■ 4バージョンを同時発売
「カンフーハッスル」は、「少林サッカー」で日本でもおなじみとなったチャウ・シンチーが監督・製作・脚本・主演を務めたアクション映画。昨年の公開時には、“ハッスル”でブームを築いた小川直也らを起用したプロモーションや、「ありえねー」をやたら連呼しまくっていたCMなどで話題を呼んだ。 DVD化にあたり、本編ディスクのみの「コレクターズ・エディション(3,990円)」、特典ディスクやTシャツなどをセットにした「達人之素(7,980円)」、特典を省き、高画質/高音質化した「SUPERBIT(4,935円)」を用意。さらに、コレクターズ・エディションと前作「少林サッカー」をセットにした「『少林サッカー』×『カンフーハッスル』奮発弐枚組 DVD(7,329円)」も用意される。 どれを購入するか悩んだが、メイキングも本編ディスクに入っているし、Tシャツも別にいらないので、コレクターズ・エディションを購入した。 パッケージは通常のトールケースで、封入特典も無し。ただし、購入した店舗では先着特典として「功夫的オドルDVD」を購入時にもらうことができた。ヒップホップグループ「nobodyknows+」とチャウ・シンチーがコラボレーションを果たしたミュージックビデオで、チャウ・シンチー自身も出演している。 ■ とにかくカンフー
冷酷無情なギャング団「斧頭会」に入るため、強くなりたいと願うチンピラのシン(チャウ・シンチー)。相棒とともに「豚小屋砦」という貧乏アパートにて、斧頭会の名を騙ってゆすりをかけるも、住民に簡単に追い返される。そこに本物の斧頭会が登場、「身内」を偽り、助けを乞うシン。しかし、カンフーを極めた異常に強いアパートの住人達に、斧頭会は撃退されてしまう。 斧頭会を騒動に巻き込んだ罪で、シン達はリンチを受ける。しかし、ちょっとした特殊能力からなんとか斧頭会への入会を許される。豚小屋砦への復讐に向かうシンと仲間だが、簡単に撃退というか、自爆し、瀕死の重傷を負う。しかし、その際に、彼の特殊な能力が徐々に目覚め始めていた。 一方、復讐に燃える斧頭会は、カンフーの達人を倒すべく、腕利きの殺し屋を雇い豚小屋砦に再度乗り込む。立ち向かう3人のカンフーの達人は苦境に立たされ、豚小屋砦に危機が迫る。しかし、最後に刺客に対峙したのは意外な人物、豚小屋砦の大家夫妻だった。 危機をなんとか乗り切った豚小屋砦だが、引き下がれない斧頭会は、当世ナンバーワンと呼ばれる殺し屋「火雲邪神」を雇う。彼はカンフーを極めるあまりに正気を失ったと言う最強の殺し屋。彼との出会いから、無理をして「悪」を志向していたシンの心に変化が起きてゆく……。 ストーリー自体は極めてシンプルで、要するにカンフーの達人と刺客の対決が中心。とにかく自ずと注目が集まるのがカンフーアクションシーン。極端にデフォルメされたカンフーアクションとスピード感あふれる攻防が見所。最初の豚小屋砦シーンの3人の達人の活躍など、ド派手なアクションの数々は、何も考えずにただただ楽しめる。 また、達人や刺客達の使う武器もさまざまで個性的。香港映画らしいユーモアとハイテンポアクションが本作の最大の魅力だろう。99分という本編時間も実に爽快な印象を強めてくれる。ストーリもシンプルながら、シンの幼少期のエピソードを交えつつ、都会で生き抜く子悪党の人となりを無理なく描いている。
■ ド派手なサラウンドを体験せよ
本編ディスクは片面2層で、シネマスコープサイズをスクイーズ収録する。音声は広東語をドルビーデジタル5.1ch、日本語は5.1chドルビーデジタルで収録する。 DVD Bitrate Viewer Ver.1.4で見た本編の平均ビットレートは、6.44Mbps。画質も良好で、非常にしっかり作り込まれたセットの独特の雰囲気と相まって、香港映画らしさというか東アジアらしい色温度が印象的。暗部のノイズもさほど目立たず、見ていて気になるような箇所はほとんど無かった。CG合成も至る所で利用されているのだが、大きな破綻は感じない。冒頭の警察署前のシーンや、豚小屋砦など、大型セットのクオリティの高さやCGの違和感のなさも特筆すべき点だろう。
