~ マルチトラックもサポートし、DVDオーディオにも対応 ~ |
PQ設定などが可能で、マスターCDの作成に対応する |
その最大のポイントはCDの制作機能。WaveLab4の機能がほぼそのままWaveLab5に踏襲されているのだが、これがかなり強力な機能なのだ。
具体的にはPQを自由に打って、さまざまなトラック構成のCDを作れるだけでなく、ISRCコード(International Standard Recording Codeの略称で、国際標準レコーディングコードのこと)やUPC/EANコード(バーコード情報)も書き込むとともに、CUE SHEETも書き出すことができるなど、PMCD(プレスマスターCD)の制作に対応。正確にはPMCDを作るにはPlexMasterなどPMCDに対応したドライブが必要である。WaveLabの場合、PlexMasterは利用することができるが、PMCD作成には対応していないので、正確にはPMCDとはいえないが、とにかく業務用として使えるマスターCDを作ることが可能だ。
PQ、つまりトラックのマーカーを自由に打つことができることの利点を簡単に解説しよう。通常はトラック間にプリギャップ、ポストギャップという空白が設置されるため、2秒もしくは4秒の空白が曲間にある。しかし、PQを自由に打ち、ディスクアットワンスで焼くことにより、曲間の空白を生じさせないというだけでなく、曲間に音を入れることも可能となる。たとえば、ライブの曲間での拍手やMCをトラック間に設定することが可能となる。
ライブCDなどをCDプレーヤーでかけて時間表示をさせると、MCに入るとトラックは次の曲の表示になるものの、時間がマイナスからカウントされることがある。それが、まさにこのワザ。トラック送りをすると、0秒のところからスタートするので曲の頭だしができるが、前の曲からそのまま再生させるとMCが入るというわけだ。ただし、このようなライブ版CDはWindows Media PlayerなどPC上のソフトだと曲間を再生しなかったり、リッピングできないケースもある。
そのほかの使い方としては最近流行の隠しトラック。隠しトラックには、いろいろな方法があるが、たとえば1曲目の前に収録してしまうという方法。考え方は、先ほどのライブのときと同様で、曲間というより1曲目のプリギャップを大きくとり、そこに曲を収録してしまう。この場合、PCだとまず再生できないが、一般のプレーヤーなら1曲目の再生がスタートすると同時に巻き戻していくと隠しトラックが再生可能となる。また、隠しトラックを曲の最後に入れる方法もあり、こちらは最終曲のポストギャップに入れればいいわけだ。
CUE SHEETの出力も可能 |
WaveLab5なら、そうした隠しトラック入りのCDを簡単に作れる。そして前述したとおり、作り上げたCDの設定を元に非常にキレイなCUE SHEETを出力することもできる。
また、24bit、32bitのオーディオデータを16bitに落とす際のディザリング機能もマスタリングで大切な作業だ。これにはCubaseSXなどでも採用されているApogeeのUV-22およびUV-22HR、さらにはWaveLab5オリジナルのディザリングツールが組み込まれているので、状況に応じて選択して使うことが可能だ。
UV-22/UV-22HRも搭載 | オリジナルのディザリングツールも搭載 |
もちろん、イコライザやダイナミックスなどのエフェクトもマスタリングにとって重要な要素だが、これもかなり充実している。Steinberg製品なので、当然VSTプラグインが使われており、マルチバンドEQのQ、コンプレッサとしては、Dynamics、MultibandCompressor、またノイズリダクションとしてDeClicker、DeNoiserなどなどいろいろなエフェクトがバンドルされている。
VSTプラグイン対応 | マルチバンドEQのQ | Dynamics |
MultibandCompressor | DeClicker |
■ DVDオーディオ製作も可能に
モンタージュ画面 |
このようにCDのマスタリングソフトとして充実しているWaveLab5だが、WaveLab5になって強化された最大の目玉ともいえるのがDVDオーディオの制作機能である。DVDオーディオにはさまざまな機能、モードがあるが、WaveLab5はその大半をサポートしている。
まず、先に紹介したCD制作機能をDVDオーディオでも利用できる。もちろん、この際、24bit/192kHzまで扱うことが可能。さらに、WaveLab5で大きく変わったのがマルチトラックのサポートだ。
このマルチトラックの考え方はちょっと独特であるため、最初わかりにくいのだが、モンタージュという画面を使って行なっていく。これは仮想トラックを使った編集画面ともいえるもので、すでにレコーディング済のデータをマルチトラックで並べて非破壊編集を行なえる。
