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第167回:3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~



 この年末、「Logic」、「CubaseSX」、「SONAR」の3大DAW(Digital Audio Workstation)ソフトがメジャーバージョンアップする。このジャンルのソフトは成熟期に入ったとも言えるのだが、各ソフトがどんな点を強化し、ユーザーにとってどのようなメリットをもたらしているのかを、年末に向けてそれぞれを紹介していきたい。

 今週は3つの中で一番最初にリリースされる「Logic Pro 7」を取り上げる。


■ LogicとGarageBandの関係

 Logicはご存知のとおり、独Emagicが10年以上の歴史をかけて育ててきたDAWソフトだ。もともとはATARI用に「Notator SL」という譜面作成中心のソフトとして誕生した後、Macintoshへ移植されるとともに「Nortator Logic」、「Logic」と名前を変えて進化してきた。また、その進化の途中でWindowsへも移植されたが、2002年7月、AppleがEmagicを買収したのに伴い、Windows版を廃し、Mac用1本に絞ったMac専用のDAWソフトとなった。

Logic Pro 7

 それから約1年半。ついにEmagicブランドが取れ、AppleブランドとしてLogicの新バージョン、「Logic 7」が登場した。ラインナップ的には前バージョンと同様に上位の「Logic Pro 7」と下位の「Logic Express 7」の2本を用意。価格はそれぞれ102,900円、31,500円(アップグレード料金はそれぞれ31,500円、10,290円)という設定である。

 AppleがEmagicを買収した後、Macintosh上でのDTM文化には大きな変化があった。それはなんといっても「GarageBand」の登場だろう。GarageBandの中心機能であるループシーケンスそのものは、はるか以前にWindows上でACIDが実現したものだから、そう珍しいものではないが、オーディオのループシーケンスとソフトシンセを使ったMIDIのループシーケンスをシームレスに統合し、各種エフェクトも利用可能とした上で、なんといっても無料で出してしまったというのは画期的なことだった。

 正確にいえば無料という表現は正しくないが、最新のMacintoshには標準でバンドルされ、既存ユーザーでも「iLife04」というたった6,090円のソフトの一機能として出してしまったので、限りなくタダに近いといっても言いすぎではないだろう。

 GarageBandによって、MacintoshはDTMのエントリーユーザーを大幅に増加させたわけだが、今回のLogicの登場は、彼らGarageBandで育ったユーザーの次のステップとしてどう位置づけられているかが最大のポイントとなる。


■ GarageBandとの互換性があり、データを発展させられる

 GarageBandであまりにも簡単に曲作りができてしまうため、次のステップであるはずのLogicは従来、非常に敷居の高いものであったことは事実だ。それはLogicに限らずDAW全体にいえることだが、とくにLogicは独特な哲学を持ったソフトなので、初心者にはさっぱりわからないことも多かった。しかし、今回のLogic 7では、そこが大幅に改善されている。

 Logic自体は前バージョンで完成の域に入っていたこともあり、ブランドが変わりLogic 7になっても、DAW本体の機能やユーザーインターフェイスはあまり変わっていない。しかし、そこにGarageBandと同等の機能を装備したのは大きなポイントと言える。つまり、AppleLoopsに対応したオーディオとMIDIのループシーケンス機能を装備したのだ。

GarageBandと同様のループブラウザを備えている

 他のDAWでは、SONARはもともと装備していたし、CubaseSXも今回のバージョンアップで対応するので、世の流れともいえるが、LogicではGarageBand互換となっているのが特徴となっている。

 つまり、GarageBandと同様にピアノ、ギター、ドラムといった楽器名やカントリー、オーケストラ、ジャズといった曲ジャンル、さらにはドライ、激しい、明るい雰囲気といった曲風などを選ぶだけで、それに対応するループが探し出せるようなループブラウザを装備している。AppleLoopsもACID対応WAVファイルも基本的には同じようなものだが、AppleLoopsは各種メタデータが埋め込まれているので、簡単にデータ検索ができるようになっている。

 もちろん、GarageBand互換というのは、ユーザーインターフェイス面だけではない。GarageBandデータのインポート機能を持っており、データを読み込むことができる。しかも、LogicにはGarageBandと同じソフトシンセ、エフェクトも装備されているから、完全にサウンドを再現できる。

