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第38回:CEATEC会場レポート その1
~ビクター4K2Kスーパーハイビジョンやキヤノン/東芝の「SED」~


 10月5日より幕張メッセにてCEATEC 2004が開幕した。今回の大画面☆マニアでは、このCEATEC 2004にて展示された大画面映像機器にスポットをあてて紹介していきたいと思う。


■ 日本ビクターブース~ハイビジョンを超えたハイビジョン
  スーパーハイビジョンシステムやフルHD46型液晶テレビなど

4K2K映像を撮影することが可能なビデオカメラ

 日本ビクターのシアターコーナーでは、NHKとの共同開発で実現したスーパーハイビジョンシステムの展示が行われている。スーパーハイビジョンは現行の1,920×1,080ドットで実現されるHD映像、いわゆるハイビジョンを超えた…… という意味合いから付けられた名称だ。

 デモンストレーションは2部構成。最初に上映されるのは4K2Kシステムと略称されるスーパーハイビジョンシステムの映像だ。

 3,840×2,048ドットの「4K2Kカメラ」で撮影された現行HD映像(1,920×1,080ドット)の4倍の超高精細映像を大容量「4K2Kビデオサーバー」にストック、これをビクターが誇る「4K2K D-ILAプロジェクタ」にて300インチスクリーンにて投射する。

 D-ILA(Direct-Drive Image Light Amplifier)はいわゆる反射型液晶、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)パネルのビクターブランド名称。ビクターはこのLCOS製造に関しては先駆的メーカーで、プロジェクタ製品は業務用ではあるが'97年から量産している。

 今回のデモンストレーションで用いられていたプロジェクタは2年前より発売されている「DLA-QX1」をベースにした改造試作モデル。DLA-QX1に用いられていたD-ILAパネルは2,048×1,536ドット(QXGA)解像度であったが、これを昨年発表した新開発の1.7型4,096×2,160ドット(4K2K)解像度の885万画素パネルに置き換えている。

 300インチの画面サイズと圧倒的な解像感の合わせ技は、まさに視界の再現を達成しており、ハイビジョンに見慣れた人をもうならせるパワーがある。

右端が4K2K解像度のD-ILA素子 4K2K映像を撮影することが可能なビデオカメラ
300インチ画面にて投射された4K2Kのスーパーハイビジョン映像。写真では分かりにくいが草木の一本一本の細部までが精細に描かれていた。

8K4Kシステムのデモ

 続いて行なわれたのが、さらにその4倍の解像度をもつスーパーハイビジョンシステム。こちらの画素数は実に3,200万画素。すなわち現行のHD映像(1,920×1,080ドット≒約200万画素)のなんと16倍の解像度を持つ超高精細映像システムの上映だ。

 カメラの解像度は7,680×4,320ドット(8K4K)。カメラの撮像素子はビクター独自の4K2KのCMOSセンサーを採用しているという。それではなぜ4K2Kで8K4Kの映像が撮影できるのか。


スーパーハイビジョンシステム向けに改造されたDLA-QX1が3台縦に積まれている。最上段が4K2Kシステム投射用。下2機が8K4Kシステム投射用。使用されていない投射システムのレンズ前には光漏れを遮断するためのシャッターが備え付けられているのが分かる

 具体的には撮影段階では赤(R)と青(B)は4K2K解像度で撮影し、緑(G)の撮像素子を斜めにずらして擬似的に8K4Kで撮影しているのだという。これは解像度に大きく起因するのがGプレーンだからだ。デジカメなどにおいても全画素のうちG画素フィルタが多いのはこの理由からだ。

 投射時も同様で、この4K2Kプロジェクタを2機使い、1機で赤(R)、青(B)プレーンを投射、もう1機でずらして撮影したGプレーンをやはり同じようにずらして同一画面に重ねて投射する(いわゆるスタック投影)。

 8K4Kシステムのデモは動画が少なく、静止画主体となっていたが、これはシステムができたてで、現在NHKも8K4Kでの撮影を行なっている段階だからだとか。もっと内容的に優れた8K4Kコンテンツについては2005年3月開催の愛知万博にて公開を予定しているのだという。


現行1,920×1,080ドットのハイビジョンの16倍の画素数を持つ8K4Kのスーパーハイビジョンシステム。実際に解像度が上がっているのはGのみなのだが、それでも細部の描写力は4K2Kシステムの上を行くことを実感できる 8K4Kシステムの模式図

