【バックナンバーインデックス】



第46回:フルHD/1080pリアル対応の普及はリアプロから!
~【CES2005】70インチのフルHD/1080pのD-ILAリアプロテレビなど~


 デジタル放送の普及や、HD映像コンテンツの立ち上がりを前に、ディスプレイ市場で注目されるのがいわゆるフルHD(1080p)への対応だ。今年のInternational CESはリアプロジェクションテレビを中心に、各社からフルHD対応のディスプレイが出展され、フルHD時代の幕開けを感じさせた。


■ ビクター、フルHD/1080pリアル解像度対応の70V型リアプロTVを発表

HD-70FH96

 独自開発のLCOS(Liquid Crystal on Silicon;反射型液晶)チップ「D-ILA(Direct-Drive Image Light Amlifier)」を推進する日本ビクターは、今回のInternational CESにて、フルHD解像度(1,920×1,080ドット)対応のD-ILAデバイスを映像エンジンにした70V型の「HD-70FH96」と、61V型の「HD61FH96」の2モデルを発表。ブランド名としてはHigh DefinitionとD-ILAの合成語である「HD-ILA」を採用する。

 2モデルは、それぞれ画面サイズと外形サイズが異なる以外、映像エンジンは共通であるため、性能的にはほぼ同等となる見込み。

 価格は未定としながらもHD70FH96が約9,500ドル(約97万円)、HD61FH96が約6,499ドル(約66万円)となる見込みで、実売価格ではもう少し安くなりそうだ。発売時期は秋頃を予定。


【訂正】
※記事初出時に「HD-70FH96/61FH96」の発売を4月と記載しておりましたが、正しくは秋頃となります。お詫びして訂正したします。

70V型の外形寸法は1,620×519×1167×519mm(幅×奥行き×高さ)、重さは60kg。日本での発売も期待したいが、大きさがネックとなるか?

 映像エンジンには対角0.7インチ、アスペクト比16:9の1,920×1,080ドットのフルHD解像度のD-ILAデバイスを3枚用い、これをそれぞれRGB光で照射して映像を生成する。D-ILAの駆動は第30回でも紹介した、DLPなどと同じパルス駆動方式を採用する。

 ランプは、コストパフォーマンスに優れた110Wの超高圧水銀ランプを使用。公称ランプ寿命は約6,000時間とする。

 映像エンジンは日本ビクター独自のGENESSAの新世代版を採用。展示されていた試作機では現行GENESSAを組み合わせたものだったが、最終的にはその新世代版を搭載するという。次世代GENESSAではMPEG映像特有のモスキートノイズやブロックノイズをアグレッシブに低減させる機構が盛り込まれる。

 インターフェイスには従来のビデオ入力系端子以外に、HDMI入力を2基実装。PC入力はアナログRGB入力に対応。チューナはアナログNTSC、デジタルATSC、デジタルケーブルTVチューナを搭載する(北米仕様)。

 TV本体にはSD/CFカードに対応したメモリースロットも装備。静止画はJPEG、動画は同社製HDDビデオカメラ「everio」シリーズで撮影したMPEG-2に対応する(MPEG-4への対応は検討中とするも未定)。

 実際の映像を見させてもらったが、パルス駆動D-ILAらしい鋭さをもったハイコントラスト映像が印象的。スペック的には動的ランプ駆動やイメージプロセッシングを行なわない、ネイティヴなコントラスト比が1,000:1以上を実現しているという。反射型液晶特有のアナログ感から作り出される滑らかな階調表現と、パルス駆動ならではのメリハリありコントラスト感が同居する映像美はなんとも感動的だ。

 また、リアプロTVにしては圧倒的な明るさも印象に残る。光利用効率の高いLCOSであるD-ILAは、110Wランプ光源で表示面輝度500cd/m2以上を達成しているとのこと。来場者の中には「プラズマか?」という質問を投げかける人もいたほどだ。日本での発売予定は未定というのが何とも残念。

