単板式DLPプロジェクタにもフルHD化の流れが活発になってきた。第69回で取り上げたマランツ「VP-11S1」を皮切りに、Optomaやシャープなど新製品が各社から発表されている。今回取り上げる「XV-Z21000」は、コンセプトやスペックがマランツVP-11S1がかなり似ている部分もあり、直接のライバル機と呼ぶにふさわしい。 国産フルHD DLPフロントプロジェクタ“2号機”の実力を見ていくこととしよう。
■ 設置性チェック ~上下2画面分のレンズシフト対応
外観はシャープのDLPプロジェクタ伝統の投射レンズを中心に添えたシンメトリックデザインを踏襲。外形寸法や重量は先代「XV-Z11000」とほぼ同じで、475×410×172mm(幅×奥行き×高さ)、重量も9.5kg。 入門機と比較すると大きく重いが、1人で持ち運べる範囲だ。純正オプションとして設定されている天吊り金具「低天井用取り付けユニット(AN-TK202)」(25,200円)および、「取り付けアダプタ(AN-NV6T)」(13,650円)はXV-Z11000のものと同一だ。投射レンズの焦点距離が微妙に変わってはいるが、ほぼ同一の投射距離性能が実現されている。XV-Z11000からの移行は、問題なく行なえるといっていい。
天吊り常設が基本となるだろうが、もちろん台置き設置も可能だ。レンズシフトは上下2画面分の範囲で調整できる。 部屋の最後部の壁際に設置した本棚等の天板に載せて設置する疑似天吊り設置においては、本体の天地逆転をせずとも容易に映像をスクリーン内に収めることが出来るはず。ただし、本体の奥行きが400mm以上もあるので、棚の天板にある程度の奥行きが必要になる。 なお、意外なことに台形補正(キーストーン)機能は省かれている。XV-Z21000は画質を重視するハイエンド機なので、文句を言うユーザーは少ないだろうが、設置場所的にはどうしても台形になってしまう場合は、この点は留意しておく必要がある。
投射レンズは1.35倍マニュアル式ズームレンズ(F2.5~8.0、f=38.9~52.4mm)。100インチ(16:9)の最短投射距離は前述したようにXV-Z11000とほぼ同じ4.1m。最近の普及機が軒並み3m前半であることを考えると最短焦点距離はやや長めという印象になる。シャープのXV-Zシリーズでは、「XV-Z9000」、「XV-Z10000」、「XV-Z11000」からずっとこの投射距離性能を守り抜いているので、こういうコンセプトなのだろう。 なお、100インチ(16:9)の投射距離は4.1~5.5mとなっており、最長では12畳クラス以上の部屋の最後部に設置しても画面サイズを100インチに留めることが出来る。マランツVP-11S1は100インチ(16:9)の投射距離は3.23~4.7mであった。同じフルHD対応DLPプロジェクタでも、マランツとシャープで設置性は異なるので購入検討時には、そのあたりにも気を配りたい。 レンズフォーカスやレンズズームの調整は従来通り、レンズ外周のリングを手動で回転させて行なう方式。レンズシフトは本体上面に備え付けられた回転リングを回して調整する。細かいシフト調整ができ、それでいて安定しており、レンズ位置が自重で落ちてきてしまうことはない。 使用ランプは220Wの超高圧水銀系ランプ。XV-Z11000が270Wだったことを考えると大幅な出力低減ということになる。しかし、XV-Z21000の新ランプユニットでは平行光源の取り出し効率が向上しているため、最大輝度性能は1,000ルーメンを実現し、XV-Z11000の900ルーメンを上回っている。 なお、ランプ出力低減により、消費電力もXV-Z11000の365W(輝度最大)に対し、XV-Z21000では320W(同)と減っている。なお、交換ランプ「AN-K20LP」は39,795円。ランプ交換は正面向かって左側面のカバーを外すだけで簡単にユーザーが行なえる。ランプ寿命は最大輝度モード(明るさ優先)で活用して約2,000時間、輝度出力を80%に抑えた省電力モード(エコ静音)で約3,000時間が公称値となっている。 エアフローは正面や背面から吸って正面向かって右側から排気するデザイン。