□NHKのスーパーハイビジョン解説
http://www.nhk.or.jp/aichibanpaku/super_hi/

左から61インチ、70インチ、52インチモデルが列ぶ。70インチは1,920×1,080ドットのリアルハイビジョン解像度が欲しかったところ

 ブース外郭には、D-ILA素子を使ったリアプロジェクションテレビが展示されていた。展示されていたのは北米発売済みの52インチモデル「HD-61Z795」と61インチモデル「HD-52Z795」、そしてカタログ未掲載の新モデルの70インチモデルの3つ。

 映像エンジンは各画面サイズモデルともに共通のようで、いずれも解像度は1,280×720ドット。一目見てハッとするのは、リアプロとは思えない圧倒的な明るさ。リアプロの常識を越えた500cd/m2の輝度と、コントラスト比1,000:1を達成しているのだ。詳しい技術背景は本連載第30回にて解説しているのでそちらを参照して欲しいが、3板式のD-ILAエンジンを、DLP相当のパルス駆動でドライブしているのが、この性能を引き出せている直接の理由となっている。

 担当者は「今回は、日本での発売を行うかどうかの調査を含めての展示である」といっており、ブースではこのD-ILAリアプロテレビのアンケートを行なっていた。残念ながらの映像ソースのクオリティが低くて、D-ILAリアプロの画質評価以前に「映像が汚い」という感想を持った。これはデモンストレーションとして再考の余地があるだろう。


D-ILAリアプロテレビの52インチモデル。とにかくそのハイコントラスト性が素晴らしい 70インチモデル。大型になってもその輝度性能とハイコントラスト性は衰えていない 日本ビクターは今後D-ILAアプリケーションの拡充を図る。D-ILAリアプロには「HD-ILA」ブランドが与えられる。日本での発売も期待したい

 もう一つ少々奥まったところにさりげなく展示されていたのが、1,920×1,080ドット、リアルハイビジョン解像度をもつ46インチ液晶ディスプレイ。液晶テレビの試作品の展示というよりは、日本ビクター独自の映像エンジン「GENESSA(ジネッサ)」の最新版のデモンストレーションの意味合いが強い。

 きたるリアルハイビジョン解像度では、現在の液晶テレビの主流解像度である1,366×768ドットの約2倍の画素数のリアルタイムピクセル処理が必要になるわけだが、これを新型ジェネッサが実現するというわけだ。

 実際の製品のリリース時期、価格については未定だが、担当者によれば「今回の展示は単なる技術デモではなくて、ある意味新製品の予告の意味合いを持つ」としていることから、近々、リアルハイビジョン対応の新ジェネッサ搭載の液晶テレビの製品発表が行なわれると思われる。


実際の映像。採用パネルは画面サイズと解像度からみてサムスン製と思われる 1,920×1,080ドットのリアルハイビジョン解像度に対応した新ジェネッサ

右から左へ高速にスクロールする映像をデモンストレーション。左が新駆動方式、右が従来のオーバードライブ駆動のみの残像低減。見た目はもちろん、カメラで撮影してもその差が歴然と現れる。この展示セクションには液晶テレビ業界関係者が多く集まっていたようだ

 また、この展示の隣では、従来の液晶パネルと組み合わせるだけで劇的に残像を低減できる新しい液晶駆動方式の提案を行なっていた。

 現行の残像低減技術であるオーバードライブによる画素駆動は画面全域に行なっているとのことで、今回の新駆動方式はそれ+αのことで実現しているという。具体的な技術バックグラウンドについては「今は秘密」と担当者も口が堅かったが、新しい日本ビクター製の液晶テレビには他社との差別化を含めてこれが採用されていくと見られる。



■ 東芝/キヤノンSEDブース
 ~フラットテレビ、本命の第三の刺客「SED」の謎に迫る! 

