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第159回:Intelの新規格「HD Audio」を検証する
~ 前編:対応マザーボードを使って環境を構築 ~



 Intelが2004年1月に発表したPC用音源の新規格「High Definition Audio = HD Audio」というものをご存知だろうか? 従来の「AC97」という規格の後継にあたるものだが、32bit/192kHzまで対応し、8chまでサポートするという。スペック的にはすごそうだが、オーディオインターフェイスのメーカー各社に聞いてみても、あまり興味は示していない様子だった。

 また、Intelの新チップセットを搭載したマザーボードには標準的にこのHD Audio機能が搭載されているが、PC雑誌各誌でもHD Audioについてはほとんど触れられていないというのが実情。しかし、やはり新規格がどんなものなのかは抑えておきたいところ。

 先日、ようやくHD Audio搭載のマザーボードを購入したので、これがどんなものなのかを今週と次週の2回にわたってチェックする。


■ なかなか試せなかったHD Audio

 Intelにおいて開発コードネーム「Azalia」と呼ばれていたHD Audioは、今年1月、正式に規格化され1.0という仕様で発表された。Intelは、32bit/192kHz対応であることを高らかに謳っているのだが、この発表内容を見た時はその意義を感じられなかった。

 なぜなら、24bit/96kHzはもちろん16bit/48kHzでも、その性能をしっかり発揮するためにはかなりのアナログ性能を持ったオーディオ機器が必要になる。しかし、今までにオンボードのオーディオインターフェイスでまともなものを見たことがない。その状況で、32bit/192kHzというスペックが必要なのか、また実際にそんな製品が出てくるのかと疑問に思った。

 とはいえ、実物を見る前に否定しまうわけにもいかない。また読者からも、「HD Audioについてレポートして欲しい」という要望が何件も寄せられていたので、とにかく一度テストしてみたいと思っていた。

 しかし、HD Audioを搭載したマザーボードが発売されてから実際に購入するに至るまで、2カ月以上もの時間がかかってしまった。理由の1つはチップセットのバグ騒動でマザーボード自体が一時市場から消えてしまったこと。そして、自分の欲しいスペックのマザーボードがなかなか発売されなかったためだ。

なんとも小さいHD Audioチップ「ALC860」

 結局、購入したのは、先週出荷が開始されたIntelのマザーボード「D915GAVL」。決め手は915G搭載のマザーボードで、DDRメモリが使えて、PCIバスを4つあることだった。

 このマザーボードには、Realtekの「ALC860」というチップが搭載されている。これこそがHD Audioのコーデックチップだ。上位チップの「ALC880」は8chまでサポートしているが、ALC860は6chまでのサポートする。いずれもHD Audioチップなので、32bit/192kHzに対応しているが、マザーボード上でそのチップを探してみると、なんとも小さなチップであった。

 もちろん、チップの大きさで性能を測ることはできないが、その周りを見渡してもまともなアナログ回路らしきものも存在しない。やっぱり、あまり期待できないということなのだろうか……。


■ さっそくマシンを組み立てたのだが……

肝心のオーディオ関連のドライバが上手くインストールできない

 マザーボードにはPentium4 3.2GHz、512MBのメモリ、さらに80GBと200GBのSerial ATA対応HDD、そしてDVDドライブを接続してセットアップ。Windows XP Professionalをインストールした。インストールしたのは、SP1でもSP2でもない古いXPなので、まずマザーボード添付のCD-ROMからドライバ類をインストールしたが、肝心のオーディオ関連のドライバがインストールできない。

 何度試してもうまくいかないのと、200GBのHDDを128GBまでしか認識できないことなどから、もしやOSをアップデートしていないのが原因ではと考えた。さっそくインターネット経由でSP2へとアップデートした結果、オーディオドライバは無事インストールされ、HDDの問題も解決した。

 ただし、この状態でも、先ほどもエラーとなったHD Audioのドライバはインストールできない。とはいえ、コントロールパネルで見る限り、きちんとHD Audioという表記がされ、ドライバもインストールできているようなので、今回はこれで検証した。

 IntelがアナウンスするHD Audioの大きな特徴としてオーディオデバイスの自動検知と端子の割り当て変更機能というものがある。つまり、端子にケーブルを刺すと自動的に検出するとともに、何が接続されているかを判別し、もし間違った場所に差してもソフト的に変更できてしまうというものだ。色分けがされているとはいえ、デスクトップやタワーの場合、PCの後ろ側の正しい端子にプラグを刺すのは難しいもの。これがどの端子でもOKとなると便利そうだ。

 しかし、スピーカーが接続されているのか、マイクが接続されているのかといったことの自動認識ができるのかはかなり疑問。そもそもスピーカーとマイクなんて内部的には同じものだから、インピーダンスの違いもはっきりしないだろうし……。

