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西田宗千佳の
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「BDが何百万枚売れても関係ない」
Microsoftが語る「パラマウント・ショック」後のHD DVD


Microsoftアミール・H・マジディマール氏

 パラマウントのHD DVD移行以来、次世代DVD市場は再び不透明感を増している。

 HD DVD陣営は、「パラマウント・ショック」をどう考えているのか? そして、現状のビジネスをどう見ているのか? 米MicrosoftでHD DVD事業を担当する、コンシューマ・メディアテクノロジー担当副社長のアミール・H・マジディマール(Amir・H・Majidimehr)氏に、HD DVDの「今」と「これから」を聞いた。



■ プレーヤーの価格は一気に「199ドル」へ
  低価格化は「消費者にメリット」

-HD DVDの現状を、どう見ていますか?

マジディマール:このところ、色々と変化がありましたね。東芝の第2世代プレーヤーが登場し、プレーヤーのコストも下がっています。「300」(北米版)や「FREEDOM」のように、ネットワーク機能を持ち、プレイリストをネットワークで共有するタイトルも出てきました。

 また、IFAのカンファレンスでは、中国系企業の「Venturer」が低価格のプレーヤーを発表しました。そのOEMを受け、WalmartやBESTBUYが、自社ブランドでHD DVDプレーヤーを199ドルで販売します。BDプレーヤーに比べ、ずっと安価になっています。

-199ドルのプレーヤーは、コスト低減によって実現された「利益ある」価格ですか? それとも、マーケティングプランによる価格なのでしょうか?

マジディマール:我々が作っているわけではないのでコメントできません。しかし、青紫色レーザーなどのコストは確実に下がっています。シャープもブルーレーザーを供給しはじめて、コストは劇的に下がりました。

 ひとつ特別なのは、HD DVDのピックアップはBDのものより安いということ。この点は有利に働いているでしょう。

-低価格プレーヤー用のリファレンスプラットフォームの進捗状況は? 199ドルプレーヤーはこれを使っているのでしょうか?

マジディマール:どこから出てくるか、どのような企業が使っているかは、残念ながら現時点では、公開することはできません。まだ機密事項ですので。次の機会にはお教えできるのではないかと思うのですが……

 199ドルプレーヤーがこの成果かどうかも、コメントすることはできませんね。ただ、Broadcomとの提携による、HDi処理に特化したデバイス開発の成果は、大きなものです。

-市場が立ち上がる段階で、これほどプレーヤーが安く、ディスクがこれほどついてくることに、恐怖感を抱いている人々もいます。「戦いの最初から焦土作戦をやっているようなものだ」と。この点をどう見ますか? 健全な成長には利益も必要だと思いますが。

マジディマール:非常に重要な質問です。

 DVDプレーヤーは現在、50ドルで売られています。でも、それで利益を得ている人々も、厳然としているわけですよ。それが健全なビジネスでない、とはいえない。300ドルのHD DVDプレーヤーを作るのが簡単ではないように、テレビを売るのも、50ドルのDVDプレーヤーを作ることも、簡単ではありません。すべての家電ビジネスは難しいものですよ。

 価格を高く維持するのは、我々の義務ではない。それは簡単なことです。フォーマット競争の結果、消費者は大きな利益を得る。より安い価格で、より洗練されたデバイスを受け取り、様々なソフトウエアを手に入れることができるようになります。

 率直にいって、タフなビジネスです。でも、他のビジネスだって、タフな競争にさらされているのです。

-さらに価格を下げるには、なにが必要と考えていますか? 低価格でも、利益の生めるプレーヤーが必要だと思いますが。

マジディマール:もっと価格を下げていくには、まずはドライブの価格が下がることが重要です。プレーヤーのコストのうち、多くの部分を占めていますので。この点については、BDもHD DVDも同じでしょう。


■ 記録型は「興味なし」
  プレーヤーの勝者がPCでも勝者に

-PCでの採用については?

