■ レッサーパンダの「風太くん」を忘れていませんか?
2005年も残すところ、後わずか。テレビや新聞、雑誌では毎年恒例の今年一年を振り返る企画で賑わっている。こういった番組などを見ていると、ブームの移り変わりの早さを思い知らされる。 そんな移り変わりの早さを実感するニュースのひとつが、今年の酷暑だった夏に話題になった、レッサーパンダの「風太くん」だろう。まだ覚えているだろうか? 名前を聞けば思い出せても、ほとんどの人にとって、遠い過去の出来事となっているだろう。 すくっと2本足で立つというレッサーパンダを暑いさなかに、いつ立つのか期待しながら、黒山の人だかりになって見物している様子がテレビでよく流れていた。なぜか、子供たちは声を合わせて「風太く~ん!」と呼びかけていたが、当の風太くんは迷惑だっただろう。ちなみに今は見物客は少なくなって、以前の状態に戻っているようだ。 当時は風太くんに触発されて、日本全国各地でいろんな動物が「立った」と話題になった。また、レッサーパンダが立つこと自体は、それほど珍しいことではないが、風太くんの立ち姿の姿勢のよさは群を抜いていることも報道された。 そんな、「風太くん」を含めて「立つ動物」が日本中を席巻している8月20日に劇場公開された映画が、「立つどうぶつ物語」だ。ブームに便乗した映画として、一部で話題になった。 映画の宣伝コピーは「奇跡と感動のスペクタクル巨編!!」。動物が立つということに、どんな「スペクタクル」があるのか、気になる。しかし、実際に映画館で観た人からは、スペクタクルがあったという話は聞けず、映画館で観る気にはなれなかった。 そうこうしているうちに、「立つどうぶつ物語」がDVDとして、12月7日に発売された。実はDVDが発売されていることを忘れていたのだが、店頭でカップルが手に取っているのを見て思い出した。ジャケットが風太くんの立ち姿なので、目を引くのだろう。ただ、カップルは二人とも「風太くん」の名前を思い出せないようだったが……。 マイナーなタイトルのDVDということで、カメラ量販や家電量販では、年末商戦で売り場確保が厳しい中、置いていないかと思ったが、ほとんどの店舗で在庫があったに驚いた。発・販売元がエイベックスグループだからだろうか。 本編は約68分と短めながら、特典も約32分収録して、価格は2,500円とお手ごろ。DVDには「すたんだっぷプライス!」のシールが張られていた。その意味はよくわかないが、勢いということなのだろう。その勢いに負けて、「この値段なら物は試し」で購入してみた。
■ 総撮影時間780時間。カンガルーは普段から立っているような……
「立つ動物は他にも日本全国いたるところにいた」。製作スタッフが、立つ動物の情報収集を行ない、北は北海道、南は広島まで日本全国に、不確定な情報で追いかける。息を殺し、“その時”を待って張り込み続けた総撮影時間は780時間(ちなみに、海洋ドキュメンタリー映画『ディープ・ブルー』の撮影フィルムは7,000時間)。追いかけた動物、100種以上、総制作費2,000万円をかけた「スタンダップアニマル・スペクタクル巨編」。 製作スタッフは、ついに広島の風太くんの祖父「ロンロンじいさん」に行き着く。果たしてロンロンじいさんは立つのか?風太くんが立つのは遺伝なのか? 特にストーリーはなく、動物が立つ映像が次々に流れるだけだが、お父さんの死、お母さんの再婚といった、風太くん家族の複雑な“関係”も明らかにされる。 出演する動物たちは、風太くん(レッサーパンダ)、ロンロン(風太くんのおじいちゃん)、ナラ(風太くんのお母さん)、チイチイ(風太くんの恋人)、ゴマフアザラシ、ミーアキャット、プレーリードッグ、ベニイロフラミンゴ、ミニブタ、シマリス、ラッコ、カンガルー、アリクイ、アナゴ、クリオネ、イノシシ、ハゴロモツル、マルチーズ、ミニウサギ、ホワイトワラビー、オグロワラビー、コツメカワウソ、ヤギ、ヒョウなどなど。 一応全102種類ということになっているが、風太くんの家族であるおじいちゃんや、お母さんなどもそれぞれ1種類にカウントしているのは、反則のような気もする。 また、立つ動物といってもクリオネなど水中の生物や、普段から2足方向の鳥類やミーアキャットや、カンガルーなども含まれている。