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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第271回:レコードを簡単にCD化、TEAC「GF-350」
自己完結型音楽録再装置というあり方



■ レコード、どうする?

 別にレトロに目覚めたわけではないのだが、先週のラジオに引き続いて、今週はレコードである。生まれた時からCDがあったと言う人にはまったく縁のない話かもしれないが、思春期がLPレコードだったという時代の人間ならば、多かれ少なかれ自宅や実家に埋没しているレコードがあるのではないだろうか。

 かく言う筆者もLPレコードは一時期300枚近くあったが、ずいぶん処分して今は100枚程度残っている。なぜその100枚が残ったかと考えてみると、おそらくCDが再発されないであろう希少盤だったり、あるいは思い出深くて手放せなかったものなどである。

 ただこういうものは、本当にただ持っているだけで、聴く機会などほとんどない。ターンテーブルも持っているのだが、やはり20分ごとに立ち上がってひっくり返しに行くのはどう考えても面倒なのである。

 もちろん、レコードをPCに取り込んでマスタリングしながらCDに、という方法も実践した。よく聴くだろうと思われるものはこうして処理したが、これも意外に時間が取られる作業なのである。結局真剣に取り組んだのは10枚ぐらいのもので、その他大勢のLPがまだ相当ある。

 こういうものはもう死蔵していくしかないんだろうなぁと思っていたわけだが、TEACからちょっといいものが出るというので、試してみることにした。LPレコードから音楽用CD-Rに気軽に録音できる、「GF-350」(直販価格:62,790円)である。

 それ以前にも、いわゆる「CDレコーダ」と言われるデッキが各社からリリースされていた。だがそのほとんどは、いわゆるコンポーネントのデッキスタイルで、オーディオセットに組み込むスタイルである。だがGF-350は、ターンテーブルからアンプ、スピーカーまで全部一体化した、オールインワンだ。

 死蔵LPをなんとかしたい、でも今さらターンテーブル買うのもなぁ、という思いを解消してくれるのだろうか。早速試してみよう。



■ レトロとモダンの狭間

 GF-350を販売するTEACは、言わずと知れた老舗オーディオメーカーであるが、実は以前からレトロデザインを採用したワンボックス製品をいくつかリリースしている。全体的にはミニコンポと言えるような構成だが、「SL-D900」はUSBメモリと連携できる。

 また「SL-A200」ではターンテーブルを乗せてレコード再生ができる。今回のGF-350は、SL-A200と似たような構成ながら、今度はレコードの音を音楽用CD-Rに録音できるという機能が追加されたわけである。

 デザイン的には過度なレトロ色が後退し、比較的落ち着いたスタイルになっている。あまり過剰にレトロなスタイルだと置き場所が限られるものだが、このぐらいであればどこにでもおけるだろう。そういう意味では、オブジェ的な要素が薄れ、実用方向へシフトした感じがある。


過度なレトロ感が薄れ、実用的な感じがするデザイン 上部の蓋を開けると、ターンテーブルが

 ターンテーブルが乗るぐらいであるから、現物はまあまあ大きい。ただ機能的には枯れて集積化できている分、見た目ほどの重量はなく10.9kg。これぐらいであれば、なんとか女性一人でも設置できるだろう。

 外装は木製で、かなり堅牢。断面を見るかぎりでは、MDFを突き板仕上げにしているようだ。お借りした機材では、まだ若干木材の香りが残っていた。

 ターンテーブルはベルトドライブ式で、LPレコードよりも若干経が小さい。アームはJ字型で、カートリッジはセラミックステレオタイプとあるが、詳細は不明である。スピードコントロールは33 1/3、45、78回転にスライドスイッチで切り替える。


付属カートリッジの詳細は不明 レコード回転数はスライドスイッチで切り替える もちろんドーナツ盤用アダプタも付属

 アームを上下するためのレバーも備わっており、針を落とすときに緊張して「グギャアッ」とスゴい音を立ててしまう心配はない。なおレコード再生の終わりには自動でアームが戻る、オートリターン機能は備えているので、放っておいても大丈夫だ。


電源を入れるとライトブルーに光るディスプレイ部

 正面のパネルは、ややレトロチックなFM/AM選局部がある。ツマミを回して針を移動させるという、昔ながらのスタイルである。その下部にはステータスディスプレイがあり、ボリュームやCD再生時のトラック数などを表示する。録音レベルもここに表示される。

