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第137回:マルチチャンネルAC3作成に対応した
~ デジオン「DigiOnSound4 Professional」を試す ~


 国内では数少ないオーディオ/サウンド関連ソフトウェアメーカーとして着実に力をつけてきているデジオン。そのデジオンから、ドルビーデジタル(AC3)のエンコードエンジンを搭載した5.1ch対応のマルチトラックサウンド編集ソフト「DigiOnSound4 Professional」が発売される。従来同様のMTRソフトとしての機能を備えつつ、サラウンド編集を可能としたこのソフト、その操作性や実力について検証した。


■ DigiOnSound4の最上位版はサラウンド対応

DigiOnSound4 Professional

 DAWソフトや波形編集ソフトなど、オーディオ/サウンド関連のソフトは圧倒的に海外ソフトが大きなシェアを握っている。しかし、そうした中で、頭角をあらわしてきているのが、福岡に本社を持つデジオンだ。同社ではDVDオーサリングソフトの「DigiOnAuthor」、サウンド編集ソフトの「DigiOnSound」、音楽DVD作成ソフトの「DigiOnAudio」などのシリーズを開発する一方、オンキヨーと統合型オーディオソフトの「CarryOn Music」を共同開発したり、イージーシステムズジャパンと共同開発でCDライティングソフトの「Drag'n Drop CD」をリリースするなど精力的に活動しているソフトメーカーだ。

 前バージョンであるDigiOnSound2、DigiOnSound3については、本コラムでも紹介したことがあったが、昨年9月にDigiOnSound4(45,000円)および、DigiOnSound4 Express(9,800円)という製品がリリースされ、さらに各種ハードウェアなどにバンドルされるDigiOnSound4 L.E.というバージョンも登場している。

 今回取り上げる、DigiOnSound4 Professionalは、Professionalという名称からも想像できるとおり、DigiOnSound4シリーズの最上位に位置するもので、エントリーユーザー向けのソフトではない。価格も98,000円とかなり高価であるが、ある層のユーザーにはかなり魅力的な価格の製品である。そのある層というのは、サラウンドサウンドを編集したい人で、かつドルビーデジタル(AC3)へのエンコードをしたいという人だ。

 以前、この連載でVegas+DVDを紹介した。これもAC3エンコード機能を搭載し、価格は同じ98,000円。現在では、Vegas+DVDはなくなり、製品構成が変わったVegas4.0+DVD ACID BUNDLEが4月から128,000円で発売されるが、一般に販売されているものは数少ない。もちろん、国産ソフトでこうした市販のパッケージソフトとして販売されるものとしては初だ。


■ DigiOnSound Professionalの概要

 サラウンド編集やAC3エンコードの話の前に、ソフト全体像について簡単に紹介しておこう。DigiOnSoundシリーズは従来からマルチトラック対応の編集ソフトとして存在していたが、CubaseやSONAR、LogicなどのいわゆるDAWソフトや、SoundForge、WaveLabsなどの波形編集ソフトともちょっと違う位置付けのソフトであった。

 というのも、DAWソフトの多くがMIDIシーケンスソフトから進化してきたものであるのに対し、DigiOnSoundは現状においてもMIDIをサポートしていない。そのこともあって、音楽制作用としての機能はあまりない。また、一般の波形編集はシングルトラックであるのに対して、マルチトラックとなっている。そのため、ミキサー機能を装備したり、トラック間でのクロスフェード機能を備えるなど、その点では、DAW的な要素を数多く搭載している。もちろん、シングルトラックでの利用も可能だから、波形編集ソフトと同等に使うことも可能だ。

最初にステレオ/マルチチャンネルを選択する

 波形編集ソフトを使ったことのある人なら、起動すればすぐに使い方は理解できるはずだ。新規で作成すると、ステレオにするかマルチチャンネルにするかの選択が出てくるが、一般的な使い方ならステレオを選ぶ。

 その上で、レコーディングしたり、ファイルを読み込んで編集を行なっていくわけだ。この際、普通の波形編集ソフトと違うのは、3ch以上のトラックを扱えるということ。複数トラックあれば、ミキサー上にそのトラック数だけのフェーダーが表れて、ここでミキシングしていく形になるわけだ。


