■ 謎のブランド「VARDIA」 最近になって東芝は突然ブランディング戦略に目覚めたのか、矢継ぎ早に新ブランドを立ち上げている。2月には液晶テレビで「REGZA」を立ち上げ、続いてレコーダではこの5月に「VARDIA」を立ち上げた。確かにテレビ部門が新ブランドを欲したのはわかる。Panasonicは早々と「T(タウ)」から「VIERA」へ切り換え、ソニーが「WEGA」から「BRAVIA」に変えて、ブラウン管時代のネーミングと一線を画すことでコントラストを付けた。東芝の「FACE」から「REGZA」への移行は、むしろ遅すぎたぐらいである。 ただレコーダの場合は、若干事情が違う。これまでよく言われていたRDというシリーズ名は、特にロゴとしてデザインされていたわけではなかった。従来のボディを見てみると、ロゴらしいものは「TOSHIBA」だけである。今回のブランド設立も、「東芝のレコーダ」としてのくくりが欲しかった、というところだろう。 ただ新ブランドの投入タイミングとしては、どうも微妙だ。RDの時代からデジタル放送対応はすでに行なわれていたし、モデル名も基本的にはRDシリーズの法則に則っている。さらにHD DVDレコーダが「VARDIA」ブランドになるかどうかも未定という。 何かの節目で新ブランドを立ち上げることに対しての意義は大いに認めるところであるが、今回のブランドはこれまでの延長線上の上で突然名前だけが浮上したような、中途半端な印象が拭えない。 さて今回は新ブランドながら、機能的には過去RDシリーズの正常進化とも言えるハイエンドモデル、「RD-XD92D」(以下XD92D)を試してみたい。
■ 重厚なイメージのボディ まずデザインからだが、XD92Dという型番からもわかるように、今回のマシンは昨年11月に発売されたモデル「RD-XD91」の後継機と考えていいだろう。ただ新ブランドということもあって、ボディデザインは新しくなっている。
前面パネルは斜めに切り出したような感じで、以前発売された「RD-XS41」とは逆斜めといった風情だ。中央のドライブ部には、「VARDIA」のロゴが付けられている。昨今のRDのデザインの中では、一番シックな感じがする。 上面はハーフミラー仕込みのアクリル、下面は樹脂製だが金属的な光沢感を持つ塗装で仕上げてあり、安っぽさはない。もちろん店頭予想価格168,000円のレコーダが安っぽかったら、それはそれで困っちゃうのだが。 左側には電源ボタンと記録先切り替え、そして新たに「W録」というボタンが新設されている。以前のRD-X6まではTSが1系統とSD解像度のR1、R2が2系統の合計3切り替えだったが、今回はTSが2系統とSD解像度のVRで3切り替えになっている。つまりTSのダブル録画が可能になったところが、今回の進化点の一つだ。
中央部のドライブはDVD-RAM/R/RWだが、今回はR DLがCPRM対応になった。これまではDL対応ではあるものの、アナログ放送の番組でしか使えなかったわけだが、デジタル放送の番組もより高画質でムーブできるというわけだ。 搭載HDDは600GB。以前のRDでは、TSとVRの録画領域をパーテーションで分ける必要があったが、今回はその必要はなくなっている。 前面右側は再生操作の4ボタンがある程度。前面下部のパネルを開けると、B-CASカードスロットと外部入力端子があるだけで、パネルのボタン類はかなり少ないほうだろう。 背面に回ってみよう。RF入力は地上波アナログと、地デジ、BS/CSデジ。アナログAV入力3系統のほか、D1入力も備える。出力はアナログAV 2系統とD4、光デジタル音声出力にHDMI端子を備える。またi.LINK(TS)端子やスカパー! 連動端子など、外部入力に強い作りは特徴的だ。
もちろんハイエンドモデルのXシリーズでは、コンポーネント端子や同軸のデジタル音声端子まで付いて、オマケにバックパネルはステンレスだったりするわけだが、XDシリーズはそれよりもやや普及レンジの製品ということで、実用的な端子類に抑えてある感じだ。 続いてリモコンも見てみよう。基本的なボタン配列は前モデルのものと変わりないが、「W録」ボタンの名称変更やカラーの変更などが行なわれている。前回のリモコンが手元にないのではっきり確認できないが、十字キー周りの8ボタンの境目が以前より低くなっており、押したときの不快感がなくなっているように感じる。
