■ 頻繁なモデルチェンジが「迷走」を印象づける 初代のHDDネットワークウォークマン「NW-HD1」が、ウォークマンブランド初のHDDオーディオプレーヤーとして発売されたのは2004年の7月10日のこと。ソニーとしてはその1カ月前にVAIO Pocketを発売していたが、Apple/iPodが市場を席巻するHDDオーディオの世界に、ポータブルオーディオのトップメーカーで、“ウォークマン”ブランドを要するソニーが対抗する、というトピックは大きな注目を集めた。 しかし市場参入後の9カ月では、あまり大きな成果があげられていない。その迷走を証明するかのように、NW-HD1投入の3カ月後にクレードルなどを削りコストダウンし、カラーバリエーションを増やした「NW-HD2」を投入。さらに3カ月後にはMP3対応やSonic Stageの転送制限撤廃などで使いやすさを向上させた「NW-HD3」を投入するなど矢継ぎ早に新製品を投入してきた。 もちろん、そのアップデート自体は歓迎できるもので、特にNW-HD3でのMP3対応/転送制限撤廃は大きな進歩といえる。しかし、続けざまの製品投入/アップデートが、あたかもソニーの迷走を象徴した出来事にも映ってしまうのだ。 一方のAppleは、iPod photoの投入やiPod miniのモデルチェンジなどはあったものの、直接の競合となるiPodは7月20日発売の第4世代モデルから全く変わっていない。そうした中でソニーはさらなるHDDネットワークウォークマンの新機種を投入してきた。それが今回取り上げる「NW-HD5」だ。
20GB HDDを搭載し、横長のデザインだったNW-HD3から、NW-HD5では基本的には縦長のデザインに変更された。液晶部を90度回転させることで、横位置での利用も可能。操作部も9つのボタンを搭載するなど操作体系も一新され、フルモデルチェンジともいえる。 実売価格は35,000円程度と、iPod 20GB(32,800円)より若干高い程度。量販店のポイント還元などを考えると、還元率の低いアップル製品と実質的にはほぼ同レベルだろう。
■ デザインイメージを一新
ボディカラーは、シルバー、ブラック、レッドの3色を用意。特にレッドの鮮烈なカラーは印象的だ。 同梱品は、イヤフォンとキャリングポーチ、充電池、USBケーブルなど。本体の外形寸法は59.9×89.3×14.5mm(幅×奥行き×厚み)、重量は約135g(バッテリ含む)で、NW-HD3の90×62.1×14.8mm(幅×奥行き×高さ)、重量約130gとほぼ同じ。しかしボディデザインが一新されたこともあり、印象としてはかなり異なっている。 NW-HD3までは、横方向に長く、素材の質感を生かしながら高級感を持たせたデザインを採用していたが、NW-HD5の液晶は128×128ドットで7行表示に対応。さらにLEDバックライトの採用により、視認性を高めている。アスペクト比は1:1で、表示を90度回転できるため、縦位置、横位置のどちらでも利用できるのが特徴だ。 操作ボタンは本体前面に配しており、液晶下部中央に十時キーと再生/停止ボタン、その左側にボリューム上下、右側にMENU/SEARCHと停止ボタンを備えている。本体上部にはHOLDボタンとヘッドフォン/リモコン端子を備え、カバーを外すとUSB端子とDC端子が現れる。また、バッテリも取り外し可能のリチウムイオンバッテリーを採用している。バッテリ容量は880mAhで、最長40時間の連続再生が可能となっている。 NW-HD1では付属のクレードル、NW-HD2/3では付属のUSBアダプタを利用しなければ、USBで接続できなかったが、今回標準ミニのUSB端子を本体に装備したことで使い勝手は大幅に向上したと感じる。
実際に持ってみると、横方向で利用した場合の印象は従来とあまり変わらないが、縦方向に持ってみるとかなり小さく感じる。iPodと並べてみると、縦が約20mm短いこともありキュートな印象が際だつ。 NW-HD3までは、“ビジネスマンが持っても恥ずかしくない大人のプレーヤー”という印象だったが、NW-HD5では“可愛らしさ”がキーワードになっているように感じる。
■ シンプルな操作感。プレイリスト機能も強化 ・転送編
