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西田宗千佳の
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SCE 平井一夫新社長インタビュー
「久夛良木体制」から変わるもの、変わらないもの


 E3に先立つ6月19日、SCE創設の中心メンバーであり、「プレイステーションの父」である、久夛良木健氏が、SCEの代表取締役 会長兼CEOを退任、同社の経営の一線から退いた。

SCE 代表取締役社長兼CEO 平井一夫氏。SCEAプレジデントを経て、2006年12月より現職

 後を任されたのは平井一夫。'95年、Sony Computer Entertainment America(SCEA)の創立時よりアメリカで活躍、'99年以来、SCEAのプレジデントを務めた「SCEAの顔」でもある。平井氏は、昨年12月にSCE本体の社長に就任。以来、SCEの舵取りを任されてきた。

 日本では任天堂に、アメリカではXbox 360にと、競合の状況が厳しい中、新SCEを任せられた平井氏は、どのようなビジネスを指向しているのだろうか?

 任天堂との競合、そして「新しいSCEの姿」について聞いた。

 なお、インタビュー中で語られるソフトの発売予定などについては、特に言及がない限り、すべて北米での状況をベースにしている。これは、E3が北米市場に向けたものであり、日本国内での予定については、追って日本国内のビジネスユニットから発表したい、という意向に沿ったものである。ご了承いただきたい。



■ PS2はいまだ好調。驚くほど軽い「新PSP」で勝負

-まず、現状でのビジネスの状況、SCEの状況をどう分析されていますか?

平井:PS2が、発売から7年が経過して、1億1,800万台を販売しました。1億台をオリジナル・プレイステーションよりも速く達成することができ、かつ、ファーストパーティー(自社のゲーム開発スタジオ)、サードパーティー(独立系ゲームメーカー)ともに、強力なタイトルがまだまだ用意されています。

 PS1の時もそうでしたが、最初の発売から10年は、確実にビジネスが伸びていきます。PS2に関しても、確実にあと2、3年はいろいろビジネスができるかな、と思います。

 これは我々にとっても利益がありますし、ゲームメーカーさんにとっても、ディーラーさんにとっても有益。なにより大事なのは、ユーザーのみなさんにもプラスだ、ということです。北米でいえば129ドルのコンソールから、まだまだすばらしいゲームも出てくるわけですから。かなり好調かな、と思います。

 やはり、ユーザーのみなさんに、「新しいコンソールが出たら古いのは知らないよ」というのは、うちのビジネスモデルにはそぐわない、と思って、PS2の時以来やってきたわけですが、PS3が出た後でもPS2は好調です。

新型PSP、「PSP-2000」。一見するとデザインが同じようだが、細部はかなり異なる

 PSPについては、なんといっても、新しいPSPを発表させていただいたことですね。実際、手に取ってみました? 重さが3分の2になった、といってもわかりづらいのですが、手に持っていただくと、実感していただけると思います。

-まるでモックアップのような軽さですね(笑)

平井:もちろん、中身は入ってますよ! 電源を入れてみてください。動きますから(笑)。「ビデオアウトが欲しい」という声をずいぶんいただいているので、今回はつけさせていただきました。

 かつ、ゲームロードタイムがかかるよね、というご指摘もいただいていたので、そこもかなり改善を加えています。

-それは、ドライブにキャッシュメモリを積んだ、ということですか?

平井:そうです。キャッシュメモリの容量をより充実させて、高速化しました。

 実は、ビデオアウトによる映像のクオリティも、これだけの大きさのものにしては、すごくいいんですよ。もちろんハイデフィニションではないわけですが。このあたりがちゃんとしたクオリティでないと、ダメですよね。

-出力に制限はないんですよね? PSPで利用可能な機能は、全部ビデオアウトに出力できるわけですか?

