~ WM DRMがライセンス管理。ビットレートは192kbps ~ |
ナップスタージャパン |
Windows Media DRM 10(WM DRM10)を使ったサービスということで、これまで何度も話題に登ってきたNapsterがいよいよスタートした。「iTunes Music Store」や「Mora」、「Excite Music Store」、「OnGen」……といった既存の音楽配信サイトと同様、1曲ずつダウンロード購入できる一方で、月額固定の料金を支払えば190万曲を超える楽曲を自由にダウンロードし、聴くことができる定額配信サービスも利用できるのが最大のウリだ。
この定額配信サービスについてはPCのみで再生できる「Napster Basic」(1,280円/月)とポータブルプレーヤーへ転送して利用が可能な「Napster To Go」(1,980円/月)の2種類があるが、Napster To Goで登録して試してみたところ、これまでとはかなり違う音楽リスニング体験をすることができた。
というのも、従来、各曲をダウンロードするには、まず試聴してじっくり吟味した上で「買おう」と決断してから決済し、ダウンロードをしていた。
しかしNapsterの場合、あまり考える必要もなく、気になる曲をポンポンとダウンロードできてしまう。実際に聴くかどうかはともかく、ローカルに落としてから、もしくはポータブルプレーヤーへ転送してから、つまみ食い的に聴くことができるというのは、従来になかった感覚だ。
強いて言えば、アングラ時代?のNapsterをはじめて使ったときの感覚に近い。ただ、P2Pの音楽共有では見つからない曲も多く、ファイル名のつけ方もメチャメチャだったが、今のNapsterでは洋楽なら、たいていのものは網羅されている。もちろん検索機能もしっかりしているので、安心してつかえる。また影響を受けたアーティストなど関連アーティストを簡単にたどることができるため、気になる楽曲をどんどん見つけることができるのも楽しいところだ。
ただ、実際に使い出すと、いろいろと疑問が湧いてくる。具体的にあげると
などなど。これまでに存在しなかった定額制だけに、わからないことがいっぱいだ。発表された報道資料などを見ても、こうした点についてはほとんど書かれていない。そこで、こうした疑問を率直にぶつけてみた。
今回、ナップスタージャパン株式会社、共同最高執行責任者である石原康次氏、技術担当であるオペレーション部部長のアド・ティマリング氏、そして広報担当であるタワーレコード株式会社企画室グループ広報室室長の谷河立朗氏などにお話を伺った。
ナップスタージャパン株式会社 | 左からタワーレコード株式会社企画室グループ広報室の磯貝雄一氏、ナップスタージャパン株式会社共同最高執行責任者(co-COO)の石原康次氏、タワーレコード株式会社企画室グループ広報室室長の谷河立朗氏、ナップスタージャパン株式会社ビジネスデベロップメントマネージャー川村かおる氏、オペレーション部部長のアド・ティマリング氏 |
ナップスタージャパン株式会社共同最高執行責任者(co-COO)の石原康次氏 |
藤本:今回スタートした日本版のNapsterですが、これはすでに米国やカナダなどで行なわれているサービス、システムと同じものと考えていいのでしょうか?
石原:基本的にはサーバー、クライアントともに同じものです。ただ、実際に使っていただけるとわかるのですが、日本版は特集を大きく扱う形になっており、それに合わせてクライアントソフトの見せ方が少し変わっています。ただ、検索機能などは同等ですね。
Napster定額配信サービスで使用する「ナップスターアプリ」 |
藤本:これまでNapsterはWM DRM10を使うという話が出ていたので、Windows Media Playerを使ってアクセスしたり、管理するのかと思っていましたが、実際には「ナップスターアプリ」をインストールして使う形になっています。一方で、ダウンロードしたデータはWMP側でも再生できましたが、これはどういう関係になっているのでしょうか?
石原:確かにWM DRM10を使っている関係上WMP 10がインストールされている必要がありますが、NapsterへアクセスするためにはWMPだけでなく、ナップスターアプリを使う必要があるのです。
藤本:WMP 9ではダメなんですね。
谷河:WMP 10が必要です。また、WMP 11は正式リリースされていないので、WMP 11についてはハッキリしたことは言えませんが、ベータ版の現在は不具合が出る可能性があるのでWMP 10をお使いいただきたいと思います。
藤本:先日、実際にNapster To Goを使ってみましたが、ダウンロードしたデータをいくつか見たところWMA 192kbpsというフォーマットになっていたように思います。これは全曲同じですか? それとも曲によって、もしくはレーベルによって異なるものなんですか?
