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第292回:Roland6年ぶりのDTM音源「SonicCell」を試す
~ PC連携対応の「ソフト全盛時代のハードシンセ」 ~




SonicCell

 SD-90以来となるRolandのDTM音源モジュール「SonicCell」が発売された。USB接続が可能で最大で16パート、128音の同時発音が可能な音源となっているが、MIDIの音源機能だけに留まらず、オーディオインターフェイス機能、MIDIシーケンス機能、MP3/WAV/AIFFのオーディオプレーヤー機能なども装備した多機能機に仕上がっている。

 今回は、DTM音源と言い切ってしまうには語弊もある「SonicCell」の機能を中心に紹介する。



■ ソフトシンセ全盛時代に登場した最新ハードシンセ


1991年発表のDTM音源「SD-90」

 SonicCellは実売80,000円程度と、それなりに高価なMIDI音源モジュールだ。「Fantom-XR」や「V-Synth XT」、「VK-8M」などRolandのキーボードシンセの音源部分だけをモジュール化した製品はいろいろ発売されているが、DTM音源としては2001年のSD-90以来、6年ぶりとなる。

 ただ、時代的には、SD-90以降、まさにソフトシンセ全盛。ハードシンセのアドバンテージを各メーカーともに訴えてはいたが、ソフトシンセがこれだけ高音質で高機能になってくると、ハードシンセの影も薄くなっているのが実情だ。

 ビンテージシンセなどその機種独特なサウンドが出せる音源は別として、DTM音源のようなオールマイティーではあるけれど、各音色に独自性が低い音源はどうしても価格が安く手軽なソフトシンセに食われてしまう。そんな中登場したSonicCellは、やはり従来のSDシリーズとはコンセプト的にも大きく異なる音源として開発されたようだ。

 見た目もSC-88などのSCシリーズ、SD-90などのSDシリーズとは大きく異なり、操作パネルが上面にある。つまり、ラックマウントしたり、デスクトップ上でパソコン本体と並べて使うというよりも、単体で使うことをかなり意識した設計になっている。後述するMIDI/オーディオプレーヤー機能が、それを象徴する機能だ。

 またブランド、規格という面でもSCシリーズ、SDシリーズとは一線を画す。SonicCellやEDIROLではなくRolandブランドになっており、GSのロゴも入っていない。以前はDTMといえばGS音源というほど、この世界で圧倒的に支持されたGSだが、隔世の感がある。

 もっともRolandのGSと、YAMAHAのXGという二大規格が手を結ぶことで生まれたともいえる「GM2」はSonicCellの中にも生きている。スペックを見るとプリセット音色として、パッチ=768+256(GM2)、リズムセット=20+9(GM2)、パフォーマンス=64とある。なお、このプリセット音色のほかにユーザーメモリも存在し、こちらはパッチ=256、リズムセット=32、パフォーマンス=64となっている。

 このスペックからもわかるとおり、SonicCellにはパッチとパフォーマンスというものがあり、パッチが個別音色、パフォーマンスはそのパッチおよびリズムセットを組み合わせたもので、マルチティンバー音源として使うためのものだ。

 さらに、各パッチの下にはシンセサイザとしての最小単位であるトーンというものが存在する。1つのパッチには、このトーンが最大4つ並列で置くことができるようになっており、そのトーンはウェーブテーブルを1つもしくは2つ使うことができる構造になっている。

 したがって、2つのウェーブテーブルを使うトーンを4つ並べたパッチは、8つのウェーブテーブルで構成される非常にリッチなサウンドとなるわけだ。最大同時発音数は128音だが、1音とは1ウェーブテーブルを意味するので、パッチ単位でいえば、この例の場合では16音となる計算だ。

 このように、SonicCellはウェーブテーブル・シンセサイザとなっており、その音源エンジンにはFantom-Xと同等のものが使われている。また波形メモリは16ビットリニア換算で128MBあり、Fantom-Xにはないアコースティック系の音源が数多く収録されている。