平井:もちろんそうです。ゲームも、写真も、UMDビデオも。ただしゲームについては、プログレッシブ対応のテレビに、D端子ケーブルかコンポーネントケーブルで接続した場合でないと、対応できません。ソフトも、北米では、140タイトルくらい出る予定ですので、かなり充実すると思います。

シルバーが新型、黒が旧型だが、はっきりと厚みの違いがわかる

 インタビューの後、新型PSP「PSP-2000」をじっくりとチェックする機会に恵まれた。インタビュー中でも触れているように、とにかく驚くほど軽い。「モックアップのようだ」というのは、嘘偽りのない、素直な感想である。薄さもかなり違うのだが、やはりインパクトでは、軽さに軍配が上がる。

 デザイン的には大きな変更はないように見えるが、十字キーやアナログパッド周りの構造は、微妙に変更されていた。長時間ゲームができたわけではないので、現時点では、感触などについての言及は避けるが、大きな違いは、ディスク取り出しの方法が、爪でひっかける方式から、単純にパカっと開く形へと変更されている点にある。これは、パーツ点数を減らし、さらに薄くするための工夫だと思われるが、ディスクのふたがガタガタしやすい、というPSPの欠点を解消するのにも一役買っている。

 また、これまでほとんど使われていなかったIrDAポートが姿を消している。それに伴ってか、無線LANのスイッチは左側面から上面に移動、メモリースティックスロットの位置も、少し上にずれている。

 機能面での最大の特徴である「ビデオ出力」については、出力品質がかなり高く、鮮明な画像である点がポイントだ。ただし、PSPのゲームの場合、プログレッシブ対応のD2以上の入力に対応したものに対し、別売の「D端子ケーブル」か「コンポーネント端子ケーブル」で接続しなくてはならない。これはPSPがゲームでインタレース描画をサポートしていないためと思われる。古いテレビにも必ずある、コンポジット端子では遊べないのが残念なところだ。

 なお、平井氏によれば、PSP-2000は、久夛良木氏が「直接ディレクションした製品」だという。久夛良木氏の作った「最後のプレイステーション」は、PS3でなくPSP-2000、ということになるようだ。

ディスクトレーは、取り出しレバーではなく、手動で開く形式に。レバーで間違って開いてしまう、というトラブルがなくなった。USBコネクタは、形状こそ同じだが、USBからの充電に対応 テレビ出力用ケーブルは、本体左側の、ヘッドフォン端子の横に刺す。写真は、米国で出荷予定のコンポーネント端子ケーブル



■ PS3普及のカギはあくまで「ソフト」。低コスト化は「急いで進める」

-PS3についてはどうですか?

平井:良くご指摘いただくのは、「ゲームがないんじゃないの」ということです。すでに全世界で60タイトルくらい出ているんですが、さらに2007年度末までに、ディスクベースのものだけで、200タイトルくらいの発売が見えています。北米の場合、そのうち120タイトルくらいが発売される予定です。

 本体の値段も大事だとは思いますが、まずは「ソフトがどうなの」ということに注視していきたいです。まだ日本・北米でも発売して1年経っていない、ヨーロッパに至っては3月に発売したばかりの製品ですから、「これからかな」というのが正直なところなんです。

-確かに、カンファレンスのプレゼンからは、いいタイトルが出てきたという印象を感じます。「Killzone2」(SCE)や「メタルギアソリッド4」(コナミ)は、「これぞPS3! 」と、誰もが感じることのできる作品でしょう。

 しかし気になるのは、それら「これぞPS3! 」と思えるタイトルのほとんどが、2008年以降の発売である、ということです。特に北米市場では、この年末のホリデーシーズンが非常に大切なはず。そこはどうですか?

平井:なにをもって「これぞPS3! 」というタイトルになるのか、という問題はありますが……。

 これがお答えになるかどうかはわかりませんが、かなり力を入れて開発している「ラチェット&クランク」のPS3バージョンなどを例にあげましょう。

 PS2でたくさんの方に遊んでいただいたタイトルですが、それがPS3になって「こう変わる」、ゲームプレイの懐の深さというか、そういうところを見せることで、ご納得いただけるのではないかと思っています。

 また、年末にダウンロード販売を予定している「GT5プロローグ」は、今回、非常に短時間の映像をお見せしただけではありますが、現在の「GTHD」とは、さらに違うものになっている、というところを理解していただけたんではないかと思います。