フルHD/D-ILAがもたらす高精細感と、パルス駆動方式が実現するハイコントラスト感、LCOSならではのリニアな階調感はかなりの好印象。ちなみに画面サイズは70V型モデルで1,549mm×871mm。これは市場投入されるリアプロTVとしては世界最大級だ

70V型の720p解像度(1,280×720ドット)対応モデル「HD-70G886」

 なお、今回の1080p対応モデルの他に、720p解像度(1,280×720ドット)対応モデルも70V型の「HD-70G886」(価格7,999ドル、発売時期3月)、61V型の「HD-61G886/786」(価格4,999ドル、3月発売)、56V型の「HD-56G886/786」(価格4,699ドル、6月発売)、52V型の「HD-52G886/786」(価格4,299ドル、7月発売)の4製品が同時発表された(886型番はシルバー、786型番はブラック)。全モデルとも実売価格は希望小売価格より安くなる見込みだ。



■ 「液晶のシャープ」がついにDLPリアプロTV市場へ参入
 VIERAの松下も低価格市場にはDLPリアプロTVを投入

 北米市場ではコストパフォーマンスが高いものが売れる傾向にあり、画面インチサイズ単価の安いリアプロTVが売れ筋となっている。北米では、プラズマTVや液晶TVなどのフラットTVがリアプロTVの前に苦戦しているといってもいい。北米では日本とはかなり異なった大画面市場戦争が繰り広げられているのである。

 そんな流れを受けてか、液晶AQUOSで知られるシャープがついにDLPのリアプロTVを投入する(DLPおよびDMDの詳細については大画面☆マニア第45回を参照)。

 なぜ、「液晶のシャープ」が“DLP”のリアプロなのか? というのは、それほど不思議なことではない。シャープはフロントプロジェクタ製品については「XV-Zシリーズ」で随分前からDLP方式を採用しており、DLP方式のリアプロTV製品そのものを開発することに大きな障害はなかったはずだ。

 このタイミングまで民生向けDLPリアプロの製品が投入できなかったのは、技術的な問題よりも、自社の主力TV製品である液晶AQUOS製品のブランディングとの差別化が難しかったからだろう。

 実はシャープだけでなく、液晶とプラズマで提供してきたVIERAで知られる松下までもが、単板式DLPリアプロTVを製品投入している。なお、松下は、民生向けフロントプロジェクタは3LCDグループに属するほどの液晶推進派だが、逆に業務用プロジェクタではかねてよりDLP方式をメインに推してきた。

 シャープと松下に、単板式DLPリアプロTVがそれぞれのTV製品戦略にどんな意味を持つかを聞いてみたところ、申し合わせたような、同じ答えが返ってくる。

「コストパフォーマンス重視の安価な製品ラインナップとして、北米市場ではリアプロTV製品が必要になってきた」

 では、なぜ液晶リアプロでなくて単板式DLPリアプロなのか。これについても同じ答えであった。

「単板式DLPのリアプロの方が安くできるから」

 AQUOSのシャープが、VIERAの松下が単板式DLPリアプロTV製品を投入というと、一大事のように思えてしまうが、その理由は意外に単純なのである。

 両社にその単板式DLPリアプロTV製品のブランディング戦略についても聞いてみると、シャープの方は「DLPリアプロTVはAQUOSブランドには含まれない」とし、松下の方は「VIERAは液晶とプラズマのフラットTV製品ブランドで単板式DLPリアプロTV製品にはVIERAロゴは適用しない」として、それぞれ同じような方針を採る。

 単板式DLPリアプロTV製品は、日本メーカーにとって、北米市場の独自性が生み出させた製品といったところなのだろう。なお、液晶TVやプラズマTVなどのフラットTV製品が比較的好調な日本市場では、これらのDLPリアプロ製品が投入される可能性は低い。

