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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第169回:恒例夏休みの工作シリーズ
「重ねて作るバックロードホーン」
~ 手軽に楽しめるスピーカー製作の悦楽! ~


■ この夏はスピーカーがアツい

 長かった夏休みも終わり……などと言えるのは学生時代だけで、大人の夏はただ暑い暑いふうふうと言っているうちに早くも過ぎ去ろうとしている。そして今年もまた「勝手に恒例企画」として、夏休みの工作レポートをお送りする。

 子供の頃、夏休みの工作に苦しんだ人もいるだろうが、大人がやる工作は誰かにやらされるわけではないし、締め切りもない。完全に趣味の世界にどっぷり浸りながら、気長に楽しむのが粋というものだ。昨年は真空管アンプ、そして真空管CDプレーヤーを組み立てたが、今年はその延長線上ということで、スピーカーの自作にチャレンジしたい。

 とはいうものの、エンクロージャの作成には音響設計の知識や高度な木工技術が必要であり、シロウトにはなかなか難しいものだ。もっと簡単に楽しめて、作ったあとも末永く楽しめるようなものはないものか、そんなことを考えながらいろいろ物色しているうちに見つけたのが、株式会社長谷弘工業の「重ねて作る! バックロードホーン」である。

 バックロードホーンの話をする前に、まず順序としてホーンスピーカーの話をしておいた方がいいだろう。そもそもホーンスピーカーとは、ツイータのお化けみたいなドライブユニットの前面に金属製のホーンを付け、リッチな音像を得ようと言う仕組みのスピーカーである。

 筆者も学生時代、バイトでホーンスピーカーのドライブユニット部を作っていたことがある。今から20年以上前のことだが、当時でもかなり珍しいシステムであった。もともとは劇場や映画館用の音響設備なだけに、高級なストレートホーンになると全長が2mぐらいになってしまうので、設置するための部屋を作って壁に埋め込むことになる。相当のオーディオマニアで、お金持ちの家にしか置けない装置であった。筆者の知る限りでは、L字型やJ字型のホーンも存在した。

ELECOMのホルンスピーカー付きイヤフォン。試しに買ってみたが、音はまあ値段相応(購入価格:1,980円)

 最近ではELECOMの製品で、イヤフォンと組み合わせて使う「ホルンスピーカー」というのがあるが、これも原理的には一種のホーンスピーカーだと言えるだろう。このような方式は、小型のスピーカーユニットでも低音が増強できるということで、フラットテレビやPC用のサブウーファで採用されている例は多い。

 そしてバックロードホーンとは、このホーンの部分をスピーカーの前ではなく、スピーカーユニットの後ろ、エンクロージャの中に折り込んだ構造のシステムである。外見は普通のエンクロージャと同じで、ホーンよりも場所を取らないうえに、スピーカーユニットも通常のものが使えるというメリットがある。スピーカー自体の前面から出る直接音と、背面からのホーンの音をミックスするわけだ。

 本来ならば複雑な工作が必要なバックロードホーンだが、長谷弘工業ではそれを縦方向にスパッと輪切りにしたような構造をしている。つまり複雑なホーンの形でも、同じ形の板を何枚も積み重ねることで立体を作っていくという発想である。これならば難しい作業も必要ない。さっそく購入してみることにした。


■ 組み立ては至極簡単

 長谷弘工業のサイトでは、様々なサイズのものが販売されているが、今回購入したのは10cmのユニット用で、奥行きが短い「MM-151S」(標準価格33,600円)というタイプ。そもそもなぜホーンが必要かと言われれば、それは小型フルレンジスピーカーの低域を稼ぐためである。もちろんスピーカーユニットもホーンも大型のものになるほど低域の出がよくなるわけだが、それだけ置き場所も大変になるわけで、まあ筆者宅にはこれぐらいが妥当だろうと判断したわけである。

エレクトロボイスの10cmフルレンジユニット「205-8A」。これも比較的入手しやすいタイプだ

 バッフル板の穴は、取り付けるスピーカーユニットのサイズに合わせて開けてくれる。ということは、注文する前にどれを付けるのか決めとかないとイケナイということである。今やハダカのスピーカーユニットを販売しているメーカーはそれほど多くはなく、一番入手しやすいのはフォステックスあたりだろうか。