オーディオデータの転送は付属ソフトの「SonicStage」から行なう。最新バージョンのSonicStage 3.1ではMP3データの管理/転送をサポートするほか、新たにMP3のリッピング機能が追加された。 また、プレイリストの転送機能も改善されている。Ver.3.0でプレイリストの作成に対応したものの、従来はプレーヤー側に楽曲ファイルが転送されているにもかかわらず、プレイリストを転送すると、重複して同じ曲を転送していたため、HDD容量を圧迫したり、転送時間が長くなるなどの弊害があった。しかし、NW-HD5ではこの重複転送を行なわず、本体にファイルがある場合は、リストのみを転送し、楽曲データは本体に転送済みのファイルを利用するようになった。 普通のオーディオプレーヤーで利用されるプレイリストと同じ扱いになっただけなのだが、かねてから指摘されていたプレイリスト管理の弱さが解消されるという意味ではうれしいアップデートといえるだろう。楽曲の転送はUSB端子でPCと接続して行なう。1.1GBのMP3データ転送時の転送時間は3分59秒かかった。
・操作編
楽曲の管理方法やインターフェイスも一新されているため、従来モデルとはかなり異なる操作感となっている。 しかし、操作体系はシンプルで、MENUボタンでアーティスト/アルバム/トラック/ジャンル/新しい曲/プレイリスト/イニシャルサーチなどの楽曲検索画面を呼び出して、十時キーの上下でアーティストや楽曲を選択し、右で下階層に移動、中央のボタンで決定/再生を行なうだけ。非常にシンプルなインターフェイスだ。
唯一とまどったのは、中央のキーが再生/一時停止にのみ割り当てられていること。 NW-HD5では、例えばアーティストの検索画面から、各アーティスト-アルバム-曲名と順を追って右ボタンを押すことで階層移動する。同様に階層を戻るのは左ボタンを利用する。iPodなどでは、アーティスト検索を行うために、トップメニューの[アーティスト]で決定を押すと各アーティストの選択画面に移るのだが、NW-HD5で同様の操作を行なうと、Aで始まるアーティストの最初の楽曲を再生開始してしまう。慣れればとまどうことはないだろうが、最初はやや面食らった。
LEDバックライトの採用やフォントの改良により、液晶の視認性の向上も図っており、確かに明るく読みやすくなっている。昼間の屋外でもそこそこの視認性は維持できる。操作レスポンスも従来モデルとほぼ変わらず良好だ。
NW-HD5のユニークな点は、通常の縦位置での利用のほか、横位置でも利用可能なこと。NW-HD3までは横向きだったこともあるが、横向きのプレーヤーが好みな人にはうれしい機能だ。 十時キーは横向きにしても、きちんと液晶表示に従ってアサインされるため、縦位置と同様の操作感で利用できる。ただ、ボリュームボタンが縦方向で上下になっていることから、NW-HD3のように左側に液晶、右側に操作ボタンとする問題が起こる。というのも、右側のボリュームボタンを押すとボリュームダウン、左側がボリュームアップに割り当てられてしまうのだ。液晶表示では、右側にインジケーターが伸びるとボリュームアップなので、実際に液晶に表示されている方向と、操作により反映される内容が対応しないので、少しとまどってしまう。 基本的には縦方向で使った方がわかりやすいと感じるが、それでも3方向で利用できるというプレーヤーは他にはない。また、表示画面向き「自動」というモードも用意されている。これは電源投入時に重力がかかっている向きを感知して、液晶画面の向きを決定するモードだ。たまに間違えることもあるので、実際にはあまり利用シーンは少ないかもしれない。
また、MENUボタンを押すことで、1ボタンで検索メニューのトップ画面に戻れるようになったのも大きな特徴。iPodを含め、従来のオーディオプレーヤーでは自分が今いる画面がどこかわからないことがあるが、瞬時にトップメニューに戻って選曲が行なえるのは便利だ。 また曲名をアルファベット検索するイニシャルサーチ機能も搭載している。曲名からの検索のみのため、個人的にはあまり使い道を感じないが、瞬時に特定の曲を探したいときには重宝するだろう。
■ 音質には満足。ギャップレス再生も可能