光漏れは全くなし。設置時には排気路を確実にするためにも、右側面のクリアランスには気をつけたい。 最近の普及入門機と比較すると動作ノイズはやや大きめで、動作音は明るさ優先で34dB、エコ静音で31dB。1~2m離れればあまり気にならないが、視聴位置に近いと存在が分かるレベル。動作音自体はXbox 360と同レベルか、やや大きい。常設ケースの場合には視聴位置からなるべく離して設置することを検討したいところだ。 マランツのVP-11S1もやや騒音は大きめであった。たまたまかもしれないが、今世代のフルHDスペックのDLPプロジェクタは動作音がやや大きめだ。
■ 接続性チェック ~HDMIとコンポーネント各2系統装備。DVI-I端子も実装
HDMIは2系統。Blu-ray DiscやHD DVD、PLAYSTATION 3などのHDMI機器が増えているので、2系統の装備はありがたい。 コンポーネントビデオ入力は2系統を装備。それぞれRCA 5端子を備え、YPbPrの色差入力のほか、RGBHVのアナログRGB入力にも対応している。そのほかのアナログビデオ入力端子は、コンポジットビデオ、Sビデオがそれぞれ1系統ずつ。 PC入力用としてはDVI-I端子を1系統装備し、デジタルRGB接続に対応する。市販のDVI-D-Sub15ピン変換アダプタを使用すればアナログRGB接続も可能だ。また、「オプション」メニューの「入力信号タイプ」を選択することでHDMIで伝送されるデジタルRGB、デジタル色差の接続も可能となっている(HDCP対応)。 ただ、実際に使用して少々戸惑ったのがこのDVI入力の信号切換だ。PCからのデジタルRGB接続、Xbox 360からのアナログRGB接続を交互に行なったところ、XV-Z21000側が現在DVI入力されている信号がデジタルRGBなのか、アナログRGBなのかを自発的には自動判別してくれないのだ。 これを判別させるにはリモコン上の[RGB/COMP]ボタンを2回押せばいい。マニュアルには[RGB/COMP]は「入力信号種別をRGBと色差を交互に切り換える」という説明しかなかったのでちょっと戸惑った。DVI端子をPCやゲーム機、あるいはAV機器などで共有使用する場合にはこの操作を覚えておきたい。 この他、接続端子パネルには、リモート制御用のRS-232C端子、有線リモコンを接続するためのワイヤードリモコン端子、XV-Z21000稼働中にDC12Vを出力しつつづけるトリガ端子などがレイアウトされている。 接続性は先代XV-Z11000の流れを踏襲しつつも、時代に適合した進化が施されているという印象だ。 ■ 操作性チェック ~起動作度はやや遅め。マニア納得の画調調整機能
リモコンは縦に長いバー形状。中央付近を握ったときに親指が十字キーに来るようなボタンレイアウトになっている。 最下段にはライトアップ用の蓄光式の[LIGHT]ボタンがあり、ここを押すことで全ボタンが自照式で点灯する。 電源オンと電源オフは誤操作防止のために[ON](電源オン)、[STANDBY](電源オフ)と分かれており、電源オフも[STANDBY]を二度押ししなければ機能しないように配慮されている。なお、電源オンを実行して、実際にDVI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約48秒。これは最近の機種としてはかなり遅い。 リモコンの中心付近に、入力切換用のボタンが並ぶ。各入力に対応したボタンが1つ1つ実装されており、希望する入力へ一発で切り換えられる。どの入力系統に希望のソースがあるのか分からない時のために順送り式の[INPUT]ボタンもあり、アクセス性の高い[LIGHT]の上に位置しているのが好感触だ。 各入力系統への切換ボタンはHDMI1が[H1]、コンポーネントビデオ1が[C1]のような略号になっているが、小さい文字で端子名が記述されているよりも、慣れてくると使いやすい。入力切換所要時間はHDMIからDVIで約3.5秒、HDMIからSビデオで約3.5秒と、これも最近の機種としてはやや遅め。 リモコン最下段には、[アスペクト比切換]、[画調モード切替]など、各種機能調整をダイレクトに行なうことのできるショートカットキー的なボタンが9個レイアウトされている。メニュー操作で調整できる機能項目のうち、使用頻度の高いものを厳選してこのリモコンから呼び出せる。