 「グラフィックのクオリティ」+「ゲームプレイの懐の深さ」というんでしょうか、そういったものはどんどんご体験いただけると思っています。

-ゲーム機本体の価格差が、「やりたいゲームがあるから買う」ということに、障害になるのではないですか? 実際、WiiやXbox 360とはいまだ大きな隔たりがあるわけですが。

平井:やはり、まずは「ゲームありき」だと思います。

 値段がいくらであろうと、「遊べるものはなんなの? 」というところで疑問符が出てしまっては、なんの意味もありませんから。大前提はゲームのラインナップに、いろんな方に楽しんでいただけるものがありますよ、ということだと。

 その次に大事になってくるのは、なるべく早く、積極的にハードウェアのコストダウンをやっていかなければならない、ということです。いままでのプラットフォームでもやってきましたし、PS3でも積極的に行なっていきます。部品点数を減らすであるとか、量産効果による低価格化ですとか、そういったことですね。素早く、積極的に行なっていく必要があるでしょう。

 それと同時に、ゲーム機として機能以外の部分、例えばBDプレーヤーとしての機能であるとか、ハイデフの環境で、PCを介さずに写真を楽しんでいただくことであるとか、要するに、ゲームコンソールのみならず、他の機能の部分も、総合的に見ていただいて、ご判断いただけたらな、と。

 DVDもきわめてハイクオリティに再生できますし、SACDもかかります。今後は、リモートプレイにより、PSPとの親和性ももっと高まります。そういうところをトータルにみていただいて、バリューを感じていただければと思います。

 とはいえ、最初からその話ばかりをしますと、「この製品はいったいなんなんだ? 」ということになってしまいます。ユーザーのみなさんに、「PS3がなんなのかさっぱりわからない」ものになり食指が動かない、ということになってしまいます。ですから、今のうちのマーケティングとしては「ゲーム」に振っています。

 ただ、サブにあるメッセージとしては、そういった機能をご評価いただければと思います。



■ PS3は「インタラクティブ・エンターテインメント」マシン
 Homeで変化しはじめるビジネスモデル

-軸がゲーム機だ、という話がありました。しかし、2年前のE3、去年のE3といったあたりでは、「新しいエンターテインメント・コンピュータである」というアピールがなされていたと思います。そういうメッセージングと、「ゲーム機」というメッセージングの間には、変化があったように感じるのですが。

平井:私が「ゲーム」という風にあえていいましたけれど、もう少し広い意味でいいますと、「インタラクティブ・エンターテインメント」と位置づけています。

 いわゆる、既存の「ゲーム」だけでなく、「Home」ですとか、ちょっと周辺事情的になりますけれど、「Folding@Home」のような、グリッド・コンピューティングの進化形も「ゲーム」、エンターテインメントの範疇にはいるわけです。もちろん、Folding@Homeそのものはゲームではないわけですが。

 コンピュータ・エンタテインメントといいますか、インタラクティブ・エンターテインメントとしての軸は、あまりぶれていないと思います。ただ、「ゲーム」と言ってしまった方がわかりやすいので、あえてそういう表現にしています。

 先日社内でのミーティングでも、「PS3というのは、まず、広い意味でのインタラクティブ・エンターテインメント、すなわち『ゲーム』を楽しむための機器ですよ、ということを認識してから始めよう」ということを話しました。

-「ゲーム」という言葉にこだわることによって、「PS3がビジネスモデル的に変わったのではないか」と思う人々がいます。私もそう思いました。そのあたり、真意はどうなんでしょうか。

平井: 基本的に、ビジネスモデルは変わっていません。

 しかし、PS3はディスクベースのビジネスだけではありませんからね。例えば、Homeというエンターテインメントの中で、どういうビジネスモデルを組むか、ということについては、ディスクベースとはまったく違うモデルを構築しないといけないな、とは思います。

 様々なコンテンツプロバイダーの方々に、様々なビジネスを展開していただく場合、うちのプラットフォームの上で行なうわけですから、それなりの利益共有、というものを考えなくてはいけません。ただそこで、ディスクベースのロイヤリティのあり方は、そのまま踏襲できません。

 ディスクベースのものは変わりませんが、ネットを使った、しかもノンゲームのサービスになればなるほど、別の考え方を持ち込まなければな、と思っています。

 Homeというのは、いろんなビジネスが考えられますから、まさしく今、どういう風な形で展開すべきなのか、議論を行なっている最中です。本当にはじめてのことなので、ビジネスモデルについては、特に導入時期にはどのようなものがいいのか、議論しています。

-導入時期についてですが、秋の予定は変わらないんですか?

