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カラー液晶搭載の縦型HDDプレーヤー
新UI「プラスタッチ」の使い勝手は?
東芝 「gigabeat F20」
発売日:11月下旬発売
標準価格:オープンプライス
実売価格:39,800円


■ カラー液晶でiPod追撃? 新gigabeatは縦型に

パッケージ

 iPodシリーズの快進撃を例に挙げるまでもなく、HDD搭載のミュージックプレーヤーの盛り上がりぶりは、今年の大きなトピックだろう。

 海外メーカー中心の市場に、国産大手メーカーとして先陣を切って「gigabeat G20」が投入されたのは、2003年10月のこと。それから1年後、gigabeatは新たなラインナップとして縦長、カラー液晶搭載のモデルを投入してきた。それがこのgigabeat Fシリーズだ。ラインナップは10GBの「F10」、20GB容量の「F20」、60GB容量の「F60」の計3モデル。F10はホワイト、アクアブルー、ロゼピンクの3色、F20はシルバー、アクアブルー、ロゼピンクの3色とカラーバリエーションを揃えてきたあたりも力の入れようを感じ取ることができる。

 今回は中位機のF20をレビューする。発表当初は4万円台半ばでの市場投入が予測されていたが、市場の趨勢に合わせて実売価格は39,800円程度になっている。iPod 20GBと比較すると、約5,000円高いことになるが、カラー液晶や新型タッチセンサーUIの採用など独自機能の搭載が目新しい。


■ 質感の高いボディ。QVGAカラー液晶はまるでケータイのよう

同梱品

 F20はホワイトアルマイト塗装のアルミボディを採用している。マットな手触りでなかなか質感がよく、汚れにも強そうだ。

 液晶周りのロゼピンクの部分はプラスチック素材で覆われており、ディスプレイには2.2型240×320ドット(32,768色表示)のTFTカラー低温ポリシリコン液晶を搭載。サイズ、縦横比とも現在出回っているケータイの液晶と同程度といったところだ。

 特徴的なのは、本体中央部に配置された十字型のタッチパッド「プラスタッチ」。ジェスチャー、タップ、長押しなどのアクションで細かい機器のコントロールが可能で、これまでのgigabeatとは大きく異なる操作系になった。対応フォーマットは、従来機種と同じWMA/MP3/WAV。Windows Media DRMもサポートしている。

2.2型のQVGAカラー液晶を搭載。タッチセンサー式のパッドコントローラ「プラスタッチ」で操作する 右側面にPOWER/MENU、ボリュームボタンを装備 すっきりした左側面
ヘッドフォン出力やHOLDスイッチを上部に備える 下面にUSBやオプションのクレードル接続用コネクタを備える 背面。SRS WOWのロゴが大きく入っている

第4世代iPodとの比較。スペック的にはgigabeat Fが数mmずつ大きいものの手に持った印象はgigabeatの方がスリムに感じる

【主な仕様】
  gigabeat F gigabeat G
(参考)
Zen Touch
(参考)
第4世代iPod
(参考)
HDD 10GB
20GB
60GB
5GB
10GB
20GB
40GB
20GB20GB
40GB
対応フォーマット MP3
WMA
WAV
MP3
WMA
WAV
MP3
WMA
WAV
AAC
MP3
Audible
AIFF
WAV
Apple Lossless
液晶ディスプレイ 2.2インチカラー
240×320ドット
160×86ドット 2インチ
160×104ドット
2インチ
160×128ドット
PCインターフェイス USB 2.0 USB 2.0 USB 2.0 IEEE 1394
USB 2.0
連続再生時間 約11時間 約11時間 約24時間 約12時間
USB充電
リモコン オプション
(F60のみ付属)
付属 オプション オプション
クレードル オプション
(F60のみ付属)
オプション
(G22/40のみ付属)
なし オプション
(40GBのみ付属)
外形寸法
(幅×奥行き×高さ)
63×16×106mm
(F10/20)
63×19×106mm
(F60)
76.5×12.7×89.5mm
(G5/10/22)
76.5×15.7×89.5mm
(G40)
68.6×22×104.6mm 60.9×14.5×104.1mm(20GB)
60.9×17.5×104.1mm(40GB)
重量(電池含む) 160g(F10/F20)
170g(F60)
138g(G5/10/22)
156g(G40)
203g(バッテリ含む) 158g(20GB)
176g(40GB)
価格 34,800円(F10)
39,800円(F20)
64,800円(F60)
29,800円(G5)
34,800円(G10)
39,800円(G22)
49,800円(G40)
29,800円 33,390円(20GB)
44,940円(40GB)



