■ Hi-MD PHOTOに対応したMDウォークマン 1GBの容量を持つ、初代Hi-MDが発表されたの2004年の1月。発売は2004年7月で、Hi-MDウォークマン「MZ-NH1/NH3D/EH1」やMDコンポの「LAM-X1」などをラインナップした。 MDLPやNetMDのように、ソニー以外のメーカーの追従も早いかと思われたが、その後オンキヨーのミニコンポなどでの採用はあったものの、思うように普及していないというのが現状だろう。ソニーを含め、各社がMDよりもHDDやフラッシュメモリプレーヤーに注力し始めたこともあるが、JEITAの調査などでもMDの伸び悩みは指摘されており、MD受難の時代ともいえる。そんな中、ソニーが新たに提唱するのが新規格の「Hi-MD PHOTO」だ。 Hi-MD PHOTOは、Hi-MDメディアにデジタルカメラの画像を記録/管理するための規格で、多くのデジタルカメラで採用している「DCF/Exif」を採用しながらも、サムネールキャッシュファイルを規定し、MD上での画像管理を可能とした。そのHi-MD PHOTO規格と同時に発表されたのが、今回取り上げるデジタルカメラ機能搭載のHi-MDウォークマン「MZ-DH10P」だ。 MZ-DH10Pでは、479×240ドットの1.5型カラー液晶と、有効130万画素CMOSによるデジタルカメラ機能を搭載。写真の撮影やジャケット写真表示、撮影画像のジャケット登録などが可能となっている。 また、従来のMDや1GB容量のHi-MDではオーディオコーデックとしてATRAC3/ATRAC3plusのみサポートしていてたが、「MZ-DH10」では、新たにMP3の再生に対応しているのも大きな変更点だ。 価格は実売価格で52,800円。同社の20GB HDDプレーヤー「NW-HD3」が実売で約35,000円ということを考えれば、かなり高価だが、ほかのプレーヤーには無いデジタルカメラ機能などの付加機能もある。果たして価格分の価値はあるのか? そして、Hi-MD PHOTO、ひいてはHi-MDは成功するのか? 早速テストしてみた。
■ 本体にカラー液晶を搭載
それでは本体の仕様を見てみよう。付属品はイヤフォンやリモコン、クレードル、ACアダプタと、専用のUSB接続ケーブルなど。 本体の外形寸法は83.6×21.4×81.1mm(幅×厚み×高さ)、重量は約155g(充電池10gを含む)。カメラ機能の内蔵により、かなり厚みがあるほか、重さもほかのMDプレーヤーと比べると重い。 前面に479×240ドットの1.5型カラー液晶ディスプレイを装備。本体の操作は液晶下部のホイール/スティック上のコントローラと4つのボタンを組み合わせて行なう。背面のレンズバリアの開閉で、オーディオモード/フォトモードの切り替えを行なう。カメラ部にはいわゆる“自分撮り”用のミラーも備え、上部にはカメラ用のシャッターボタンと記録/再生切り替えボタンを装備している。 右側面にはボリュームコントローラを搭載。電池は薄型のリチウムイオンバッテリで、交換可能となっている。
■ MDの魅力を生かしたオーディオプレーヤー機能 まずはオーディオプレーヤーとして利用してみよう。対応コーデックはATRAC3/ATRAC3plusとMP3、WAV。MP3の対応ビットレートは32kbps~320kbps。HDデジタルアンプによりHi-MDモードでの高音質化を図ったほか、「ATRAC/ATRAC3用のDSP Type-S」を搭載し、MDLPモードでも音質を改善しているという。なお、PCからのUSB転送には対応しているが、本体に録音機能は備えていない。 ・転送編
オーディオデータの転送は付属ソフトの「SonicStage」から行なう。最新バージョンのSonicStage 3.0ではMP3データの管理/転送をサポートし、Hi-MDでもMP3が利用可能となった。従来「マイセレクトアルバム」という名称だった曲目リストも「プレイリスト」に変更され、他のオーディオプレーヤーで利用されるm3uのプレイリストが読み込めるようになるなど、大きなアップデートが図られている。 なお、SonicStageではMP3の管理/転送が可能だが、リッピングはATRAC3のみとなる。MP3も含めHi-MDに転送した音楽ファイルは、他のパソコンにコピーして再生することはできず、MP3ファイルの転送も著作権保護のためSonicStageで行なう必要がある。
