■ パソコンで音楽を聞きたくなった理由 iPodなどオーディオプレーヤーの普及にあわせて、パソコンをオーディオ機器として積極的に活用する機会が増えている。かつては家庭内のオーディオ環境といえば、専用のオーディオコンポなどが中心だったが、学生を中心にパソコンでコンポの代用をしている事例が増えていると聞く。 オーディオメーカー各社も危機感を募らせているようだが、大容量のHDDを内蔵し、ジュークボックス的に活用できるというパソコンならではの使い勝手の高さは確かに魅力的だ。 個人的には、自宅で音楽を聴くときはステレオシステムを使いたい、いちいちパソコンを起動したくないと思っていた。また、パソコンでの音楽再生には音質面での不満も多く、高音質な環境を作るのも面倒と考えて、ヘッドフォンや鳴ればいいレベルのPCスピーカーで我慢していた。 しかし、最近はパソコンを音楽再生に積極的に活用したい、という思いが強くなってきた。というのも、月額定額制の音楽配信サービス「Napster to GO」を利用するようになったためだ。Napsterのサービス開始後は、'80年代のヒット曲、ドマイナーなインディーロック、フリージャズ、プレミアが付いて買えなかった10年前の稀少盤などさまざまな楽曲を見つけては、嬉々としてダウンロードし続けて、数十GB分ダウンロードしている。 となると、日々追加されるライブラリの楽曲をヘッドフォンでじっくり聞くのも疲れるし、BGM的に楽しみながら、さまざまな楽曲を再生したい。そのため、PC環境の強化に取り組みたいと考えてPCとAVアンプを光デジタル接続したり、サウンドカードとしてクリエイティブの「E-MU 0404」やオンキヨー「SE-200PCI」、アクティブスピーカーのオンキヨー「GX-70HD」あたりの導入を検討していたが、どうも決め手に欠けていた。そんな折、ちょうど面白い製品が発表された。 それがロジクールの「Z-10」だ。基本的にはUSBスピーカーなのだが、音質面でもこだわりがありそうで、なおかつパソコン連携のユニークな機能も備えている。直販価格で16,800円という価格も比較的リーズナブル。この「Z-10」で、PCの音楽再生環境を強化してみた。
■ 重量感あるボディ。うっすら光るタッチパネル
付属品はスピーカー本体のほか、ドライバCD、USBケーブル、ステレオミニ音声ケーブル、クリーニングクロスなど。 本体はピアノ調の光沢仕上げを施しており、ペアの重量は3.74kg。外形寸法は114×119×246mm(幅×奥行き×高さ)。1万円台のPCスピーカーとしてはかなりの重量だ。 R側のスピーカーに液晶ディスプレイとタッチパネルを装備。PCとのUSB接続により、iTunesやWindows Media Plyaerなどの再生ソフトの楽曲情報や時刻、hotmailなどの着信状況などを表示できる。タッチパネルは液晶下部に備え、ディスプレイ表示を切り替える[Display]、再生/停止、スキップ/バックパネルを上段に配し、下段には電源ON/OFFのほか、ミュート、ボリューム上下、Levelボタンを備えている。 スピーカーユニットは、2.54cmソフトドームツイータと、7.62cmハイエクスカージョンウーファの2ウェイ。L側のスピーカーにはアンプを内蔵。内蔵アンプは高域と低域が独立したバイアンプ方式で、出力は15W×2ch(RMS)。アンプを内蔵しているため、L側がかなり重い。 RスピーカーにはUSB端子のほか、ステレオミニ入力とヘッドフォン出力を装備し、iPodなどのPC以外の入力機器でも利用可能となっている。電源はACアダプタを利用する。
■ 魅力的なPC連携