 その下には各メディアの切り替えボタン、録音・再生・停止といったコントロールボタンがある。選局・録音レベル・音量はボリュームツマミになっており、その下にCDレコーダのドライブがある。

 両脇にはスピーカーがあり、ユニットは76mmのフルレンジ。背面にはバスレフポートがある。従って設置は、壁にピッタリ付けるのではなく、10cmから15cmほど余裕を持った方がいいだろう。また背面にはFMアンテナ、実際にはただの電線が出ている。AMアンテナは内蔵。

 外部入力端子は、背面に1系統あるので、MDやカセットデッキなども接続できる。ただ個人的には「TEACと言えばテープデッキ」の印象が強いので、本機にカセットデッキ部がないのは残念だ。

 リモコンも付属しており、ほとんどの操作が可能だが、ラジオの選局やCDトレイの開閉、電源ON/OFFといった操作は本体でしかできない。また逆に録音のマニュアルとオート、CDのシャッフル・リピート再生などは、リモコンでしか操作できない。


背面にはバスレフポート、FMアンテナ、外部入力端子がある シンプルなリモコンが付属



■ うーむ、レコードの音が

 では実際に音を聴いてみよう。まず肝心のレコードの音だが、かなり高域が強く、低域に行くに従ってプアになってくる。耳につくような中域のクセはないが、音の方もノスタルジックである。狙ってこの音にしてあるというよりも、全力でこの音なのだろう。

 ボリュームは最大数値が40までであるが、最大にしても歪むことはない。ただアンプ出力が3.5Wしかないので、最大でもそれほど大音響にはならない。だいたい30超えたあたりからようやく低域が出てくる感じだ。ただステレオ感は十分で、部屋に置いてBGMとして楽しむという用途に向くだろう。

 音質のテストとして、音楽CDを再生してみると、印象は激変する。レコードの再生音とは真逆と言っていいほど低域がしっかりしており、いわゆるミニコンポ相当の音になる。ということは、レコードの音があまりにもダメすぎるのではないか。

 レコード再生の場合、音質の重要な鍵を握っているのがカートリッジである。せめてカートリッジが交換できれば、もう少しいい音になるのかもしれないが、本機では別のものに交換できるようには出来ていない。ヘッドシェル交換ができないのである。


針を外してみた。案外入手は難しいのではないか

 針ナンバーは「STL-106」というものだが、外してみるとなんだかガンプラのパーツのようである。直販サイトで2本セットで2,730円で販売されているが、サーチエンジンで「STL-106」を検索してみても、それ以外は見あたらない。普通の販売店では簡単には手に入らないタイプなのではないだろうか。

 現在レコード用のカートリッジは全盛期ほどの種類はないが、枯れた技術であることと、DJなどで使われることもあって、そこそこの性能のものがかなり安価で手に入るようになっている。製造コストの問題からだろうが、せっかく録音できるシステムで、カートリッジ交換の楽しみがないというのは残念だ。

 ラジオ受信も試してみよう。FMラジオは、アンテナがアンテナなので受信はかなり辛い。現在のミニコンポもあまりラジオの受信には熱心ではないが、だいたいそのクラスだと思っていいだろう。

 一方AMラジオに関しては、内蔵アンテナの割に感度がよく、かなり綺麗に受信できる。マニュアルには、受信状態が悪いときは本体の向きを変えるようにかいてあるが、本体サイズからしてそれは簡単ではないだろう。AM受信時には「チューニング」のLEDもガイドになるので、選局は楽だ。



■ CD-Rはまさに「録音」

 本機のメリットといえば、レコードから簡単にCDが作れるということである。CDにしてしまえばレコードの溝の摩耗を心配する必要もないし、盤の扱いも格段に楽になるというものだ。

 やり方は昔懐かしい、アナログカセットの録音方法と似ている。まず音楽用CD-Rをトレイに入れて、録音ボタンを押すとREC PAUSE状態になる。そこでレコードを再生し、録音レベルを決めておく。本番の録音は、レコードを頭から再生しておいてREC PAUSEを外すというやり方だ。

