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第147回:音楽配信データの音質を検証する
~ 自分でリッピング&エンコードするよりも高音質か? ~



 最近、日本でも目立った動きが出てきているインターネットによる音楽配信。米国の「iTunes Music Store」のような派手さはないが、確実にサービス内容も充実し、とにかく曲数が増えてきている。

 しかし、iTunes Music Storeに比べると、市場的には盛り上がりに欠けることは確か。では、インターネット音楽配信による音質はどんなものなのだろうか? 基本的にはATRAC3やWMAなのだからCDに比較すれば劣ることは間違いないが、どのサイトのサービスも質は同じなのか? さらには自分でCDからリッピング&エンコードしたものと比較するとどうなのか、検証してみた。



■ 急速に拡大する日本の音楽配信サービス

 Appleが行なうアメリカ国内だけのインターネット音楽配信サービス「iTunes Music Store」がよく話題に上る。70万曲を越えるライブラリが揃い、いずれも1曲99セントで購入できるというのだから、日本国内のサービス開始を心待ちにしている人も多いだろう。しかし、年内には国内でもサービスをスタートさせるという話もあったようだが、実際のところそのスケジュールは難しいかもしれない。

 その一方で、国内のレコード会社が中心となって展開している音楽配信サイトも、かなり充実してきた。各社が出資して作ったレーベルゲートという会社のサービスが2000年4月からスタートしていたが、この4月から「Mora」という名前にリニューアルするとともに、ついに東芝EMIも参加。これで国内メジャーレーベルすべてが揃ったことになる。

 ダウンロード可能な曲数も昨年12月にソニー・ミュージックエンターテインメントが一気に2万曲に増やし、東芝EMIも参加する時点で邦楽のみ8,000曲を用意するなどで、現在4万曲近い曲数に上っている。夏ごろまでにはMora全体で10万曲を越えるとのことだ。

 それでもiTunes Music Storeの70万曲にはまだまだ及ばないか、10万曲あれば、とりあえずたいていの曲は入っている状態になりそうだ。気になるMoraで1曲あたりの価格だが、これは統一されておらず、レーベルによってまちまち。一番安いのが158円という設定。たとえばSME提供の楽曲であれば、旧譜が158円、新譜が210円という設定だから、99セントとまでいかないものの、ドル円レートを考えればそれほど大きな差ではなくなっている。

オーディオ機器から直接音楽ファイルをダウンロード購入できるAny Music

 一方、こうしたレコード会社とは別の動きも出てきた。まずはAny Musicの誕生。これはPCを介さずオーディオ機器から直接ダウンロード購入できるというもの。まだ機器の価格が高いのですぐに普及するとは思えないが、今後単体価格が下がってきたり、HDDレコーダーやテレビなどの機器に組み込まれるようになると、面白い展開になるかもしれない。現在のところ、コンテンツ内容はMoraとまったく同じ。実際Moraから全データを取得して配信しているとのことだ。

 そして先日エキサイトは、インターネット音楽配信サービス「Excite Music Store」をスタートさせ、ここにはオープン当初から東芝EMIがコンテンツを提供している。さらにNTTコミュニケーションズもOCN MUSIC STOREを6月7日からスタートさせ、こちらにも東芝EMIが参加している形となっている。

 OCNはまだスタートしていないので、よくわからないが、MoraとExciteにおける東芝EMI提供の曲の価格を見る限りでは、すべて同じようで、基本は270円で、クラシックなどが158円となっている。

 そしてデータ形式は、これは2つに分かれた。MoraとAnyMusicがATRAC3で、Excite Music StoreとOCN MUSIC STOREがWindows Media Audioである。もう少し具体的にいうと、MoraのATRAC3は132kbpsのビットレートとなっており、ExciteのWMAは128kbpsのCBRとなっている。以前行なった実験から考えると、音質的にはほぼ同等のものと思われるが、その違いをチェックしてみる価値はあるだろう。

 また、以前、エイベックスに話を聞いた際、エイベックスでのエンコードはCDからリッピングして行なうのではなく、マスターテープから行なうため、ユーザーが作るものとはクオリティーが違うはずだ、ということを言っていたが、このあたりについても気になるところだ。業界筋の話では、エンコードに関する方針はレーベルによってさまざまで、マスターからこだわりをもって作業しているところもあれば、既存のCDを外部に委託してリッピング&エンコーディングを行っているところもあるなど、一概にはいえないとのことだ。


■ 購入したデータと自作データを比較

 そこで今回行なってみた実験というのは、まずMoraおよびExcite Music Storeのそれぞれから同じ曲を購入し、データ的な比較をするとともに、同じフォーマットのデータを手元のPCでCDからリッピングして作成し、それとも比較した。

