大河原克行の
【第3回:シャープ】液晶を軸に据えるデジタル家電事業
■ 「液晶のシャープ」へ
シャープのデジタル家電事業の柱は、なんといっても液晶事業である。「亀山ブランド」という言葉がデジテル家電の世界で使われはじめているように、液晶の最先端製生産設備であるシャープ亀山工場を柱に、シャープ最大の液晶生産拠点となる三重工場、次世代液晶開発など担う天理工場の3大拠点を通じた国内生産にこだわり、AQUOSブランドによる液晶テレビ事業を加速させている。
そのシャープが掲げるのが、「2005年までに国内のカラーテレビをブラウン管から液晶に置き換える」という方針だ。'98年、シャープの町田勝彦社長はこう宣言し、「液晶のシャープ」のイメージづくりと、液晶を中核に事業を拡大・成長させていく液晶スパイラル戦略の展開へと乗り出した。
シャープの中武成夫専務取締役は、「この方針は、多くの社員が翌日の新聞報道を通じて知ったはず。まわりからは夢物語ともいわれた。しかし、液晶事業の担当部門としては、よくぞそこまで言ってくれた、という気持ちが強かった」と、当時の社内の雰囲気を語る。
かつてのシャープのテレビ事業は、自らブラウン管を生産していないことが弱みとなっていた。開発陣が奮闘しても、他社とは圧倒的な差が創出できないばかりか、結果として、価格競争に陥ったり、あるいは安売りの対象となったりと、「安売りのシャープ」というイメージがついてしまった。当然、テレビ事業は採算の悪化に苦しむことになる。
そこでシャープが社運をかけて挑んだのが、液晶電卓などで培ってきた液晶技術をテレビに展開するということだった。いまでこそ、年間750万台の市場規模に到達した液晶テレビだが、当時のこの判断は先に触れたように「夢物語」との指摘があるほど、大きな挑戦となった。 中武専務取締役も、先ごろ開催された国際デジタル会議の講演で、次のように話す。
「かつての大型液晶の用途は、そのほとんどがパソコン用だった。だが、パソコン用である限り、画質を優先するテレビの用途に適した液晶パネルを開発するのは難しかった。視野角、コントラスト、応答スピード、価格といったすべての面において改善が必要なほど大きな壁が立ちはだかった。」 液晶とひとことで括ることはできても、その用途によって求められる要件は明らかに違う。パソコン用に求められた汎用的な性能ではなく、テレビではより独自性の強い技術を盛り込むことが必要だった。 「テレビを液晶に置き換える方針はできた。その後どうするかは自分たちで考えろ、というのが事業部に課せられた課題だった」というわけだ。当然、液晶テレビの大型化を視野に入れた新たな生産設備の構築も急務となった。
■ クリスタルトライアングルを完成 その後、同社はテレビ用大型液晶のを緊急プロジェクトに指定。その開発に取り組んだ。天理工場での開発を経て、2000年8月には三重工場内に、当時最先端の第4世代の液晶パネル工場を第2工場として稼動。2001年1月にはAQUOSの第1号機となるCシリーズを投入することに成功した。 しかし、2005年にすべてのカラーテレビを液晶に置き換えるということを狙うのであれば当然のことながら、三重第2工場の生産だけでは追いつかない。同社では、新たな工場建設に向けての検討を開始した。 当初の計画では、現在、三重工場でシステム液晶などを生産している第3工場の用地を利用することが構想にあがっていた。だが、より大型の生産ラインを構築するにはこの用地では現実的に無理だとして、新たな用地を確保することで検討を開始したという。 もちろん、この検討の段階では海外での用地取得も検討課題にあがった。巨大な土地面積、水道/電気/ガスのインフラ、材料を運搬する基盤となる交通アクセスの問題、税制面における優遇措置などから見て、その条件に合う候補地はあったようだ。 だが、シャープは、液晶パネルの生産からセットに至るまでの垂直統合型の一貫生産体制にこだわったこと、そして、天理、三重という既存の生産拠点からのアクセスの良さを考慮し、亀山での用地取得を決定した。亀山の立地は、天理工場から1時間、三重工場からも50分という距離にある。 シャープでは、この3つの拠点を「クリスタルトライアングル」と呼び、集積化によるメリットを訴える。また、加えて、三重県にはクリスタルバレー構想があり、亀山地域を中心に、液晶パネル生産、部材、装置といった液晶関連企業が集まっている点も見逃せない。
「2001年には42社だった液晶関連企業が、現在は68社に増えている。装置にトラブルがあった場合も、従来ならば一日、半日の時間が必要だったが、1~2時間で復旧することができる。この点でも亀山に生産拠点を置いたメリットは大きい」(中武専務取締役)。
■ シャープが一貫生産にこだわる4つの理由
シャープの液晶テレビは、それまでは三重工場で生産した液晶パネルを栃木県矢板市のテレビの生産拠点に輸送し、最終製品として組み上げて市場に流通するという仕組みだった。これを亀山ですべてやることで、こうした問題をすべて解決しようというわけだ。
■ 大型液晶テレビ事業を支える亀山工場
亀山工場が稼動したのは、2004年1月。当初の計画から4か月前倒しでの稼動となった。 33万平方メートルの敷地は東京ドーム7個分で、土地、建物、設備などに対する総投資額は約1,500億円。1,500mm×1,800mmのパネルサイズとなる第6世代の生産技術を投入することで、1枚の液晶パネルから、26型テレビ用のパネルで12枚、37型では6枚のパネルが取れる。 当初は月産1万5,000枚だったが、今年8月から第2期生産ラインが稼動したことで月産枚数は2万7,000枚に拡大。さらに来年春には第3期ラインが稼動することで月産4万5,000枚に拡大する。 しかし、「液晶パネルの事業はまだ3合目のレベル」(中武専務取締役)というように、同社の液晶生産に対する需要はますます拡大基調にある。それに合わせて、今後は亀山第2工場の建設にも乗り出すとの見方もある。その動きに対して町田社長は次のように話す。
「今後の当社の事業計画から逆算すると、2006年度末には次の生産拠点が欲しいという計算になる。だが、既存設備の生産効率の上昇なども進めたい。生産技術の進化、投資のタイミングなどを見計らって、今年末にはそのあたりの結論を出したい」と慎重な姿勢を見せる。
亀山ブランドが市場に定着することで、シャープの液晶テレビの位置づけや、AQUOSフランドが、プレミアムブランドへと進化することになる。
ブラウン管テレビでは「安売り」と称されたシャープが、液晶テレビでは高級ブランドへと転換した。このマーケティング戦略も、同社の液晶テレビ事業の成功へとつながっている。
□シャープのホームページ (2004年9月16日) [Reported by 大河原克行]
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