282.2MBのMP3データ転送時の転送時間は6分31秒(約5.79Mbps)。MZ-DH10PなどのHi-MD機器はUSB 2.0をサポートせず、USB 1.1となっていることから、このあたりがボトルネックになっているのか、Hi-MDメディア自体の速度上の制限かは定かではないが、最近のオーディオプレーヤー製品と比較するとかなり遅い部類に入る。 Hi-MDのデータフォーマットはFATのため、音楽転送時以外にもデータストレージとしても使えるのだが、USB 1.1だとさすがに大きなファイルを転送する気にはならない。もっともメディア単価は1GBのHi-MDメディアで1枚700円強と安価なので、一度オーディオデータを転送してしまえば、ほとんど入れ替えることも無いだろう。ジャンルやプレイリストごとにお気に入りディスクが作れるという点ではMDのメリットがあるともいえる。 また、SonicStage 2.3以前だと、リッピングしたATRAC3/ATRAC3plusのオーディオデータについて、3回までのチェックイン/アウトという転送制限が設けられてていたため、気軽にディスクに書き出せなかった。しかし、SonicStage 3.0ではMP3対応と、転送制限解除により、転送回数を考える必要が無くなったことで、大量のディスクを作成する際には非常に扱いやすくなったといえるだろう。 ・操作編
MZ-DH10Pでは、オーディオモードとフォトモードの切り替えを本体のレンズバリア部で行なうため、音楽再生時にはレンズバリアを閉じておく必要がある。本体での操作は、液晶下部のスティック/ホイール式のコントローラで行なう。 アルバム/プレイリストの検索モードは、アルバム名を3列で表示するモードと、ジャケット写真表示モードが用意される。アルバム検索のほか、アーティスト検索も可能(メイン再生モード選択でアーティスト再生を選択する)。プレイリストもアルバムと同列のひとつのアルバムとして認識される。
【訂正】 基本操作はホイール中央のスティックを利用し、再生/一時停止や、曲送り/戻しなどの基本操作が行なえる。3列表示の検索モードでは、スティックの上下でアルバムの送り/戻しが行なえる。 カラー液晶搭載の「MZ-DH10P」ならではの検索法はジャケット写真検索だろう。スティックホイール右上のSearchボタンを押すことでジャケット12枚のサムネイル表示ができるので、検索性も優れている。アルバムの選択はホイールの左右回転で行ない、スティックを押し込むことで決定となる。サムネイルの表示や検索時のレスポンスは良好でほとんどストレスは感じさせない。
また、ホイール左下の[DISPLAY/SLIDE SHOW]ボタンを長押しすることで、本体で撮影したデジタルカメラ画像のスライドショー表示が可能。音楽を聴きながらのスライドショー視聴も行なえる。スライドショーは、撮影したデータの最初からとシャッフル再生が用意されている。
リモコンは、従来の同社製品と同様の1行表示のスティック型。液晶下部のジョグレバーで再生/一時停止やスキップ/バックなどの基本操作を行ない、レバー左には停止ボタンを備える。レバーの右側にはフォルダ+/-ボタンを装備し、アルバム移動が行なえる。 また、上面にHOLDボタンや、曲名や再生時間などの表示切替を行なう[DISPLAY]ボタン、シャッフル/リピートなどの再生モードを切り替える[P MODE]ボタン、バーチャルサラウンドなどを選択できる[SOUND]ボタンを備えている。本体操作の方が使いやすいが、リモコンでも基本的な操作はほとんど行なえる。 ・音質編
付属のイヤフォンは、「NW-HD3」などの従来のプレーヤーとほぼ同じモノと思われ、外見はややチープながら、音質的にはなかなか良好。装着感がイマイチなほかはそのまま使ってもさほど不満は無いと感じる。 ヘッドフォンを変更して聞いてみても、基本的には同社製のHDDオーディオ製品と同傾向で、中高域の情報量の高さが魅力的。どんなソースでも、そつなく利用できる。音質設定については、ヘビー/ポップス/ジャズ/ユニークなどのプリセットイコライザや、6バンドのカスタムEQを装備し、2つのカスタム設定が保存できる。HDDオーディオ製品に付属していた「バーチャルサラウンド」機能などは備えていない。 バッテリ駆動時間はカタログ値で、約14時間(Hi-LP/ATRAC3plus 64kbps)/約13時間(MP3 128kbps)。MP3を中心とした連続再生でも10時間以上の駆動が可能だった。ただし、フォトモードを利用すると、急速にバッテリが減るので、外出時のオーディオプレーヤーとしての利用を中心とするならば、バッテリ残量に注意しながらカメラ機能を利用した方がいいだろう。 PCとの接続は充電対応のクレードルと、専用USBケーブルが用意される。USB充電には対応していない。
■ カメラ機能はジャケット撮影など用途限定で利用 MZ-DH10Pではデジタルカメラ機能を搭載し、Hi-MDメディアへの静止画記録を可能とした。そのため、今回新たにHi-MDでの画像記録用にHi-MD PHOTO規格を策定している。