GarageBandと同じソフトシンセやエフェクトも搭載している

 これはLogic Pro 7、Logic Express 7ともに共通だが、LogicでGarageBandデータを読み込んで何か意味があるのだろうか? 実は、GarageBandではループデータのコードと途中で変えるといったことはできないが、Logicならばそれが可能。もちろん、数多くのMIDI、オーディオのトラックも備えているから、それらと組み合わせることによってGarageBandで作った曲を発展させることができる。


■ システム的な目玉は分散処理機能

 DAWを活用するにあたって、一番の問題となるのがCPU負荷だろう。MIDIと違ってオーディオになると、やはりそれなりの処理速度が要求される。また16bit/44.1kHzならともかく、24bit/96kHzさらには24bit/192kHzもとなると、そのデータ容量はもちろん、演算処理も重くなる。

 さらに、プラグインのソフトシンセやエフェクトで必要となる処理能力も大きい。まあどんなソフトシンセ、エフェクトを使うかにもよるが、最近のソフトシンセはかなり高機能、高性能なものも登場してきており、非常に大きなCPUパワーを食う。したがって、多くのソフトシンセやエフェクトを同時に動かすと、DAWは限界を超えて止まってしまうのだ。

 それに対処するため、さまざまな工夫が行なわれている。そのひとつはフリーズ機能。予めソフトシンセやエフェクトでの演算を行なってオーディオデータ化しておくことで、リアルタイムに必要となるCPU負荷を減らすというもの。もちろん、Logicにも以前からそうした機能が用意されていた。

 また、CubaseSX、NUENDO用にはSteinbergがVST System Linkという分散処理技術を打ち出している。これは、S/PDIFやadatなどのデジタルオーディオケーブルを利用してネットワークを組み、ここで特殊処理をすることでMIDIデータやコントロール信号をやりとりし、負荷分散する。

 それに対し、今回Logic Pro 7で搭載された新たな方式は、Gigabit Ethernetを用いてLANで負荷分散するというもの。具体的にはパッケージにバンドルされている「Logic Node」という軽いアプリケーションをLANに接続している各マシンにインストールするだけでOK。あとは、ソフト側が自動的に最適化してくれ、負荷が分散される。そのため、例えばLogicを動かすフロントエンドにiBookを用い、バックエンドで複数のG5を動かし、非常に重たい処理をiBookから行なうことが可能になる。また、このネットワークはGigabit Ethernetだけでなく、FireWire接続でも同じことが行なえる。

 残念ながら手元に複数のG5マシンなどがなかったので試していないが、先日行なわれたAppleでの発表会でデモを見た感じでは、接続するだけで、CPU処理能力が一気に増えていたのが確認できた。こうしたオーディオの分散処理では、いかにレイテンシなく行なえるかというのが焦点になるが、高速なネットワークを活用してコンピュータそのものを繋いでしまうと発想はコンピュータの王道とも言える。今後、各社がどのような方法を打ち出してくるか楽しみなところだ。


■ Logic Pro 7で最大の見所は新ソフトシンセSculpture

Sculpture

 GarageBand互換機能や負荷分散機能というのもすごいが、多くの人にとってLogic Pro 7を導入する際の最大の魅力はプラグイン機能が充実したことだろう。中でも最大の目玉はSculpture(スカルブチャー)という新音源だ。

 これは物理モデリング型の音源だが、アナログのレトロシンセをモデリングするというものではない。弦楽器を物理的に計算、シミュレーションして音を出すというもの。膨大なパラメータがあり、最初、何からどう手をつけていいかわからないが、2、3点のパラメータを覚えると、ドラスティックな音作りが可能となっている。

 このSculptureの基本的な考え方は、まず弦の素材として、ナイロン、スチール、木、ガラスの中から何を選ぶのかを選択した上で、その素材をバイオリンのように弓でこするのか、爪弾くのか、吹いて鳴らすのか……といった「音の出し方」を選択する。さらに、その音を共鳴させるものとして、どんな大きさのどんな形のものなのかを指定することで、音を作り出すというシンセサイザになっている。したがって、この3つのパラメータをいじれば、まったく違うサウンドが作り出せる。

