■ レコーダは「思想」 ここで香ばしいぐらいの妄言を吐くならば、これからのレコーダは「思想の時代」に突入するのだ、と思う。アナログ放送がメインの時代までは、画質の時代であった。ゴーストリダクション、Y/C分離、高画質エンコーダといったところで差別化が行なわれてきたわけだ。 これがデジタル放送時代になると、当然TS録画が主流になってくるわけで、なかなか画質面での差別化が難しくなる。いや、メーカー側は一生懸命差別化しようとしているのだが、もう消費者側で違いがわからないレベルになってきている。 もちろん今年は次世代DVDという目玉があるわけだが、それも含めてユーザーにどう使わせるかという、思想が差別化の要因になってくるのではないか。昨年末から今年にかけてのレコーダは、各社の思想の違いがいい具合に製品に反映してきているように思える。 そういう意味でシャープのHDDレコーダ「AQUOS」シリーズは、かなり思想の違いが楽しめる作りになっている。ご存じのようにAQUOSは液晶テレビのブランドとしてよく知られているが、今月発売される「DV-ARW25」(以下ARW25)はデジタル放送全波をダブルチューナにするという製品を繰り出してきた。もはやハイビジョンテレビに繋がっていて当然、といった割り切りが先進的だ。 ワールドカップも録り逃しなしの強力な「裏録」搭載機ARW25を、さっそく試してみよう。
■ 綺麗な作りで好印象
まずはいつものようにデザインから見ていこう。基本的には前モデルであるARW12などと同じテイストだが、全体のボディカラーがなかなか綺麗で、普通のシルバーではなく、クロームのような高級感のある塗装になっている。同社の液晶テレビのボディと同系統カラーだ。 またデジタル放送対応レコーダとしてはあまり本体の厚みがないほうで、アナログ時代のレコーダとだいたい同サイズなのは評価できる。 フロントパネル上部は滑らかな曲線を描いており、質感が高い。電源ボタンやステータスLEDも控えめで、このあたりのデザイン思想はテレビに共通するものがある。特に目玉である「裏録」には、別途大きめの表示が付けられており、動作時に点灯する。
中央部には、Hi-Visionという名称と共にブルーのLEDが仕込まれている。このブルーLEDは量産されたのが最近ということで、ずいぶんいろんなメーカーがステータス表示に採用しているが、同じ発光量でも赤よりまぶしく感じる。必要な表示なら仕方がないが、単なるデコレーションとしては目立ちすぎだろう。 右側のDVDドライブはDVD-R/RWがCPRM対応。今回はDVD-R DLにも対応したが、VRモードをサポートしないため、デジタル放送の番組はムーブできない。またDVD-RAM、DVD+R/RWは、再生のみ対応している。搭載HDDは500GB。 下部はミラーパネルになっており、同社が以前から特徴としている「メディアサークル」を挟んで、中央部には日本語で番組名表示可能な「タイトルウィンドウ」を備えている。これらのディスプレイは、ある意味シャープのレコーダの顔になっているのだが、今となっては若干古くさいイメージになってきている。
パネルを開けると、操作ボタン類がある。再生操作ほか放送波、チャンネル、メディア切り替えは本体で可能になっている。外部入力は前面にはi.LINK端子のみと、なかなか割り切っている。この端子は、設定でDVカメラ用かTS用かに切り替えできる。またHDVカメラにも対応しており、TSモードで映像の取り込みができる。 背面に回ってみよう。RF入力はアナログと地デジ、BS/110度CSデジ。チューナ数は、地デジ×2、BSデジ×2、110度CS×2、地上アナログ×1の計7チューナ。前モデル「DV-ARW15」では地デジチューナ×2、BS/110度CSデジタルチューナ×1という構成だったが、デジタルチューナもそれぞれ2基に改善された。
アナログAV入力は2系統、アナログAV出力も2系統。そのうち1つはD端子とRCAのアナログオーディオ端子のセットである。デジタルオーディオは光デジタルのみ装備、HDMIも1つ備えている。また背面にもi.LINK端子があり、前面と合わせると2系統だ。デジタル放送用にLAN端子もあるが、ホームネットワーク用のサーバ機能などはない。 リモコンも見てみよう。昨今のレコーダとしてはオーソドックスで、十字キー操作を中心としたスタイル。本体の質感が高い割には、リモコンにはあまり予算を割いていない感じだ。
GUIは「スタートメニュー」に集約され、「録画リスト」と「予約」が単独で起動できる。フタを開けると12キーほか、入力切り替え、HDMI切り替えといったボタンがある。
■ HD解像度の番組表は圧巻 では中味のほうを見ていこう。まず番組表画面だが、本機では番組表をHD解像度で表示する機能を持っている。SD解像度で出力したものと比較して貰えればお分かりかと思うが、HD解像度表示は縦横2倍の表示領域がある。つまり縦6局分、横6時間分の番組が一度に確認できるわけだ。