 また、2005年の松下は、単板式DLPリアプロTVの他、液晶リアプロTV製品の投入も行なう。これはリアプロTV製品内においても、性能と画面サイズでリニアな製品ラインナップを形成するためだ。液晶リアプロTVの方が同画面サイズ、同解像度でも画面の明るさやコントラスト性能を落とすために下位モデルに位置づけられる。ただし、61V型の1080p対応モデルは液晶リアプロにしかなく、このモデルに限っては解像度はもちろんのこと、輝度性能およびコントラスト性能もDLPリアプロTVモデルに肉迫させるため、最上位製品に位置づけられる。


・シャープの2005年リアプロTV製品ラインナップ

6DR650モデル。価格は2,799ドル、発売時期は早ければ2月から


「65DR650」。周囲が明るくともなかなかよく見える。この広視野角性能もリビング向きだ。奥行きは未公開ながら実物を見た感じでは50cm前後。それなりにあるが、65V型という画面サイズを考えれば十分薄型といえるかもしれない

56V型サイズの56DR750。高精細な解像力と圧倒的なハイコントラストな画作りが特徴的。コストパフォーマンスも高いので北米市場ではAQUOSよりも売れてしまいそうだ。こちらもAQUOSが好調な日本市場投入の可能性は低いようだ


・松下の2005年リアプロTV製品ラインナップ

「PT-56DLX75」画作り自体は非常にコントラスト感重視に降った感じで、明るい場所での視聴でも締まった映像となっている


1080pによる高精細感と3LCDらしいリニアな階調表現が良好な色ディテール感をもたらしてくれる。暗いシーンでも細かいところまでキッチリ見えるのは好印象


■ xHD3イヤーとなるのか
 フルHD/1080p対応DLPリアプロTVが韓国勢から続々

 リアプロTV市場で高いシェアを持つサムスン、LG電子といった韓国勢は、今年、最も強力なブランドイメージとなる「フルHD/1080p対応」というキーワードをDLPリアプロTV市場に持ち込んでくる。

 その全てに搭載されているのがSmooth Picture技術を適用したxHD3のDMDチップだ。


・サムスンはフルHD対応DLPリアプロTVを4製品ラインナップ

70V型のHL-R7078W。リアプロTVとしては日本ビクターのHD70FH96と並んで世界最大を宣言。価格、発売時期ともに未定

 サムスンのHL-Rxxx8W型番の単板式DLPリアプロTVには全てxHD3チップを採用し、Smooth Pictureベースの1080p対応をうたう。画面サイズの違いによって56V型から70V型までの4モデルをラインナップする。

 いずれも動的ランプコントロール技術を組み合わせることでリアプロとしては業界最高スペックの10,000:1を達成する。映像エンジンにはサムスン独自の映像処理エンジンDNIeを搭載。接続インターフェイスは各種従来形式のビデオ入力端子のほか、2系統のHDMI入力、IEEE 1394、PC入力用のアナログRGB入力までを備える。

 画質はSmooth Pictureの効果もあって、しっとりとした面表現が美しい映像となっていた。


61V型のHL-R6168W。価格は4,499ドル 56V型のHL-R5668W。価格は3,999ドル


・LG電子はフルHD/1080pモデルは2製品をラインナップ

 LG電子は、1080pモデルを62V型と56V型の2モデルをラインナップする。

 映像エンジンとなるDMDチップにはSmooth Pictureベースの1,920×1,080ドット解像度を実現するxHD3チップを採用。映像処理エンジンにはLG電子独自のXDエンジンを搭載、入力映像のノイズ低減や高品位な解像度変換を担当する。

 リアプロTVとしてはトップレベルのコントラスト比3,000:1を達成。最大輝度は、自発光式のプラズマTVや液晶TVに迫る450cd/m2を誇る。

 ATSC/NTSC/QAMチューナ(北米仕様)を内蔵。インターフェイスとして従来の各種ビデオ入力端子に加え、2系統のHDMI入力、アナログRGBのPC入力を実装する。

