【バックナンバーインデックス】



第160回:Intelの新規格「HD Audio」を検証する
~ 後編: 192KHz/24bit再生や各種性能をチェック ~



 Intelが作ったPC用の音源の新規格「High Definition Audio = HD Audio」について、前回Intel製マザーボードを利用して、とりあえず動作させてみた。

 一言でいってしまえば、「ユーザーにとってAC97とあまり違いはなさそう」という印象だった。とはいえ、規格上は32bit/192kHzに対応と、現行のオーディオインターフェイスとして、最高のスペックともなっている。そこで今回は、実際に各アプリケーションからHD Audioを使って、そのスペック性能は発揮されるのかを検証した。


■ 問題山積のHD Audio

 前回紹介したとおり、Intelの「D915GAVL」というマザーボードにおいては、フロントパネルへの接続端子が特殊な形状で、現状ではマザーボード上に用意されている3つのステレオミニジャックでのみの使用となっている。また、本来できることになっていた接続デバイスの自動認識も中途半端で、そのウィザードでの端子の設定変更もサポートされていなかった。

 ただ、その後いろいろ実験していたところ、6chのスピーカーが接続されているというモードにすると、手動で端子の切換ができることは確認できた。ただし、こうした状態でも、自動認識のウィザードでは、変更できないだけでなく、間違った案内が出てしまうこともわかった。

 たとえば水色の端子を手動でライン入力と設定した状態で、そこにライン入力を接続しても、別のところに挿入しろとのメッセージが出てしまう。実用上大きな問題はないが、ドライバの修正はしてもらいたいところだ。


■ 既存のアプリケーションで利用してみる

 本題の32bit/192kHz試すべく、まず起動したのが、SONY PICTURES DIGITAL NETWORKSの波形編集ソフト「Sound Forge」。このソフトはMMEドライバのみに対応しているアプリケーションであるが、HD Audioはどう見えるのだろうか?

 ドライバの設定画面を見てみると、出力先としてはRealtek HD Audio rear outという1つのみが見える。これはドライバで2ch接続としても6ch接続としても同様の結果だった。一方、出力側はフロント2つにリア1つの計3つが見えるが、実質上はリアしか使えないので、あまり意味はない状況だ。

録音モードにしただけで、かなりのノイズが……

 この状況で24bit/192kHzのサウンドを再生してみたら、たしかにきちんと音は出る。それも当然、MMEの場合、勝手にサンプリングレートコンバートしてしまうので16bit/48kHzにしか対応していないAC97であっても、24bit/192kHzの再生は可能なのだ。

 これは録音も同様なのだが、録音モードにしたところ、目を覆うような現象が……。何も接続していない状況なのに、ノイズでかなりのレベルの信号が入っている。ちょっと先が思いやられる。このノイズレベルの実験については、また後で行ってみることにしよう。

 次に、起動させたのはCakewalkの「SONAR3」。このソフトはMMEのほかにWDMドライバ、ASIOドライバのそれぞれが使えるオールマイティーだから、いろいろ使える可能性がありそうだ。

 だが、ここでも問題が続出。まず、デフォルトのWDMドライバの状態で、利用可能な入出力を見てみると、入力がステレオ3系統の計6ch、出力が4系統の8chとなっている。このRealtek「ALC860」というチップでは出力は6chまでだったのでは……といった疑問を持ちつつも、しっかり表示されているから、ちょっと期待してみた。

 しかし、6in/8outに設定後、アプリケーションの再起動を促されるので、いったん終了後、再度起動するとエラーメッセージが出る。なんでも「入力が使えない」というのだ。とりあえず、入力が使えないままでデータを読み込み、再生ボタンを押してみた。すると、すぐにオーディオエンジンがオフになってしまい、まったく再生できない。そういえば、AC97の場合もWDMドライバを使った時にも似た状況だった。結局それと変わりがないというわけだ。

「ALC860」の出力は6chのはずだが、8chと表示されている 再度起動するとエラーメッセージが出てしまう

ASIOドライバでは、まったく利用できない

 では、ASIOドライバは搭載しているのか? SONAR3をASIOドライバのモードにしてみたら、やはりというか、当然というかASIOドライバには対応しておらず、まったく利用することはできなかった。

 まあ、MMEモードにするとSound Forgeの時と同様に使うことはできたが、これではまったく意味がない。結局、SONAR3ではHD Audioを使うことができなかった。そしてSONAR3で使えないということは、ほかのDAWソフト、波形編集ソフトでも利用不可であるというわけだ。