平井:今のところは、何月とか何日とかはいえませんが、ワールドワイドで、秋の開始を目指して準備を進めています。

-ディスクベースとダウンロードベースのビジネスが進むなかで、流通の変化も進むと思います。ダウンロードにより、ゲームの流通は硬直した状況に変化をもたらすものだと思いますが、そこはどのくらい進んでいますか?

平井:その改革は、すでに始まっています。PS Storeを通して、お客様にゲームなどのコンテンツが届いているわけですから。

 イメージとして、「一挙に主流がディスクからダウンロードに移行するのではないか」という意見もありがちですが、私の個人的な意見としては、フルのBDで提供するタイトルを、そのままダウンロードでも提供していいとは思えません。

 インフラもまだ整っていません。また、「お店に行っていろんなものを見て買う」、という行為自身も、ゲームを楽しむうちだと思っているので、その辺は、インフラがいくら整ったといっても、変わることがないでしょう。

 結局はコンビネーションだと思うんです。小さいゲームはダウンロードもあるでしょうが、20GB、30GBのゲームを、金銭的な面でも効果的に配布するには、やはりまだBDだな、と思います。そこをバランス良くマネジメントする必要はあると思いますし、そのための組織作りは、常に考えているところです。



■ サードパーティーを「ファーストパーティー」で牽引
 「カジュアルゲーム」には真剣に取り組む

-日本の市場では、コアなゲームよりも、ニンテンドーDSやWiiでプレイされているような、ライトなゲーム、言い換えれば、生活に根ざしたコンテンツのようなものに対する市場が広がっています。ここに対する対応はどうなっていますか?

 逆に言えば、プレイステーションにユーザーを引きつけるには、「コアなゲームの良さ」を理解していただく必要があると思うのですが。

平井:結局は、ソフトの質の問題に戻ってくるんだと思います。コアなゲーマーの方に「やっぱりPS3だね」、「こういうゲームが楽しいよね」ということが訴求できることが重要だと思います。

-問題は、それを作るゲームメーカー側から見れば、「普及台数に差が開いたから、コアなゲームを開発する際にも他のプラットフォームを」という選択がなされてしまう可能性がある、という点です。それを引き留める策は?

平井:サードパーティーの方々には、いまハードウェアが何世代目であって、販売台数がどのくらいなのか、といった、いろんな話を、今後ももっとさせていただかないと、と思っています。

 しかし、ある意味ファーストパーティーの使命というのは、プラットフォームが進むべき方向とマッチングしたようなソフトを出していって、それに加え、ちょっとクリエイティブな可能性を推していく、ということだと思っています。

 この両輪で、アピール度の高いソフトを出していかないといけない、と思っています。

-非ゲームコンテンツへの取り組みはどうですか?

平井:基本的に、例えば「英語教育ソフト」といった狭いジャンルに関して後追いする、というのは、まああんまりやっても面白くないので、興味はないです。

 しかし、やはりカジュアルに遊んでいただけるもの、それでかつおもしろいものをプッシュしていく必要はあるな、と思います。たとえば、カンファレンスで紹介した「echochlome」などです。こういうものをどんどん出していかないといけないと思います。

 また、PSPなどで出させていただいていますけれど、GPSを使った地図関連ソフトなども大切ですね。ああいったものも、私の中では「ゲーム」なんです。今後も出していきたいです。