様々なソースを映してモニタ的に活用することになるプロジェクタではアスペクト比切換の使用頻度は高い。この切り替え操作は[RESIZE]ボタンで順送り式に行なう。用意されているアスペクト比モードは7種類とかなり多彩だ。
アスペクト比切換は、ただ希望のアスペクトモードに切り替わるのではなく、カメラのズームレンズを覗いているかのように、映像を段階的に拡大縮小するエフェクトが入るのが面白い。切換所要時間は約0.5秒で非常に高速だ。画調モード切換は[PICTURE MODE]ボタンを押すことで順送り式に行ない、押した瞬間に切り替わる。各画調モードについてのインプレッションについては後述する。 [AUTOSYNC]はアナログRGB入力時の自動同期設定を行なわせるもの。[FREEZE]は表示している画面をその入力種別にかかわらず一時停止させるものだ。 [RGB/COMP]ボタンは入力切換操作のサブ調整ボタンとも言うべきもので、現在選択されている入力系統の端子が複数の映像信号に対応している場合、認識する映像信号の種別を切り換える。表向きはRGB入力と色差入力の切換ということになっているが、自動認識動作を開始させる操作に利用できる。一度押すと現在選択されている信号種別を表示し、もう一度押すと自動検索を始める。 [IRIS]ボタンは、XV-Z21000の投射レンズや光源部に組み込まれた「絞り機構(アイリス)」を調整するためのもの。ボタンを押すたびに「高輝度モード」、「ミドルモード」、「高コントラストモード」と順送り式に切換が可能だ。高輝度モードが絞り開放で最も明るく、高コントラストモードは暗部を沈み込ませるために全体として暗くなる。ミドルモードがその2つのモードの中間となる。切換時にはかなり大きな「カチ」というメカニカル音がするが、切換所要時間自体は約0.5秒と意外に早い。 [CONTRAST]と[BRIGHT]の2つのボタンはそれぞれコントラストとブライトネスを調整するサブメニューを呼び出すもの。呼び出し後は表示映像を見ながら十字キーの上下で設定値を変更できる。 これ以外の画調パラメータは[MENU]ボタンを押して呼び出されるメニュー操作で行なう。調整可能項目は「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色あい」、「画質(シャープネス)」など。「色温度」もK(ケルビン)指定が可能で、5,500/6,500/7,500/8,500/9,300/10,500のいずれかを選択できる。色温度が細かく6段階設定できるのはなかなかマニアックだ。 プリセット画調モードは「標準」、「ナチュラル」、「ダイナミック」、「シネマ1」、「シネマ2」の5つ。随時ユーザーエディットが可能であり、エディット結果は各入力系統ごと、個別に保存される。設定した状態をユーザーメモリに書き込むのではなく、プリセットを書き換えるという仕組みを採用しているのが特徴的。プリセットを書き換えるのは抵抗が大きいかもしれないが、「映像調整」メニュー内の「リセット」を選択することで、調整結果をいつでも工場出荷状態の初期値に戻すことが可能。これに加え、全入力系統で共有利用される「ユーザーメモリ」も1系統用意されている。なお、ユーザーメモリの初期状態はプリセット画調モードの「標準」と同一だ。
また、「ガンマポジション」という、階調特性を決定するプリセットガンマカーブを複数搭載しており、プリセット画調モードと別に独立した形で、このプリセットガンマカーブを組み合わせることが出来る。用意されているプリセットガンマカーブは「標準」、「ナチュラル」、「ダイナミック」、「シネマ1」、「シネマ2」の5タイプで、プリセット画調モードと名前が同じになっている。 初期状態ではプリセット画調モードを切り換えると同名のプリセットガンマカーブが選択されるように設定されている。ちょっとややこしい話だが、例えばプリセット画調モードを「標準」としながら、プリセットガンマカーブを「シネマ1」と設定することも可能なのだ。 また、「ガンマ」メニューでは、ガンマカーブそのものをユーザーが作り込むこともできる。調整したい「ガンマポジション」を前述の5つのプリセットと1つの共用ユーザーメモリから選択し、ガンマカーブそのもののゲイン特性を変えたり、明部階調と暗部階調とそれぞれにおいてガンマカーブのオフセットも変えられる。調整はRGB個別に行なうことが出来るので、かなり細かいガンマカーブの作り込みが可能だ。