 発売時期は2005年中盤頃とし、価格は未定となっている。

56V型サイズの56SY2D。サムスンやシャープが3,000ドル台という、戦略的な価格を設定していることからLG電子もこれに呼応するはず 62V型サイズの62SY2D。56V型モデル、62型モデル、共にSmooth Picture特有のエッジの柔らかいしっとりとした画調


■ まとめ

 以上のように、2005年は1080pリアル対応のリアプロジェクション方式の大画面映像機器が続々出てくる。特に、100万画素DMDチップで1080pリアル対応の200万画素を描画し出すSmooth PictureテクノロジーベースのxHD3-DMDチップは、今年の大画面事情に大きなインパクトを与えることだろう。

 Smooth Pictureという方式自体には賛否両論はありそうだが、56V型で1080pリアル対応のHDTVが30万円台で買えてしまうというのは衝撃的だ。3LCDグループは記者会見で「2005年はリアルHD/1080p対応パネルを増産する」とアナウンスしたものの、価格面でかなり努力しないとxHD3と戦い抜くことは厳しいだろう。

 リアプロ市場がほとんど開拓されていない、日本にとっては無縁な動きともいえるかもしれない。しかし。巨大な北米のTV製品市場において、フルHD対応の大画面TVが、DLP(xHD3)リアプロTVしか売れないことになれば、フルHD対応のフラットTV製品も価格を下げざるを得ないだろう。そうすれば、日本でのフラットTV市場にもいずれその動きは反映されてくるはずだ。

 現在、日本におけるフロントプロジェクタ市場は、かつて720pプロジェクタ価格破壊を行なったTH-AE500やLP-Z2などのおかげで、3板式透過型液晶(3LCD)システムがシェアを伸ばしてきたが、xHD3ベースのフロントプロジェクタが投入されると、この動向にも影響がでるかもしれない。

 今、民生向けフロントプロジェクタで1080pリアル対応といえば、QUALIA004やDLA-HD2K、LPF-D711など、全て200万円超だが、xHD3ベースならば720pプロジェクタより若干高い程度、具体的に言えば50万円前後か、あるいはそれ以下での市場投入が可能となる。もちろん200万円超のハイエンド機とは性能や画質面で格差はあるだろう。しかし、少なくとも、高嶺の花だった1080pリアル対応のフロントプロジェクタがグっと身近なものになるのは確かだ。

 そうなれば、3LCDグループも何らかのアクションが必要になるわけで、願望に近い予想だが、近い将来、TH-AE型番やLP-Z型番の1080pリアル対応の3LCDプロジェクタの登場だってあるかもしれない。

 この流れの中で、厳しい戦いを強いられるのがプラズマテレビ。当面、現行技術で、理性的な大画面サイズである40~50インチ台で1080pリアル対応解像度を実現するのは絶望的だろう。某プラズマTV大手メーカー関係者はこの「フルHD/1080pトレンド」に対して、「720pパネルでもそんなに画質は変わらない」と、負け惜しみにも聞こえる愚痴をこぼしていたほど。現行技術でなぜプラズマTVを1080pリアル対応できないかについては第38回のSEDの解説の箇所を参照して欲しいが、102インチ、70インチ、80インチの超大画面1080pリアル対応プラズマTVは、実は「世界最大を作りました」というよりは、「しかたなく大きくなっちゃうんです」という裏事情が隠されている。プラズマTVのブレークスルーを2005年に期待したいところだ。

 とにもかくにも、今年は「フルHD/1080pリアル対応」のキーワードで大画面映像製品の世界は大きく動くことは間違いなく、目が離せない一年になりそうだ。


□2005 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2005 International CES レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ces2005.htm
【1月10日】【大マ】720p相当のチップで1080p表示する新DLP方式が登場!
-3DLPを民生向けに展開する予定は全くない
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050110/dg45.htm

(2005年1月11日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。現在愛用のプロジェクタはビクターDLA-G10と東芝TDP-MT8J。夢は三板式DLPの導入。
 本誌ではInternational CES 2005をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。

00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.