 ノンゲームといっても、かなり広がりはあります。そこは、誰かがやっている/いないに関わらず、裾野を広げるためには、インタラクティブなタイトルを発売させていただかなくてはダメだと考えています。そういうことをしていかないと、数は広がらないんです。PS2にしても、そういうことをして、カジュアルユーザー・ライトユーザーをとりこんできた結果、全世界で1億台普及したんですから。

SCEが「カジュアルゲームのキラーソフト」として期待する「echochlome」。エッシャーのだまし絵のようなグラフィクスをパッドで操作し、「見た目にはつながっている」ような経路にすることで、キャラクターを目的の場所へ誘導するパズルゲームだ



■ 無視できない「世界市場」の巨大さ
 高画質化が「文化の差」を拡大

-日本のゲームファンから見ると、「PS3はアメリカ主導だ」という印象があります。ローンチタイトルの多くもSCEA製、面白そうで期待も持てる「Home」も、やはりアメリカ開発で、どことなくアメリカっぽさが漂っています。それを是正する方法は考えていますか?

平井:日本のマーケットが小さい、というのは事実なので、これはいかんともしがたい。

 ならば、どうやって、日本でもウケるし、海外でもいけるよね、というソフトに仕上げるか、ということがポイントになってくると思います。これは、ファーストパーティーも、サードパーティーもそうなんですが。

 例えば「メタルギア」なんかは、アメリカ制作のソフト以上にアメリカっぽい。まるで、ハリウッド映画の神髄を突いているような感じです。こういう作品ができる裏には、日本で受けなければいけないのは当然なんですけれど、「海外でうけないようではダメだよね」という発想が、当然ながらあるんだと思うんです。グランツーリスモもそうです。そういう、「日本でも海外でもうけるゲーム」の作り方を模索していかなければならない、と思います。

 ただ同時に、地域に特化したソフトというのは、引き続きあっていい、のはいうまでもありません。だから、完璧に「全世界同時ヒット」を狙うか、というとそうではないですが、海外を意識しないわけにはいきません。

 だからといって、日本のユーザーのみなさんをないがしろにしているかというと、まったくそんなことはないです。日本で儲ける、海外で儲ける、しかも「これは革命的だ」と思ってもらえるソフトが作れるかどうかが、チャレンジですね。

 ここからは私の持論なんですけれど……。オリジナル・プレイステーションの時代と比べると、表現力が圧倒的に上がっていますよね。極端な話をすれば、スペースインベーダーは、シンプルだけど楽しいゲームです。シンプルであるがゆえに、どこの地域に持っていても楽しいわけです。別に、「UFOの形が日本人には気にくわない」といったことはない。

 ところがPS3くらいになってくると、キャラクターの表情ひとつとっても、「アメリカ人は盛り上がるけれど日本人には気持ち悪い」とか、「日本人にはうけるけれど、アメリカ人にはちょっとね」というところが出てきました。表現力が高くなったがゆえに、そこら辺の「小さな差」で、OKなのかNot OKなのかが、大きくぶれるようになってきたんです。表現力の高さが、市場にマッチすればいいんですが、マッチしないとおかしくなってくる、という難しいところにきていると思います。

 ですから、映画を作る時の感覚と同じようなレベルが必要な時代に来ているんでしょうね。そういった感覚をどう作品に生かすかが、ファーストパーティ・サードパーティ含め、大きな課題になっています。



■ 根源的な「姿勢」はこれからも変わらず
 ビジネスのスタイルは「平井流」に改革へ

-SCEというのは、久夛良木さんが作った会社です。SCEが久夛良木さんの体制から平井さんの体制になることで、変わること・変わらないことはなんでしょうか?

