■ フルHDってなんだ? 一昨年ぐらいまでは、「ハイビジョンとは何か」で結構モメたように思う。テレビの解像度や放送のアップコン問題など、これでハイビジョンでいいの? という状況だった。その一つの解としてメーカーが打ち出したのが、「フルハイビジョン」だったわけである。 テレビの場合は、これでカタが付いた。だがビデオカメラの場合は、まだ「フルHDとは何か」で決着が付いていないように思える。それは、撮像素子と記録メディアの解像度が一致しないからだ。例えばキヤノンはCMOSを使って1,920×1,080ピクセルの撮像素子を実現した。だがHDVという記録フォーマットは、縦1,080ピクセルだが、横は1,440ピクセルしかない。 実はこの記録媒体が結構ビデオカメラの場合は足かせで、放送用フォーマットでもフルHD解像度で撮影できるカムコーダは、今のところないといっていい。もちろん記録用HDDをゴロゴロ転がしていけばフルストリームで撮れるのだが、カメラと記録部が一体になったものは、まだないのである。これを最初に実現するのは、ソニーのHDCAM SRか、パナソニックのP2 CAM AVC-Iか、といったところだ。 もちろんコンシューマでも事情は同じで、これまでのHD記録フォーマットであるHDVも、横は1,440ピクセルしかない。AVCHDも規格上は1,920ピクセルがあものの、現行製品は全て1,440ピクセルだ。それをビクターのEverioがMPEG-2 TSで、縦横フル解像度である1,920×1,080で記録しようというのである。撮像素子は3CCDの画素ずらしなので、そこはフルHDではないが、記録系の先進性は驚くべきものがある。 Everioはご存じのように、HDD記録型カムコーダブランドとして早くから立ち上がり、一つのジャンルを形成したと言っていいだろう。だが他メーカーに比べて、ハイビジョンモデルの参入が遅れていた。 そして今年1月のCES 2007のタイミングでその存在が披露されたEverio HD「GZ-HD7」(以下HD7)が、ようやく発売された。店頭予想価格は20万円前後となっているが、すでにネット上では14万円台にまで落ちてきている。 永らく待たされたEverioのHDバージョン、その実力を早速試してみよう。
■ バランスのいいボディ設計 Everio HDことHD7には、2色のカラーバリエーションがある。今回はこのうち、インテリジェントシルバーをお借りしている。 実際のサイズ感は、初のコンシューマHD機と言えるソニー「HDR-HC1」に近い。これまでのEverioユーザーからすれば、全体のサイズは大きく感じるかもしれないが、HDカメラの初号機としては妥当なサイズだ。しかも3CCDモデルでこのサイズならば、十分小さいと言えるだろう。
重量はバッテリ込みで750gと、これもHC1に近い。横幅が広い印象を受けるが、実際にホールドしてみると重量バランスが非常に良く、安定感がある。 まず光学部から見ていこう。レンズはフジノンの光学10倍ズームレンズ。フジノンレンズをコンシューマで採用したカムコーダは、初となる。画角は35mm換算で39.5~395mmと、結構広めなのも好感が持てる。ワイド端でF1.8というのも結構明るい部類に入るが、さらにテレ端でもF1.9というのはなかなか頑張っている。 本体にはレンズフードが付属するが、レンズ自体はかなり奥まった位置にある。
撮像素子は新開発の1/5型、総画素数57万画素(1,016×558ドット)、有効画素数53万画素(976×548ドット)の16:9のプログレッシブスキャン3CCD。画素ずらしもお馴染みのくさびガラスを使った「6軸調整CCD固定方式」で、これまでのEverioでも実績がある方法だ。 鏡筒部にはフォーカスリングを備え、マニュアルフォーカスも可能だ。右下にはマニュアルフォーカスの切り替えスイッチのほか、フォーカスアシスト機能のボタンがある。かなりフォーカスには気を遣っている作りだ。
液晶モニタは2.8型、20.7万画素のワイド液晶を採用。液晶脇のジョイスティックはすでにお馴染みだが、今回は新たにファンクションボタンも付けられている。AUTO/MANUAL切り替えと逆光補正は、ボディ上部に別途独立したボタンとなっている。
液晶内側には、撮影/再生の切り替えやメニューボタンなどがあり、S映像とコンポーネント端子もある。昨今のHDカメラはS端子をあきらめる傾向にあるが、そこはさすがS-VHSのビクターといったところか。 背面に回ってみよう。特徴的なのは左側のボタン群で、MANUALモードではアイリス、シャッタースピード、明るさをすべて個別に設定することができる。これまでのEverioでもシャッター優先、絞り優先はできたが、フルマニュアルは初めてだ。