■ カラー液晶は魅力。プラスタッチの操作性には疑問も

アーティストやアルバム、ジャンル、プレイリスト、フォルダから再生指定が可能

 操作は本体右のMENUボタンとプラスタッチを組み合わせて行なう。電源を投入するとトップ画面が表示され、ここでアルバム/アーティスト/ジャンル/プレイリストなどから楽曲検索が行なえる。アルバムや楽曲を選択し、プラスタッチ中央から右側をクリックすると再生が始まる。

 また、再生操作中にPowerボタンを押すとトップ画面が呼び出され、プラスタッチの上下で選択して他のアルバムなどに移動できる。MENUボタンではフォルダスキップや再生モード選択のほか、ブックマーク登録やSRS WOWなどの設定が行なえる。


ジャケット写真も表示可能。 再生画面。下部には操作ガイドが表示されている 再生中の背景はノーマル/ボール/スピーカーの3種類から選択可能

 まず電源を投入して一通り触って感じるのは、快適に使うにはプラスタッチへの慣れが必要だということ。好みの問題、慣れの問題と言ってしまえばそれまでの話だが、正直なところ、3日間使ってもまだプラスタッチの操作に馴染めないでいる。

 ちょっと触れただけでは反応せず、ある程度キチッとタップしないと反応しないようになっているのは誤作動防止のためだろうが、「キチッと押す」のと「長押し」の判定基準が微妙で、1回だけしっかり押したつもりなのが長押し扱いになって2つ分、キーが押されてしまう。逆に、今度は慎重にと思っているとタッチが優しすぎて反応しなかったりする。このあたりのさじ加減をつかむのがどうも難しい。

 実はこの問題、第3世代iPodを使っていたときにも悩んだこと。要は私が不器用なだけなのだが、しっかりとしたクリック感がないゆえ、自分の体で覚えるしかない。ここで、「ゼンゼンこんなの問題ない」という人もたくさんいるだろう。しかし、私が使いにくいと思うのも事実。それが直接的な原因かどうかはわからないが、ユーザーインターフェイスにうるさいアップルは、第4世代iPodでボタンをクリック感のあるものに変えてきた。異論を承知の上で、あえて好みの問題で終わらせずにはっきりと言っておきたい。ユーザーの微妙なさじ加減に頼るような操作体系はやっぱりやめていただきたい、と。

 なお、プラスタッチをなぞる、「ジェスチャー」と呼ばれる操作で再生中の画面からライブラリ画面に切り替えることも可能だ。これはなかなか直感的で、左から右になぞると再生中の画面になり、右から左になぞるとフォルダ構成の画面になる。相変わらず、私にとっては百発百中とはいかない操作で、2回に1回は意図しない操作になってしまう。だが、ボタンを少なくする方向に向かっているデジタル機器において、重要なコントロール方法になる可能性のあるインターフェイスであることは間違いないだろう。

 一方、評価したいのは液晶にプラスタッチのどの部分を押すとどういう操作になるのかという操作ガイドが表示される点だ。マニュアルを読まなくても状況に応じて刻々と変化するキーの役割をリアルタイムで教えてくれるこの機能は非常にありがたい。

 本体側面には電源ボタン、MENUボタン、ボリュームボタンに加え、イコライザ設定やアルバムスキップ、ミュート、後述するSRS WOWのオン/オフなどなど任意の機能を割り当てられるボタンが付いている。このボタンをうまく自分好みに設定することでより使い勝手を上げることができそうだ。

 ちなみに操作に対するレスポンスは良好で、gigabeat G20にあったモタつき感はほぼ解消されている。アルバム間の移動や曲のスキップなど頻繁に行なう動作は軽快にこなせる。起動から音楽再生までも約4秒ほどだ。バッテリ駆動時間の公称値は約11時間。実際にF20を満充電し、音量最大にして再生したところ、9時間40分を超える再生が可能だった。音量を最大にしていることを考慮に入れれば、ほぼカタログ値に近い結果が得られたと言ってもいいだろう。