 つまり、32bit/192kHzというスペックは持っているのかもしれないが、その性能を利用したまともな使い方はできないというが現時点での結論である。


■ HD Audioに対応したアプリケーションを使う

 だが、実はひとつHD Audioに対応した面白いアプリケーションが出ている。DVD再生のソフト、InterVideo「WinDVD6 Platinum」だ。パッケージの説明を見ると「これまで別製品で提供されてきたDVDオーディオの再生が、Platinumだけで可能となり、最大192KHz/24bitのオーディオ再生が可能となりました。また、Intel社が提唱する次世代PCオーディオ技術、Intel High Definition Audioもサポート、最大32bit/192KHz(8チャンネル)まで出力が可能です」とある。

WinDVD6 Platinumであっさり再生できてしまった

 前述のように、一般的なソフトでは使えないが、HD Audioに対応したアプリケーションを作れば、その性能を利用できるようだ。さっそく、購入してインストールしてみた。すると、いとも簡単にDVDオーディオの再生ができてしまった。

 手元にあまりDVDオーディオソフトがなかったので、DigiOnAudio2を利用して、24bit/192kHz、24bit/96kHz対応のDVDオーディオディスクを作り、再生させてもしっかりと音が出る。聞いた感じの音質を抜きにすれば、とりあえず再生可能ではある。

 そこで、試しにAC97を搭載したマシンにもWinDVD6 Platinumをインストールし、同じディスクを再生してみたところ、こちらでも再生できてしまう。音質的にも似たり寄ったり。別にHD Audioである必要はないということなのだろうか?

 そこで、メーカーに確認してみたところ、「AC97などの場合、ダウンサンプリングされてしまうが、HD Audioならば24bit/192kHzのまま再生できる」という回答が得られた。確かに設定タブを見ると、「24bit/96kHzデコードを有効にする」というチェックマークがある。192kHzはどうなってしまったかなど、イマイチわからない点もあるが、とりあえずこれをチェックしてみたが……とくに変わった気配はない。

 さらに、再生している状態で情報タブを見てみると、Streamの項目で24bit/192kHzデータを再生しているとなっているが、出力は16bit/48kHz。ここではDirectSoundドライバが設定してあるが、Waveドライバ=MMEを選択しても状況は変わらない。とくにほかに設定項目も見当たらないので、本当にダウンサンプリングしていないのか怪しいところではある。

「24bit/96kHzデコードを有効にする」というチェックマークがある 本当にダウンサンプリングしていないのだろうか……?


■ オーディオ性能もチェック

 以上のような状態なので、「現状においては32bit/192kHzというスペックは意味なし」と言い切っていいのではないだろうか。

 最後にひどい結果になりそうなことは予想しつつ、オーディオ性能チェックをしてみた。リアのラインインとラインアウトを直結して、いつものように24bit/48kHzでのチェックをした。

 まずノイズレベルについてだが、先ほどのSound Forgeの録音レベルメーターでは-40dBほどのノイズに見えたが、そこまでひどくはなかった。かなり大きいDCオフセットがあったため(そんなにあるのも問題だが)、DCオフセットを取り除いて拡大したところ、-80dB程度のノイズレベル。安物のサウンドカード程度の性能は認められる。

 続いて、サイン波の実験。こちらは、参考値のS/Nが21.41dBといった結果。これまでいろいろなオーディオインターフェイスを見てきたが、過去最低といった感じである。さらに期待をせず、スウィープ信号の実験をしていた。その結果、19kHzを超えたあたりから柔らかくレベルダウンする形になった。まあ、そんなところだろう。

ノイズレベル 1kHzサイン波 スウィープ信号

 ついでに、RMAAを使っての実験もしてみた。こちらは、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでテストしてみたが、当然のことながら結果はさきほどのものと似た感じではあった。

48kHz 96kHz 192kHz

 以上、HD Audioについて、いろいろとチェックしてみたがいかがだっただろうか? まあ、あくまでも試したのがマザーボード搭載のハードウェアであること、ドライバもまだ初期のものであるため、これがHD Audioの性能のすべてを示すものでは決してない。

 しかし、各オーディオインターフェイスメーカーは、あまり興味を示していないため、今後すぐにHD Audio対応の外部接続デバイスが出てくるとは思えないし、出てきたからといってドライバやソフトなどの周辺環境が整わないと、大きな意味もなさそうだ。


□インテルのホームページ
http://www.intel.co.jp/
□ニュースリリース(英文)
http://www.intel.com/pressroom/archive/releases/20040108corp_b.htm
□HD Audio解説ページ
http://www.intel.co.jp/jp/developer/design/chipsets/hdaudio.htm
□関連記事
【9月6日】【DAL】Intelの新規格「HD Audio」を検証する
~ 前編:対応マザーボードを使って環境を構築 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040906/dal159.htm
【6月22日】多和田新也のニューアイテム診断室
LGA775プラットフォームがいよいよ始動
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0622/tawada22.htm
【1月9日】Intel、次世代PCオーディオ規格「High Definition Audio」
-192kHz/32bitマルチチャンネルに対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040109/intel1.htm

(2004年9月13日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.