付属のイヤフォンは「MDR-E0931LP/BC」。「NW-HD3」などと同じモノと思われる。外見はややチープながら、特に高域の情報量はしっかりしており、まずまず満足できるものだ。 本体の音質は、中域に独特の勢いがあり、ハイスピードかつクリアな印象。中高域の分解能も高く、独特の音場感というか広がりがある。NW-HD3から大きく変わっていないが、個人的にはかなり好みだ。 また、スタジオ/ライブなどの音場モードを選べる「VPT Acoustic Engine」や、6バンドイコライザなども装備しているが、これらはATRAC3plusのみの対応となり、MP3ファイルには適用できない。特にVPT Acoustic Engineはライブ盤などで効果を発揮するのでやや残念なところだ。その代わり、高音/低音の強弱を設定できる「デジタルサウンドプリセット」はMP3でも適用可能となっている。 ライブ盤などの曲間のギャップをスムーズにつなげて再生する、いわゆる「ギャップレス再生」にも対応しているようで、ATRAC3plus/MP3ともに大抵のアルバムではギャップを意識することは無かった。完全に曲間で音が繋がっている場合には、ごくわずかなギャップを感じることもあるが、ほとんどのアルバムではギャップレス化が実現できる。 バッテリは新開発のリチウムイオンバッテリー。最大の特徴はなんと言っても交換可能ということだろう。右脇のバッテリ部の穴をペンなどで押しながら、フタをスライドさせることで、バッテリの交換が可能。交換式バッテリはクリエイティブ「Zen Micro」やiriver「H10」などでも採用しているので、珍しい訳ではないが、長期の出張時などの予備バッテリなどを考慮すると非常にうれしい仕様といえるだろう。バッテリ容量は880mAh。 さらに、再生時間は最長で40時間(ATRAC3plus 48kbps再生時)で、128kbpsのMP3でも約30時間とiPodの12時間と比較して大幅な長時間駆動が可能。充電はACアダプタのほか、USB経由でも行なえる。NW-HD3では変換コネクタ経由でしか、USB接続/ACアダプタ接続できなかったことを考えると大幅な使い勝手の向上といえるのは間違いない。特にモバイル時にいちいち専用コネクタを持ち運ぶ手間や紛失するリスクがなくなったという点は大きなメリットといえるだろう。
■ 完成度の高いプレーヤー。“もうひとつ”の魅力が欲しい オーディオプレーヤーとしての機能としては、前モデルからの大きなアップデートは無い。しかし、交換バッテリの採用や、プレイリストの使い勝手向上、USBとDC端子の直付けなど、多くの不満点解消や機能強化が図られており、完成度はかなり高まった。 SonicStageもプレイリスト対応やMP3リッピング対応など使い勝手はかなり向上した。まだもっさりとした動作や独自のDB管理に疑問を感じることもあるが、とりたてて指摘するような大きな問題も感じない。 MP3資産も生かせ、iPodと比較してもハードの機能的に劣るところはほとんどない。価格的にも35,000円とiPodと大差なく、しかもバッテリ駆動時間や、交換バッテリの採用など明確なメリットもある。1.8インチ/20GB HDDプレーヤーの購入を検討する上で、有力な選択肢となるだろう。 流行のカラー液晶や、フォトストレージ、ビデオプレーヤー機能などは搭載していないが、オーディオプレーヤーとしての完成度は非常に高い。今回デザインを一新したのも、「より広いユーザー層への訴求を考えた」とのことだが、ある意味細かい機能の使い勝手よりは、デザインや持った感触などでより直感的に製品を検討できる成熟した市場になってきたということなのかもしれない。 残念なのは、“ソニーらしさ”というか、わくわくするような新機能が一切無い点。思えば、ソニーのHDDオーディオとしては、VAIO部隊が先行して作ってしまった「VAIO Pocket」というインパクトのある製品があったが、完成度はともあれ、来るべき未来を勝手に予言しているような勢いがあった。約1年経過して、HDDオーディオ市場も、そうした若々しさ、荒々しさよりも、現実的な回答が製品に求められる厳しい市場になったのかもしれない。 ともあれ、製品としての魅力はNW-HD3より大幅に向上したのは疑いない。これをベースにした“ソニーらしさ”を感じさせる製品にも期待したい。 □ソニーのホームページ (2005年4月8日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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