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ソニーのワイヤレスヘッドフォンは無線伝送
強力サラウンドと円盤デザインが魅力
ソニー 「MDR-DS6000」
10月10日発売
標準価格:オープンプライス
実売価格:30,000円前後


■ ワイヤレスヘッドフォンのシーズン到来?

 家族に気を使うことなくDVDを楽しんだり、深夜のテレビ/DVD視聴など、サラウンド音声を気軽に楽しむために「ワイヤレスヘッドフォン」は魅力的な製品だ。特に、この秋はデジタル伝送のワイヤレスヘッドフォンの新製品投入が相次いでいる。

 この市場のリーダーともいえる東北パイオニアを除き、9月のA&Vフェスタにあわせて、新製品を投入するというのがこの2年ぐらいのトレンドとなっている。今年の9月に発表されたのは、ソニー「MDR-DS6000」、松下電器「RP-WH7000」、ビクター「HP-W1500」。さらに、10月7日にはオンキヨー「MHP-AV1」も発表されるなど、にわかに市場が盛り上がっている。

 数年前まではパイオニアと、ソニーぐらいしか選択肢が無かったこの市場だが、思いのほか参入企業が増えている。市場が大きく拡大しているという訳ではないようだが、DVDが市民権を得て、特にレンタルでもDVDが主流になったことから、マルチチャンネルを気軽に体験してみたいという人は増えているようだ。

 トランスミッタとレシーバとなるヘッドフォン部から構成されるこれらのワイヤレスヘッドフォン。トランスミッタ部はデジタル入力を装備し、ドルビーヘッドフォンなどのヘッドフォン用サラウンド機能を搭載するなど機能的にはかなり似ており、ヘッドフォンの音質や、使い勝手、装着感などで、各社が差別化を図っている。

パッケージ

 しかし、ソニー「MDR-DS6000」で目を引いたのは、伝送方式に2.4GHz帯の無線を採用したという点。従来のワイヤレスヘッドフォンの多くは、赤外線伝送で、高音質モデルはデジタル赤外線、低価格帯はアナログという棲み分けがされていた。

 今シーズンのデジタルワイヤレスヘッドフォンでは、ソニーのほかオンキヨー「MHP-AV1」も2.4GHz帯の無線伝送を採用。同方式を利用したヘッドフォンは、オンキヨーのUSBヘッドフォン「MHP-UW1」やラトックシステムの「REX-Linkシリーズ」などの例もあるが、サラウンドデコーダを搭載した製品での採用は初めて。



■ ユニークなプロセッサ部のデザイン

同梱品

 本体はトランスミッタ/プロセッサ部とヘッドフォン部より構成され、専用のニッケル水素充電池「BP-HP2000」やACアダプタ、光デジタルケーブルが同梱される。

 ヘッドフォン部は密閉型で、ドライバには最大音圧レベルを高める「ロングストローク振動板」を採用した40mm径の「XDロングストロークドライバーユニット」を搭載した。再生周波数帯域は12Hz~22kHz。

 左ハウジングに電池ケースを装備するほか、ハウジング下には充電端子も備える。右ハウジングにはダイヤル式のボリュームと、電源ランプ、トランスミッタとのID照合に使う[TUNE/ID SETボタン]を装備する。ヘッドフォン部の重量は約360g(電池含む)。

 ヘッドバンド部は電源ON/OFFスイッチを兼ねており、ヘッドフォンを装着すると自動的に電源が入る仕組みになっている。そのため電源を切り忘れて、次に使うときにバッテリが無くなってしまうようなことはない。なお、増設用ヘッドフォンの「MDR-RF6000」も同時に発売される。


ヘッドフォン部とプロセッサ部 ヘッドフォン部
左ハウジングに電池ボックス。バッテリは専用ニッケル水素。単3アルカリ×2本も利用できる 右ハウジングにボリュームダイヤやID SETを装備する ヘッドバンドで電源ON/OFFを感知する

トランスミッタは円盤風デザイン

 トランスミッタ/プロセッサ部は円盤状のデザインを採用。ヘッドフォン充電スタンドを兼ねており、左ハウジングの充電端子と、トランスミッタ上の端子を合わせることで充電が開始される。なお、専用のニッケル水素充電池のほか、単3アルカリ電池も利用できる。

 ドルビーデジタル/ドルビープロロジック II、DTS、MPEG-2AACの各デコーダを内蔵。上面には左側からダイナミックレンジ圧縮し、音声を聞き取りやすくする「COMPRESSION」、アナログ/デジタル音声入力を切り替える「INPUT SLECT」、好みの音場を選択できる「EFFECT」の各スイッチを装備する。また、前面には充電状況や入力信号を知らせるLEDを備えている。