色調の調整機能も充実している。カラー・マネージメント・システム(CMS)と名付けられたシステムでは、「色相」(発色の傾向)、「彩度」(鮮やかさ)、「明度」(明るさ)を赤-黄-緑-シアン(水色)-青-マゼンタ(紫)の各系統色ごとに個別で調整ができるようになっている。CMSはデジタル処理され、選択調整した系統色意外には影響を及ぼさないため、「赤や緑の傾向はそのままに、空や海をもっと艶やかな記憶色に近づけたい」、「基本画調はそのままで肌色にだけ赤みを付加したい」といった、細かい発色傾向を調整できる。 XV-Z21000の調整機能は、かなり微に入り細にわたる充実ぶりで、調整マニアも納得の行くレベルにまとまっている。 操作性は、電源オンから映像表示までの待ち時間の長さは改善を望みたいが、実際に映像を表示させてからの操作性には大きな不満はない。リモコンの反応も上々でカーソルもキビキビ動いて小気味いい。確かに入力切換の速度は早くないが、希望の入力へダイレクトに切り換えられる独立ボタンレイアウトが、なんとかこのストレスを軽減してくれている。
■画質チェック ~単板式DLPプロジェクタ最高クラスの発色と階調性能
搭載パネルはTI製0.95型の1,920×1,080ドットのフルHD DMD(Digital Micromirror Device)。競合のマランツVP-11S1に採用されているものと同一だ。 今回も100インチサイズのスクリーンへの投影で評価を行なったが、その解像感は圧倒的で、100インチ相当に拡大されても画素の小ささが実感できるほど。 画素と画素を区切る格子隙間はさすがは反射型のDMDチップだけあり最低限だ。厳密なことを言えば、720p対応のDLP機と比較すると相対的には格子隙間は太くはなってはいる。ただ、気になるほどではない。三菱「LVP-HC5000」などに搭載されているエプソン製0.74型/フルHD透過型液晶パネルと比べると、XV-Z21000の画素開口率はかなり高く、このアドバンテージは揺るぎない。 映像パネルに並び、フルHD時代のプロジェクタで重要視されることになるのが投射レンズ性能。いくら映像パネルで高解像度のフルHD映像を生成しても、投射レンズのフォーカス性能、色収差補正性能が優秀でなければ、スクリーンに投射された段階で色ズレやフォーカス斑が出てしまい、せっかくの高解像度映像を高品位に表示できない。
この点もXV-Z21000は問題なし。今回は、疑似天吊りのような形で台置き設置、レンズシフトを行ない画面を下方向へ約40%ほど下げた状態で評価を行なったが、フォーカス斑は最低限。画面中心でフォーカスを合わせれば、その画素のクッキリ感がかなりの外周まで持続できている。最外周ではやや甘くなるが、トップクラスのフォーカス性能だと思う。 色収差による色ズレも最低限で収まっており、各画素の色が他の画素へにじみ出している箇所がなく、これは、画面最外周においても優秀であった。スペックだけでない、本当の意味でのフルHD解像度が表示できていると言える。 さて、反射型液晶(LCOS)や透過型液晶(LCD)では映像パネルをRGBそれぞれの階調生成用に3枚使用するが、XV-Z21000のような単板式DLPプロジェクタでは1枚のDMDチップでRGBの階調表現を時分割生成して、時間積分的にフルカラーを知覚させる仕組みとなっている。 このフルカラー表現の根幹を担うのが、白色光の光源ランプから、自らが回転してRGBの3原色光を時分割で取り出す「ロータリー・カラーフィルター」(カラーホイール)だ。 XV-Z21000では、7セグメントタイプの5倍速カラーフィルタを採用している。7セグメントの内訳はR/G/Bが2セグメントずつと、これに加えて暗部階調と暗緑色再現に特化したND(Neutral Density)+DG(Dark Green)フィルタが1セグメントとなっている。