すでにハイビジョン対応テレビでの番組表表示では、これぐらいの解像度での表示を実現しているものは多いが、実はレコーダではなかなかやってない。というのも、レコーダのマーケティング的には、まだ接続先するテレビはSD解像度が大半であるという前提で設計されているからである。だが本機のこの早急な割り切りは、HDテレビを持っているユーザーには、確実に便利だ。 ただすべてのGUIがHD解像度というわけではなく、番組表以外のメニューは、SD解像度である。もちろんアナログ放送のGガイドも、SD解像度表示となる。 日時検索はシンプルで、番組表のトップで一日を4つ、つまり6時間単位で分けている。その時間帯を選択すると、単にその時間の番組表に移動するだけである。
ジャンル検索もシンプルで、縦軸にニュース、スポーツなどのジャンルが並び、横軸は一日を午前と午後のタブに分けて番組を表示するというスタイル。検索とは言っても、実際にやっていることはソートに近い。ただ表示切り替えは非常に高速で、次のページに移動してもストレスはまったくない。 昨今のレコーダではキーワードによる自動録画といった機能を搭載しているが、本機の場合はあくまでも番組表がベースであり、そのような自動化機能は搭載していない。どちらかというと、旧来の録画スタイルを好むタイプのユーザー層を狙っているようだ。未だにGコードでのアナログ放送予約も装備しているところなどにも、その傾向が現われている。 今回のキモである「裏録」について、少し理解しておいた方がいいだろう。本機で「裏録」が意味するところは、2番目のチューナのセットである。デジタル放送はチューナが2系統あるわけだが、「裏録」と指定して録画できるのは、地デジ、BSデジ、100度CSデジの3つとなる。ただしMPEGエンコーダは「裏録」のほうには付いていないので、TSモード固定での録画となる。また地上アナログは、通常の予約録画しかできない。 つまり、アナログ放送を何か予約している時間帯では、デジタル放送は必ず「裏録」のTS録画になるということである。逆にアナログ放送やMPEGエンコードによる録画を無視すれば、かなり自由度の高い予約録画が可能だ。 試しに地デジの番組を通常予約した状態で、いろいろ試してみた。同時間帯に番組をもう一つ予約しようとすると、予約重複を知らせる画面が出てくる。デフォルトでは「重複予約を休止し予約する」になっており、ここで「裏録予約する」を選択すると、2つ目の番組が裏録の予約となる。
さらに3つめの予約を入れようとすると、「裏録予約する」ボタンは現われず、「重複予約を休止し予約する」がデフォルトとなる。これを押すと、最初に予約された通常予約が休止となり、3番目の予約が通常予約となる。 予約の状況は、番組表から黄色ボタンを押して確認できる。休止とは予約が削除されるわけではなく、実行しないということだ。この画面上でも、緑ボタンを押すことで休止から実行へ変更できる。
いろいろ試してみたところ、「重複予約を休止し予約する」で自動変更されるのは、通常予約した番組だけのようだ。つまり「裏録」として指定した番組のほうは、「実行」で固定されたままとなる。 もちろん予約確認画面では、「裏録」の番組の実行を手動で「休止」に変更できる。こうすれば、ほかの予約を裏録に指定することもできる。 地上波もBSも関係なくダブル録画できるようになったという点では、BS、CS派のユーザーにとってかなり強力なマシンと言えるだろう。
■ オーソドックスな編集機能 続いて再生、編集機能を見てみよう。「録画リスト」画面では、録画番組をサムネイル表示とリスト表示に切り替えることができる。サムネイル表示では、最初にサムネイルを作る時には若干待たされるが、一度作られてしまえば次回からの表示は早い。
番組を選んだままにしておくと、サムネイル画面上で音声付きで再生される。アナログ地上波の録画では当たり前だった機能だが、HDでも遜色なく実現できている点は評価していいだろう。 番組の編集は、いったん「スタートメニュー」へ行って「再生・編集」を選ぶか、「録画リスト」画面から黄色ボタンで「機能メニュー」を選ぶ。録画リストから行った方が、すでに対象となる番組を選んでいることもあって、使いやすい。
編集には、部分消去とチャプタ編集がある。ただ、TS録画した番組にはチャプタは付けられるが、プレイリストに追加できないという妙な制限がある。つまりデジタル放送の番組の不要部分カットは、事実上部分消去しかできないということになる。