 前述したとおり、MoraとExcite Music Storeにはそれぞれ東芝EMIの同じコンテンツが並んでいるので、その中から同じものをダウンロード。またCDからリッピングしたいので、CCCDではないものをということで、1つを選んだ。具体的にはちょうどヒットチャートに入っていた宇多田ヒカルの「SINGLE COLLECTION Volume1」から「COLORS」を使うことにした。

 なお、リッピング&エンコードに用いたソフトはATRAC3用にOpenMG Jukebox v2.2を、WMA用にはWindows Media Player 9。またリッピングに用いたドライブはPlextorのPLEXWRITER Premiumである。なお、ダウロードしたファイルは、「Total Recorder」というソフトを用いてWAVファイル化している。

 実は一番気になっていたのは、ダウンロードした結果のデータと手元でエンコードしたデータが同じになるかどうか、ということ。もちろん、ダウンロードしたデータには著作権保護システム(DRM)が掛けられているので、ファイル単位で同じになるわけではないが、それをWAVファイルへ変換した際に同じになるかどうか、ということだ。

Total RecorderでWAV化したファイルをWaveCompareで比較したところ、まったく一致しなかった

 まず、MoraからダウンロードしたデータとOpenMG Jukeboxで作成したデータをefu氏作成のフリーウェアである「WaveCompare」で比較してみたところ、予想通りまったく一致しなかった。やはり東芝EMI側もCDからエンコードしているわけではないということなのだろう。

 続いて、この2つのデータを波形で比較してみることにした。通常、このDigital Audio LaboratoryではWaveCompareと同じ作者の「WaveSpectra」を用いているが、重ね合わせ比較がしやすいということから、今回はSony Pictures Digital Networksの「SoundForge 7.0」を用いた。SoundForge 7.0のAnalyze機能では、上下に左、右のスペクトラム分析結果が表示されるが、ここでは左のデータだけで比較した。ちなみに、この図はCDをリッピングしただけの完全な形でのWAVファイルである。

SoundForge 7.0のAnalyzeの左上下に表示されるデータで比較する

 さて、それぞれの結果を見てみよう。このまま見てみると、ほとんど違いはない。そこで、重ね合わせてみるとどうだろうか? 微妙に違いが見えるだろう。Moraからダウンロードしたもののほうが、微妙に音量が大きいといった程度ではあるのだが……。また、この程度の違いなので、聞いてみてわかるというほどのものではなかった。

【Moraからダウンロードしたデータ】

【OpenMG Jukeboxで作成したデータ】

【Moraのデータと自作データを重ねたところ】

Excite Music Storeのデータも、自作したものとは一致しなかった

 次に、今のとほぼ同じ実験をExcite Music Storeからダウンロードしたものと、Windows Media Playerでエンコードしたもので行なってみた。こちらも、バイナリ比較では先ほどと同様まったく異なるものとなり、一致点は存在しなかった。

 だが、波形で比較してみると、今度はほぼドンピシャという結果になった。バイナリレベルでは一致しないものの、音楽データとしてはほぼ同じであるといっていいだろう。

【Excite Music Storeのデータ】

【Windows Media Playerで作成したデータ】

【Exciteと自作データを重ねたところ】

 さらにもう一つ、この比較をして驚いたことがあった。それは、MoraからダウンロードしたデータとExcite Music Storeからダウンロードしたものの比較をしたところ、ほとんど一致してしまったことだ。違うフォーマットなのだから、もっと違ってもいいように思うのだが、もうちょっと追及すると何か見えてくるかもしれない。

【MoraのデータとExciteのデータを重ねたところ】

 新たな疑問も出てきてしまったが、今回の結論としては、音質という意味ではMoraとExcite Music Storeの間での差はほとんどなさそうだった。また、ユーザー自身でリッピングするのとデータ的な違いは出るが、ほとんど変わりがないこともわかった。

 こうなると違いは手持ちのポータブルプレーヤーが何であるのか、DRMとしてどちらが使いやすいのかというところだろう。まあ、個人的にはOpenMGのDRMはガチガチ過ぎてちょっと抵抗があるのだが……。


□Moraのホームページ
http://mora.jp/
□Excite Music Storeのホームページ
http://www.excite.co.jp/music/store/
□OCN MUSIC STOREのホームページ
http://music-store.ocn.ne.jp/
□関連記事
【3月31日】レーベルゲート、音楽配信サービスの新ブランド「Mora」を設立
-東芝EMI、ワーナーミュージックも参加
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040331/mora.htm
【5月20日】WMA形式の音楽配信サービス「Excite Music Store」がスタート
-ポータブルプレーヤーに3回まで転送可能。1曲150~270円能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040520/excite.htm
【5月20日】NTT Com、OCN会員向けの音楽ダウンロードサービス
-Rio製ポータブルプレーヤーへの転送が可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040520/nttcom.htm

(2004年5月31日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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