■ Appleの隠し球はフツーのiPodスピーカー? iPodの投入以来、コンピューターメーカーというより、「オーディオプレーヤーメーカー」としての認知が急速に高まっているApple。そのAppleがホームオーディオに参入するという噂は昨年末から聞こえてきていたが、3月1日(米国では2月28日)、その実体が明らかにされた。それがiPod用ホームオーディオシステム「iPod Hi-Fi」だ。
しかし、デザインはともかく、機能的にはiPodを接続するだけの極めてオーソドックスなスピーカー。ニュースリリースなどからはAppleならではの独自性というのはさほど見あたらないように感じられる。 iPodの躍進やiTunes Music Store、かつて謳っていた“デジタルハブ”というコンセプト、AirMac Expressのようなネットワーク製品など、さまざまなデジタルソリューションを有するAppleにしては非常に地味にも映る。米国の発表会では、スティーブ・ジョブスCEOが「ホームオーディオをReinvent(再発明/改革)する」と意気込みを語ったというが、その革新的な部分がどこにあるのか、本当にあるのか、気になるところだ。 iPod “Hi-Fi”というネーミングにはなんとなく懐かしさも感じさせるが、機能的には非常にシンプル。しかし、AppleStore価格は42,800円と、そこそこのオーディオコンポも買えてしまう、強気な価格設定にも思える。ともあれ、デジタルオーディオの第一人者ともいえるAppleが本気で取り組んだ、ホームオーディオ製品だけに注目度は高い。早速試用してみた。 ■ 重量もオーディオ級?
本体の外形寸法は431.8×175.3×167.6mm(幅×奥行き×高さ)で、当然パッケージもかなり大きい。しかし、驚くのはその重さ。本体重量は6.6kgで、手持ちで電車に乗って持って帰るにはかなり厳しい。同梱品は電源ケーブルと、リモコンのAppleRemote、iPod Dockアダプタのみとシンプルだ。 本体はホワイトを基調とした横長のデザインで、一見するとセンタースピーカーにも見える。左右に取っ手を備えており、持ち運びを容易にしている。実際に持ち上げてみると、かなりの重量感。この重量感がオーディオ機器らしくもある。 本体上部にはDockコネクタを装備し、ここに同梱の各種iPod用のDockアダプタを装着し、iPodを置くことで専用のオーディオシステムとなる。Dockコネクタの前部にはタッチセンサー式のボリュームボタンを備えている。 本体前面にはサランネットを備えており、これを外すと左右に80mm径のワイドレンジドライバ、中央に130mm径のデュアルボイスコイルウーファが現れる。ウーファ脇にはバスレフポートを備えている。 背面には、電源入力とステレオミニ/光デジタル兼用の音声入力端子を装備。iPod shuffleなどDockコネクタ非対応のiPodや他のオーディオプレーヤーと接続し、アクティブ型のスピーカーとして利用できる。電源は本体に内蔵するほか、単1乾電池×6本での駆動にも対応している。 なお、サードパーティ製iPodスピーカーのようにPC連携用のUSB端子などは装備しないので、iPod Hi-Fiを利用しながらiTunesと同期することはできない。完全にオーディオシステムに特化して割り切った仕様になっている。 筐体はプラスチックシェルを採用。高級感はさほどないものの、作りの良さは随所に感じられる。シェルは2重壁構造のプラスチックにより共振を排除。また、底面に大きなゴム素材のインシュレータを配しており、これらの効果により振動による悪影響を防いでいるようだ。
■ 操作はiPodが中心に。リモコンは基本操作のみ システムとしてはシンプルで、電源ケーブルを繋いでiPodをDockコネクタ上に設置するだけ。後はiPodを操作するだけで音楽再生が可能となる(あらかじめiPodに楽曲を転送しておく必要はあるが)。Dock接続時には、iPodの充電も行なわれる。 操作はiPod、もしくは付属のAppleRemoteを利用する。iPodでは全ての操作が可能で、メインメニューの移動から、各種設定のほか、アルバム/アーティスト検索、プレイリスト選択などの楽曲検索作業はiPodから行なう。