パソコンとの接続はとてもシンプルで、USBで接続するだけ。ACアダプタのケーブル長は1.8m、スピーカー間のケーブル長は1.5mなので、通常のPCスピーカー利用ではあまり問題なく設置可能だろう。ただし、ケーブルが太いので、その取り回しには苦労するかもしれない。 本体の電源はRスピーカーのタッチパネル左下端の電源ボタンをタッチする。するとオレンジに浮き上がるように点灯し、PCの情報表示が行なえる。基本的にはUSBスピーカーのため、特にドライバなどを入れずにも動作するが、前面のディスプレイ表示やPCからのコントロールを行なうためには「LCDマネージャ」をインストールする必要がある。対応OSはWindows XP。 LCDマネージャは、楽曲やアーティスト名を表示する「メディアディスプレイ」のほか、CPU利用率などを表示できる「パフォーマンスモニタ」、時計表示機能の「LCDクロック」、メール着信などを確認できる「POP3モニタ」、「カウントダウンタイマ」の5つの設定が可能となっている。
設定画面でどの機能をディスプレイに表示するか選択可能。基本的には楽曲情報表示を行なう「メディアディスプレイ」機能を利用することになるだろうが、メディアディスプレイの設定項目では、iTunesやWindows Media Player、Real Player、Winampなど、ディスプレイ表示を行なうプレーヤーソフトを選択できる。 なお日本でポピュラーなソフトと思われる「SonicStage CP(Ver.4.2)」の再生情報は表示できない。SonicStageやウォークマンのユーザーには残念だ。このあたりはアップデートなどで対応プレーヤーソフトを増やしてほしい。 パソコンで楽曲を選択して、再生を開始すると、Z-10のディスプレイにもアーティスト名と楽曲情報、再生時間などが表示される。この表示自体は、Windows Media PlayerでもiTunesでも同じで、日本語表示も問題なく可能となっている。また、ビデオ再生時にもファイル名がディスプレイに表示される。 さらに、Z-10のタッチパネルからも再生、停止や、スキップ/バック、ボリューム上下などの操作が可能。Z-10のボリュームはWindows OSのシステムボリュームと連動し、アプリケーション側でのボリューム設定とは別個に制御される。また、低音/高音の強調設定もディスプレイを見ながら設定できる。
基本的にはディスプレイに楽曲情報や時計などが表示できるだけともいえるのだが、これがかなり魅力的。楽曲検索などの複雑な操作はできないが、作業中にアプリケーションを開かずに楽曲を確認できるし、スキップも手軽にできる。 パソコンとの操作とどちらが早いのかといわれると微妙ではあるが、少なくとも楽曲情報が確認できるのはうれしい。シャッフル再生時はもちろん、Napsterでプレイリストをダウンロードした場合など、自分の知らない楽曲がHDDに収録されていることもある。「あれ、何この曲?」という時に、視点を少しそらすだけで曲名やアーティスト名がわかるというのは気持ちがいい。
また、タッチパネル上部の1~4のボタンには任意のプレイリストやネットラジオを割り当てできる。例えばWindows Media Playerでプレイリスト再生を行なっている際に1~4の任意のボタンを長押しすると、再生中のプレイリストがその番号に登録される。他のアルバムなどを再生中にその番号ボタンを押すと、プレイリスト再生に切り替わるという仕組みだ。 WMPもiTunesも表示する情報は同じだが、WMPとiTunes、Real Playerなどの複数のアプリケーションを立ち上げて同時に再生するとどうなるのだろうか? 結論からいうと、音声は全ての楽曲をミックスして再生する。ディスプレイ部は、最後に再生操作したプレーヤーの情報を表示する。 つまり、WMPを再生中はWMPの楽曲を表示するが、その後iTunesを起動して、楽曲再生するとディスプレイ表示がiTunes再生中の楽曲に切り替わり、音声はWMPの楽曲と、iTunesの楽曲がミックスされて再生される。
LCDクロックでは、時計と日時、メールの受信状況などを表示。パフォーマンスモニタはCPU利用率などが表示できる。カウントダウンタイマはストップウォッチと、5分などの時間指定のタイマーを設定できる。正直、スピーカーのモニタでCPU利用率を見てもあまり意味が無いように思うので、そのあたりは必要に応じて機能をOFFにしておきたい。
■ バイアンプ駆動の高出力スピーカー。低域の制御がポイント
