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本田雅一のAVTrends

“事実上の統一”遠のく次世代パッケージメディアの現況




 今年になってからというもの、以前のようにBlu-ray DiscとHD DVDの対立軸を中心にした動向記事が減ってきたと感じている読者もいるのではないだろうか。実際、筆者自身、そうした対立軸での記事をしばらく書いていない。

 実際に商品が出る前ならばともかく、両規格での商品が出荷され、それぞれにユーザーが存在する中にあっては、ことさらに対決姿勢を煽ることによるマイナスも大きいと思うからだ。

 もちろん、フォーマットが統一されることは望ましいが、いったんソフトウェアが発売され、それをコレクションしているユーザーがいるのなら、あとはそのソフトが今後、無駄にならないようメーカーがサポートしていくことを望むばかりである。

 もっとも、日本市場だけを見るとBDは再生可能な装置のシェアで圧倒している。PLAYSTATION 3の存在も大きいが、それを除いたとしても再生可能な装置の割合はBDが90%、おそらく95%も超えているだろう。

 では北米はどうかと言えば、こちらも日本ほどではないにしろ、BDが有利なことに変わりはない。タイトルリリースのタイミングにより、BDとHD DVDのシェアは大きく揺れるので最新のシェアが参考になるわけではないが、BDユーザーのソフトウェア購買力はHD DVDの4倍程度だろうと関係者は話していた。しかし、このところHD DVDがプレーヤーの大幅な値下げを行なった効果が出て、多少盛り返してきているという。

PLAYSTATION 3 HD-XF2

 しかし、それらの話はあくまでも、BD対HD DVDという対立軸においての話でしかない。次世代光ディスクのパッケージ販売が盛り上がってきているかというと、どうやらそうではないようだ。



■ “まだどちらも始まっていない”次世代パッケージソフトビジネス

 BDやHD DVDによるHDパッケージの販売に将来性はあるのか? といえば、これは間違いなく存在する。BDやHD DVDのパッケージを大画面のフルHDディスプレイで見た人は、想像していたよりもDVDとの差が大きいという感想を漏らすことが多い。逆に違いは感じないという人もいるが、たいていは評価に使っているディスプレイが小さい上、視聴距離が長いといった理由の場合がほとんど。

 レンタルDVDのネットワークが全国に広がり、郵便や宅配を用いたビデオ回覧のサービスも充実してきている日本において、わざわざパッケージにお金を払って購入しようという人は、映画ファン、アニメファン、音楽ファン、アイドルファン……多様なケースがあるだろうが、その中身を所有することを強く望んでいる人たちに違いない。

 たとえば、新作DVD+1,000円ぐらいならば、プレーヤーを持っていることが前提だが、高解像度のパッケージを購入する方がいいと思うのではないだろうか。有料チャンネルに加入し、高価な記録ディスクを購入してハイビジョン放送を無劣化で記録している人がいることを考えれば、潜在的な市場は決して小さなものではないはずだ。

 しかし、実際にはまだ日本市場で圧倒的なシェアのBDも、パッケージソフトはさほど売れていない(一方で記録型ディスクは堅調なようだが)。

 BD、HD DVD合わせ、日本で一番売れたソフトは、8,190円と高価な「イノセンス」で、実売数で1万を超えて、今でも定期的に発注がかかる商材になっている。これ以外だと、DVDと同時、あるいはそれに近いタイミングでの発売の新作タイトルで、5,000~6,000本といったところ。

 一方、北米市場はもう少し堅調で、DVD同時発売もののタイトルならば、1タイトルあたり4万~5万本ぐらいが売れるそうだ。その一方で、旧作は、実際の数字は発表されていないが、予想以上に出ていないと聞く。まだ始まったばかりの市場ということを考えれば、十分な数字のようにも思える。

 だが映画スタジオ側の期待値はもっと高かったようで「落胆はしていないが、PS3の実売数を考えると想像よりもバイレート(ひとりあたりのソフトを買う本数)が低い。もっと売れてもいいはず」との声が漏れてくる。

 1月のCESでは、北米でのPS3ユーザーをザックリと100万人とカウントした上で、プレーヤービジネスの開始も合わせ、順調に定期的な発売が続けば、次世代パッケージ全体の今年の市場規模を4億ドルと見積もっていた。これを達成するには、これまたザックリとした数字だが、最低でも1本あたり10万本の売り上げが必要になる、ワーナーなどは、さらにアグレッシブに年10億ドルという予想も披露していた。