マジディマール:東芝の他、富士通やエイサーなどが搭載機を出していますが、出荷台数は少ないですね。

 理由は、やはりドライブのコストが高いことです。パソコン市場は非常にコストに厳しく、パソコンに採用するのは難しいのでしょう。しかし、ドライブのコストが下がれば変わってきます。今年はまだまだでも、来年には増えるはずです。東芝に続き、様々な機種への搭載が始まることでしょう。

-PCにHD DVDを搭載する利点はなんでしょうか? 記録型で使える容量を考えれば、BDの方が明らかに有利ですが。

マジディマール:そもそも、我々は、レコーダブルメディアを重視しておらず、興味がありません。

 第1の理由は。HDDがこれだけ大容量で安価になったこと。20GBや30GB程度で、しかも高価な記録型ディスクを使うようでは、バックアップの役に立ちません。そういった用途にBDを使うかといえば、率直に言って「ノー」でしょう。ドライブメーカーも、発想を記録型重視から、映画再生用のROMドライブに切り替えつつあります。

 第2の理由は、リムーバブルのフラッシュメディアが、やはり大容量で安価になったこと。USBのフラッシュドライブは、いまでも32GBもの容量があります。そのうち、64GBになるでしょう。傷もつかず、非常にコンパクト。これを使えばいいでしょう。

 それに、DVDは、容量の少ない1層のものが、2層よりもはるかにたくさん使われている。DVDも必要と思っていないのに、なぜBDでは必要、と思われるんですか? 重要なのは、メディアのコストです。

 私の考えでいえば、(次世代DVDの)記録型マーケットは、DVDの時に比べ、非常に小さく、特定用途向けに留まるのではないかと思います。広がっていかないでしょう。PCでも、映像の再生用のメディアとして使われるでしょう。

-プレーヤーでの勝利者がPCでも勝利をおさめると?

マジディマール:そういっていいでしょう。

-PCでのサポートについて。OS標準では、再生機能をサポートしていませんが、今後もサードパーティーからのソフトで行うのですか? 自社でのサポートの計画はありますか?

マジディマール:自社でやる予定は、いまのところありません。パートナーの手によって行なわれる、という流れに変更はありません。

-PCではコンボドライブの採用も見えてきましたが、これをどうみていますか? そもそも、コンボドライブそのものをどう考えていますか?

マジディマール:PCメーカーにとっては、少々高すぎるでしょう。BDドライブだけですら高いのに、それ以上に高いものは、プレミアとしても高価過ぎるでしょう。DVDの時には、同じメカニズムでコンボドライブができますが、次世代はそうではないですから。コンボドライブは、HD DVD搭載機の一部にとどまるでしょう。


■ パラマウントの件には「関与せず」
  日本市場は勝敗に「無関係」?!

-パラマウントとドリームワークス・アニメーションの「HD DVDサポート」について、決断の背景を詳しく知っていますか? Microsoft側からのなんらかの働きかけは行なわれたのでしょうか?

マジディマール:Microsoftから、なにかアクションを起こしたことはありません。なんの取引もありません。

 さらに加えるなら、「スイッチ」の理由はお金ではありませんよ。彼らはBDを試し、非常にコストが高いことを知った。両方をマスタリングするコストは高く、資金が無駄であると悟ったのです。

 ソニーや松下は、液晶やプラズマを売る、という目的でコストを圧縮できますが、映画会社にとってはそうではありません。

 もう一つの理由はインタラクティビティ。例えば、「トランスフォーマー」では高いインタラクティビティを実現しようとしていましたが、BDには低いインタラクティブ機能しかない。PinPもネットワークも、ストレージも(必須機能では)無い。しかし、HD DVDはすべてをもっています。

 我々の視点でいえば、BDでビジネスをするのは難しいと考えています。HD DVDは、アメリカですでに大きなビジネス規模になっています。パラマウントのような企業にとっては、間違ったフォーマットをサポートする必要のない規模でしょう。もしBlu-rayが勝ったというのなら、Blu-rayに残れば良かっただけの話です。

-Microsoftからの資金援助はなかったと?

マジディマール:我々は、1ドルたりともパラマウントに支払っていません。プロモーションのためにも、マーケティングのためにも。Microsoftの協力は、純粋に技術的な方面からのものに限定されています。

 それに、ちょっと別の視点でいいますと……。みなさん、「パラマウントがいくらお金をもらったのか」に注目しているようですが、これは少々おかしいことです。

 BDでも、同じようなことがあります。(FOXとディズニーという)2つのメジャースタジオがBDだけにソフトを供給していることもそうです。非常に緊密な関係ではありますが。さらに、(米小売りの)Targetや(ビデオレンタル大手の)ブロックバスターが、BDのみを扱う、ということしてもそうでしょう。

 私は、この2つの交渉でなにがあったかは知りませんよ。しかし、なぜこの時には「なにもなかった」と考えられるんでしょうかね?

 HD DVDを買いたいと思う人々を、別の販売店に行くよう強制していることは、非常に悪いニュースです。BD陣営は、パラマウントの件について「お金」の話をしたがりますが、率直に言って、そういった戦術でフォーマットをリードすることについては、彼らの方が先を行っていると思います。

-東芝との間で、Microsoftから金銭的なサポートが行なわれている、との話もありますが?