石原:Napsterからダウンロードする曲データはすべてWMA 192kbpsとなっています。その意味では既存の音楽配信サービスと比較してかなり高音質であると自負しております。一方、Napsterではダウンロードしなくてもストリーミング再生も可能になっていますが、こちらはWMA 128kbpsとなっています。
谷河:ブロードバンドをお使いの方は128kbpsのストリーミングとなりますが、ナップスターアプリを設定する際にISDNやダイアルアップを選択した方の場合は32kbps、20kbpsで再生する形になっています。これはナップスターアプリで設定することで、選択可能です。
藤本:なかなかうまくできているんですね。ちなみに、WMAの各データへエンコード作業はNapster側で行なっているのですか、それとも各レーベルが作業しているのでしょうか?
石原:基本的にはすべてレーベルにお願いしています。
藤本:他社と異なるフォーマットなので、再度全曲Napster用にエンコードしたということですか?
石原:各社の事情はわかりませんが、恐らくそうだと思います。
楽曲フォーマットはWMA 192kbpsと高音質 | オプションの変更により、回線速度に応じたストリーミング音質の設定が行なえる |
藤本:ところで、今回のNapster認定のポータブルプレーヤーは最近の25機種だけでした。WM DRM10対応であれば、どれでもOKなのかなと思っていたのですが、どうして25機種しかないのでしょうか? また、ほかのプレーヤーでNapster To Goを利用することはできないのですか?
石原:ユーザーにとって、快適に使えるかどうかをNapsterが規定するチェック項目をクリアしたものに対して認定したプレーヤーが25機種です。この快適というのは、高速に転送できることをはじめとした、さまざまなことを意味しています。
藤本:ということは、その快適かどうかを無視すれば、認定されていない機種でも使えないことはないということですか?
谷河:その辺についてはお答えしにくいところですが、認定していない機種に対してプロテクトをかけるといったことはしていません。また、仮に動作したからといって、認定していない機種に対してサポートするのは難しいところなんです。ですから、絶対に使えないとはいいませんが、快適に動作するのは認定した機種のみとなります。
なお、認定機種は今後どんどん増えていく予定です。いつまでに何機種かというのはメーカー側の事情があるのでなんともいえませんが、確実に増えていくでしょう。
CD書き込みを行なうには、アラカルトでの購入が必要 |
藤本:ポータブルプレーヤーへ転送する一方で、ダウンロードした曲をCDに焼きたいというニーズもあると思います。ナップスターアプリにはCDライティング機能があるので、試してみたところ、当然ながらそれはできなかったのですが、ライセンス購入のメッセージが表示されました。これはアラカルトを購入するということを意味するのですか?
谷河:そのとおりです。アラカルト購入することで、はじめてCDに焼くことが可能になるのです。ただし、大量生産目的などを防止するために、1つのプレイリストに対して7回までしか書けない、という制限を設けています。
藤本:1つのプレイリストに対し、ということは、複数のプレイリストを作れば回数制限はない、ということですね。
谷河:実際そういうことになります。
楽曲ファイルのプロパティを開くと再生期限が確認できる |
藤本:先日ダウンロードした曲ファイルのプロパティを見てみたところ、「2006/10/25まで再生できます」とありました。この辺についてお伺いしたいのですが、実際この日付を過ぎるとどうなっていくのでしょうか?
石原:Napsterでは契約期間が過ぎると聴けなくなるように、WM DRM10を用いて時限管理をしています。そのため基本的には日付を過ぎると聴けなくなるのですが、ファイルが消えるわけではなく残ります。
次にナップスターアプリを用いてインターネットに接続して、ログインすることによって時限管理が更新され、先ほどの聴く権利の日付が先に伸びるようになっています。これはポータブルプレーヤー側も同様です。
藤本:でも、たとえば海外へ旅行していて、インターネットに接続できない環境にいるうちに、日付が過ぎてしまうという場合もありますよね。
石原:そうですね。そういうことに対応するため、その日付を超えたら突然聴けなくなるのではなく、一定の猶予期間を持たせています。電気や水道料金を納めなくてもすぐに、切られないのと同様の考えです。
谷河:契約期間そのものが終わってしまったら、聴いてはいけないということになっていますが、料金は払っているのにインターネットに接続できないという環境にいる人のための措置です。ナップスターアプリを使ってインターネット接続するたびにライセンスをチェックする仕組みになっています。
藤本:実際、その更新作業というのはどのくらいの時間がかかるものなんですか?