3ch以上のトラックを扱える フェーダーでミキシング

プロセッシング/エフェクト関連機能

 波形編集については、一般のソフトと基本的には同様。つまり、編集したい部分を選んだ上で、カットしたりコピーしたり、またエフェクト処理などを行なっていく。プロセッシング/エフェクト関連の機能としては、レベル調整、ノーマライズ、リバース、EQ、コンプ、ディレイ、リバーブ、ピッチシフト、タイムストレッチ……と、一通りの機能が備わっている。

 また、この中のノイズリダクションには4つのメニューが存在し、ノイズゲート、ヒスノイズ、ハムノイズ、クラックルノイズなどが用意されている。このうち、ヒスノイズやハムノイズについては、以前のバージョンで実験をしたことがあるし、基本的に変わっていないとのことだが、クラックルノイズはDigiOnSound4シリーズで初めて搭載された。

 このクラックルノイズに関しては特許申請中とのことで、ちょっと興味を引くものだ。せっかくなので、以前このコーナーで実験した素材を用いて、どの程度クラックルノイズの除去ができるのかを試してみた。


適用レベルをフェーダで指定

 設定画面はいたってシンプルで、効果の量をフェーダで調整するのみ。試しにプレビューで聴いてみたところ、これまでのクラックルノイズ対応のノイズリダクションでは最高といっていいレベル。デフォルトでは中央レベルに設定されているが、ここで聴く限り音質劣化というものはほとんど感じられない。これまで見てきたものの多くは、ノイズリダクションレベルを強くすればするほど、明らかな音質劣化がみられたが、それがない。

 この実験素材の場合、かなりキツイノイズでクラックルというよりもクリップノイズといった感じのものまで入っているため、デフォルト設定では完全には取りきれなかったので、最高値に設定してみた。こうすると、クリップ部分はある程度残ったものの、ほとんどのノイズが消えた。しかし、それでも音質は劣化を感じさせないのはなかなか優秀。試した結果をMP3にしたので、ぜひ聴いてみてほしい。


適用結果
オリジナル original.mp3(469KB)
オリジナル+クラックルノイズ cracle.mp3(472KB)
クラックルNR d4cracle.mp3(472KB)

 サンプル曲【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ
http://www.arearea.net/

 話を編集機能に戻すと、ノイズリダクションを含めさまざまなエフェクトなどが搭載されているが、それ以外にもDirectXプラグイン、DMOプラグイン、そしてVSTプラグインもそれぞれ利用できるので、ここにおいても問題はない。なかなか使えるソフトに仕上がっている。ただ、SoundForgeなどと比較すると、処理時間がやや長いという印象はあった。かかるといっても数秒から数十秒といった程度ではあるが。

 そのほか、サウンドデバイスとしてはMMEドライバ、DirectSoundドライバが利用できるのはもちろん、ASIOドライバにも対応している。また、スペック的には最高で32bit/192kHzまでサポートされているので、どんなデバイスでも利用できるようになっている。

 テンポといった考え方もないので、音楽制作用としては向かないが、一般のレコーディング用として考えれば、あらゆる機能が備わっているといってもいいだろう。ただ、使っていて気になるのは、エフェクト部分やミキサー部など細部のデザイン。機能的にはしっかりしているのに、あまりにも素っ気無いため、見劣りしてしまうのが残念なところ。ここまでよく仕上がってきたのだから、ぜひ次はデザイン面にも気を使ってもらいたい。

VSTプラグインに対応 ASIOドライバもサポート


■ サラウンド編集機能は秀逸

 さて、DigiOnSound4 Professionalのサラウンド機能とは、どんなものなのだろうか。

 サラウンドの編集機能を搭載したソフトとしてはSteinbergのNuendoやCubase SX、MAGIXのSamplitudeほか、さまざまなソフトが登場しているが、ソフトによって、その編集機能や操作性などはかなり異なるのが現状だ。そんな中、今回DigiOnSound4 Professionalを使ってみて、かなり使えるソフトという印象を受けた。

素材をトラックとして並べる

 そもそも、サラウンドの編集をどう行なうのかという方法論もしっかり確立されていないように思うが、このソフトでは、その編集方法・考え方についても一石を投じるソフトとなっている。

 考え方は簡単。モノラルやステレオの素材を組み合わせてサラウンド・サウンドを構築するというものだ。流れに沿ってその手順を簡単に紹介しよう。まずは、マルチチャンネルのモードにしたうえで、素材とすべきモノラルやステレオのサウンドをトラックとして並べる。