オーディオトラック以外にビデオなども扱える |
最高で8ch(7.1ch)をサポートしているので、5.1chまでならばDVDオーディオを作ることが可能。それ以上の場合は、Windows Media Audio Professionalへのエンコード機能などで、出力することができる。
また、こうしたオーディオトラックのほかに、ビデオトラック、DVDオーディオ画像トラック、DVDオーディオテキストトラックなども使えるようになっているので、どんなパターンでもほぼ完璧に作ることが可能。ただし、WaveLab5にはライセンスの関係のためだろうか、DVDオーディオのロスレス圧縮方式であるMLPのエンコード機能は持っていない。
■ 強力な波形編集機能も搭載
ASIOドライバもサポートする |
さて、ここでWaveLab5をマスタリングツールというよりも、波形編集ソフトとして見ても、かなり強力なソフトに仕上がっている。8チャンネルまでのマルチ録音/再生/編集に対応しており、ドライバは当然ASIOをサポートしているので、どのポートからでも余計なミキサーなどを通さずに直接録音できる。
ご存知の方も多いと思うが、SoundBlasterシリーズなどにバンドルされているWaveLab LiteはASIOをサポートしていない。本家Steinbergがなぜ、と思わないでもないのだが、WaveLab5のほうは間違いなく使えるので大丈夫だ。
また録音する際、ライブ入力というモードにしておけば、エフェクトなどをかけた音をモニタリング可能となる。そして、さまざまなメーターが装備されているのもWaveLab5の面白いところ。具体的には、ピーク/UVメーター、位相スコープ、FFT、スペクトラム、ビットメーターなど、思いつくメーターはほぼすべて装備されている。こうしたものを利用しながら録音することで、逆相のチェックや周波数成分の異常などの早期発見ができるのは便利なところだ。
ピーク/UVメーター | 位相スコープ | FFT |
録音するだけでなく、すでにあるオーディオデータの読み込みや、書き出しも各種フォーマットに対応している。また、今回は使わなかったが、サンプラーと直接接続してのやりとりも可能なので、PCでエディットして作ったデータをサンプラーで使いたいといったユーザーにとっては便利そうだ。
もちろん、いわゆる波形編集処理機能は一通りそろっている。ノーマライズ、ゲインの調整、位相反転、DCオフセット除去、タイムストレッチ、ピッチベンド……と何でもある。またモンタージュ画面で処理することで、また幅が広がるし、フェードイン/アウトに関しては、さまざまなカーブが用意されていたり、自分でカーブを描ける。
さらに、波形そのものをサンプル単位で編集することも可能。クリップノイズなどは、下手にノイズリダクション機能を使うよりも直接エディットしたほうが、音がにごらずに修正できるので、便利なこともある。
多数の波形編集処理機能を装備 | 波形のサンプル編集に対応 |
分解能データの拡大幅が不満 |
1点気に入らなかったのは、縦軸の拡大に限界があるということ。縦軸表示はパーセント、dB、10進法が選べるが、たとえば24bitの分解能のデータを最大に拡大しても-96dBまでしかみえない。本連載ではよくノイズレベルの検出を行なっているが、そのような微弱な信号だと、波形としてはっきり見ることができないのだ。まあ、普通の使い方においては、あまり気にするべきではないと思うが……。
そしてもう1点あげるとしたら、画面デザイン。昔からそうだが、WaveLabってどうも垢抜けない。CubaseSXやNUENDOなどとは開発ラインが違うようだが、もう少しクールな画面にしてもらいたいと思う。
とはいえ、このマスタリング機能は、非常に強力。10万円するので、誰でも簡単に手に入れるというわけにはいかないが、よりしっかりしたCD作り、さらにはDVDオーディオ作りをしたいという人には、力強い見方になってくれるツールであることは間違いないだろう。
□スタインバーグ・ジャパンのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□関連記事
【2002年8月26日】【DAL】波形編集ソフトの性能とは?
Sound ForgeとWaveLabを比較する
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020826/dal68.htm
(2004年8月30日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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