それ以外の動物でも、「一瞬、つかまり立ちしただけでは?」というような映像がほとんど。驚くような立ち姿は、かなり少ない。「思いつきで撮影に出向いて、とりあえず撮れた映像をつないで形にした」という印象だ。 全編にBGMが流れているが、あまり環境音は入っていないので、純粋に動物ドキュメンタリーとして楽しむのは難しい。また、ナレーションで解説も入るが、誰でも知っているような常識レベルなことが多い。子供が見るときには役立つかもしれない。映画の最後はナレーションで「今日も皆、元気に立っています」で締めくくられている。 色々な意味でB級映画ではあるのだが、テーマソングがメジャーどころの大塚愛の「ネコに風船」というのも、アンバランス感があって面白いところ。こんなところに、エイベックスグループの力が生かされているようだ。
■ ビットレートは高いが、ソース映像の画質がよくない
特典も本編ディスクに収録しているが本編が68分と短く、片面2層ディスクのため、DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.60Mbpsと高い。確かにMPEGエンコードに起因するようなノイズはほとんど見あたらないが、ソース映像の画質があまりよくないようだ。フィルム撮影でなくビデオ撮影だと思われるが、全体的に白とび気味で、色彩は鮮やかだが飽和気味。また、ビスタサイズをスクイーズ収録してないことも残念だ。 音声はリニアPCM 2.0chのみ。環境音をほとんど収録していないため、サラウンドである必要はないといえばない。リニアPCMなので、音質としての不満はない。大塚愛「ネコに風船」も、もちろんリニアPCMで聞けるので、ファンにとっては嬉しいかもしれない。 チャプターリストは13個で、チャプターメニューは動物の写真となっている。102種類なのに、なぜ13個しかチャプタしかないのかと思うと、エンドロールにも多数の動物が登場していた。なおDVDには、収録動物全102種類のリスト/全国動物園マップを印刷した紙も封入されている。
映像特典は本編ディスクに「もっといっぱい 風太くん」(約10分)、「もっといっぱい 風太くんファミリー」(約4分)、「もっといっぱい 立つどうぶつの仲間たち」(約11分30秒)、「立つどうぶつ『誕生』」(約5分30秒)、「劇場予告」(約1分20秒)、「TVCM」(15秒)を収録している。 この中で最も興味深いのが、「立つどうぶつ『誕生』」。あまり見る機会のない、シマウマ、アメミキリン、イルカの出産シーンが収録されている。内容が内容だけに、感動的という的では、映画本編を上回っている。 「もっといっぱい 風太くん」では、風太くんの成長記録映像を見ることができる。ほとんど解説はないが、 風太くんの体重や身長が明らかにされる。「もっといっぱい 風太くんファミリー」では、チイチイちゃん、マツおじちゃん、イチおじちゃん、ナナおばあちゃん、ロンロンおじいちゃんといった風太くんの家族が紹介される。風太くんファンにはたまらない内容だろう。 「もっといっぱい 立つどうぶつの仲間たち」では、本編に入りきらなかった、ギンギツネ、プレーリードッグなどの立つどうぶつが収録されている。個人的には、ワニが顔だけ出して、肩まで水に浸かって、前足を水中に浮かしてピクリともしない映像は非常に面白かったが、果たしてこれは「立っている」といえるのだろうか?
■ 映像特典の出産シーンは必見
正直なところ、映画としては成立しておらず、映像集にとどまっていると思う。しかし、子供が見れば喜ぶことは間違いなく、2,500円という価格も買いやすい。子供なら何度も見るだろうから、割安かもしれない。 また、DVDの映像特典の出産シーンは、あまり見る機会のない映像なのでその価値は高い。風太くんファンにとっても、映像特典も含めると風太くんの映像がたくさん収録されているので必見のDVDだろう。
http://www.standup-animal.jp/ (2005年12月27日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|