■ 音質はスッキリ、クリア。イコライザとSRS WOWで幅広いチューニングが可能

付属のイヤフォン

 さて、肝心の音質についてだが、イコライジングなど効果をかけずに再生すると、ポーダブルプレーヤーとしては再生レンジも広く、スッキリ、クリアな印象だ。基本的な音作りは以前このコーナーでも紹介しているgigabeat G20と同じといっていいだろう。クセがないので特にジャンルを選ばないとは思うが、あえて言うならクラシックやジャズ、ボサノバのようなアコースティック系のソースとは相性がいい気がする。全体的には情報量が多く、緻密な再生をしてくれる。

 ではロックのようなパワー重視の音楽に向いていないかといえばそうではない。豊富なイコライザー機能を使うことでかなり幅の広いセッティングができる。低音ブーストから、アコースティック、クラシック、ダンス、ヒップホップなどプリセットが28種類、自分好みに設定できるユーザーモードが1種類、合計29種類のエフェクトが利用可能。プリセットの味付けも「いかにも」というようなわざとらしさを感じさせない程度に抑制されており、このあたりは通好みといったところだろうか。

 イコライザーも評価に値するデキだが、それ以上に音質的に大きく貢献するのはSRS WOWだ。SRS WOWは、米SRS Labsが開発した技術で、2chの音声信号で立体音場を生成する「SRS技術」、パイプオルガンの仕組みを応用した低音再生技術「TruBass」、楽器や声の輪郭を明確にする「FOCUS」技術の3つから構成される。ソフトウェアでは、Windows Media Playerに搭載されているので利用経験がある人も多いだろう。

再生モード一覧 豊富なプリセットイコライザ

 本機にはSRS WOW設定が1~3まで用意されているが、説明書に1~3の違い、使い分けに関しての記述はまったくない。個人的な感覚によるものなのであくまで参考程度に留めて頂きたいが、同一ソースでそれぞれのモードを聴いた印象では、設定1ではエフェクトが強めにかかっており、かなりエッジの立った音になる傾向があった。シンバルやカッティングギターのアタック音が、かなりクッキリと浮かび上がってくる。ダイナミックでガツンと来る音だ。長時間聴くには少々ツラい音とも言えるが、効果をオフにしたときと比べると、二階席とアリーナ席ほど違う臨場感は魅力的だ。ただしもともと音圧の高いソースの場合、音がひずんだり、ゆがんだりする現象もあった。一方、設定3は臨場感や迫力、といった方向性ではなく、音にフワッと包まれるような音場が特徴。2,3曲だけ聴くなら断然、設定1だが、ジャンル、聴き手を選ばないのはこちらの方だろう。設定2は、設定1と設定3の中間に位置するものといえる。


■ 転送速度は速いが、リッピングしたデータはPCに保存できない

gigabeat room

 付属ソフトは「Toshiba Audio Aplication(TAA)」から、新たに「gigabeat room」に変更された。筆者がG20を購入した決め手になったのは、動作が重い上に多機能にしすぎて使いづらい付属ソフトを同梱したプレーヤーが多い中、TAAは転送に特化していて動作もそこそこ軽快だったためだ。そういった意味では、リッピングからエンコード、CDDBアクセスまで用意した今回のgigabeat roomには警戒心を持って臨んだが、杞憂だった。転送はこれまでのTAAと同じく、普通にファイルコピーより若干時間がかかる程度で、570MBのMP3データをおよそ70秒ほどで転送できた。

 エンコードはWMAのみの対応で、ビットレートは48~192kbps。しかし、なんとも残念なのはCDから直接gigabeatに音楽は転送できるが、エンコードしたデータをPC上に保存できないのである。おそらくは著作権上の配慮からだろうが、ここで機能を削ることはないだろう、という思いが強い。東芝ではこれを「RipRec」と呼んでおり、初心者にもわかりやすい機能として、セールスポイントのひとつと考えているようだが、「ライブラリに残す」という選択肢も用意して欲しかった。


 また、gigabeat Fではカラー液晶へのジャケット表示が可能で、gigabeat roomでジャケット設定も行なえるのだが、この使い勝手もイマイチ。オーディオデータを選び、[曲情報編集]からジャケット追加が行なえる…… はずなのだが、PC上のライブラリに追加はできないようで、gigabeat上のファイルに直接設定する形になる。また、アルバム単位でジャケットを指定できず、一曲づつの指定となるのでかなり面倒だ。ジャケット表示はカラー液晶の魅力を高める機能だと思うので、このあたりの使い勝手ももう少し向上させて欲しいところだ。

 iTunesやWindows Media Playerのような汎用プレーヤーとは一線を画し、シンプルなインターフェイスとさほど重くない動作はアプリケーションとして決して悪いデキではない。しかし、PC上にデータを残せないので、PC上にライブラリを構築したい人には全く意味のないリッピング機能になってしまっているのは惜しいところだ。