 LPレコードを所持する年代の人なら、カセットへ録音した経験はあるだろう。それと同じ操作性でCD化できるという点では、PCユーザーとはまた違った音楽ファン層にアピールできる。

 ここで注意しておくべきは、使用できるCD-Rメディアである。いわゆるCDレコーダでは、音楽用と明記されたCD-RまたはCD-RWにしか書き込むことができない。データ用CD-Rを入れても、録音できないのである。

 音楽用CD-Rメディアには、録音補償金がかけられているというのは、AV Watchの読者であれば多くの方はご存じだろう。それ以外にはメディアに違いがないと思われがちだが、実は音楽用メディアには、SCMS(Serial Copy Management System)という著作権保護技術が付加されている。今となってはすっかり忘れられた感もあるが、MDやDATにもかけられていたものと同じ保護技術である。

 今回のレビューにあたって、近所のヤマダ電機で音楽用CD-Rを購入したが、国産ブランドものの10枚パックでだいたい1,300円から1,500円程度であった。一方国産ブランドのデータ用CD-Rは、同じく10枚パックで700~800円程度。ざっくり倍の価格である。

 音楽用CD-Rは家電量販店でも潤沢に売られているので、利用するには困ることはないが、割高感はある。PCを使えばデータ用であろうが何だって利用可能という現実がある一方で、まるで「PCがわからない罰」であるかのようなことになっている状況は、健全ではないように思われる。

 音楽用CD-Rに記録した音楽は、iTunesなどを使ってリッピングすることは可能だ。パソコン上でSCMSによるコピーコントロールが有効なのは、CD-R to CD-Rのダイレクトダビングのみである。

 だがリッピングできるということは、WAVで取り込んでデータ用CD-Rに音楽CDとして焼けば複製可能ということであり、もはやSCMSはPC上では事実上機能していない。しかも本機のようなCDレコーダはドライブが1台しかなく、そのほかにストレージも持たないので、元々カジュアルコピーが不可能だ。CD-Rのダイレクトダビング制限をかける意味がない。

 すでにPC、ケータイ、インターネットによりデジタル音楽ビジネスが姿を変えようとしている現在、今では少数派とも言えるノンPCユーザーに対してのみ、いつまでもSCMSの制限をかけ続ける意味があるのか。ここは再考すべきであろう。

 さて、音楽用CD-Rに録音された音楽は、「マニュアル」で録音すればアルバム片面が1曲に繋がった状態となる。「オートトラック」機能を使えば、無音部分で自動トラック分割ができる。だが実際には、レコードからの音声のS/Nが悪いため、かなりデタラメなところでトラック分割されてしまう。「オートトラック」は使わない方が無難だろう。



■ 総論

 若年層によく売れていたミニコンポは、PCやiPodなどの音楽環境の整備により、昔のような売れ筋商品ではなくなった。だが中年以降のデジタルデバイドのむこうがわにいる音楽Loverには、配線も不要、昔ながらの手順でレコードが扱えCD化できるというニーズは、VHSをDVD化するニーズと同様、手堅いメディアチェンジ産業として芽があるのではないか。

 GF-350は、レコードに記録された音楽を再発掘するという意味で、狙いどころがいい製品だ。ちゃんとしたオーディオセットは別にあるとしても、寝室や居間になんか音の出るものがあっていいよねーというとき、あるいは事務所や店舗に気の利いたオブジェとして置くといったニーズは、少なからずあるように思う。

 ネックはやはり、6万円越えという価格の割には、あまりにもレコード再生の音質が悪いことだろう。コストの問題で、上質のカートリッジが標準で付けられないのはわかるが、この音質で満足できないユーザーのために、せめて自分で交換出来るような設計にして欲しかった。このままでは、音楽CDやFM再生時の音質とギャップが大きすぎる。

 ただ今回、LPレコードを久しぶりに引っ張り出して聴いてみたわけだが、オーディオの原点を扱う楽しさを再認識できたことは間違いない。手間をかける楽しみと、合理性を追求する快楽が同居する、ちょっと不思議な製品である。ブラッシュアップ次第では、大化けする可能性があるジャンルだ。


□ティアックのホームページ
http://www.teac.co.jp/
□製品情報
http://teac-online.com/teaconline/7.1/091GF35001/
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(2006年9月6日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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