 さらに、この128MBでは物足りないという場合、Fantom-XやRDシリーズ、またXVシリーズで利用可能なウェーブ・エクスパンジョン・ボード、SRXシリーズを搭載できるようになっている。SonicCell上面のロゴの書かれたパネル部分を付属の六角レンチで開けると、スロットが2つ搭載できるようになっており、ここに挿せばすぐに使える構造となっている。


1つのトーンには、最大2つまでのウェーブテーブルが利用できる 拡張スロットを備え、「ウェーブ・エクスパンジョン・ボード」を装着して利用できる



■ PCと連携し、各種パラメータ設定が可能

 SonicCellのパフォーマンスやパッチ、またそれを構成するパートには膨大なパラメータがあるが、そのほとんどを本体でエディットできるようになっている。本体には有機ELディスプレイとプッシュもできるVALUEダイアル、そして9つのボタンが装備されており、これらを使うことで、かなり細かく、またわかりやすくパラメータが設定できるようになっている。


本体に備えるディスプレイ上で各種パラメータ設定が行なえる かなり細かい設定まで行なえる

 とはいえ、これですべて操作するには限界もある。全体像を捕らえにくく、各波形がどうなっているのかの確認も難しい。そこで登場してくるのがPC上のエディタだ。

 これらを使うには当然、ドライバをインストールしUSB接続することが必要なのだが、Windows XP用、Windows Vista用、Mac OS X用のドライバがあり、これらのプラットフォーム上でエディタが使えるようになっている。パフォーマンスモード、パッチモードのそれぞれにおいて、各パラメータを非常に細かくエディットすることができ、エンベロープやLFOなどの波形をグラフィカルに表示することもできる。


パフォーマンスモード


パッチモード

 このエディタを見てもわかるのだが、SonicCellの機能としてなかなか強力なのがエフェクトだ。MFXというマルチエフェクトが3系統、それとは別にコーラスが1系統、リバーブが1系統あり、さらにオーディオ入力用に別途1系統用意されている。

 MFXにはフィルター、モジュレーション、コーラス、ダイナミクス……と78種類のプリセットがあり、このうち12種類は2種類のエフェクトを直列に組み合わせたコンビネーション。具体的にはオーバードライブ>コーラス、ディストーション>フランジャー、エンハンサー>ディレイ……など。エフェクトのルーティングもかなり自由度が高いため、これだけでもかなり使い出がありそうだ。


エフェクトは、MFXが3系統、コーラス1系統、リバーブ1系統を装備。MFXには78種類のプリセットを用意する エフェクトのルーティングは自由度が高い



■ オーディオ入出力やDAW連携にも対応

 一方、ここで注目したいのが、オーディオ入力機能。SonicCellにはステレオ1系統の入力端子を備えており、これを利用したレコーディングができるようになっている。端子がちょっとユニークで、ステレオのL/RうちRが標準ジャックのライン入力専用、Lがコンボジャックになっており、スイッチ切り替えによって、ライン、ギター、マイクを選択できるようになっている。

 もちろんマイクはファンタム電源対応なので、コンデンサマイクとの接続も可能だ。またオーディオ入力用のエフェクトはEQ、エンハンサー、コンプレッサ、リミッター、ノイズサプレッサー、センターキャンセラーの6種類。入力にCDなどを接続し、センターキャンセラーを効かせれば簡単にカラオケを作ることもできる。


ライン入力のほかギターやマイクも接続可能。ファンタム電源にも対応 オーディオ入力用のエフェクトは6種類。センターキャンセラーでカラオケも簡単に作れる

 またオーディオ入力だけでなく、出力も可能。つまり、オーディオインターフェイスとしても利用できる。サンプリングレートはフロントのスイッチで、44.1kHz、48kHz、96kHzから選択可能。A/D、D/Aの分解能は24bitとなっている。

 さっそく、いつものようにRMAAを用いて音質テストを行なってみようとしたのだが、残念ながら失敗。ライン出力のレベルが小さいようで、そのままライン入力に直結しても、入力レベルが足りなくてうまくいかない。スイッチでマイク入力に切り替えるとレベルの問題は解決するが、解決するのがLチャンネルのみで、Rチャンネルがライン入力固定であるため、今回はRMAAのテストは見送った。