 フラットテレビといえば、有機ELやリアプロテレビなどの方式もあるにはあるが、現在主流といえばプラズマ、液晶の2方式なのは誰もが認めるところだろう。そんな中、9月14日に電撃的に発表された新方式、それがSED(Surface-Conduction Electron-emitter Display)だ。

 SEDは画素サイズの電子銃から電子を打ち出してこれを画素面に塗布された蛍光体に当てて画素を自発光させる仕組みを採用する。


SEDブース ステージ上にもSED試作機が設置されていた

 今回、たまたまブースにおられたSED開発関係者にお話が伺えたのでその特長と優位性についての詳細を記しておこう。


基本動作概念自体はブラウン管と同じで、喩えるならばRGBの各画素が超微細なブラウン管…というイメージになる

 画素自発光方式と言えばPDPがあるわけだが、SEDの優位性は、まずその発光効率の高さにあるという。各画素に塗布された蛍光体を自発光させるという意味においてはPDPとSEDのアイディアは同一だが、紫外線から発光させるPDPの蛍光体に比べ、電子から発光させるCRT同系の蛍光体のほうが圧倒的に発光効率が高いのだそうだ。

 これは、目先の高輝度性能、ハイコントラスト性能に結びつくのはもちろんのこと、PDPが不得意とする高解像化の達成が容易に行なえるという。これはどういう事か。

 PDPでは、ある画面サイズにおいて、高解像度化、すなわち画素を微細化を推し進めると、当然画素単位の蛍光体の塗布量が減るために各画素の輝度は暗くなる。SEDならば十分な発光効率が得られるので高解像度化がPDPより優位に進められるのだ。

 また、SEDは各画素に隔壁がない構造も高解像度化に優位に効いてくる。PDPでは各画素に希ガスを封入しておく目的と、画素内で発生させた紫外線を隣の画素に影響させない目的で、各画素は小部屋構造になっている。

 具体的に言えば、隣接する画素に対して隔壁(仕切り)が設けられているのだ。製造段階のミスや経年劣化などでこの隔壁に亀裂が生じると、希ガスが漏れたり隣接画素を発光させてしまったりするので、そうなるとその画素は事実上死んだことになる。整理すると、つまり、高解像度化を推し進めたくてもこの各画素の隔壁をある厚み以下にすることは難しく、これもPDPの高解像度化の足かせとなっているのである。

 PDPは前述の発光効率の問題と、この隔壁問題に関してのブレークスルーがないことが大きな要因で、いまだ50インチ前後の画面サイズの量産市販製品ではリアルハイビジョン(1,920×1,080ドット)解像度に対応したパネルが存在しない。

 SEDでは、画素表示面に相対する電子銃部分からの電子打ち出しによって発光するので隣接する画素への影響はないため隔壁が不要なのだ。そしてこの隔壁が無いために高解像度化、画素の高精細化が物理的に容易というワケなのだ。さらに補足すると、ブラウン管では電子銃からの電子軌道を偏向させるための電磁機構(偏向ヨーク)が組み込まれているが、各画素の電子銃は電子を直進方向に打ち出すだけでいいためにこの機構は必要ない。各画素の構造はPDPと比べてかなりシンプルなのだ。

 さて、SEDは、省電力性能にも優れていると言うが、これはどうしてだろう。各画素に電子を打ち出す機構が盛り込まれていると言う構造が消費電力が高そうなイメージを連想させる。

 その電気を喰いそうなSEDの各画素内の微細電子銃だが、ブラウン管と違って、SEDでは電子ビームを打ち出す距離がミリの領域であり、劇的に短い。そのためブラウン管に比べて圧倒的に小さい電圧で打ち出せばいいのだという。

 最後に画質面においての優位性理由について聞いてみた。

 発光効率がよいので高輝度性能なのは分かりやすいが、色再現性についてはどうなのか。PDPでは明滅頻度を変化させる時間積分的な階調表現を行なっているために、暗部階調表現でざわつき感が出たり、動きのある映像で疑似輪郭が出る弱点を持つ。

 各画素が自発光するという点でPDPに似たイメージのあるSEDだが、各画素の階調性は蛍光体に打ち出される電子量の強弱を変化させる、いわばアナログ的な制御が行なわれるため、暗部から明部まで非常にリニアな階調表現が得られるのだ。各画素がその瞬間にその色を出すために疑似輪郭も原理上出ない。ブラウン管に近い色再現特性…というのはまさにその通りなのである。

 残像についてはどうなのか。

 SEDでは、ブラウン管と同系の非常に単残光特性の蛍光体を用いているため、言葉で言うならば電子が当たった瞬間しか光らない特徴を持つ。つまり、あるフレームで発色していた画素が次のフレームで黒色となったときも、残光無しに黒色表現が出来るために、残像の少ない、なおかつ沈み込んだ黒色表現が行えるのである。