 もっとも個人的には、HDTVがディスプレイとして必須であることや、全く新しいプレーヤーを購入しなければ楽しめないなど、次世代パッケージソフトの立ち上げ条件の厳しさからすれば、まずまず予想された範囲内のペースで立ち上がっているようにも感じる。

 ソフト制作のキャパシティなどの問題から、タイトル発売が遅れていることも、予想ほど市場が盛り上がっていない原因のひとつだろうが、PS3の出荷台数からもっとスタートのペースが速いと予測していた映画スタジオ側の期待が大きすぎたのも、落胆の声が聞かれる原因のひとつだろう。



■ 事実上の統一は当面先に

 上記のような状況もあって、昨年来、Blu-ray Discアソシエーション(BDA)関係者が話していた“事実上の統一”は当面の間、難しくなっている。

 日本国内に限れば、BDビデオの再生機がHD DVDのそれを圧倒的に数で上回っており、この傾向は今後も変化しないと考えられる。北米でのHD DVDソフト発売ペースに比べ、日本では特にユニバーサルのタイトル発売ペースが鈍っており、この傾向は今後も続くと考えるのが妥当だろう。プレーヤーではなく、レコーダが光ディスクビデオ機器を支配している日本市場では、録画機に普及機を持たないHD DVDは圧倒的に不利だ。

米シアトルの大型店のBD/HD DVD販売コーナー(2006年12月撮影)

 しかしプレーヤー中心の市場である北米では、PS3発売後の今もHD DVDが粘っている。先月、東芝は北米市場で普及型プレーヤーのHD-A2を100ドル値下げし399ドルとしたが、同時にHD DVDソフト5本と交換できるクーポンの同梱を開始。仮に1本あたり20ドルと見積もると、値下げ分と合わせて実質的には200ドル分の値下げ効果がある。

 北米市場は、こうした値下げやクーポンの効果がストレートに反映されると言われており、BDソフトの売り上げを超えるほどではないものの、HD DVDソフトの売り上げが大幅に伸び始めているようだ。東芝がこの戦略を続ける限り、しばらくの間はHD DVDが食い下がる展開が続くだろう。

 こうしたことに加え、LGのコンパチブルプレーヤーやSamsungによる「HD DVDプレーヤー発売の可能性がある」との発言などで、北米での次世代光ディスク情勢はやや見通しが悪くなってきた。

 韓国メーカーがHD DVDに興味を示す理由はいくつかある。

 LGは日本メーカーやSamsungに比べ、北米AV市場での存在感がやや弱い。限られた棚のスペースをソニー、松下、パイオニア(エリート)、Samsungなどが確保してしまうと、そこにLGが加わっていくのは難しくなる。その結果、“価格でのがんばり”で食い込むしかなくなってくるが、ドライブやシステムチップ、メモリなどのコスト比率が高いBDプレーヤーで価格勝負をするのは厳しい。LGにしてみれば、HD DVDとのコンパチ路線は自社製品の単価を上げるために必要不可欠なツールだ。

 一方、SamsungはLGよりもBDに対するコミットはずっと強いが、世界初のBDプレーヤーを他社に先駆けて発売したものの、その品質には疑問符が付けられてしまった。今後、ノウハウの蓄積が多い日本メーカーとまともに戦うのが良いか、それとも市場動向を見ながら売れそうな方に行くかを考えれば、当然、市場動向を見ながらHD DVDプレーヤー、あるいはコンパチ機を検討するというコメントにつながるだろう。それはソニーや松下といった一番強力なライバルが、絶対に向かわない道だからだ。

 こうした膠着状態を抜け出すには、どちらかの規格が圧倒的に市場を支配する必要があった。BDA関係者の言う事実上の統一とは、当然、PS3をテコにして対応パッケージソフトの売り上げに圧倒的な差が付くことだ。日本ではそれに近い状況になったが、北米ではまだまだ決着が付きそうにない。

 最大市場の米国での決着が先送りになれば、次世代パッケージソフトの事実上の統一もない。最大市場の米国は、また世界最大のコンテンツ供給源でもあるからだ。まだしばらくは決着が付きそうな気配はない。


□「HD DVDプロモーショングループ」のホームページ
http://www.hddvdprg.com/jpn/index.html
□「Blu-ray Disc Association(BDA)」のホームページ
http://www.blu-raydisc.com/jp/index.html
□関連記事
【Blu-ray/HD DVD発売日一覧】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/bdhdship/

(2007年4月17日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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