 ナイロンとスチールの中間素材を設定することも可能であり、アタック部分はナイロンを弓で擦る音だが、それ以降はガラスを吹いて鳴らす音にするといった組み合わせも可能。そうした組み合わせがよりスムーズに行なえるよう、モーフィング機能というものも用意されている。

VL音源用のエディタ

 ところで、今回Sculptureの話を聞き、実際にモノを目の当たりにして「おやっ」と感じたのはYAMAHAのVL音源との関係。YAMAHAでは10年前にStanford大学と共同でバーチャルアコースティック音源というものを開発し、'93年にモノフォニックで47万円もする「VL-1」というシンセサイザを発売している。まさに特許のかたまりといったものだったが、その後「VL-70m」、「PLG150-VL」などVLシリーズをリリースするとともにXG音源と組み合わせた「Sondius-XG」というライセンスの仕組みを作り、コルグをはじめとするいくつかの企業へと提供してきた経緯がある。

 SculptureはそのVLシリーズと非常に近いコンセプトとなっているが、これを見る限りVLという表示もSondius-XGといった表記もない。VL音源の場合、弦楽器だけでなく管楽器のマウスピース部分もシミュレーションしていたので、やはり違うものなのだろうが、どういった関係になっているのか興味深いところだ。

 実際に音を出してみると、CPU負荷は高いがなかなかすごい音源だ。もちろんフィルタやエンベロープジェネレータなどもいろいろ備えたシンセサイザになっているので、使い込めばかなりいろいろな音作りができそうだった。


■ ほかにも、いろいろなプラグインや新機能を装備

'80年代風のドラムマシン「Ultrabeat」

 このSculptureのほかにも「Ultrabeat」という'80年代風のドラムマシンも装備している。PCM音源ではなく、2つのオシレータとノイズジェネレータ、そしてリングモジュレータをサウンドソースとし、それにフィルタで音色を変化させたり、歪み系を中心としたエフェクト、そしてエンベロープジェネレータなどで構成されているアナログ系の音源だ。自由に音作りができるが、もちろんプリセットも数多く用意されているので、TR-808/909風なサウンドなどが楽しめるようになっている。また、Logic本体と同期する形でのステップシーケンス機能も装備されているので、本当に昔のドラムマシン風の感覚で利用できるようになっている。

 また、プラグインエフェクトで非常にユニークなのが「Guitar Amp Pro」。これは名前のとおり、ギターアンプのシミュレータで、アンプの音、そしてアンプで歪ませた音を作り出すことができる。もちろん、すでにできあがっているトラックにかけることも可能だし、外部からのギター入力にリアルタイムでかけて利用することもできる。

 アンプシミュレータ自体そう珍しいものではないが、このGuitar Amp Proでユニークなのはアンプの音をマイクで拾って、ラインに戻すリアンプが可能であるということ。実際のライブやレコーディングなどでは必ず使われる手法で、アンプの前にマイクを設置して音をとるのだが、当然マイクに何をつかうのか、その設置位置、方向によっても音は大きく変化する。それに対し、このGuitar Amp Proでは、コンデンサマイクを設置するのか、ダイナミックマイクを置くのかなどを自由に決められ、それによっての音の違いが楽しめるのだ。これだけでも、かなり価値のあるエフェクトといえるだろう。

Guitar Amp Pro CapsLockキーボード

 以上、新機能を中心にLogic Pro 7を紹介したが、上記にあげた以外にも、Macintosh本体のキーボードをMIDIキーボードのように利用できる「CapsLockキーボード」や、なぜか今回のバージョンではじめて搭載されたトラックのソロ機能など、細かな点でもいろいろと改良されている。従来のLogicユーザーのバージョンアップにお勧めなのはもちろんだが、GarageBandでこの世界に目覚めた人にとっても新しい道ができたといってもいいだろう。


□アップルコンピュータのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□「Logic Pro 7」製品情報
http://www.apple.com/jp/logic/index.html
□「GarageBand」製品情報
http://www.apple.com/jp/ilife/garageband/index.html
□関連記事
【2003年10月27日】【DAL】各社の新製品が登場した「2003楽器フェア」
~ YAMAHAの「O1X」や、Rolandの「SONAR3」などに注目~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040913/dal160.htm

(2004年11月8日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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