繰り返される明滅を見続けて時間積分的に階調を視覚させる単板式DLPでは、このカラーホイールを高速に回転させればさせるほど色階調の分解能は向上することになる。XV-Z21000ではこのカラーホイールを5倍速(9,000rpm/300Hz)で回転させている。マランツVP-11S1が同じ7セグメントで6倍速(10,800rpm/360Hz)なので、この点でXV-Z21000は劣ることになる。 シャープ技術担当者によれば「XV-Z21000では、カラーホイール上のRGB各色のカラーフィルタに光を透過させるのに同期して、光源ランプの出力をパルス駆動させる技術を洗練させて組み合わせている」とのことで、「階調性能の向上と色バランスの平均化を実現できており、5倍速と6倍速の格差はほとんど無い」としている。 実際に見てみると、暗部階調表現は単板式DLPプロジェクタとしてはかなり良好で、ディザリングノイズは最低限に留められている。最暗部から最明部までのグレースケールのグラデーションを表示しても、まるで液晶のようなアナログ表現が実現できており、疑似輪郭がほとんど感じられない。これは驚きだ。 色深度もかなり深い。単色カラーグラデーションはもちろん、2色混合のグラデーションを表示しても疑似輪郭がほとんど無くアナログ感溢れる表現が出来ている。人肌のグラデーションや草花の濃淡や動物の毛並みといった色ディテールの表現能力がシビアに試される局面でも不自然さはなかった。単板式DLPの階調表現も液晶に近いレベルにまでやってきたという実感だ。 カラーブレーキングについては、VP-11S1の5倍速と6倍速の目視上の違いはほとんどなく、昔の機種と比べれば激減している。とはいえ、皆無というわけではなく、投射している映像の種類やその映像の見方によってはまだ出る。例えばコントラスト感の強い映像を見ている際に視線を動かすとやはり感じられる。これは個人差が強く出る現象なので気になる人は実機の投射映像を見てチェックした方がいい。
最大公称輝度は1,000ルーメン。スペック上ではもちろんのこと、実際VP-11S1よりもだいぶ明るい実感だ。蛍光灯照明下でも、アイリスを開放した「標準」画調モードならば普通に見られてしまうほど。陽光が差し込む昼間でも遮光カーテンを引くだけで、テレビ的に活用することも十分可能なはずだ。 コントラストは12,000:1を達成しているという。XV-Z21000では、光源ランプから光を絞る照明系アイリスと、投射レンズ内に仕込まれた投影系アイリスの2段アイリス構成をとる。映像の平均輝度に応じて絞りを開閉する動的アイリス機構は搭載しない。もともと、動的アイリスは、時間積分的なハイダイナミックレンジ感を演出する表向きの機能以外に、映像に高輝度部があった時に暗部がそれに引きずられて浮いてしまうことを隠す目的があった。 XV-Z21000では、明部からの影響を最低限にして常に暗部を沈み込ませることが実現できたために、あえて動的アイリス機構を持たなかったのだ。 この実現には、前述の2段アイリス機構と光源ランプの進化がキーポイントになっている。まず、照明系アイリスは極力パネルに平行な光を導くためのもの。投影系アイリスはパネルからの出力光から迷光を低減させるためものだ。 光源ランプの発光部の直径はXV-Z11000の1.3mmに対して、XV-Z21000では1.1mmに小径化され、より理想に近い点光源化を実現。光源をより小径化できると、光源ユニットのリフレクターから出力される光線が理想形の平行光線に近くなるのだ。平行光線になればなるほどパネルに対して垂直に光線を照射しやすくなり、パネル出力光から迷光が減る。また、光源を小径化すればするほど取り出される平行光源を絞っても光の利用効率が下がらないというメリットもある。XV-Z21000では、さらに光源ランプからの光の利用率を上げるために照明系の光学系として集光レンズを組み合わせているという。 220Wの光源ランプから1,000ルーメンの高輝度を絞り出し、12,000:1の高コントラストを達成できているのはそうした技術革新があったからなのだ。 