■ 西洋ヒーロー版「魔界転生」?
大衆文学のヒーローが集まり、特殊能力を活かして悪を倒す。登場するのは19世紀文学の有名な主人公たちで、子供のころ、翻訳ものを図書館で読みふけった方も多いのではないだろうか。 出演するのは、「ソロモン王の洞窟」のアラン・クォーターメイン、「海底二万里」のネモ船長、「吸血鬼ドラキュラ」のミナ・ハーカー(主人公ジョサン・ハーカーの婚約者)。さらに、H.G.ウェルズの「透明人間」、ロバート・ルイス・スティーブンソンの「ジキル博士とハイド氏」、マーク・トゥエインの「トム・ソーヤーの冒険」、オスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」からもそれぞれ主役が登場。西欧人にとってはたまらないだろう。 原作はアラン・ムーアの同名コミック。日本語版は未出版なので、かなりマイナーかもしれない。もちろん私もDVDを買うまで知らなかった。 DVDは「通常版」と「アルティメット・エディション」の2種類を入手できる。通常版は本編ディスクのみで、価格は3,300円(4月5日出荷分まで)。アルティメットエディションは本編ディスクと特典ディスクの2枚組みに加え、80ページオールカラーの小冊子「アルティメット・ガイド」が付属。価格は4,700円となっている。小冊子は新潮社「アメコミ新潮」による特別編集だ。 アルティメット・エディションといえば、初期の「ダイ・ハード」や「プレデター」などの場合、質の高い特典ディスクに加え、通常版には無かったDTS音声の追加が大きな特徴だった。しかし、最近では通常版にもDTS音声が含まれているため、アルティメット版のうまみが感じられなくなっている(通常版との同時発売はありがたいのだが)。 リーグ・オブ・レジェンドの通常版もDTSトラックが収録しており、本編ディスクについては、アルティメット・エディションと通常版に差異はない。
■ インド王朝風のノーチラス号万歳!!
19世紀末、ハイテク兵器を操る謎の軍団に対抗するため、大英帝国は超人同盟「ザ・リーグ」を招集する。集まったのは、アフリカから出ようとしない年老いたアラン・クォーターメイン、原子力潜水艦を乗り回すネモ船長、元の体に戻れなくなった透明人間など、一癖も二癖もありそうな7人。世界戦争を企む軍団の陰謀を阻止するため、7人はベニスに向かった。間一髪で街を全壊から守るザ・リーグ。しかし、そこで彼らは、ザ・リーグに隠された秘密を知る。 とにかく、原作小説を踏まえた7人の描き方が面白い。青年になったトム・ソーヤーが米国の諜報員になっていたり、ハイド氏がハルクのように怪物化したりと、「それは違うだろ」という突っ込みどころが満載。はちゃめちゃな設定が楽しい。それでいて、わかる人にはわかるパロディが細かく仕込まれており、たとえばザ・リーグの発起人「M」の本名などにニヤリさせられる部分も。つじつまが合わないところも多いが、いちいち目くじらを立てず、細かいところは笑い飛ばすのが正しい鑑賞法だ。 もう1つの見所は、当時の設定では絶対ありえないメカの数々。味方側の6輪自動車「ネモービル」や、原子力潜水艦「ノーチラス号」はもちろん大活躍だし、敵も戦車や一つ目のロボットを繰り出す始末。特に、幅広の剣を思わせるノーチラス号(イカ型ではない)のデザインが秀逸。すらっとした細身の船体に、ゴテゴテとしたインド風の飾りがとても怪しい。200mを超える巨艦という設定で、水しぶきを上げながら浮上するたびに、観ているこちらは大喜び。誘導ミサイルを発射したときは「19世紀なのに」と爆笑してしまった。何かが間違っている気がするものの、とりあえずスチームパンク的な面白さを堪能できる。 さらに、70歳を超えたショーン・コネリーのアクションにも注目。年老いた元ヒーローという設定にぴったりの風貌と演技はさすがだ。重々しい連続パンチも痛そうだし、クライマックスで若者のトム・ソーヤーに技術と精神を継承する場面もぐっとくる。ただ、そこまでして伝承する技が単なる超長距離射撃というのは地味すぎるかも。この作品、「影のあるメンバーたちの活躍」という意味ではX-MENシリーズに似ているが、ヒーローたちが全体的に地味だ。元が小説ということで仕方がないとは思うが。
■ 文句なしの高画質・高音質