マジディマール:金銭的なやりとりはあります。しかしそれはあくまでビジネス上のものです。HDiやVC-1のライセンスを締結していますから、この面での関係はあります。また、HD DVDプロモーショングループにて、マーケティングやセールスの関係から、バジェットを出し合う体制にはあります。

 ただ、再度言いますが、パラマウントの件では一切金銭的協力は行なっていません。将来のタイトル開発に対し、技術的な面から人的支援などを行なってはいますが。

-いくつかのニュースでは、パラマウントのHD DVD専念は18カ月限定、との話がありますが、この真偽についてなにか知っていますか?

マジディマール:私が知っているのは、パラマウント・CTOのアラン・ベル氏が、PC World誌で「HD DVDのサポート期間については、はっきり決まっていない」と語った、ということだけです。期間についてはあいまいです。

 ただ、ロジカルに考えれば、彼らが再びBDに戻るとは考え難い。まずHD DVDだけをサポートし、次に両方をサポートし、またHD DVDだけに戻った。さらにまた両方のサポートに戻る、という決断をしたら、取締役会は、理由をどう説明するでしょう?

 私個人としては、ポジションをふたたび元に戻すことはないと、期待しています。

-パラマウントに続くスタジオがある、という感触はありますか?

マジディマール:現時点ではないですね。パラマウントの件があるまで、それぞれのスタジオは、それぞれのサイドで満足行く地位を得ている、と思っていましたから。パラマウントが動いたことで、すべてのエクゼクティブが、「我々が動いたらどうなるだろう」と考えただろう、とは思いますが。

 ただ、パラマウントが移ったことにより、「BDがこのまま勝者になる」とは言えなくなったと思います。現時点では、なんの予測/予見も語らないでおこうと思います。ここからの数カ月は、非常にデリケートなものですから。

-市場では、BDもかなり売れています。アメリカではともかく、日本ではBDとHD DVDでは、圧倒的にBDが売れている。この現状をどう見ますか?

マジディマール:勝敗を決めるのは、北米市場での状況です。

 率直にいって、日本市場は小さい。残念ながらこれは事実です。誰も、日本での状況にフォーカスしてはいません。アメリカで半分を占め、ヨーロッパでも同様の状況にあります。ここをより推し進めます。BDも、これらの市場でいかに勝利するかを考えているでしょう。


■ インタラクティビティにスタジオがこだわるのは
 「映画館との違い」を出すため

-フォーマットの進展についてうかがいます。現状、ユーザーがどのくらいネット機能を使っているか、わかりますか?

マジディマール:まだ始まったばかりですし、正確なところはわかりません。しかしすでに、ウェブサイトなどでは、ファンが積極的に交換を始めていますね。数はわかりませんが、彼らがこの機能をクールだと感じ、気に入ってることは事実でしょう。

 なにより重要なのは、これらネット機能を利用することで、ユーザーの利用動向を把握できる、ということです。これで、利用者数をカウント可能ですし、ネットサービスとの連携も図れます。例えば、HD DVDのネットワーク機能を経由し、その映画に関する携帯の着信音を購入したりすることも可能です。おそらく、すべてのスタジオが利用を検討しているでしょう。

 インタラクティビティは、スタジオにとって非常に重要な機能です。消費者の感心は非常に低いのですが、それはこれまでのインタラクティビティが、きわめて低機能であったからです。DVDのものは悪く、BDも悪い。

 なぜスタジオがそこまでインタラクティビティにこだわるのかといえば、映画館で映画を観た人のうち70%は、同じ映画をDVDで購入することはありません。理由はもちろん、ストーリーを知っているからです。音楽は違います。ラジオなどで聴いたからといって、CDを買わない、ということはない。

 スタジオがなにをしたいと考えているかというと、ディスクでの経験を、映画館での経験よりもいいものに、映画館とは違うものにしようと考えているのです。

 映画館に行った人の、30%以下しかディスクを買いません。もしそれが50%にまで上がったら、驚くべき変化となります。おそらく、この20%で30億ドルのビジネス価値となるはずです。

 現在、DVDのインタラクティブ機能を使っている人は、正確なところはわかりませんが、10%がせいぜいでしょう。もしこれが20%になれば、やはり大きな拡大といえます。「ワァオ、HD DVDはDVDよりいいね」と考えて、ディスクを買ってくれる理由となります。そうなると、BDがそれを持っていないことは「苦痛」になるはずです。

-マネージドコピーの実現について、進展はありますか?

