■ 奇作?、怪作?「ルパン三世 念力珍作戦」
今回取り上げるDVDは、「ルパン三世 念力珍作戦」だ。このタイトルに聞き覚えのない方もいるかも知れないが、DVD化を弊誌のDVD発売日一覧更新情報で取り上げたところ、更新情報コーナーとしては異例の高アクセス数を記録。さらに、そのページからリンクしたジャケット写真のページへのアクセス数も、それに匹敵するというほどの注目が集まった。 なぜ、'74年公開という30年前の作品にこれほどの注目が集まるのか。それに、名作との評価があるわけでもないのに(迷作ではあるかもしれないが)、このタイミングでDVD化される理由とはなんだろうか? この映画はタイトルからもわかるとおり、モンキー・パンチの「ルパン三世」を原作にしている。あの劇画を実写化し、豪華な俳優が配役されていることで、今までも知る人ぞ知る作品ではあった。 しかし、今はゴールデンタイムに進出している、フジテレビ系で深夜にこっそり放送されていた「トリビアの泉」の第2回目で、この映画が紹介されてしまった。個人的には周知の事実だと思っていたのだが、そうではないらしく、かなり高「ヘェー」を獲得して驚いたような記憶がある。これで、認知度がかなり上がったのは間違いないだろう。 そんなことを受けて、「この好機を逃せない」と東宝が思ったかは定かではないが、突如としてDVD化が発表された。あれを、また見ることができるのかという喜びはあったものの、東宝から発売される邦画のDVDということで価格が心配。と思っていたら、税込みで5,040円という予想通りの強気の値付けに、自腹で購入する身としては挫けそうになる。 しかし、前述のように読者の関心が高い一方で、この値段だと興味があっても買うのをためらう人も多いのではないか? そう思い直し、言葉は悪いが“毒見”役として、購入することにした。そのほかにも映像特典として、坪島孝監督のインタビューが収録されているということで、「念力珍作戦」という作品内容とほとんど関係がないように思えるタイトルの謎が、明かされると期待したという要因もあるのだが……。
■ ルパン三世は目黒祐樹、次元大介は田中邦衛 盗みの技術は天才だが、女に弱いのが玉にキズの大泥棒、ルパン三世。フランスの怪盗ルパンから続く泥棒貴族の血統は、マカ・ローニ一家に二世が築き上げたルパン帝国を潰されてしまい、根絶やしになったかと思われた。しかし、日本人を母に持つルパン三世だけが生き残っていた。 そんな、ルパン三世が、護送車で連行中の峰不二子に一目惚れ。刑務所から救い出したまではよかったのだが、そのおかげで、銭形平次の子孫・銭形警部、大岡越前守の子孫・大岡、遠山金四郎の子孫・遠山に追いかけられるハメに。 そこに早撃ち0.3秒のガンマン次元大介が現れ合流するが、疲れたルパンは休息のため自ら警察に出向く。ルパン逮捕を知った暗黒街のボスは、邪魔者がいなくなったと安心し、宇宙人をモデルにしたという古代の土偶を盗んで、大資本家に売りつける「念力作戦」にとりかかった……。 配役はルパン三世に目黒祐樹、次元大介に田中邦衛、銭形警部に伊東四朗と豪華。ただし、石川五エ門が登場しないのが残念なところだ。スタッフも、監督にクレイジー・キャッツの映画を数多く監督した坪島孝、脚本は後に「スクール・ウォーズ」を手掛ける長野洋、さらには、赤塚不二夫と中山千夏が企画に加わっているという凄まじさ。 ちなみに、峰不二子は江崎英子が演じており、そのほかにもE.H エリックや、青空球児・好児、前川清や、大泉晃などなど、時代を感じさせる人々が続々出演している。 東宝によれば「全編笑いとお色気、破天荒なギャク満載の異色作」とのことだが、'70年代のドタバタ喜劇がそのまま楽しめるという趣に仕上がっている。このノリを懐かしいなと思えれば、楽しめるが、そう思えないとどこが面白いのかわからないかもしれない。
■ 余裕の片面2層仕様 本編約82分 + 特典38分と収録時間が短めの割には、片面2層ディスクを使用しており、DVD BitRate Viewer 1.4で見た本編の平均ビットレートは8.39Mbpsと、実写映画としてはかなり高い。ビットレートの変動も全体的に少なく、余裕を感じさせる。 アスペクト比は、映画の内容にあっているかどうかわからないがシネスコサイズで、DVDにスクイーズ収録されている。高ビットレートだけあって、画質の方も良好。さすがに30年前の古さを感じさせる色調だが、MPEGによる画質の荒れはない。チャプターも82分という本編に、32個も設定されている。さすが5千円を超えるソフト、その点にはぬかりはない。 音声仕様はもちろんモノラル。それもドルビーデジタルなので、音質について云々するのはヤボというものだろう。とりあえず、内容を把握する分には不満はなかった。字幕もないので、非常にシンプルな仕様だ。
映像特典は、「劇場予告篇」(2分14秒)と、「坪島孝監督の『ルパン三世念力珍作戦』を語る」(約36分)の2本のみ。個人的には是非とも、目黒祐樹と田中邦衛にもこの作品について振り返ってほしかったのだが……。 もちろん映像特典のメインは、「坪島孝監督の『ルパン三世念力珍作戦』を語る」。娯楽映画評論家の佐藤利明を聞き手として、半分以上が坪島孝監督が映画の道に入った経緯が語られている。「1食ご飯を抜くと、2館で映画が観られた。学生時代は米国映画ばかりを年間800本は観た」という。 ルパン三世を実写化するにあたっては、「アニメを2~3本見て、今まで自分が映画を作る上で設けていた制約をすべて取っ払って、面白ければいいオモチャ箱をひっくり返したような、アクションコメディができるのではないかと思った」と話す。「企画書は俳優を決めないでストーリーだけで出した。シナリオを書き出した時点でも、一切決まっていなかった」という。 気になる、念力珍作戦というタイトルにいては、「ほとんど脚本が出来上がった時に、本社からタイトルを『ルパン三世 念力珍作戦』にしてくれと突然いわれた。世間ではユリゲラーや、スプーン曲げがはやっていたので。苦し紛れで、土偶を奪う作戦の名前を『念力作戦』として辻褄を合わせた」と解説される。 結局、念力珍作戦というタイトルはストーリーの本筋とは、まったくといっていいぐらい関係ないことがわかった。映画の中では、無理やりとも思える使い方で「念力」という台詞が何度か出てくるという事情も、これで理解できた。
■ 一周回ってカッコいい? 目黒祐樹といえば最近では、旅してご馳走を食して回っているというイメージが強いが、この作品で、俳優 目黒祐樹を見直してみるのもいいかもしれない。 またジャケット写真も、やる気をまったく感じさせない、脱力系の目黒祐樹の表情はポイントが高い。一周回ってカッコいいような気がしないでもない。ちなみに、DVDのジャケットの裏には「待望~!? のDVD化」と、「!」の後に「?」が付いている。東宝自身も「待望」されているか不安なのかと心配になる。 見所もあり、話題づくりとして観ておいて損はないが、問題はやはり価格。話題づくりのために、5,040円を出すというのは、特定の人以外、ほとんどの人にとっては厳しいことかもしれない。
□東宝のホームページ
(2004年6月1日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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