一方のAppleRemoteでは、再生/停止や、ボリューム変更、スキップ/バックなどの基本操作のみに対応。アルバム/アーティスト/プレイリスト変更などの楽曲検索は行なえない。つまり、プレイリストを選択して再生した場合、そのプレイリスト内での曲スキップ/バックや早送り、再生/停止などの操作は可能だが、他のプレイリストやアルバムに移動することはできない。 MENUボタンも備えているのでメインメニューを呼び出せるかと思ったが、これは外部入力の切替に割り当てられており、長押しすることで、外部入力音声をiPod Hi-Fiで再生できる。 ボリュームはiPodとiPod Hi-Fi上のボリュームボタン、AppleRemoteで変更できる。また、iPod Hi-Fiではスピーカー設定の調整機能も新搭載。Dockに接続するとiPodのメインメニューに[スピーカー]の項目が現れる。ここでは、[トーンコントロール]、[バックライト]、[アルバムアート]の3項目の設定が可能。 トーンコントロールは、音質調整機能で、Treble Boost(高域強調)/標準/Bass Boost(低域強調)の3つの音質が選択できる。標準が一番バランスがいいが、低音不足のソースなどに合わせて適用してもいいだろう。 バックライトは、接続中のiPodのバックライト表示に関するもの。常にオン/常にオフ/キーを押した時の3つが選択できる。アルバムアートは再生画面の表示モード選択で、通常はアルバムを小さく表示しながら、再生楽曲情報や再生時間を表示するが、ここでアルバムアート(大)をオンにすると、再生中にジャケット画像を全画面で表示する。なお、ジャケットが登録されていない場合は、黒い画面のままなので、ジャケットをしっかり登録している人向きの機能といえる。
なお、これらのスピーカー設定は、ほかのiPod対応スピーカーでは利用できない。試しにロジクールの「mm50 Portable Speakers for iPod」を接続してみたものの、スピーカーメニューは現れなかった。 基本的な機能は非常にシンプルで特に戸惑うようなところはないだろう。唯一気になったのは本体上のボリュームボタン。プレイリスト選択などの際にiPodを操作しようとして、その下部のタッチセンサーボリュームに触れてしまうのだ。少し手を伸ばしながら操作すると、ボリュームに触れながらiPodを操作してしまう。右利きの人が操作するとボリュームの上に触れながら操作しがちなので、いざiPodの再生をスタート時に大音量が鳴り響き驚かされることが何度もあった。このあたりは利用時に十分注意したいところだ。 ■ “iPod周辺機器”でなくiPodステレオ 音質については、重量級の筐体や大型ユニットの搭載もあり、PC周辺機器的な他社製品とはクラスの違いを感じさせる。 128~160kbpsのMP3やiTunes Music Storeで購入したAACファイルを中心に聞いてみたが、ソースのバランスを忠実に再現しながらもハリのある低域が印象的。スペック的には、再生周波数帯域が53Hz~16kHzと特筆するようなところはないのだが、バスレフ型らしい重量感を保ちつつ、キレのよい締まった低域を聞かせてくれる。 また、エレキベースやシンセベースには独特のドライブ感があり、Weather Reportによる「トレイシーの肖像」などフュージョン系のソースでは「ここまでベース出ていたか? 」と思うほど。とはいえ、帯域が下まで出すぎるようなルーズさはなく、伸びとキレのある心地よいドライブ感が味わえる。また、ハウス系のシンセベースも量感が出ながら、しっかりと締まっている。独特なサウンドではあるが、ソースのバランスを崩すようなことはなく、むしろこのあたりがiPod Hi-Fiのサウンド上の個性といえそうだ。 アコースティックギターのソロやジャズピアノなどでも、奥行きと立体感のある音像が楽しめ、ボーカルのセパレーションも良好。メリハリのあるサウンドが好みの人にはかなり楽しめるだろう。 