 次にミキサーのサラウンドパンを用いて、出力するチャンネルを決めていく。この設定はミキサー上で行なうことができるほか、サラウンドパンナーという画面を利用することで、より使いやすく操作できる。またここで、LFEにチェックを入れることで、そのチャンネルをサブウーファに出力可能になるほか、そこへのカットオフ周波数やレベルも調整できるようになっている。そして、このサラウンドパンの動きは、オートメーション機能によって保存できるようになっているので、各トラックごとに動かしては記録させていくことができるわけだ。

 こうしたオートメーションの動きは、トラック上でグラフィカルに確認することができるのはもちろん、直接トラック上に直線や曲線を描いてパンの動きを書き込むことも可能。

ミキサーのサラウンドパンを用いて、出力するチャンネルを決定 サラウンドパンナー トラック上でパンの動きなどを確認できる

 実際、このサラウンドパンナーを触ってみると、かなり使いやすく設計されている。というのも自由に動かせるだけでなく、特定のスピーカーをミュートさせることで、パンの動きを固定化させたり、X軸のみの動き、45度固定の動きにさせるなどができるようになっている。ただ、できればマウスで動かすだけでなく、ジョイスティックをサポートしてくれると、より面白い使い方ができたように思う。

フィジカルコントローラをサポートするが、TascamのUSシリーズ意外は基本機能のみ対応

 ちなみに、フィジカルコントローラをサポートしたというのもDigiOnSound4 Professionalの特徴の1つ。これによって、各フェーダーやRecord、Play、Stopなどのボタン、データタイアルやSelectボタン、Muteボタンなどのコントロールが可能になる。

 ただ、いまひとつ分からなかったのは、どのフィジカルコントローラに対応しているのか、ということ。デジオンの説明によれば、TascamのUSシリーズは確認済みとのことで、そのほかも標準的なモードには対応しているとのことだった。しかし、手元にあったEDIROLのPCR-30を使い、GM2モードやGSモード、XGモード、MCR-8モードなどに切り替えて試してみたが、うまくいかなかった。また、DigiOnSound4 Professional上にも、この設定画面以外に設定する項目が見つからなかったので、現状ではやはりUSシリーズ対応と理解すればいいということなのだろうか……。


 以上のようにして、パンの設定が終わったところで、トラック内ミキシングというボタンを押す。すると、トラック1に5.1ch分の表示がされた画面が現れ、5.1chへのミックスダウンされる。

 以上で、サラウンド編集が終わり、あとは保存。ファイルメニューから書き出しを選択すると、ここにはいくつかのファイルフォーマットがあることがわかる。WAV、AIFF、WMA、RAW、OggVorbis、そしてAC3の6つ。AC3は当然として、WMAでマルチチャンネルがあることは知っていたが、WAVやAIFFにもそうした設定があることは初めて知った。デジオンによれば、'99年にMicrosoftがWAVファイルを拡張した拡張WAVというフォーマットを定義し、この中にサラウンドに関する定義もされていたとのことで、DigiOnSound4 Professionalではそれをサポートしたとのことだ。

5.1chのミックスダウン画面 出力フォーマットはAC3などが選択できる

AC3関連のパラーメータ調整が可能

 今回は、最も気になるAC3を選択し、詳細情報ボタンを押すと、AC3に関するさまざまなパラメータが登場する。この中身自体は、以前、Vegas+DVDで見たものとほとんど同じようだが、Dolbyからライセンスを受けるためには、その適合テストにパスしなくてはならず、パスするということはすなわち同じパラメータになるということのようだ。

 ここでは、その詳細については触れないが、スピーカーの設定やビットレートの設定など、さまざまなパラメータが用意されている。ビットレートによって、音質がどのように違うのかなど、今度ぜひ一度試してみたいと思っている。ともかく、これをデフォルトの設定のまま保存しても問題はないし、エンコード速度は結構高速で、できあがったデータはDVDを焼く際などにも利用できるので、その価値は大きい。

 以上、DigiOnSound4 Professionalについて、今回はその機能の概要を紹介した。今後、AC3部分の音質や拡張WAVのフォーマットなど、より突っ込んだテストをしてみたい項目も多々ある。また機会を見つけて、これらの機能や性能について検証したい。


□デジオンのホームページ
http://www.digion.co.jp/
□製品情報
http://www.digion.co.jp/pro/ds4pro_main.htm
□関連記事
【2月12日】デジオン、5.1ch対応マルチトラックサウンド編集ソフト
-ドルビーデジタル5.1chの読込みも可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040212/digion.htm

(2004年3月15日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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