 そこで、アキバにユニットを物色しにいったところ、エレクトロボイス(EV)の「205-8A」を購入することができた。2本で6千数百円と、まずまずの価格である。エレクトロボイスは、その親会社が'85年9月に米アルテックランシングを買収したため、同社のユニットは旧ALTECにその源流を見ることができる。ちなみにALTECはホーンスピーカーの老舗で、創業者はあの「JBL」のJames B Lansing氏とその兄弟である。

 さて、ユニットも決まって早速発注、約1週間でMM-151Sが送られてきた。組み立て式とはいうものの、左右2本分ともなると箱もかなり大きい。

パーツ類全景。実際にはこの倍の数がある

 内容物は、ユニットの左右の板とバッフル板、そしてバックロード部の縦板が2種類。そのほか吸音材や内部配線用ケーブルとスピーカー端子、組み立て用金具類といったところだ。写真は1ユニット分で、実際には同じパーツがもう1セットあるわけだ。

 ではさっそく組み立ててみよう。まず最初に行なうのは“掃除”だ。なぜならば主要パーツはすべてMDF板の加工品なので、木屑がスゴイのである。ネジ穴にも相当の木クズが詰まっており、こういうものが積み重ねた透間に入ると良くない結果を生むことは容易に想像できる。まず掃除機で丹念に木クズを吸い取っておく。

スピーカー端子を取り付け、内部配線ケーブルを接続

 断面パーツのうち2つにスピーカー端子用の穴が空いているので、そこに端子を埋め込む。これがえらくキツいので、端子を下にして上から木枠を押すようにして、キッチリ押し込む必要がある。端子内側に内部配線用ケーブルを接続して、ナットでしっかり固定しておく。

 続いて横板を準備する。六角レンチで回せるネジが付属しているので、最初にこれを埋め込んでおく。横板をひっくり返して、ネジ止め用のシャフトを通し、そこに断面となる木枠を重ねて置いていく。スピーカー配線ケーブルを閒に挟み込むのを忘れないようにしなくてはならない。もちろんそれ用の溝もちゃんと開いている。

ネジは六角レンチで簡単に締められる 断面の縦板を積み重ねていく

 2種類の縦板を組み合わせて配置すると、バックロードの断面の様子が明らかになってくる。スピーカー背面に小部屋があり、背面に放射された音は、小部屋の下に開いているいる隙間から、細かく蛇行しているダクトを通る。その後、大きく上に持ち上がったあと、次第に広がりながら背面を下向きに降りて、最終的に前面に放射されるという構造のようだ。

2種類のパーツを組み合わせると、バックロードの形がわかる 内部配線ケーブルの通し穴もサイズピッタリ

 反対側の板を乗せ、ネジ止めすれば、もうこれで基本的な工作は完成である。あとはバッフル板にスピーカーをネジ止めして、中に吸音材を入れてはめ込むだけだ。バッフル板の固定用に両面テープが付属しているが、吸音材などをいろいろ変えてみるために、今回は使用していない。

反対側の横板を乗せて、ネジを締める バッフル板をはめ込んで、立たせてみた バッフル板にスピーカーユニットをネジ止めして完成

ついでにスピーカー台も自作してみた

 工作がこれだけというのは寂しいので、DIYセンターに行って適当な材料を見繕い、スピーカー台を作ってみた。底板は、玄関先などの敷石に使う中国産天然石砂岩の平板で、重さは1枚10kgぐらいある。足の部分はカリン、天板はケヤキだ。

 こう書くともんのすごくお金かかってるように見えるが、カリンだケヤキだといっても廃材として売られているものを切っただけなので、材料費は全部で5,000円ぐらいである。


■ 個性的ではあるが……

 ではさっそくこの台に乗っけて、試聴である。アンプは昨年作成した「TU-870」、ソースはCDで、プレーヤーは同じく昨年作成の「TU-878CD」を使用した。

 実際に鳴らしてみたところ、音の距離感が近く、アコースティック楽器はものすごく生っぽい音がする。ユニットの205-8との組み合わせでは、生を重視するジャズボーカルものなどにはいいだろう。しかしロック系では高音が耳に付いてしまい、聴いていて辛い。確かにこのユニットサイズとエンクロージャのサイズからすれば驚異的な鳴りだが、本当にずしんと来る低音までは得られず、軽ーく受け流されちゃってる感じだ。