マジディマール:まだ作業中、といったところです。AACSの規格策定作業が進んでいますが、歩みは遅く、スローダウンしています。最終的なライセンス発行もまだですし。ディスクに関するライセンスはできていますが、デバイスに関するものはまだです。

 今年の末にライセンスが発行されます。その後、15~18カ月後には、ソフトが登場し、使えるようになっていることでしょう。使えるようになるのは、おそらく、来年のクリスマス以降のプロダクトとなるでしょうね。

 興味深い動きとしては、amazon.comが、インディペンデント系フィルムのHD DVDを、MOD(流通による、1枚単位でのオンデマンド製造)で販売する、というものです。最初の1,000タイトルについて、無料でHD DVD化を支援します。

-DVDに比べ、進展が速いですね。あちらはやっと規格化が終わったところですが。

マジディマール:DVDは、そういったニーズを想定せずに作っていたため、規格策定が非常に大変でした。しかし、HD DVDでは当初からMODのようなニーズを想定していたので、規格策定がスムーズに行なわれています。

 もう一つの事情としては、MODを利用したいと考えているフィルムメーカーの多くは、コピープロテクションに興味がない、ということがあります。HD DVDにおいて、AACSはオプションですが、BDでは必須のものです。コピープロテクションに興味のない人々がHD DVDを使う場合、AACSのキー発行にかかるコストを削減できます。

-どのような企業が、MODを使うと考えられていますか?

マジディマール:やはり、インディペンデントな映画会社です。次に来るのはテレビ番組ですね。非常に安く販売できます。料理とか、日曜大工とか、コンピュータに関するものとか……いままでの流通では高くなりすぎて売れないような番組が、MODなら販売できます。

 一般的な流通では、こういった映像ソフトの棚は小さくなってきているのですが、アマゾンならばロングテールにより、確実な需要が見込めます。

 店頭でキオスク端末を使って製造する、という形もあるでしょう。ただはっきりしていないのは、消費者がそういったものを使いたい、と思っているかどうかです。

-HD DVDの容量が少ないのではないか、という話もありますが。特にリッチな音声を入れていくには足りない、との声もあります。どう見ていますか?

マジディマール:圧縮技術は今後も向上しますから、問題とはならないでしょう。それに、すでに現在の製品でも、4時間の映画にロスレス音声を入れた製品が出ています。しかも、インタラクティブコンテンツを入れて、です。BDよりも多い情報を入れたディスクが販売されているのに、容量が足りない、と指摘するのはおかしな話です。

 別の話ではありますが、我々はネットワーク機能を必須のものとしています。オーディオトラックを、いつでも追加でダウンロードしてあげればいいのです。ロスレスのサウンドを、です。BDにそれはできません。

-しかし、それだけのストレージ容量を備えたプレーヤーは、いまないのでは?

マジディマール:いくつもの解決方法があります。すべてのプレーヤーにネットワーク機能があるわけですから、PCやネットワークストレージなど別のストレージに記録し、そこへ保存してもいいでしょう。また、すべてのプレーヤーにUSBがありますから、そこにフラッシュメモリーなどで容量を追加することもできます。本体の中に、ハードディスクを追加してもいいはずです。

-そういう拡張の仕方は、現在のプレーヤーではサポートされているのですか? そうでないなら、そういった使い方は難しいのでは?

マジディマール:いまのところはできません。すべてのHD DVDプレーヤーは、120MB以上のストレージを持っています。現時点では、ロスレスではないオーディオトラックなどのダウンロードに使われています。ロスレスをダウンロードしたい、といったニーズが生まれてくれば、ドライブを拡張する、などの手段が採られるはずです。それに、東芝の製品はLinuxを使っていますから、ソフトの書き換えで対応するのは簡単なはずです。

□関連記事
【7月2日】米MSとAmazon、独立映像製作者作品を募集しHD DVD化
-公募した1,000タイトルを無償でオーサリング/販売
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■ 次世代DVDへのこだわりは「今度こそ関わる」ため
  -HD DVD選択の理由は「BDの閉鎖性」に

-以前にもまったく同じ質問をしましたが、現時点で、あえてもう一度、この時点で同じ質問をします。Microsoftが、HD DVDというフォーマットにここまで注力する理由はなんですか?