■ デジタル放送が基軸の設計 今回の新モデルの目玉の一つは、2系統のTS録画である点はすでに述べた。これまでTSのダブル録画を実現したのは昨年9月の日立「DV-DH500W」が最初で、それにシャープ「DV-ARW15/12」が続き、本機で3メーカー目となる。TSのダブル録画は、順当に見ればいつかは実現されてしかるべき機能だが、どの段階で乗せるかは判断が分かれるところだ。この3メーカーは立場はそれぞれ違えども、次世代DVDを待たずにダブル録画の道を選んだ、ということである。これ以外のメーカー、中でもソニーとパナソニックは、Blu-ray搭載以降のタイミングで、TSダブル録画に乗り出すのではないかと予測している。 本機のダブル録画の内訳は、TS1とVRが切り替えで動作するようになっている。VRとはいわゆるMPEG-2エンコーダと考えれば間違いないが、これによりアナログ放送や外部入力を録画したり、あるいはTS1に繋がったデジタルチューナの出力をSD解像度に変換しながら録画するわけだ。 一方TS2のほうは独立したデジタルチューナを持っていて単独で動けるのだが、録画動作中には若干の制限がある。例えばTS2の録画中はHDD内のタイトルが再生できないとか、追っかけ再生ができないとかいったことだ。従ってメインの録画は、なるべくTS1側を使って上手くやりくりしたほうが使い勝手がいい。 GUIは前モデルで大幅に変更されており、基本的にはそれをそのまま踏襲した形だ。新GUIの概念や特徴などは、以前のX6のレビューを参考にして欲しい。
重複予約の時は、単に警告するだけではなく、この予約をどうするか、先に予約されていたものをどうするかを選択することができる。うまくダブル録画をするためには、上記の法則をよく頭に入れておかないと、混乱するだろう。 この動作で気になったのは、「TS2に切り替えて予約する」や「VRに切り替えて予約する」の選択肢を選ぶと、今の予約を残したまま、また新たにTS2なりVRなりの録画予約を追加してしまうところだ。つまりただでさえ重複している状態なのに、さらに3つめの重複予約を追加してしまうのである。
重複予約をTS2などに振り分けるには、「この番組を含む予約を確認する」を選んで、予約画面の中でW録の設定を変更しなくてはならない。 いったん重複させておいて、いらない予約を消した方が効率的、とする考え方もあるだろう。だがこのダイアログの文面をストレートに読むと、現在選択中の予約をTS2なりに変更してくれる機能のように思える。また実際にそれで済むケースも多いと思うのだが、どうだろうか。
この番組ナビの画面は、全体的に動作が緩慢だ。番組表ではスクロールの反応も鈍いし、「Myジャンル番組リスト」の表示では、リスト表示されるまでに結構間がある。また番組名が表示された後でもう一度リドローしたり、上から順にステーションロゴが一つずつ表示されていくといった動作が見えてしまう。予約時の番組表ブラウジングには、ストレスを感じるだろう。 また描画ということでは、チャプタ編集画面でチャプタ結合したあとに、プレビュー画面があちこちのIフレームを表示するので、作業していて非常に混乱する。このようなダンドリ動作中は、画面書き換えを停止して、ユーザーに動きを見せなくするべきではないだろうか。全体的にGUIの描画に関して、難がある印象を受ける。
■ 豊富なチャプタ機能 続いてチャプタ機能を見ていこう。最近のレコーダのトレンドは、映像のシーン解析技術にある。盛り上がったシーンをピックアップしてくれたり、CMのところで分割してくれたりといった機能だ。RDでは編集時の便宜を図るために、以前から自動でチャプタを付ける機能を3つ用意している。「音声部分自動チャプター分割」は、音声の無音部分を検出してチャプタを付けてくれる機能だ。ただこれはデジタル放送では使えないため、もっぱらアナログ放送か外部入力に対して使用する機能だ。 「本編自動チャプター分割」は、番組本編とCM部分を検出してチャプタを付けてくれる機能。バラエティなどでよくある、CM開けも直前のCM前の本編を繰り返して視聴者を引っ張るような編集も、この機能でチャプタを付けて分けてくれる。
この機能は予約画面の「詳しい設定」で個別に設定する。これで分割された番組は、「おまかせプレイリスト作成」機能を使うことで、CMやダブった部分を除外した本編だけのプレイリストを自動で作成してくれる。