 背面には光デジタル入力とアナログ音声入力を各1系統、光デジタルスルー出力を1系統装備。アナログ音声入力用のアッテネータスイッチやAC入力も装備する。外形寸法は約182×182×38mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約335g。

 充電はスタンドにヘッドフォンを置くだけなのだが、左ハウジングの充電端子を合わせるのが結構難しい。片手で置くだけで充電開始としたいのだが、なかなか端子がかみ合わず、結局、一度スタンドに置いてから、ハウジング位置を再度調整しないと充電ランプが点灯してくれない。使い終わった際には充電ランプを確認しながら、スタンドに戻すように心がけたい。


前面に入力切替など3つのスイッチを装備 左側に充電端子を装備するが、ヘッドフォンの端子と合わせるのが難しい 背面。光デジタル/アナログ音声入力に加え、光デジタルスルー出力も装備


■ 2.4GHz帯デジタル伝送の力は絶大。トイレの中でも音が聞こえる!

装着例

 プロセッサ部の接続は簡単で、DVD/CDプレーヤーなどの出力機器とつなぐだけ。特に難しい点は無い。プロセッサ部とヘッドフォン部は初期状態で認証がされているため、そのまま利用できるが、増設ヘッドフォンを購入した場合は、ヘッドフォン部のID SETで認証作業を行なう必要がある。

 ヘッドフォンの装着感は良好で、素材の質感こそさほど高級感は無いものの。耳馴染みはよい。重量バランスも特に問題なく、側圧は若干弱め。装着時の見た目は若干マヌケなような気がするが、そもそも人前で装着するようなものでもなく、自分で積極的に見ようとしなければ目立つモノでもないので、特に問題はないだろう。

 ヘッドフォンを装着すると電源がONになるのだが、出音まで若干のタイムラグがある。時間にすると3秒程度。ヘッドフォンを付けて、電源ONを感知してから3秒なので、思いのほか待たされる印象。無線伝送の採用によるものなのかもしれないが、従来のデジタル赤外線のほうがレスポンスは良いように感じる。

 ソニーでは、無線方式の採用について、「16bit非圧縮デジタル伝送により、CDと同等の高音質で音楽を楽しむことができる」、「プラズマディスプレイの光の影響を受けないので、心配がないので、プラズマテレビ周りにも設置できる」などのメリットを説明している。

 到達距離は最大30m。2.4GHzの無線LAN機器が氾濫する編集部は環境としてはかなり悪い部類と思われるが、50人近くが勤務するフロアのどの地点でも問題なく再生できる。移動中に何度か音が途切れることはあったが、トイレの個室の中でも音が聞こえるなど、壁やドアなどの遮蔽物があっても、かなり広い範囲まで電波が届いている。

 指向性もほとんど無く、体の向きによって音が途切れたりするようなこともない。ただし、プロセッサを床に直置きしたところ、5m程度でもブチブチとノイズが乗ってしまう。テレビ台などのある程度高さのある場所に設置したい。



■ 音質は良好。迫力のCINEMAモードだがダイナミックレンジ圧縮必須

 まずはEFFECT OFF、COMPRESSION OFFにして音楽CDを聞いてみたが、ソニー製らしいニュートラルな音質。全体的なバランスは、編集部の「MDR-CD480(5,775円)」と傾向はよく似ているが、音楽CD再生時にはすこし中域が持ち上がっており、厚みはあるもののヌケが悪い印象も。また、低域がすっきりしすぎているのようにも感じるが、情報量もまずまず。1万円以上のワイヤードヘッドフォンには及ばないが、音楽用ヘッドフォンとしても十分利用できる。

 映画のDVDをEFFECT OFFで視聴すると、非常に聞きやすく、耳が疲れのない音質。もちろん装着感がいいと言うこともあるが、適度な情報量と聞きやすさに配慮した音質と感じる。

 本題といえるサラウンド機能はMUSICとCINEMAの2モードが用意される。バーチャルサラウンド機能はソニーによる「VPT(Virtual Phones Technology)」を搭載する。なお、MUSIC/CINEMAなどの切替はプロセッサ部で行なう。パイオニア「SE-DIR2000C」のようなリモコンは付属しない。

 まずは「CINEMA」にスイッチを合わせると、音場が派手に変化する。低域の量感がぐっと増し、水平垂直方向の音場もかなり広くなる。DVD「オペラ座の怪人」の「マスカレード」のシーンでは、ボリュームを数段上げたかと思う程迫力が出て、臨場感も大幅に向上。前後方向の臨場感もぐっと増し、いかにもサラウンドサウンドという派手な音場が楽しめる。

 しかし、LFE成分を増幅しているためか、低域が厚すぎて、楽曲が埋もれてしまうこともある。この傾向はDTSデモディスクの「HERO BLUEROOM」で木材が一斉に崩れ落ちるシーンではさらに顕著に。EFFECT OFF時にはしっかり聞こえる、木材がぶつかり合い落下する音が“ゴー”という低音に飲み込まれ、ほとんど聞こえなくなってしまった。