 などという不信感を持ちながら、とりあえず、後ろの端子に適当にアンプ内蔵スピーカーを接続。すると、ポンとRealtekのユーティリティが起動し、コネクタに何かが接続されたことを検知してくれた。だが、何かが接続されたというだけで、何が接続されたかはわからないのだ。その証拠にこの画面と同時に「どのデバイスを差し込みますか?」と聞いてくるのである。

コネクタに何かが刺さったことを認識したが、何が刺さったかはわからない様子 何を刺したのかはユーザーが選択しなくてはならない

マイクを選んでも設定は完了してしまい、差し込む場所を変えろという指示が出る

 とりあえず、ステレオスピーカーを選ぶとそのまま設定完了になる。だが、試しにマイクを選択すると、そのまま通るとともに、「差し込む場所を変えろ」という指示を出してくる。つまり、単純に接続を感知しただけで、あとはすべて手動だったのだ。

 まあ、これがHD Audioのすべてというわけではないのだろう。まだ第1弾の製品だから、こんなものなのかもしれない。


■ 接続も難航

 ところで、先ほどのマシンをセットアップする際に、実はひとつ問題が生じていた。というのも、マザーボードのHD Audioは、6chの出力およびステレオのラインイン、マイクインという端子構成なのだが、それはマザーボード上にある3つのステレオミニ端子と、フロントの2つの端子を利用して接続するようになっている。

 そのフロント側に問題があった。マザーボードのマニュアルを読むと、マザーボード上にフロント端子への接続ピン端子があり、その端子の名称が聞いたこともない、以下の計10個(1つ空いているので実質9個)の端子だった。

  • 1:Port1L
  • 2:GND
  • 3:Port1R
  • 4:Presence#
  • 5:Port2R
  • 6:Sense1 Ret
  • 7:Sense Send
  • 8:Key(no pin)
  • 9:Port2L
  • 10:Sense2Ret
 だいたいの意味はわかるが、手持ちのケースのフロント端子の名称とは大きく異なっている。またマザーボードにフロント用の端子が付属しているわけでもないため、接続のしようがないのだ。仕方ないので、フロントは使わず、リアだけで行なった上、端子の切り替えも結局できなかったので、現状このマザーボードはラインインとマイクイン、ステレオアウトのみの、非常に単純な構成でしか使うことができない。

 フロント側が使えることを前提としたドライバがインストールされるため、見かけ上6chが利用できるようになっているが、実質的には2chでしか利用できないことになる。なお、このドライバ画面を見ると、一応HD Audioとして認識されていることはわかる。

見かけ上は6chに対応 HD Audioとして認識されていることは確認できる

カラオケ機能としてボイスキャンセルやピッチシフト機能も装備

 またHD Audioとは直接関係ないと思うが、イコライザ機能やエフェクト機能も搭載。さらに、カラオケ機能としてリアルタイム処理でのボイスキャンセル機能やピッチシフト機能なども搭載されている。また、2chだとあまり意味がないが、3Dの調整用として「3Dオーディオデモ」という機能も持っていた。

 実際、このHD Audioで32bit/192kHzのサウンドが鳴らせるのか、性能はどの程度のものなのかについては次週レポートすることにするが、もうひとつ気づいたのがMIDI機能だ。ご存知のとおり、AC97搭載の従来のマザーボードや多くのサウンドカードにはジョイスティック端子が用意されており、ここにMIDI変換ケーブルを取り付けることでMIDI入出力も可能だった。

ジョイスティックポートが無いのでHD Audioを利用したMIDIインターフェイスの設定はできない

 ところが、このD915GAVLというマザーボードにはそもそもジョイスティック端子すら搭載されていない。これではMIDI変換ケーブルを持っていても使いようがなさそうだ。

 試しにコントロールパネルからMIDIインターフェイスの有無を調べてみたが、やはり存在しない。もちろん、DTM系のユーザーで、ジョイスティックポート経由でMIDIインターフェイスを使う人も少ないとは思うが、この点では残念に思う人もいるかもしれない。

 というわけで、HD Audio対応PCを組み上げてみた。個人的には予想通りというか、思ったようには動かなかった。次週は、ソフトウェア側から、実際にHD Audioを使用したり、オーディオ性能チェックを行なう予定だ。

□インテルのホームページ
http://www.intel.co.jp/
□ニュースリリース(英文)
http://www.intel.com/pressroom/archive/releases/20040108corp_b.htm
□HD Audio解説ページ
http://www.intel.co.jp/jp/developer/design/chipsets/hdaudio.htm
□関連記事
【6月22日】多和田新也のニューアイテム診断室
LGA775プラットフォームがいよいよ始動
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0622/tawada22.htm
【1月9日】Intel、次世代PCオーディオ規格「High Definition Audio」
-192kHz/32bitマルチチャンネルに対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040109/intel1.htm

(2004年9月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

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