アンプ部の出力は非公開だが、ピーク性能も他のiPodスピーカーよりかなり余裕があり、ある程度大きな部屋でも充分活用できそうだ。ロジクール「mm50 Portable Speakers for iPod」と比較してみたが、mm50ではある程度ボリュームを上げるとiPodや筐体が共振して、音割れしてしまうのだが、iPod Hi-Fiではmm50より相当大きな音量でも自然に再生できる。 ただし、設置する環境により、音の聞こえ方がかなり変わってしまう。例えばiPod Hi-Fiの梱包箱のような不安定な台の上に置いて再生すると、明らかに低音が痩せて聞こえ、かなり安っぽい音になってしまう。堅くしっかりしたラックなりボードの上に設置しないと、iPod Hi-Fiの本領は発揮できないだろう。 設置場所や設置台はある程度きちんとした環境を用意したい。逆に言えば、そうした細かいチューニングの楽しみもありそうだ。また、一体型の筐体ということもあり、リスニングポイントはやや狭くなることも、設置時に注意したいポイントだ。 また、外部音声入力(ステレオミニ/光デジタル兼用)も装備しており、接続したiPodや他社製のオーディオプレーヤーも再生可能。外部入力とiPodの切替は、AppleRemoteのMENUボタン長押し、もしくはiPodをDockコネクタから外す必要がある。なお、外部入力とiPodの音声をミックスして再生することはできない。 外部入力は、光デジタル(ミニジャック)も兼ねているので、DVDプレーヤーなどのデジタル出力をiPod Hi-Fiで再生することも可能となっている。バーチャルサラウンド系の機能は備えていないが、DVDビデオ再生時にも活用できそうだ。 ■ オーディオへの意気込みを感じる製品 Appleのホームオーディオ製品第一弾ということで、iPodとの融合を深めた製品になると予想していたが、iPod Hi-Fiでは、思いのほかオーソドックスなオーディオシステムに仕上げれている。従来製品のようなPC/Mac連携機能をあえて省いたあたりは“オーディオ”としての完成度を高めようという意志とも取れる。 ボーズ「SoundDock(34,860円)」や、Monitor Audioの「iDeck(52,290円)」、AltecLansing「iM7(28,000円)」、Harman-Multimediaの「onStation(19,800円)」など、比較的高価なiPod専用スピーカーは多種多様に登場しているが、iPod Hi-Fiはオーディオメーカーの向こうを張る“オーディオらしい”製品といえる。実際の音質についても妥協は感じられず、この市場でシェアをどこまで取るのかも注目される。 iPodなどデジタルオーディオプレーヤーの普及以来、従来のステレオやコンポでなく、PCやデジタルプレーヤーを家庭で積極的に活用しようというニーズは増えている。この市場がどこまで大きくなるのかはわからないが、Appleが本格的な“ホームオーディオ”製品を投入したことにより、今までいかにもPC周辺機器然としていたオーディオプレーヤー向けスピーカーの市場が変化したり、あるいはミニコンポの市場にも影響を及ぼすことは間違いないだろう。 購入にあたっては、全ての音楽をiPodに統合し、しかもなるべくいい音で聞きたいという人にとっては最有力の選択肢になることは間違いない。とはいえ、CD/MDコンポなどでもiPod対応が進んでいるので、それらの製品と比較して、機能的には大きなアドバンテージがあるわけでもない。このあたりの判断が購入の分かれ目になりそうだ。 個人的にはせっかくの純正製品なので、リモコンでプレイリストやアルバム検索などができるなど、他社の一歩上をいく機能も欲しかったと感じる。また、ホームオーディオへの本格参入に当たり、ネットワークやiTunes Music Storeなどと連携した本当の意味での革新的な製品を期待したいところだ。 □アップルのホームページ (2006年3月3日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|