「マジックチャプター分割」は、映像のシーンチェンジを解析して、ここから違うトピックだと思われる部分にチャプタを付けてくれる機能だ。ニュース番組などに使うことで、スタジオ部分とVTR部分を分けるといった使い方が想定されている。 この機能は「詳しい設定へ」画面で設定できるほか、録画機能設定で予約時のデフォルトとして、入にするか切にするかを設定することができる。またこれら3つの自動チャプタ分割は、TS2で予約したものには設定できないという制限がある。 実際に試してみると、カット変わりでのコントラストの差が大きい部分などに、チャプタが付けられている。ただ変わり目のはずなのにスルーしてしまっている部分も多く、もう少し感度の調整がユーザー側でできるといいのかもしれない。
■ 惜しいDLNA実装 続いてネットワーク関連の機能も見てみよう。以前からRDではネットワーク関連機能には力をいれて来た。「ネットdeリモコン」でPCをリモコン代わりにしたり、「ネットdeモニター」ではブラウザで番組が見られるようにしたりと、いろんなことに挑戦している。 もちろん独自機能だけではなく、RD-X6からはDLNAサーバー機能も搭載している。もちろん本機にも搭載済みである。東芝では以前からテレビの方、つまりクライアント側では昨年6月ごろからDLNA対応のアップデートを行なってきたが、ここにきてようやくサーバーとクライアントが揃いつつある。
DLNAの設定は、「ネットdeナビ」の設定画面にある。設定とは言っても大したことはなく、使用しないか、フィルタ有りで使用、フィルタなしで使用という選択があるのみだ。フィルタ有りの場合は、IPアドレスを登録したクライアントしか接続できなくなる。 DLNAに対応したバッファローのネットワークメディアプレーヤー「PC-P3LWGK/DVD」が手元にあったので、試しに接続してみた。面倒がないようにとりあえずフィルタなしでサーバーを動かしてみたが、メディアプレーヤーを起動しただけで簡単に接続できた。 ログインすると、「Video」フォルダ内に「RD-HDD」、「RD-DVD」、「public Video」というフォルダが現われる。RD-HDDフォルダ内には、HDDのルートと共にRD内にあるAからCまでのフォルダが見える。一方「public Video」の方は、サーバーのフォルダ構造に関係なく、公開可能なコンテンツが一覧で見えるという仕組みのようだ。
ただ残念なことに、XD92Dに実装されたDLNAでは、DTCP-IPに対応していないため、コピーワンスの番組はファイルとして現われない。XD92DがファームウェアのアップデートでDTCP-IPに対応できるような実装をしているのかは不明だが、昨今はデジタル放送以外にも、CSやCATVなどアナログ入力経由の録画でも、アナログのコピー管理技術である「CGMS-A」を検知してコピーワンスとして録画するようになっている。 DLNAに対して意欲的な部分は評価したいが、現実にはDTCP-IP非対応のDLNAは、次第に役に立たなくなりつつある。また同様の理由で「ネットdeモニター」でも、コピーワンスの番組を視聴できない。ネットワークでAVをやろうというからには、いち早いDTCP-IP対応が望まれる。
■ 総論 RD-XD92Dは、XD91の後継モデルとして、非常に順当な進化を遂げている。TSダブル録画にDVD-R DLのCPRM対応、自動チャプター機能のHD対応など、前モデルでの不満点を解消した。今回は、改善されたという「おすすめサービス」機能を試すことができなかったのは残念である。これは番組予約を始めてから、表示されるまで数日かかるということらしいので、短いレビュー期間では間に合わなかったようだ。 全体的に動作で気になるのは画面描画のスピードで、番組表などもそうだが、クリップやチャプタの表示といったサムネイルの作成にもちょっと時間がかかっている。SD時代には快適だったGUIも、HD解像度のファイル相手には苦戦しているようだ。 個人的にはこのマシンを、さあ新ブランド「VARDIA」ですと言われても、正直ピンと来ない。むしろタイミング的には、昨年末に新GUIを搭載した際に華々しくお披露目していた方が、インパクトはあっただろう。 「名実ともに」という言葉があるが、今のところ東芝のブランド戦略は、名前だけが先行している感がある。今後、新ブランドにふさわしいハードウェア・ソフトウェアの改革が行なわれることを期待したい。
□東芝のホームページ
(2006年5月31日)
[Reported by 小寺信良]
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