USB接続によるPC連携でユニークな使い勝手が実現できているとはいえ、スピーカーとして重要なのはやはり音質。ユニットは、2.54cmツイータと、7.62cmウーファから構成される2Way2スピーカーで、内蔵アンプは高域と低域が独立したバイアンプ方式。出力は15W×2ch。このクラスでバイアンプ駆動というのはなかなか珍しいだけに、期待もかかる。 PCスピーカーとしては出力も高いので、かなりのボリュームが出せて、非常にパワフル。ただ、最初に気になるのはかなりの低域強調型ということ。必要以上に重い重低音があるのだ。初期設定ではBASS設定が中央(15目盛り中の8ぐらい)になっているので、これをタッチパネルでやや弱め、2~3目盛り程度にしたほうが、個人的にはしっくりきた。 低域を抑えると、活きのよいミドルレンジが際だち、パワフルなスピーカーの性能を発揮できる。基本的にはミドルレンジのパワー感を生かせるポップスや、元気の良いロックなどと一番マッチするだろう。高音の分解能や艶などで聞かせるタイプではないが、Pat Metheny「One Quiet Night」のギターの音離れもよく、音楽CDとMP3の微妙な質感差なども感じることができる。個人的には制動感のある締まった低音が好きなので、もう少し低音のキレがほしかったとも思うが、このクラスのPCスピーカーとしては非常にレベルが高い。ジャンルを問わずに元気な再生性能を生かせるだろう。 強烈な低音再生能力も備えているので、重低音が必要なゲームなどではBASS設定をあげるというのも手だろう。ワンボタンでゲーム/ステレオモードを切り替える機能があっても面白かったのだが。 ただ、背面にバスレフポートを備えているためか、壁に近づけると音がこもりがち。10cm強でもいいので壁から離して利用したい。重量はPCスピーカーとしてはかなり重く、ボディは剛性もあるが、華奢なデスクなどを使っている場合は、デスクのビビリと共振による音質への悪影響も気になり、鈍重でボヤっとした低域になりがちだ。とりあえずマウスパッドをしくだけでもぐっと低音が締まるので、制震対策にこだわるとよりよい環境を構築できそうだ。
もう一点、利用時に気になるのがスイートスポットの狭さ。というのも、Z-10では約10度ほど上方向に傾いているため、パソコンに向かって作業をしている場合はいいのだが、1m後ろのソファに移動すると、完全に音場の外に出てしまう。 もっとも多くのPCスピーカーは、こうしたユニットが斜め上を向いた設計。デスクトップでのPC利用時には最適解かもしれないが、もう少しリラックスしてBGM的に流すときには、やはり不満が残る。そうした意味ではあくまで「PCスピーカー」で、家庭内のステレオシステム代替製品としてはもう一歩というところだ。 なお、Rスピーカーにはステレオミニ音声入力も備えており、iPodなどのオーディオプレーヤーと直接接続できる。
■ 「パソコンならでは」の新しい提案が魅力 いくつか不満点もあるが、16,800円という価格でこの機能、音質を実現しているのは非常に魅力的。3日間自宅で使っただけでも、AVアンプなどのオーディオシステムとの連携を考えるより、Z-10のほうが使いやすく、簡単に楽しめそうだと感じた。 光デジタル出力端子を備えたパソコンであれば、アクティブ型のモニタースピーカーもほぼ同価格で購入できる。そうした製品が競合製品となるだろうが、「パソコンで音楽を聴く」ということに対して、新しい付加価値をきちんと提案できている点が、Z-10の大きな魅力だ。 光デジタル入力を利用した汎用性を選ぶのか、それとも音質の好みか、さまざまな選択肢があるが、PCスピーカーと考えれば、USB接続によるディスプレイ表示と双方向機能は、他にないユニークな特徴。この点をどう評価するかが、購入のポイントになりそうだ。 □ロジクールのホームページ (2006年12月1日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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