ティマリング:数秒程度で終わります。通常は接続して表示、検索といったことをしているうちに更新作業は終わってしまうため、あまりユーザーが意識することもないと思います。
というのもチェインライセンスという仕組みにより、1つ1つのファイルに埋め込まれているライセンスを更新するのではなく、それらを一括で管理している、親玉となるファイルに対して作業するため、仮に1曲しかダウンロードしていない人も1万曲ダウンロードしている人も、更新にかかる時間は変わりません。
藤本:PC側はインターネットに接続することで更新されるのはわかりますが、ポータブルプレーヤー側はどうやって更新するのですか? やはりパソコン経由でインターネットにアクセスすることが必要になるのですか?
ティマリング:いいえ、ポータブルプレーヤーはパソコン側のライセンス情報を見て更新するだけなので、オフラインのパソコンと接続しても更新することは可能です。つまり、あらかじめパソコン側を更新しておけば、同期をとった際にポータブルプレーヤーのライセンスも更新することが可能です。
藤本:もうひとつ、やはり気になってしまうのが、カレンダーを戻すなどの不正についてです。たとえば、期限となる10月25日になる前にパソコンのカレンダーを戻したり、ポータブルプレーヤーのカレンダーを戻してしまえば、契約を切ってしまっても、ずっと使い続けることは可能なんですか?
ティマリング:これはWM DRM10の仕組みとしてできないようになっているんです。仮にポータブルプレーヤーのカレンダーをいじったとしても、ライセンスについては、このカレンダー/時計とはまったく別のカレンダーを参照してチェックするようになっています。もちろん、同期する側のパソコンのカレンダーをいじっても、見抜くようになっているんです。逆に明らかにカレンダーをいじって、不正操作をしたことがわかると、そこで聴けなくなるような仕組みも入っているのです。
藤本:先日、「ナップスター利用規約」を読んでみたのですが、第15条(サブスクリプションサービスに関する追加規定)というところに、少し気になる内容がありました。簡単にいえば、ロイヤリティ計算および分析のために、ユーザーがダウンロードした回数のほか、ストリーミング再生した回数、パソコンおよびポータブルプレーヤー側で再生した回数をカウントする、とありました。
どうしてJASRACが定額配信を許可したのだろうと思っていましたが、再生回数によってJASRACへ支払う料金が変わるということなんですか? 極論すると、ユーザーが曲を聞きまくれば、Napsterは赤字になってしまうような……
石原:さすがにそれで赤字にならないようなビジネスにはしています。詳細についてはお話することはできませんが、ここでカウントした情報などを、なんらかの形でJASRACへレポートしているのは事実です。
藤本:JASRACとは新しい契約形態ということなのですね。Napsterが国内で初の定額配信サービスを実現したわけですが、こうした前例ができると、他社が参入してくる可能性はありますよね。
石原:そうですね。これから何社か出てくると思いますよ。そもそもこの定額配信サービスに関してJASRACとの交渉は弊社単独で行ったわけではなく、われわれは一事業者としていくつかの事業体と共同で話し合ってきたという経緯があります。そのため、当然他社からも同様のサービスが始まることは予測できます。
しかし、われわれとしてはリコメンドや特集などのコンテンツ力など、タワーレコード・グループとして、音楽と出会い楽しむという総合的な面、ならびにすでに実績があるナップスターの技術面、使い勝手というところでも優位に立っていけると確信しています。
藤本:本日はありがとうございました。
□ナップスタージャパンのホームページ
http://www.napster.co.jp/
□タワーレコードのホームページ
http://www.towerrecords.co.jp/
□ニュースリリース(PDF)
http://www.towerrecords.jp/company/pdf/napster%20service%20in%20release20061003.pdf
□関連記事
【10月4日】定額制の音楽配信サービス「ナップスター」速攻レポート(BB)
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【5月29日】ナップスター、日本で定額制音楽配信を今秋スタート
-ポータブル機器にも転送可能。楽曲数は150万曲以上
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(2006年10月17日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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