った場合、オーディオの出力がEXTERNAL SIGNAL PROCESSORの入力に入り、最終的なMS-20の出力結果が戻ってくる。これをうまく利用することで、先ほどのボコーダー的な使い方などが可能になるわけだ。
■ レトロシンセを合体させた「Legacy Cell」
さて、ここまではMS-20とMS-20 Controllerの組み合わせを見てきたが、ほかにも3種類のソフトシンセが入っている。
Polysix |
まずPolysixは、見た目もそのままのデザインで、まさに「あの音」が再現されている。本来6音ポリの音源なのだが、最大32音ポリとして利用できる。
またMS-20もこのPolysixも、KORGが新開発した電子回路モデリング・テクノロジー「CMT(Component Modeling Technology)」という技術が採用されているという。これまでの出音をシミュレーションする手法ではなく、オリジナルモデルで使用していたトランジスター、コンデンサー、抵抗といった部品をデジタル化し、それらを使ってオリジナルと同じ回路を再構築するというもの。回路そのものを設計したKORGであるからこそ、再現できるというものだ。
ちなみに、こうなってくると、オリジナルのシンセのマニュアルが欲しくなってくるが、当然それらについても用意されている。こちらは本物のマニュアルをスキャンしてPDF化したものがCD-ROMに収録。真剣に音作りをする際には、これを活用できる。
PolysixでのCMTの設定 | オリジナルのマニュアルをスキャンしたPDFが付属 |
WAVESTATION |
もう一方のWAVESTATIONは、初期のデジタル音源だけに、全体を理解するのはかなり複雑で難しい。
WAVESTATIONシリーズに搭載していた484種類のすべての波形と55種類のすべてのエフェクトをはじめ、32基のデジタル・オシレータ、32基のデジタル・フィルター、64基のエンベロープ・ジェネレータ、64基のLFOを搭載し、WAVESTATIONサウンドをパーフェクトに再現したもの。WAVESTATIONシリーズの全ファクトリー・プリセット・プログラム(550パフォーマンス、385パッチ)を搭載しているので、基本的にはこれら数多くのプリセット音色を選択するだけで存分に楽しめるようになっている。
なお、このソフトウェア化にあたっては、従来のエディット構造を踏襲しつつ、グラフィカル・ユーザー・インターフェイスを再デザインしているため、本物よりも音作りやエディットはしやすくなっている。またWAVESTATIONシリーズのデータをsyxファイルでインポートすることも可能だから、既存のライブラリを有効活用することもできそうだ。Legacy Cell |
そしてLegacy Cellは、MS-20とPolysixを組み合わせた新音源。具体的には、「MS-20+Polysix」、「MS-20×2」、「Polysix×2」、「MS-20×1」、「Polysix×1」の5通りのコンビネーションに、それぞれ2台のインサート・エフェクトと2台のマスター・エフェクトを加え、1台のソフトシンセとして作り上げた新しいモデル。
キーとベロシティによるレイヤー/スプリットやベロシティ・カーブが自由に設定でき、インサート/マスター・エフェクトには19種類のエフェクトが搭載されている。シンセやエフェクトの任意のパラメータを設定することができるコントローラ・セクションも装備されている。また、このLegacy Cellに搭載されている19種類のエフェクトは、VSTおよびAudioUnitsのエフェクトとしても利用可能となっている。実際、DAW側から使ってみたが、ディレイ、リバーブ、コーラス、EQ、コンプ……と各パリエーションを含めて19種類があり、計128種類ものプリセットも用意されていた。どれも使えるエフェクトであり、これだけ見ても手に入れる価値ありだ。
エフェクトはVSTやAudioUnitsで使用可能 | 計126種類のプリセットも用意 |
今回は、KORG Legacy Collectionについて紹介したが、個人的にも買ってしまいたい魅力的な製品だった。問題は、ただでさえ狭いこの部屋にソフトシンセでありながら、それなりに大きなスペースをとるMS-20 Controllerを置けるのか、ということ。ACアダプタが不要で、USBから電源供給できるというのは大きなポイントではあるが、さてどこに置けばいいだろうか……。
□コルグのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□製品情報
http://www.korg.co.jp/Product/Synthesizer/LegacyCollection/
(2004年3月8日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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