■ 米国で興行収入1億ドル突破! 日本では?
映画やDVDの宣伝でありがちなのが、「全米○○ランキング週間一位」とか、「○○賞受賞/候補作」といった、ランキングや賞レースによる格付け。もちろん、それが正しく使われている時もあるのだが、中にはランク入りが初登場の一週だけだったり、そもそもランキングの信頼性が不透明だったり、聞いたこともない賞だったり……などと怪しい場合も多い。 もっとも、海外で高い人気を誇った作品だと、大抵日本でも大きなプロモーションが行なわれ、それなりの知名度を保ったまま日本展開が図られる場合が多い。そもそも大作の場合は、キャスト決定や制作段階ですでに話題になっていることも多いだろう。しかし、まれに海外で高い興行収入を達成した映画でも、日本まったく話題にならない作品というのもある。 今回取り上げる「ドッジボール」もそうした作品の一つといえるだろう。全米初登場1位、興行収入も1億ドルを突破したということで、掛け値無しのヒット作。しかし、少なくとも映画公開時にテレビや紙媒体で大々的なプロモーションが行なわれた記憶はない。 FOXのホームページで軽くプッシュされていたり、筆者が立ち寄ったレンタルビデオショップでは、ダイブするベン・スティラーの異様なポップが立っていたりしたものの、「ドッジボール」という映画について知っている人は、筆者の周りにはほとんどいなかった。 監督は初監督作品となるローソン・マーシャル・サーバーだが、ベン・スティラーをはじめ、それなりのキャストを揃えている。キャッチコピーは「負け犬たちがボールで人生をつかみ取る!」とのことで、ジャケットを見るだけで、スポコンコメディらしい微妙なB級感に溢れている。こういうマヌケジャケット好きということもあり、とりあえず購入してみた。購入価格は2,810円。新作DVDとしてはリーズナブルな価格だ。 ディスクは片面2層の本編ディスク1枚で、コメンタリや未公開シーン、メイキングなどを同ディスクに収録している。
■ 顔面/急所直撃連発のドッジボールコメディ 「ドッジボール」の舞台は、並び立つふたつのスポーツ・ジム。「アベレージ・ジョー」は、虚弱体質の高校生や、活字中毒、マイナースポーツマニア、自分を海賊だと思い込んでいる男など、妙なお客しかいないい弱小ジム。オーナーのピーター(ヴィンス・ボーン)は貧乏なお客から利用料金を取り立てないお人よしで、「期待しないかわりに失望もしない人生」がモットー。当然、ジムの経営も傾きかけている。 一方向かいの「グロボ・ジム」は、最新設備を完備した大型スポーツジム。グロボ・ジムのオーナ ホワイト(ベン・スティラー)は、アベレージ・ジョーの負債に目を付け、銀行を焚き付けて買収を試みる。ホワイトはピーターを呼び出し、買収の意向をこう伝える。「ウチの収益は400万ドルおまえのところは4ドル。アベレージ・ジョーを更地にして駐車場にする」。 買収を逃れるためには、30日以内に5万ドルの支払いが必要となる。しかし、当然そんなお金を払えない。ジムのメンバー会議の結果、導かれた結論は「優勝賞金5万ドル」というラスベガスのドッジボール大会への出場。かくして、個性的過ぎるメンバーのドッジボールチームが結成。ドッジボールの伝説的なコーチの協力のもと、アベレージ・ジョーの戦いがスタートする。 集まったメンバーが個性的ならば、対戦相手も子供から欧州リーグチャンプなど幅広い。しかし、最大のライバルはホワイト率いる「紫コブラ」。ドッジボールが国技という謎の国からやってきた女など、こちらも個性的なメンツを集めてアベレージ・ジョーに立ちふさがる。 見所は、激しくくだらないドッジボールアクション。とにかく、顔面にボールをガツガツ当てて吹っ飛ばしたり、急所に直撃したボールで悶絶するプレーヤー達の姿をこれでもかと描きまくる。正直、それだけの映画ともいえる。メイキングで監督が、「(この映画でやりたかったことは)顔面と急所にボールを当てること。そうすることで観客が感情移入を引き出せる」と述べているが、そのままの内容。そこで笑えるか否かで、本作の好き嫌いが分かれるところ。 個人的にはとにかくくだらないスポーツコメディとして楽しめた。また、主人公のピーターよりも、どうしても目がいってしまうのはベン・スティラー演じるホワイトの気持ち悪いアクション。いまどきあり得ないレイヤーカットに髭面の小柄なマッチョ、オネエ風の早口トークなど、主人公のピータより遙かにキャラが立っている。その言葉遣いも極めて下品。ドッチボールアクションと合わせて、下品なギャグ好きには大いに楽しめるが、その手のギャグが嫌いな人はやめておいた方がいいだろう。また、ファミリーでの鑑賞については、おそらく子供、特に男の子は大喜びだろうが、教育上どうなのかは各家庭の判断に任せたい。 なお、この内容を反映して字幕もノーマル版とアブノーマル版が用意されている。アブノーマル版は、よりくだけた表現で、例えば「スタッフは精鋭揃い」が、アブノーマル版では「スタッフはイケメン揃い」、美容整形の解説では、「フランケンシュタインが一夜明ければ美しく変身」が「フランケンシュタインがキムタクに早変わり」といった具合。時折、さすがに意訳が過ぎると感じるところもあるが、本作のテイストからいえばアブノーマル版のほうが楽しめると感じる。
■ 僕はクソ監督で、ヒットはまぐれか? 監督大激怒