 ところで、SonicCellには「SONAR LE」がバンドルされているが、SONAR LEに限らず、SONARやCubaseなどのDAWとは有機的な連携ができるようになっている。当然、MIDIデバイスとしてもオーディオデバイスとしても利用でき、SONAR用のSonicCell音色定義ファイルも用意されているから、これを読み込めばプログラムチェンジを音色名で呼び出すことができる。

 さらに強力なのは前述のエディタのプラグイン版が用意されていること。Windows用としてはVSTインストゥルメント、Mac用としてはAudioUnitsがあるのだが、これを使うとSoincCellをまるでソフトシンセのように利用できるのだ。

 また、MIDIでSonicCellを鳴らした音のオーディオ化も簡単。ここで鳴った音は先ほどのオーディオ入力とミックスされた形でオーディオポートから入力されるため、そのままレコーディングできてしまうのだ。

 ただし、そうした構造になっているため、MIDIをオーディオ化する際には、オーディオインターフェイスとしてSonicCellを選択することが必要になるのと、対象となるMIDIトラックをソロにし、ほかのすべての信号をミュートする必要がある。さらに、クリック音なども消しておかなければならない。


サンプリングレートは44.1/48/96kHzから選択可能 SONAR LEなどのDAWとの連携も可能 SonicCellをソフトシンセのように利用できる



■ USBメモリ内の楽曲ファイル再生にも対応

 このようにSonicCellはDAWと組み合わせて音楽制作に利用したり、ライブで使ったりすることが可能だが、ライブでの利用という意味では、もっと便利な使い方がある。

 PCと接続するためのUSB端子のほかに、USBメモリと接続するための端子も用意されており、USBメモリに入っているMP3、AIFF、WAVそしてMIDIファイルが再生できる。

 MP3、AIFF、WAVは当然オーディオデータなので、ライブでこれを利用すると、“カラオケ”ということになるが、MIDIならまさにシーケンサでの演奏。当然、リアルタイムにテンポを変えたり、選択したトラックをミュートさせたり、エフェクトをいじったり、場合によっては音色をエディットしながら演奏することだって可能。


USB端子を装備し、USBメモリ内の楽曲再生に対応 楽曲ファイルはディスプレイ上で選択して再生できる MIDIファイル再生時はテンポやエフェクトを調整しながらの再生も行なえる

 また曲の呼び出しの順番が気になるところだが、プレイリスト作成のためのPC用ソフトがバンドルされているため、これを利用すればMIDIファイルやMP3ファイルの再生順を決めた上で、USBメモリへデータを転送することができる。またこのソフトを使わなくてもUSBメモリのルートディレクトリにMP3やMIDIファイルを置いておけば、ディスプレイ上で曲を選択して演奏させることが可能。


PC用のプレイリスト作成ソフトも付属 SonicCell上でプレイリストを選択して再生

 このようなプレーヤー機能が内蔵されているからライブ時でPCのトラブルを心配する必要はないし、何よりもコンパクトな機材でライブができる。これは非常に強力な機能といえるはずだ。

 以上、SonicCellを使ってみたが、サウンド的にはまさにFantom-Xの音といった感じであり、重厚なサウンドを楽しめる。この音をソフトシンセで出せないわけではないが、これだけの音をマルチティンバーで鳴らしたらかなりCPUパワーを喰いそうだ。しかし、SonicCellなら当然外部音源であるため、PC側のパワーを心配する必要はない。

 またライブでの利用では、MIDIシーケンサ機能や、MP3などの再生機能が威力を発揮するだろう。ホームレコーディング用途においては、ギターやマイクが手軽に接続できるのも大きなメリットだろう。とにかく多機能なだけに、どう使うかはユーザー次第だ。


□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/jp/SonicCell/index.html
□関連記事
【6月18日】【DAL】Rolandが小型音源「SonicCell」など新製品発表
~ ネット配信向けの機能を追加したSONAR 6低価格版も ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070618/dal286.htm

(2007年8月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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