画質も満足行くものだが、よりインパクトが大きいのはサラウンド音声だ。音声は広東語、日本語ともに448kbps。デフォルメされたカンフーの動きにあわせて縦横無尽に変化する音像の迫力が凄まじい。 リアリティ志向の映画では、環境音程度しかリアチャンネルを鳴らさないディスクが多いが、カンフーハッスルはとにかくド派手。最初の豚小屋砦で回転しながら敵を吹き飛ばすシーンなど、激しく音像が移り変わるシーンは目が回るほど。同様に冒頭の豚小屋砦で、棒で吹き飛ばした砂塵が画面を通して向かってくるシーンなど、音に驚いて思わずよけてしまった……。 ド派手な戦闘シーンでも、アクションに関わる物音だけでなく、常に朗らかなBGMが伴うのも香港映画らしいところ。アクションにリズムを持たせるとともに、どことなくユーモラスな雰囲気が伴うのもこうしたBGMの存在が大きいかもしれない。 最高の聴かせどころは琴の演奏家の暗殺者との決闘シーン。音を武器のメタファーとして使っていることもあり、音そのものが凶器として視聴者に向かってくる感覚が味わえる。是非大音量で体感しておきたいシーンだ。この戦闘シーンは、ソニーのスタジオを一週間借り切って、一流のエンジニアと共同作業を行なったという。 チャウ・シンチーによれば、「この部分だけアメリカで作業した」という。「最初は、琴で人を殺すというイメージを、どのように音にしていいかわからなかった。しかし、経験豊かなサウンドエンジニアと共同で作業することで素晴らしいシーンにすることができた。彼らはカンフーについて詳しくないが、それゆえ、彼らのイメージを活かして、新鮮な印象になった」と語る。 マルチチャンネルを前提とした音響なので、テストディスクとしても活用の機会が広がりそうだ。なお、SUPERBIT版(SB-36423)も同時に発売されているが、こちらは特典を省いて、高音質/高画質化したディスクで、音声もDTSで収録している。これだけ聞き所が多ければSUPERBITを買っても良かったかもしれない……。 特典はメイキングのほか、ティン・カイマン、チャウ・シンチー、ラム・ジーチョンらによるオーディオコメンタリを収録。 メイキングは約42分で、テレビ特番のために制作されたもの。監督や出演者によるコメントなどが収録されている。チャウ・シンチーによれば、「'S30年頃の香港を舞台に、カンフーを中心とした映画をとにかく作りたかった。コンセプトは、人間の根本は善で、正しいことのために立ち上がる勇気。望みは世界平和」となかなか大きな話をしている。 また、セット制作やセントロ・デジタル・ピクチャーズによるCG制作の模様も簡単に紹介。豪華なセットは'30年ごろの雰囲気を出すため当時の調度品などを集めたという。さらに'70年台に活躍したブルース・リヤンなどの起用についても語られる。ブルース・リャンは10年前に引退していたが、今回火雲邪神役に起用されており、チャウ・シンチーが「あこがれの俳優の一人」と語っている。 コメンタリでは撮影時のエピソードなどを説明。「(コメンタリの収録が終わったら)どこに食事に行く」などと終始リラックスした雰囲気。そのときの監督の指示などにつっこみながら、楽しげに進んでいく。
■ とにかく「楽しみたい」人に
ノリと勢いで押し切るような馬鹿アクション映画といえるが、非常に間口が広く誰でも楽しめる作品だろう。少々残酷で、グロテスクなシーンもあるが、ユーモラスな描写ということもあり、家族で楽しむのも悪くないだろう。 100分に満たない本編時間もちょうど良く、なにも考えずに見て、痛快感というか、楽しさだけを覚えているような作品。見ている方も気分良く楽しめる。当初、「達人之素」とどちらを買うか悩んだが、この内容だったら「SUPERBITでDTS音声で楽しみたかった……」とというのが、唯一の心残りだ。
□SPEのホームページ (2005年7月19日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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