また今回ビューファインダを搭載しているのも、Everioとしては珍しい。しかしハイエンドモデルでは必須とも言える機構でもある。このあたりからも、今回のHD7に賭ける意気込みが伝わってくる。引き出して延びるようになっているのは、大型バッテリを装着した時の配慮だろう。 電源とモードダイヤルは、最近はやりの円形ノック式だ。また液晶モニタを閉じるとスタンバイになる節電機能も備えている。
■ あまり差がない画質モード では早速撮影してみよう。まずこのモデルでは、画質の選択が重要になる。画質モードは以下の表の通りだが、HDV対応の編集ソフトを使いたい場合は、撮影時に1440CBRモードを選択しておかなければならない。またHDV機と違って、最初からSDサイズの撮影モードがないあたりも、かなり割り切っている。もっとも再生時にSDに変換することもできるので、運用上はそれほど困ることもないだろう。
なんと言ってもウリはFHDモードであるわけだが、撮り比べてみるとほとんどの被写体で他モードとあんまり差が出ない。強いて言えば水面の画像で、SPモードが若干厳しい印象がある程度か。エンコーダの仕上がりレベルは結構高いようだ。 今回のモデル最大の収穫は、背面ボタンでアイリスやシャッタースピードが自由に決められることだ。これまでもどちらか優先機能はあったのだが、いちいちメニューを呼び出しての選択だったので、操作が面倒だった。これがボタン一発で変更できるのはすばらしい。 さて、コンシューマで初というフジノンレンズの実力が気になるところだ。まずオートの状態ではF4ぐらいだが、解像感も十分で、細かいディテールもよく捉えている。3CCD特有の発色の良さも相まって、花の季節には楽しいカメラだ。
ただ調子に乗って開放でテレ端にしてしまうと、映像の輪郭がにじんでしまう。これは収差の一種で、「ハロ」という現象ではないかと思われる。口径の小さいコンシューマ用ビデオレンズでは結構珍しく、ここまで派手なのものは初めて見た。もっとも多くのコンシューマビデオカメラは、マニュアルで絞り開放にはできないので、潜在的には多く存在するのかもしれない。 上手く狙って使えばソフトフォーカス的な軟調の絵を作れるが、きっちりした絵が好みならば、F2.8ぐらいまでにしたほうがいいだろう。またボケ味もそれほど綺麗ではなく、色収差を感じる。上手く特性を出すには、絞り気味で使った方がいいレンズなのかもしれない。
フォーカスの追従性は、これまでのEverioでは割と問題が多かった部分だが、今回のオートフォーカスはかなり優秀で、あまり困ることもなかった。それに加えてフォーカスアシストがあるのは、安心できる。
■ 解像度はもう一歩の静止画 静止画機能は、動画との同時撮影はできないものの、モードの切り替えが非常に高速で、ストレスなく使い分けることができる。シャッターボタンは二段押しで、1段目がオートフォーカスになる。 撮影できる画素数は最大1,920×1,080ドットで、動画と同じ16:9画角で撮影できる。もちろん画素ずらしによる画素補完にしては、色ズレもなく発色も十分だが、今はこれ以上に解像感の高い単板機が出てきてしまった。それらに比べると、ディテールの面では多少不満が残る。ただ記録媒体がHDDなので、いくらでも(9,999枚まで)撮れるというメリットは健在だ。 ファンクションモードには、ビデオと同じホワイトバランス、エフェクト、テレマクロがあるが、どうせなら静止画にはISO感度や連写の設定もここに入れて欲しかったところだ。 またF1.8という明るいレンズは結構なのだが、シャッタースピードが1/500秒までしかないので、マニュアルで2.0以上空けると、大抵露出オーバーとなる。これから夏に向けてさらに日差しが強くなれば、さらに絞らなければならないだろう。もう一息シャッタースピードを上げるか、ISO感度のもう一段低いモードがあっても良かったかもしれない。