平井: 根源的な部分にある、エンターテインメント・ビジネスに対する姿勢は変わりません。

 テクノロジーやプラットフォームは大切なんですが、やはりソフトがすべてドライブしているということ、そして、そのソフトはクリエイターの方の想像力の結晶ですから、やはり、クリエイターの方々が自由に表現できるような環境を、技術的にもビジネス環境的にも作っていかないといけないよね、ということです。ここは全く変わらない、と思っています。

 変わるところといいますと……。私は長い間アメリカにいたので、ずっと情報の「受け手側」にいたんです。今度は東京にきて、情報・戦略の発信側になったわけです。基本的な考え方、方向性は、当然私が旗を振って決めなければいけないわけですけれど、そこからの味付けの仕方だとか、そういった部分は、各リージョンにエキスパートがいるわけですから、少しずつではありますが、「現地で決めてください」という方向に、シフトしつつあります。

 小さな例ですけれど、今度アメリカでは、新しいPSPを、黒とシルバーと白の3色で発売させていただくわけです。この色にしても、以前は東京で、すでにチョイスがされていて「その中でどうですか」といって選ばされる、という感じだったんです。

 それが、これからは、極端な話をすれば、PANTONEのカラーパターンを渡して、「そちらではどれで行きたい? あなたたちが市場を一番知っているんだから、決めてください」という感じで選んでいこうと思っています。もちろん、全部の色をできるわけではありませんから、最終的に私がはじかなければいけないのでしょうが、もっと決断、味付けの部分についてはお任せしますよ、という風にしようと思っています。

 ただ、PSP、PS3が基本的に向かう方向ですとか、ハードの仕様をどうするかですとか、こういうことは東京で決めないと、どうしようもないです。

 また、もちろんこれまでもやっていなかったわけではないですが、ゲームメーカーさんとも、日本だけじゃなくて、世界中で、今後ソフトの戦略をどうするか、といった情報をシェアすることを、より密にしていきます。結局プレイステーション・ビジネスというものは、サードパーティーさんの比率が高いですから。これまでも色々やってはきましたが、さらに関係を強固なものにしていかなくてはな、と考えています。

 久夛良木の下で私も含め十何年、一緒に仕事をしてきたスタッフ、特に部長以上の人間が、いろんな分野にいます。結局これも旗を振るのは私ですが、久夛良木の下で育ってきた新しい世代のメンバーで、プレイステーション・ビジネスの方向性を決めていかなければいけない、と思っています。

 久夛良木は創業者です。その会社を作った人間がやっていた時とは、ちょっと違う形になるだろうな、とは思いますが。

 技術者出身である久夛良木氏と違い、平井氏は営業・マーケティング出身である。そのためか、12月の社長交代以降、「SCEは変わる」、「PS3のゲーム以外の機能に関する位置づけは弱まる」との観測が強かった。

 だが、今回平井氏にインタビューして感じたのは、平井氏もまた、「プレイステーションを作った人々」の一員であり、ビジョンは共通である、ということである。

 ただ、だからといって、PS3の位置づけがなにも変わらない、とは思っていない。久夛良木氏の時代、PS3は「エンターテインメント・コンピュータ」でありつつ、その指向はさらに純粋なコンピュータに近かった。すなわち、情報を作ったり、コントロールしたりする機械になりたい、という渇望である。

 だが、平井氏の語るPS3像は、それとは少々異なる印象を受ける。いうならば、オリジナルのプレイステーション、すなわちPS1の持っていた、「最高のインタラクティブ・コンテンツ再生機」というビジョンである。インタビュー中、平井氏はPS1を、ほぼ「オリジナル・プレイステーション」と呼びかたで通していた。これはおそらく、平井氏がPS1に対し、特別な思い入れと敬意を抱いている現れだろう。

 仮にインタビューで受けた印象が正しかったとしても、それは単純に「後退」を意味するものではない。ニンテンドーDSが、「ペンを使ったゲーム機」から「ペンを使った身近なコンピュータ」に姿を変えつつあるように、突き抜けたコンテンツ再生機には、世界を変える可能性が秘められている。そして、そこでSCEが武器とするのは、「高画質」と「ネットワーク」だ。

 インタビューでも触れたように、この2つには、まだまだ様々な課題が山積している。「PS3とPSPの販売量を増やす」という、足下のビジネスにも、難しい課題が多い。平井氏率いる新生SCEが、どのような「新しいプレイステーション・ビジョン」を作り出すか、これからも注視していきたい。


□SCEのホームページ
http://www.scei.co.jp/
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(2007年7月13日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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