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは5.62Mbps。93分という本編時間を考えるとやや低めにも感じるが、見ていて気になるような破綻などは特にない。ストーリーを追う限り低予算映画っぽいのだが、それなりの大物俳優が出ていることもあり、しっかりとしたフィルム的な暖かみのある色温度が印象的。よく見るとしっかりとした奥行き表現など、それなりの予算を掛けていることは感じられる。 音声はドルビーデジタルで、ビットレートは英語が448kbps、日本語が384kbps。これと言った聞かせどころは無いのだが、試合や練習シーンなどでのリアチャンネル利用は目立つし、音場も広め。派手な低音で脅かすような音作りではなく、ボールが当たったときの衝撃音や鈍い痛みの表現などに、金属音や破裂音をかぶせて、タイミング良く的確に痛みを伝えることに注がれている。
特典はメイキングとNGシーン、トレーラ、未公開シーン、もう一つのエンディングと、監督とベン・スティラー、ヴィンス・ボーンによる音声解説。メイキングはドッジボールのトレーニングキャンプなどを解説。また、監督は「痛みは笑いだ。ボールが肩に当たっても面白くない。でも顔面に当たれば馬鹿笑いする。それが狙い」と本作のコンセプトを語る。 驚いたのは「もう一つのエンディング」。一度本編を全て見た後だと、あまりにもすっきりしたエンディングで話が全く違ってくるので是非見終わった後に確認して欲しい。理由も監督から語られるが「このシーンこそ本物だ」と説明する。気になったのは、本編のドッジボールのルールが、個人的に知っているドッジボールとは違うこと。その辺の解説がないこともやや残念に感じた。 もっとも、なにを差し置いても凄まじい特典が監督と主役級の2人による音声解説。まず、ベン・スティラーが収録時間に間に合わなかったようで監督とヴィンスの2人で始まる。ヴィンスはチップスとビールをつまみながら自分の出演シーンについてのみ語り、監督は時間に遅れたベンについて愚痴を続け、不穏な雰囲気。 会話もかみ合わず、ベンの遅刻を愚痴る監督にヴィンスは「あんたは有能な監督だが、音声解説は俺の方が詳しい」などと燃料を投入。15分ほど遅れてベンが到着すると、不穏は空気はさらに加速する。遅刻を叱責されたベンが「この映画を撮ってヒットした。おめでとうローソン、今後もせいぜいがんばれ。他人が作った道がいつでも用意されていると思うな」、「俺はヴィンスに頼まれたから出演した。君の脚本のキャリアなんか関係ない」と小馬鹿にすると、監督も怒り沸騰。 さらに、「君はまるでドッジボールを発明したみたいだ」とからかわれると、「1億ドル売り上げたのは事実だ。脚本も監督も僕だ」と大反論。「僕はくそ監督で(ヒットは)まぐれだと? 」と吐き捨てて25分で退場してしまう。 監督がいなくなると、ヴィンスは「彼は才能ある若者だが、黄金の卵を渡されたことをわかっていない。全て自分の中から生まれたと思っている」と吐き捨てる。さらに「役者が感情がある人間だと言うことがわかっていない。彼にとっていい映画は脚本が完全にそのまま再現された作品だ。人形劇の監督でもやっていろ」と語ったあと、2人とも「予定がある」と結局退出してしまう。 引き留めるスタッフとベンがケンカ。なぜか、スタッフが相談して「音声解説など誰も見ないよ、こんな感じのくだらない映画があったろ」とか言いだす。そして46分過ぎから全然作品に関係ない音声解説が流れる。最初はロードアイランドの地理の話や、キャメロン・ディアスの話などが出てきて、「なんだこれ?」状態だったが、良く聞いてみるとどうやら「メリーに首ったけ」の音声解説の模様。最後まで聞いてみたが、ベン・スティラーが出演している以外は何の関係もないメリーに首ったけのコメンタリが流れ、そして最後に“ブチ”っと途切れる。「な、なんですかこれは?」というのが正直な感想だ。 なお、パッケージには「音声解説についてのおことわり」が封入されており、「音声解説で、本編再生後約46分から本編終了まで“メリーに首ったけ”の音声解説に切り替わりますが、これは演出によるものです」と書かれている。正直、ネタなのか本気なのか定かではないがいずれにしろ、ケンカの雰囲気は異様ではある。個人的には当たり障りのない音声解説よりは遙かに楽しめたが、「作品の詳細な解説を知りたい」と言う人には全く参考にならない特典なのも間違いない。あらゆる意味で前代未聞な“音声解説”と言えるだろう。
■なにも考えなくていいスポーツコメディ
本作を一言でまとめると、「ボールがボコボコ当たって馬鹿笑い」、というシンプルなスポーツコメディ。とにかく何も考えずに笑いたい、と言う人には楽しめる作品だろう。米国での興行収入の高さもこの辺にありそうだ。 日本でどれくらい受けるのかはわからないが、暑い夏の盛りに何も考えずに笑える映画という意味では最適な作品だ。また、音声解説の凄まじい内容に興味を持った人も、怖いモノ見たさで体験してみるのはいいのではないだろうか。真偽のほどと、気持ちいいものかどうかは保証しかねるが……。
□フォックスのホームページ (2005年8月9日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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