 もっとも、Windows Media Player 9/10(WMP)からも転送が可能なので、MP3やWMAで、PC上でライブラリを作成したい場合は、WMPを利用したほうがいいだろう。また、gigabeat roomには、iTunesやWMPにあるような自動プレイリスト生成機能はない。100曲や200曲レベルではなく、1,000曲以上の膨大なライブラリを抱える宿命にあるHDDプレーヤーにとって、いかに簡単に自分のお気に入りを持ち出し、アクセスできるかというのが重要な点になる。そういった意味でライブラリ管理の生命線になるのが自動プレイリスト生成機能だ。

 この機能は音楽ファイルのタグ情報を最大限有効に活用し、アーティストや曲名、ライブラリの追加日、お気に入り度などクエリーを設定するだけで当てはまるファイルをピックアップしてくれるスグレものだが、gigabeat roomでは対応していないため、試聴シーンにおいて困ることが多い。「とにかく5ツ星付けた曲を全部再生!」とか、「この1週間に追加した曲を再生!」とやりたいと思ったら、自分でシコシコ、プレイリストを作るしかないわけだ。それがイヤなら、WMPから転送するしかない。

 しかし、WMPからだと、gigabeat room使用時より約1.5~2倍ほどファイル転送に時間がかかる。アチラを立てればコチラが立たず。なかなか難しい選択だ。ちなみにgigabeatにはブックマークといって、お気に入りの曲を記憶しておき、すぐに呼び出せる機能が用意されているが、悲しいかな、登録できるのはたったの50曲のみ。やはりWMPに頼らない限り、プレイリストは自作しなければならないようだ。



■ 完成度の高い一品。プレイリスト対応に期待

 ハードの質感も高く、音質的にはほぼポーダブルプレーヤーとして必要な能力は備えている。しかし、個人的に不満なのは、gigabeatに転送したあとのオーディオデータの扱いだ。転送するだけなら非常に簡単だが、転送した音楽を効率よく楽しむソリューションがイマイチで、gigabeat roomのライブラリ管理の機能の弱さがgigabeatの能力を引き出せずにいると感じる。

 今後、自前のソフトで曲管理の方法をもっとつきつめ、トータルでの魅力をアップするか、もしくは最初からWMPなどの他社製プレーヤーに絞り、転送スピードや接続の安定性を高めるか、どちらかのような気がするのだが、いかがだろうか。

 ここまで多少の不満点を交えながら紹介してきたが、これらの不満をすべて帳消し、とまではいかなくとも大部分において「ま、しょうがないか」と納得させてしまう最大の理由は、カラー液晶の表示品質の高さにある。

9月28日の経営方針説明で発表されたgigabeatの将来展開

 まず、QVGAと解像度が高いのでファイルリストを表示させても文字が鮮明だし、任意の画像をジャケット写真としてgigabeatに転送させても面白い。このモデルではデジカメからのデータ吸い上げには対応していないが、将来、そういった性能を持たせても一般コンシューマ向けの用途なら十分にこなしてしまうだけのポテンシャルを持ったハードウェアであることは間違いない。

 さらに、F20ではオプション扱いになるが、専用クレードルにはEthernetやUSBホスト機能まで付いている。iPod Photo、m:robe(MR-500i)を見てもわかる通り、この種の製品のトレンドは単機能から「マルチプレーヤー」へと移り変わっている今、豊富な拡張性とカラー液晶を備えたgigabeatはどういった方向に進んでいくのか。なかなか楽しみだ。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□製品情報
http://www.gigabeat.net/
□関連記事
【9月27日】東芝、カラー液晶を搭載した縦型「gigabeat」
-十字型タッチセンサー装備。業界初60GBモデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040927/toshiba1.htm
【9月28日】東芝、映像事業を中核に“映像の東芝”復活へ
-新RD/face発表会を開催。SEDは2010年に8~10万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040928/toshiba1.htm

(2004年11月26日)


伊藤大地
 1978年横浜市生まれ。元ケータイWatch編集部員。現フリーライター。携帯電話から、パソコン、デジカメ、オーディオまで、ムダ遣い趣味が高じてこの職業に。エンゲル係数ならぬ「IT係数」は負ける気がしません

[Reported by 伊藤大地]


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