■ 保存機能まで完備 さてフルHDで記録できるのはいいが、問題なのはこのフォーマットがこれまでのビデオカメラで採用されていないもの、つまりHDVやAVCHDとは違うため、編集や保存をどうするかということである。1440CBRモードで撮影すれば、i.LINK経由でHDV関係のソリューションが使えることはすでに述べたが、それ以外のモードではこの手は使えない。 この点に関してビクターは、SDの時代からオリジナルの解決法を自社開発してきた。すなわちDVDライターの存在である。 Everioの従来機では、内部にUSBホストコントローラを持たせて、DVDライターが直接接続できるようにした。この直結方式は、都市部ではなく地方部で人気が高いソリューションとなった。つまり都心部では、ビデオカメラはパソコンの周りでごそごそいじくるものという意識が定着しているが、地方部ではテレビの周りでごそごそいじくるもの、そういう意識を上手く汲み上げたソリューションであったわけだ。 今回は今月末に発売される新DVDライター、「CU-VD40」(以下VD40)もお借りすることができた。以前発売されていた「CU-VD20」との最大の違いは、前モデルがいわゆる普通の外付けDVDドライブであったのに対し、今回のVD40はAV出力端子が装備されて、再生デッキとしての性格を強めたことにある。
もちろんHD7ユーザーへのメリットは、HDの映像をデータとしてDVDメディアに記録でき、それをVD40でDVDビデオのように再生できる、という点だ。さらにDVD-R DLにも対応したため、FHD撮影のデータを1枚で40分収録できる。ある意味DLメディアがホントに意味を持つ、初めてのソリューションかもしれない。
操作は非常に簡単で、HD7とVD40を付属USBケーブルで接続すれば、Everioが自動的にバックアップモードになる。あとは保存したい映像ディレクトリを選ぶだけで、バックアップが開始される。保存済みと未保存のデータはHD7側で管理するので、未保存のみのバックアップも可能だ。 今回はすべてのシーンをバックアップする「標準バックアップ」を使用したが、HD7本体でプレイリストを作成し、そのシーンだけを保存したり、HD7本体内で撮影時に振り分ける「イベント」単位で保存したりと、いろいろなパターンの保存が可能だ。
VD40は、USBコネクタがささっているうちはUSBドライブとして機能し、抜かれるとプレーヤーとして機能する。USBコネクタを抜くと映像出力が出るので、出来上がったメディアの内容をテレビで見ることができる。なおDVDデータ形式のHD映像が再生できるだけでなく、普通のDVDビデオも再生可能だ。 PCレスでも完結するわけだが、PCだけでも完結できる。HD7付属の「CyberLink BD Solution」を使えば、PCへの取り込み、編集、DVDやBDへの書き出しが可能だ。 CyberLink BD Solutionの実態は、「PowerCinema NE for Everio」、「PowerProducer 3 NE」、「PowerDirector 5 NE Express」という3本のソフトウェアのセットである。作業分担としては、PowerCinemaが取り込みとソフト間の連携、PowerDirectorで編集、PowerProducerでBD書き込み、といったところだ。
■ 総論 Everio HDの市場投入に関しては、一昨年あたりからそれとなくビクターさんに打診していたのだが、当時はHDの編集ソリューションがなかなか揃わず、それがないうちにカメラだけ出してもどうか、という返答を頂いていた。編集ソリューションに現行のものを利用するということは、すなわち現行記録フォーマットを採用するということである。 だがEverioの方向性として、同じハイビジョンでもHDDでしかできないことを、ということで出てきた解答が、MPEG-2 TSのフルHD収録だったということだろう。そのために保存ソリューションを自前で用意しなければならなくなったとも言えるが、逆にそれはこれまでのEverioの流れに合致する結果となった。 カメラとして見た場合、従来機より大型になったが、ハイビジョン初号機として、またEverioハイエンドモデルとして綺麗にまとまっている。フルマニュアルでの撮影も扱いやすく、フィルタ機能などに頼らなくても、幅広い映像表現が楽しめる。 ただレンズの性能は、光学10倍に抑えているにもかかわらず、開放での甘さやテレ端での周辺部の収差など、もう少し練り込みが必要だったようだ。フジノンもコンシューマに初参入ということだが、初手からケチが付いてしまった格好になったのは残念だ。 さてビクターと言えば、親会社の松下電器が米投資ファンドへの売却を検討しているというニュースが紙面を賑わせている。現時点ではまだ決定ではないようだが、なんだか落ち着かない状態である。これだけの技術のある会社であるからには、一刻も早く安定した経営体制に移り、これからも我々をびっくりさせる製品をリリースしてくれることを期待したい。
(2007年3月28日)
[Reported by 小寺信良]
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