部分消去時における動画のレスポンスは、HDの割にはなかなか快適だ。たださすがに、コマ送りは多少もたつく感じはある。なお、チャプタスキップボタンを長押しすると、連続してコマ送りとなる。 一方プレイリスト編集は、自由度が高い。TS録画した番組では利用できないのが残念だが、MPEG-2にエンコードしながら録画した映像の編集には使いやすい。 通常プレイリストに映像を追加するには、事前にチャプタで分けておかなければならないが、本機の場合は事前にそのような作業をする必要はない。新規プレイリストを作成して映像を追加する際に、指定したシーンを切り出して追加していくことができる。
その場で長いストリームから必要部分だけを切り出して、それがそのままプレイリストに追加される方式というのは、ノンリニア編集ソフトによく見られるスタイルである。レコーダでこれを実装する場合、シーンを追加するたびにいちいち編集モードから追い出されてしまうようなものもあるが、連続で作業できるようにしてあるというのは、編集というものをよくわかっている。 一方HDVカメラから録画したものは、HDのままでTS録画してしまうと、同じくプレイリストに追加ができない。ただチャプタを設定したあと、DVDへのダビングリストではチャプタ単位で追加できる。順番の並び替えも、そこでやろうと思えばできるわけだが、やはり本質的にはTS録画でもプレイリスト作成ができるべきだろう。
■ ゼイタクなヘルプを搭載 続いてダビング機能について見ていこう。事前にDVDにダビングやムーブすることがわかっている場合は、録画時にTSモード以外で録っておけば高速ダビングが可能だ。だがTSモードで録画した場合は、SDサイズに再エンコードするため、等倍の時間がかかる。またMPEGエンコーダが通常録画用の1基しかないので、ダビング動作中に予約が実行されるのは「裏録」で指定した予約のみとなる。このため、DVDへのダビングでは、ダビング動作をいつ行なうかの予約設定ができるようになっている。 ダビングの指定は、タイトル単位かチャプタ単位が選択できる。ただチャプタ単位と言っても、一つのタイトル内にあるチャプタしか選択できない。つまり1本の映画などからチャプタを切り出してDVD1枚にムーブすることはできるが、番組2本はチャプタ単位で指定できない。
またTS録画ではプレイリストも作成できないので、この場合は部分削除を使って不要部分を完全消去しておくしかない。各所でデジタルハイビジョン放送へ割り切ったにしては、プレイリストが役に立たなかったりと、内部矛盾を抱えているところが見られる。
本機に搭載されている「ヘルプ」は、なかなか大がかりだ。本体にヘルプ機能を盛り込んだモデルはいくつかあるが、本機では図版もふんだんに盛り込んでおり、ちょっとしたマニュアルのような体裁になっている。 画面を切り替えるたびにデータ放送のマークが点くのは、BMLで記述されているからだろう。BMLとは、日本の放送でのみ使用されているマークアップ言語で、XMLがベースになっている。ただ日本の独自仕様言語なので、ツール類も少なく、コンテンツ作成はなかなか進まなかった。 デジタル放送対応機器には、一部の製品を除き、このBMLブラウザが標準搭載されている。ボタンなどを使ったインタラクティブなヘルプは、この資産をうまく利用した機能と言えるだろう。
■ 総論 今回のDV-ARW25は、正直言って実機を触るまではあまり期待していなかったのだが、実際に使ってみるとなかなかよくできている。確かに最近流行の自動録画や画像解析といった機能はないのだが、これまでSDでは当たり前にできていた部分を、HDでも同じレスポンスで当たり前にできるようにしようという、基本的な部分でのがんばりが光る。操作系は各箇所で4色ボタンがふんだんに使われており、専用ボタンが少ないことに戸惑いを覚える人もあるかもしれない。どちらかと言えば、デジタルテレビライクな操作体系で、テレビのデータ放送などをよく利用する人のほうが、感覚的に馴染みやすいだろう。 値段のほうも、デジタル放送の全波をダブルチューナにするというリッチな作りの割に、店頭予想価格は16万前後と思ったより高くない。すでにカカクコムあたりでは、13万円台まで下がってきているようで、この値段ならいい買い物だろう。 また下位モデルの「DV-ARW22」は、HDD容量が半分になっただけで、機能的には同じだ。今回のラインナップには、消しても良さそうな番組をリストアップしてくれる「おすすめ消去リスト」も搭載しており、「見たら消す」のサイクルが早い人には、こちらでも十分だろう。 AQUOSレコーダは、ホームネットワークにも対応しておらず、またメモリ書き出しといった機能もない。その代わり、i.LINK接続でHDVやHDDなど外部にハイビジョン画質のまま移動という手段に力を入れている感じがする。ソニーや東芝の作りを「アウトドア派」とするならば、シャープはテレビ視聴の本道とも言える「インドア派」の作りといった思想を感じる。
(2006年6月7日)
[Reported by 小寺信良]
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