マジディマール:いくつかの理由があります。

 我々は、DVDフォーマットの発展に関わっていくことができませんでした。現在のDVDは、一カ所で再生していても、それをストリームして別の場所で見ることができない。技術的にはそれが許されていても、ルールでは許されていないからです。DVDをリップすることも、技術的にはできても、ルールでは許されていない。オーソライズされたコピーを作成することはできませんよね。BDでは、インタラクティビティに関するプライオリティが非常に低い。ネットワーク機能についてもそう。でも、我々はネットワーク機能を使いたいんです。

 我々は、今回はかかわっている。だから、こういったことが可能になっているんです。我々は、パッケージメディアとネットワークディストリビューションが、遠からず一体化すると考えています。

 例えば、ディスク上に入っているエンディングとは違うバージョンの映像を買いたい、と思った時に、ディスクではなくダウンロードで購入する、という形になることは、間違いありません。いまだと、90%は同じ内容のディスクを、さらに同じ価格を出して買わねばならない。ダウンロードでスペシャル・エディションが変えるなら、そちらの方がいいはすです。

 パッケージとネットワークが一体のものとなるなら、それは我々のビジネスになり得ます。

 それとは別に、我々はHDiを様々な家電メーカーにライセンスしています。ですが我々にとっては、それはさほど大きなビジネスというわけではない。しかし、これが次の世代への礎となるならば、大きな投資となるのです。

 インタラクティビティを実現する機能は非常に複雑なものですから、多くの企業にとっては、ライセンスを受けた方が簡単であるはずです。

-BDに初期からコミットをして、同じように活動をしても良かったはずです。HD DVDを最終的に選んだ理由はなんですか?

マジディマール:もちろん、そうしましたよ。最初はBD陣営に対してHDiの採用を働きかけたんです。HD DVDと両方のサイドに対してアプローチしました。コーデックについては、両方で採用してもらうことができました。

 しかし、インタラクティビティはダメだった。BDは我々に「ノー」と言ったんです。BDはJavaを選び、コピープロテクションにBD+を選んだ。彼らの意見はシンプルです。「Microsoftの意見は考慮しない」。理由は、BDが「BDキャンプ」で、Microsoftの領分ではない、ということですよ。

 DVDフォーラムでは、19社がHDiを選び、2社がJavaを選んだのです。多くのBD賛同企業もHDiを選びました。しかしBDAではダメでした。要は、だれが「家」に招かれ、誰が招かれなかったか、ということです。我々は、BDに歓迎されなかったのです。


■ 次世代DVDはまだ「1%」のマーケット
 BDの売れ行きは「気にしない」

-年末はどのくらい、HD DVDが伸びると考えていますか?

マジディマール:「トランスフォーマー」のヒットは、我々にとっても喜ばしいことです。ヒットタイトルとなることでしょう。

 プレーヤーはすでに299ドルで売られており、しかもディスクが8枚もついてくる。すなわち、プレーヤーは実質50ドル程度だ、ということです。

 これはクリスマス前のことです。ただ、クリスマスになったからといって、市場が10倍になるとか、100倍になるとか、といったことを期待しているわけではないんですよ。それでも我々は、市場の伸びを重要だと考えています。来年には、大きな飛躍が期待できるからです。今年はわずかな伸びでも、来年には大きな収穫が期待できると考えています。

 実際のところ、次世代DVDは両フォーマットあわせても、市場の1%程度しかシェアがありません。まだマニアだけのマーケットといえます。しかし、もっとマーケティングを行ない、パラマウントやユニバーサルからヒットタイトルが出てくれば、来年はよりよいポジションを得られることと期待しています。

-フォーマット戦争は、長く続くと見ていますか?

マジディマール:最終的な「審判」が下るまでは、長い時間がかかるのではないかと思います。

 しかし遅かれ早かれ、パラマウントのように、BDから移ってくる企業がまた現れるはずです。これはBDにとって大きなダメージとなります。一度こちらに来た人々が、再びあちらに行くことはないでしょうから。

 数年でBDがなくなる、ということはないでしょうが、勝敗はつくでしょう。ソニーだって、いまはVHSを作っているわけですから。

-コンボプレーヤーが増えた時、Microsoftとして、それは「勝利」といえますか?

マジディマール:うーん、コンボプレーヤーが勝つ、とは断言できませんね。コストが高すぎますから。それに、我々は、コンボドライブをサポートしませんし、ソニーも東芝もそうでしょう。

 我々が考える勝利は明確です。BDが100万枚、500万枚売れようが、ソニーのプレーヤーがたくさん売れようが、関係ありません。我々が考えるのは、もっともっとたくさんのスタジオのサポートを受けて、HD DVDプレーヤーとソフトが売れること。それだけです。


□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□MicrosoftのHD DVD情報ページ(英文)
http://www.microsoft.com/hddvd
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「我々がHD DVDにこだわる理由」
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(2007年9月13日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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