 同じHERO BLUEROOMをMUSICモードで再生しても、同様に低域過多で、CINEMAよりはましではあるものの音が埋もれてしまう。これらの問題はCOMPRESSIONスイッチをONにすればかなり解消される。

 COMPRESSIONはいわゆるダイナミックレンジ圧縮機能で、爆発音や打楽器の低音などを小さく、セリフなどの小さな音を大きくすることで、全体の聞きやすさを向上するモードだ。「ダイナミックレンジが狭くなる」と言われると、音質への悪影響が気になってしまい躊躇してしまうのだが、「MDR-DS6000」でのDVD鑑賞に関しては、マイナス要素はほとんど無いといえる。

 音場変化も少なく、セリフの聞きやすさも大幅に向上。そして、HERO BLUEROOMの例のような低域の破綻をある程度回避できる。例えばDVD「マスター アンド コマンダー」の砲撃シーンでは、命中した砲弾の音を増幅してしまい、破壊され、飛び散る木片や跳弾の音が埋もれてしまう。COMPRESSIONをONにすると、かなり低域がすっきりし、しっかりと情報が聞き取れるようになるため、臨場感も向上する。ただし、ONにしてもボリュームをある程度上げると、低域が暴れてしまうのでピーク性能の見極めが必要だ。

 アクション大作などLFEを多用するソースで、ある程度の大きなボリュームで聞くのであればCOMPRESSION ONで利用した方がよい。もちろんセリフの聞きやすさもONの方が上なので、DVD鑑賞時は基本的にONで問題ないだろう。一方、音楽CDのストレート再生では単にダイナミックレンジが狭くなるだけなのでOFFにして利用したい。

 COMPRESSION ON+CINEMAで「オペラ座の怪人」を鑑賞すると、ボーカルやセリフもぐっと前に出て前後の音場感も出てくる。さすがに普通の5.1chシステム程ではないものの、前方からの声を感じ取ることができ、それでいてダイナミックレンジの減衰も感じられない。EFFECT OFFに比べると大幅に臨場感が増し、演奏者が2倍になったかのような違い。他のワイヤレスヘッドフォンと比較しても、かなり派手な音作りだが、ソースの魅力を損なうような印象はない。“サラウンド感”の体験という意味では、低価格なディスクリート5.1chシステムよりは上かもしれない。

 MUSICモードはぐっと開放感のある音になり、開放感のある音。音楽DVDでCINEMAを適用すると低域強調が目立ち、聞き慣れたソースだと若干違和感が出てくるが、MUSICではより素直でヌケの良いサラウンド再生が可能。音楽DVDなどとの相性は圧倒的にこちらがいい。

 連続再生時間は付属電池使用時が約7時間。パイオニア「SE-DIR2000C」の連続20時間などと比較するとやや短めだが、「家庭内でDVDを見る」という用途であればさほど問題となることはないだろう。充電時間は約3時間。また、アルカリ充電池にも対応し、同社製アルカリ電池使用時の連続駆動時間は約5時間。



■ ソニーらしい? ワイヤレスヘッドフォン

 2.4GHz帯のデジタル無線伝送のメリットは大きく、サラウンドの臨場感も十分。価格は約3万円と、今シーズン発売の新製品の中では手頃な部類といえる。下位モデルとしてサラウンド機能を省いた「MDR-RF5000K」も用意されるが、DVDを見るということを考えれば、1万円以上の価値が「MDR-RF6000K」にあると感じる。

 再生性能も価格競争力も高い製品といえる。不満点としては、充電スタンドが一発でうまく充電できないことと、ヘッドフォンからの出音がやや遅いことぐらい。できればリモコンもしくはヘッドフォン部からの操作でサラウンドモードを切り替えたいところだが、このあたりはコストと製品コンセプト次第だろう。

 DVDを見るだけ、と割り切ればほとんどモード固定でもいいわけで、「リモコンが必須」という人はパイオニアなどの選択肢もある。「家でDVDを気軽かつ、他の人に迷惑をかけずに見たい」というニーズのソニーなりの回答として、バランスのよい製品に仕上がっている。円盤状のプロセッサ部など、デザイン面の新機軸も高く評価したい。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200509/05-0907/
□製品情報
http://www.ecat.sony.co.jp/avacc/headphone/acc/index.cfm?PD=22468&KM=MDR-DS6000
□関連記事
【9月7日】ソニー、2.4GHz帯を用いたワイヤレスヘッドフォン
-サラウンドデコーダ搭載。XDロングストローク振動板採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050907/sony1.htm

(2005年10月14日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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AV Watch編集部

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