 では、SEDに弱点はないのだろうか。

 当面の課題は量産性についてだという。量産性が良い悪いという議論ではなく、全く新しいデバイスであるが故に「どのくらいのコストで生産できて、製品価格はこれくらいになる」といった見通しを立てにくいという。

 実際のSED製品は、パネルが2005年より量産が開始されることから、2005年後期にはプレミアム製品(少量でやや割高)が登場すると見られている。価格については未定としながらも「同画面サイズPDPに対して競争力を持たせたい」とのことだった。

ブース内シアターではPDP(左)、SED(中央)、液晶(右)との画質比較デモが行なわれていた 赤の発色が素晴らしい。PDPの朱色と比べて鋭い発色の赤になっている。SEDの表示は全フレーム同時表示ではなく、順次走査系のためか、前出の写真もこの写真もご覧のような走査線が見える。これが弱点として指摘される可能性もあるか? ブース内シアターではデモ映像表示中、リアルタイムにその消費電力の掲示を行なっていた。上からSED/液晶/PDP。SEDは液晶と比べても省電力な点に着目


■ パナソニックブース
  ~民生向け量産市販製品としては世界最大の65インチPDP

VIERAシリーズのフラグシップTH-65DX300

 パナソニックブースには10月1日より発売が開始されたばかりの、量産市販製品としては世界最大画面サイズのプラズマディスプレイ(PDP)「TH-65DX300」が展示されていた。

 サムスンやLG電子といった韓国メーカー勢が巨大PDP競争に躍起になっていた中、パナソニックやパイオニアと言った日本勢は冷静にコンベンショナルなモデルの投入を続けていたわけだが、ここにきてのいきなり世界最大宣言はかなりセンセーショナルと言える。

 受注生産ではあるが、民生機としての設定になっており、VIERAシリーズとして販売、VIERAのカタログにも記載される。「民生向け世界最大」にウソ偽りはないというわけだ。価格は税込み2,079,000円。

 パネルの基本構造自体は、現行VIERAと同一世代のもの。つまり、今年春に発表となった現行VIERAより搭載されている、リアルタイム3Dガンマの発展形「36億2,000万色」PEAKSエンジン、特殊光学補償フィルタによる黒の沈み込みを実現する「リアルブラッククリエーション」などのVIERA看板機能は全てTH-65DX300にも搭載されている。

 注意すべきはTVチューナ類が一切付属していないこと。TH-65DX300は「純粋なディスプレイ製品」であるため、テレビとして活用するためには別途チューナーを用意する必要がある。また、接続端子はアナログRGB端子、アナログビデオ系端子のみでHDMI入力やDVI入力に対応していない点は、50インチ以下のVIERAと比べ見劣りする部分といえなくもない。

 さらに言えば、65インチサイズでパネル解像度が50インチVIERAと同じ1,366×768ドットという720p解像度というのも価格と画面サイズからすれば少々残念なところだ。

画作りは現行VIERAゆずり。サブピクセルコントローラの効果もあって、1366×768ドットのスペックパネル解像度よりも高い解像感が得られていた

 「なぜ65インチで1,366×768ドットなのか」という質問を担当者にぶつけてみたところ、「PDPのような自発光のディスプレイ機器は画素密度を上げれば画素サイズが小さくなるので発光効率が落ちて暗くなる。65インチという画面サイズを考えた場合、1,366×768ドットという解像度は、得られる明るさとしてのバランスがよかった」という。実際、カタログスペック表には書かれていないが、その甲斐あってTH-65DX300はコントラスト比3,000:1、最大輝度は1100cd/m2を達成できているという。

 さらに200万円超の65インチだからこそ、リアルHD(1,920×1,080ドット)対応が欲しかった、という筆者の意見に対しては「65インチサイズと言うこともあってリアルHD解像度対応への要望はたくさん寄せられているのは理解している。現行技術のままでのリアルHD化はどうしても暗くなってしまいPDPの旨味が訴求できない。パナソニックでは画素セルに塗布する蛍光体や、封入する希ガス素材などの研究による技術ブレークスルーを探求しており、時期は明言できないが近い将来、必ずPDPのリアルHD化は実現される」という頼もしいコメントが得られた。

 我々、大画面マニアとしては、「民生市販製品PDPとして世界初のリアルHD対応」の実現も、パナソニックに期待することにしよう。


□CEATEC JAPAN 2004のホームページ
http://www.ceatec.com/

(2004年10月6日)

[Reported by トライゼット西川善司]



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