平均ビットレートは8.27Mbps。ビットレートの高さは画質にも現れている。一部のシーンを除き、階調性や解像感に不満はなく、とにかく画質が良い。ベニスの夜景、シベリアの雪景色など、リファレンスに使えそうな場面も多い。なお、本編ディスクに関しては、アルティメットと通常版は共通だ。 この作品は美術がすばらしく、ベニスをはじめとしたセットが壮麗。一見CGと思われる場面も実は造りこんだセットやミニチュアを巧みに配し、CGで補完している場合が多い。もちろん、ノーチラス号をはじめCGも多いので、全編が視覚効果の見本市のようになっている。 音声はDTSとドルビーデジタル5.1ch。倒壊するベニスの町並みや、石柱を破壊しながら疾走するネモービルの効果音が迫力満点。銃声も重々しく、前から後ろへ抜ける移動音も多い。DTSの方が若干鮮度が良く感じるが、ドルビーデジタルでも大きな差はないだろう。LFEも鋭く、本気で再生するにはそれなりの環境が必要かも知れない。 なおスタッフロールの際、iTunes Storeのロゴを発見した。どうやらそこでサントラを扱っているらしい。しかもアルティメット・ガイドによると、リリース当初はCD化されず、iTunes Storeでしか手に入らなかったそうだ。その後CD化されたが、米国や欧州ではインターネット通販でしか入手できないという。珍しいケースだが、今後はこうしたケースが増えるのかも知れまい。ちなみに、日本ではジェネオンが発売し、店頭販売されている。
本編ディスクにはコメンタリーが2本収められている。1本目は製作のドン・マーフィとトレバー・アルバート、トム・ソーヤー役のシェーン・ウエスト、透明人間役のトニー・カラン、ジキル博士&ハイド氏役のジェイソン・フレミングによるもの。俳優陣の話題はショーン・コネリーに対するものが多い。基本的にはほめ殺し系の内容だが、「一緒にゴルフをしたら『007』と書いたマイボールを使ってた」など、はなはだ怪しい噂も聞ける。 もう1つのコメンタリーは、衣装デザイナー(ジャクリーン・ウエスト)、視覚効果スーパーバイザー(ジョン・E・サリバン)、メイクアップ効果スーパーバイザー(スティーブ・ジョンソン)、ミニチュア・クリエイター(マシュー・グラッツナー)が担当。凝った視覚効果の作品だけに、こちらの方が面白い。最後の最後まで「予算があれば」とぼやいているのが印象的だった。 アルティメット・エディションのみに付属する特典ディスクには、「ザ・リーグの製作過程」、「未公開シーン」など計1時間20分以上のコンテンツを収録している。各コンテンツは「プリ・プロダクション」、「プロダクション」、「劇場公開」の3つにまとめられており、ビジュアライゼーションから試写会までをドキュメント形式で綴っている。前2つは製作過程を淡々と紹介した内容で、視覚効果の解説が参考になる。セット、ミニチュア、マットペインティング、CGが複雑に絡む様子が語られる。 公開前のテレビ特番を収めただけの特典が多い中、さすがアルティメット・エディションらしく充実した内容だ。ただし、ショーン・コネリーの出番が少ないので、彼目当ての人はがっかりするかもしれない。 付属のブックレット「アルティメット・ガイド」。詳しい内容には触れないが登場人物たちのバックグラウンドがまとめてあり、彼らになじみの薄い日本人には大変ためになる。完全に日本で企画されたブックレットのようで、確かに、日本でこのタイトルを売るには適当なガイドが必要かもしれない。 また、原作コミックやほかの映画化作品の紹介などもあり、周辺知識が1冊にまとまっているのがうれしい。個人的には、この小冊子を入手するためにアルティメット・エディションを選択する価値はあると思う。なお、ブックレットには松本零士氏とGURIHIRU氏による書き下ろしコミックも収録している。
■ 今なら通常版もお買い得
ショーン・コネリー主演ながら、どことなくB級っぽいノリが鼻につく不思議な作品。テンポは良いのだが、つながりがどこかぎこちない。しかし、めまぐるしいアクションや丁寧な特殊効果はすばらしく、大作続きの2003年に公開されなければ、もっと話題になってしかるべき作品だと思う。視聴中は地味なチームだと思っていたが、良く考えると、メンバーそれぞれが映画の主役になるほどの大物。現在、原作コミックのザ・リーグは火星人と戦っているらしいので、続編にも期待したい。 DVDとしては、非常に高画質かつ高音質な点がうれしい。チェック用にいろいろと使えそうなので、AVファンならとりあえず持っていて損はない。通常版とアルティメットエディションの差額は720円。ブックレットや映像特典でより楽しめるアルティメット・エディションをお勧めしたいが、本編ディスクに関しては同一。通常版は4月5日出荷分まで3,300円(4月5日以降は3,980円)なので、購入するなら早目が良いだろう。
□20世紀フォックスのホームページ (2004年3月16日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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