 吸音材はかなりの量が付属してくるが、もちろんそれは使用するユニットに合わせて加減するためだろう。全部入れたら多いかと思って半分ほど入れたのだが、それでもかなり背面放射を吸音してしまい、バックロードから出てくる音自体が少なくなってしまうようだ。

 長谷弘工業のバックロードホーンを使用している人は意外に多く、ちょっと検索すれば、いろんな工夫をしている方のサイトが見つかる。その中で面白かったのは、和紙で紙風船を作って、それを吸音材の代わりにするという工夫だ。筆者はもうちょっと楽をするために、紅茶や緑茶など、お茶っ葉を詰めて急須などに入れるための袋を利用した。これも目の粗い和紙でできている。引っ張って袋状にふくらませ、それをバッフル板の裏に並べてみた。

 バックロードからの出音はかなりいい感じになったが、やはりユニットからのダイレクトの高音が強すぎて、筆者の好みには合わない。どうしようかなぁと思案していたところ、バーチャルサラウンドのホームシアターシステム「NIRO」の構造を思い出した。このシステムでは強いサラウンド感を得るために、スピーカーを真横に配置するという構造になっている。横に向ければ当然直進性の高い高音域の特性が落ちるわけだが、NIROではそれでもちゃんとしたバランスが取れるように、さらに高域特性を持ち上げたユニットを搭載しているという。

 これをヒントにして、今度は両方のバックロードホーンを、背中合わせで真横に向けてみた。これが思いのほかよく、耳につく高音がうまく拡散して減衰し、広がりのある音像が得られることがわかった。広がりすぎると感じたら、左右のスピーカーの距離で調整すればいい。当然全体的な音量が下がるのだが、その分ボリュームを上げれば不足がちだった低音も豊かになり、なんとかまとまった音になった。

 真剣に音像定位などがガキッと決まるわけではないが、部屋全体に拡散するステレオ感はなかなか心地よい。仕事しながらのBGMや、FMラジオなどのリスニングにはいい感じだ。


■ 総論

 いくら自作スピーカーと言えども、エンクロージャ自体をちょこちょこ改造するのは、あまりにも大変だ。オーディオいじりというよりも、ほとんど「大工仕事」である。それなりの木工の腕がなければ、なかなかいじれるものではない。

オーラトーン 5Cのユニットを取り付けてみた

 その点長谷弘工業のバックロードホーンは、六角レンチ1本で簡単にバラしたり組み立てたりできるため、内部に簡単にアクセスできる。ユニットの特性に合わせて、吸音材の量や種類など、いろいろ実験して楽しむことができる。

 もちろんスピーカーユニット自体を変えてみるのも面白い。筆者のMM-151Sは、現在EVの205-8Aではなく、写真のようなユニットが収まっている。これ、何だかわかるだろうか。実は以前MAスタジオなどでサブモニターとしてよく使われていた、「オーラトーン 5C」のユニットだ。10数年前に購入してしばらく眠っていたものだが、外してみると同じ10cmのユニットで、ネジ穴もピタリと合う。

 5Cのユニットは205-8Aと違って高音域が緩く、ボーカル帯域あたりの滑らかさがバツグンにいい。テレビやラジオのスタジオでサブモニターとして使われていた理由は、声の帯域が聞きやすいからだったのだ。このユニットならば、正面を向けてもバランス良く鳴ってくれる。反対に5Cのエンクロージャに205-8Aを着けてみたところ、これまた非常に解像感の高いスピーカーになった。

反対に5CにはEV 205-8Aを着けてみた

 筆者のようにロック系の低音域の充実を求めるならば、正直いって今回のスピーカーサイズの選択は、ちょっと小さすぎた。だがトーンコントロールの付いたプリアンプで低音を足してみたり、AVアンプに繋いでサブウーファで補強してみたりと、いろいろ実験して聴いてみたのも、また楽しい経験であった。

 ただ漠然と「いい音」を目指すよりも、自分好みの個性的な音を作ること。そういうポジティブな楽しみ方こそが、自作オーディオの醍醐味であろう。

□長谷弘工業のホームページ
http://www.spnet.ne.jp/~hasehiro/
□製品情報
http://www.spnet.ne.jp/~hasehiro/product/backlord.html
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(2004年9月1日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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