とはいえ、12,000:1は、2段アイリスの双方を絞りきった「高コントラストモード」でのスペック値であり、この時はかなり暗くなり、輝度400ルーメンほどにまで低下する。完全暗室でもやや暗い印象なので、常用はその一段階上の「ミドルモード」以上になるとは思う。とはいえ、絞り開放の「高輝度モード」でもコントラスト性能は2,000:1もある。平均的な透過型液晶プロジェクタが1,000:1前後であることを考えれば、透過型液晶からの移行組は「高輝度モード」でも十分ハイコントラスト感を味わえるはずだ。個人的にはコントラスト性能と輝度性能がバランスされた「ミドルモード」がお気に入りだ。
発色の傾向も、特にクセや偏りは見あたらず、自然な感じにまとめられている。赤にはもう少し鋭さが欲しい気がするが、全体のバランスとしては悪くない。XV-Z21000に採用されている光源ランプは、XV-Z11000のものに比べ、緑の純度が上がり、赤成分が向上しているという。なるほど、植物などを映すとその緑の鮮烈さにはパワーがある。肌色も、その発色に水銀系ランプの黄緑感が無く、暖かみのある肌色にまとめられている。赤のダイナミックレンジが高くなっている証拠だろう。 この他、色関係で映像を見て特に関心させられたのは明色のダイナミックレンジの高さだ。階調性能やガンマのチューニングにも密接な関わりを持つ部分だが、本来なら飛んでしまっていても気が付かないような最明部付近でも明確な色ディテールと“正しい色味”が現れているのだ。
XV-Z21000の映像は、1080pのフルHD解像度だけでなく、発色や階調性においても最暗部から最明部まで情報量の多いHD(High Definition)品質になっていると思う。 XV-Z21000には「CIVIC SYSTEM III」と呼ばれるシャープ独自の映像処理エンジンを搭載している。これにはユニークな高画質化機能が実装されている。また、DMDチップ製造元のTIが開発し、最近の単板式DLPプロジェクタには採用例の多くなっている「Brilliant Color」技術も搭載している。これらの機能や画質への寄与についても検証した。
■ まとめ ~悩めるフルHDスペック・プロジェクタ2006秋の陣 2006年後半は、LCOS系、3LCD系を含め、フルHDプロジェクタが豊作だ。 フルHD単板式DLPプロジェクタでは以前紹介したマランツVP-11S1、今回のシャープXV-Z21000、先頃発表されたOptoma HD81といったものが出ている。価格的にはHD81が99万7,500円とXV-Z21000(130万円)よりも安いが、XV-Z21000の実売価格も100万弱程度になっているようだ。マランツは189万円と高価だが、3機種の中では短焦点性能に優れ「狭い部屋でも大画面」という部分がウリにできる。HD81は焦点性能はほぼXV-Z21000と同じだが、レンズシフトが搭載されておらず、設置シミュレーションを念入りに行なわないと導入が難しいだろう。 メーカーごとの画質チューニングについて度外視すれば、画質面では、3機種とも同じ0.95型DMDチップを使っているので基本的な部分ではほぼ同じだ。輝度性能に最も優れるのは1,300ルーメンのHD81で、1,000ルーメンのXV-Z21000、900ルーメンのVP-11S1と続く。コントラスト性能はXV-Z21000とHD81がともに12,000:1を誇るが、HD81は動的アイリスを使っての値。ネイティブコントラストではXV-Z21000に軍配が上がる。 設置性は短焦点性能に優れるVP-11S1がわずかリードか。明るい部屋でのカジュアルユースを考えると輝度性能に優れるHD81が優勢。XV-Z21000はDLP画質の本質であるネイティブコントラストで勝負する製品といえるだろう。
□シャープのホームページ (2006年10月19日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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