「Hi-MD PHOTO」は、Hi-MDフォーマットのMDにデジタルカメラの画像を記録するための規格で、多くのデジタルカメラで採用している「DCF/Exif」を採用しながらも、サムネールキャッシュファイルを規定している。そのため、画像一覧などのサムネイル表示の高速化などが図られているという。 レンズバリアを開くことでフォトモードに切り替わり、本体に搭載した130万画素のCMOSカメラを利用しての撮影が可能。なお、音楽再生中にカメラ機能を利用することはできない。 オーディオモードからフォトモードへの切り替え時には、起動までに7~8秒程待たされ、その間「Hi-MD PHOTO」のアイコンを表示する。かなり待たされるという印象だが、一度フォトモードを起動しておけば、レンズバリアを閉じても次は1秒以内で起動する。 レンズは35mm換算36mmの単焦点で、4倍までのデジタルズームを備えている。シャッターボタンは本体上部に備えており、液晶画面でライブビューしながらシャッターを押せば撮影が可能。デジタルズームはライブビュー中にホイールの回転で行なう。
画質は1.3Mファイン/スタンダード、VGAファイン/スタンダードを用意。撮影時にスティックを左に倒すとジャケット撮影モードとなり、通常の4:3のアスペクト比でなく、1:1の正方アスペクトでの撮影が可能。また、スティックを上に倒して、フラッシュ(LED)のON/OFF、下でタイマー撮影、右でマクロモードのON/OFFが選択できる。選べる機能はシンプルだが、ホイール下のDISPLAYボタンを押せば機能ガイドが液晶上に表示されるので、特にとまどうことなく利用できるだろう。 カメラ機能の問題は、撮影時の待ち時間。シャッターを押した後に[DATA SAVE]との文字が現れてMDへの記録が始まるのだが、この記録時間が非常に長い。実測で約6秒程度で、その間はシャッターを押したり、ほかの操作を行なう事はできない。今日のデジタルカメラとしては、さすがに容認できないレベルの記録待ち時間だ。
撮影したデータは9枚のサムネイル表示で確認でき、オーディオプレーヤー時のジャケット検索同様にホイールで選択、スティックを押し込むことで決定動作となる。サムネイルキャッシュを作っているためか、レスポンスは良好だ。また、ホイールの回転により4倍までの拡大表示もできる。 ただし、この決定動作では瞬時に画像が出るが、最初の描画時には解像度の低いキャッシュファイルが出力され、約2秒後の再描画でようやく元画像が確認できるという塩梅で、確認までにトータルで約3秒ほどかかる。1度目の描画時には「また、ピンぼけ写真を撮ってしまった」というぐらい、フォーカスの決まらない画像が出てくるので、慣れるまではその度にいちいち驚いてしまった。 画質については、低解像度ということもあり、最廉価クラスのデジタルカメラにも及ばない。どちらかというと携帯電話のカメラ機能に近い印象。 特に屋外での撮影時には、露出がほとんどオーバー目に出るので、あらかじめ若干マイナス補正しておいた方がいいかもしれない。
もっとも、ソニーでは、「ジャケット写真を撮影して登録」することをメインの用途と捉えている様で、そうした使い方では十分な画質であり、正方アスペクトのジャケ写機能なども魅力的ではある。 ただし、ジャケット登録機能にも少し問題がある。というのはジャケット写真の登録はオーディオモードでMENUからジャケット設定で行なえるが、これを音楽再生中に行なうと、再生を停止してしまう。本体で登録したジャケットデータは、SonicStage上でもジャケットとして反映できる。
【訂正】 もう一つの注意点は、フォトモード利用時にはバッテリの消費が激しいこと。光磁気ドライブを内蔵しながら、バッテリ容量は370mAhと少ないこともあり、満充電でも30枚程度撮影するだけで、バッテリインジケータが半分以下になってしまう。バッテリの観点からも、普通にデジタルカメラとして利用するのは厳しく、あくまでもMDプレーヤーの付加機能として利用するのがいいだろう。
■ ユニークな製品だが、カメラの完成度はイマイチ 機能的には充実しており、ジャケット表示の一覧性の高さや、デジタルズームがホイールの回転に割り当てられるなどのインターフェイスのユニークさも魅力。マニアであれば“使っていて楽しい”製品だといえるだろう。 カラー液晶を搭載し、ジャケット写真表示やフォトビューワなどの機能を持ったMDプレーヤーとしては良くできている。ただし、おそらくHi-MDを記録メディアとして採用したが故の制限だろうが、シャッターレスポンスの悪さはちょっと今のデジタルカメラとしては容認できない。また、カメラの内蔵による厚みや重さの増加なども考えると、正直カメラがついていない方が、MDプレーヤーとしての完成度は高くなっただろう。 とはいえ、Hi-MD PHOTOという新規格を展開する上でカメラ内蔵は外せなかった特徴なのは確か。カラー液晶とHi-MD PHOTOの採用により、プレーヤーとしての魅力が高まることは確認できた。これをベースにどこまでMDならではの魅力を訴求できるのか、そしてパートナーを加えてMDの世界を広げていけるのか、ソニーの手腕に注目したい。 □ソニーのホームページ (2005年3月25日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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