■ 生まれ変わったPremiere Elements
かつて「Premiere Elements」と言えば、過去のPremiereからProとElementsに枝分かれして、Proの機能制限版といったイメージだった。だが「Photoshop Elements」がそうであるように、上位バージョンの基本機能を継承しながらも方向性としては少し違った、もっとファミリーユースな位置付けが求められていたわけだ。 ただPremiereというのはビデオ編集のGUIとしては金字塔であり、なかなかそのセオリーを崩すのは難しい。やっぱりPremiere Proの安い版といったスタイルからなかなか離れられないんだなぁという思いから、バージョン2ぐらいまでで興味を失ってしまった。 だが今回のPremiere Elements 4(以下PE4)は、GUIもガラリと変えてPhotoshop Elementsと共通化し、総合動画管理ツールとしての顔になってきているようだ。発売は10月下旬となっており、通常版は14,490円、乗り換え/アップグレード版が10,290円となっている。価格的には過去Elementsを踏襲しながら、Blu-ray Discの書き込みにまで対応している。 肝心のBlu-ray Discドライブは、ベアドライブの売り上げがもう一歩のようだが、メーカー製PCには徐々にBlu-ray対応ドライブが搭載され始めている。そう言う意味では、メーカーバンドルの編集ソフトとしての位置付けも強いラインナップなのかもしれない。 今回お借りしたソフトウェアは、まだベータバージョンであるため、最終的な仕様とは異なる可能性があることをお断わりしておく。では新しくなったPE4の使い勝手を、早速試してみよう。
■ プロっぽいGUI
最初に起動すると、いつものようにプロジェクト設定になるわけだが、選択肢は結構シンプルだ。日本だとPAL設定は使わないので下半分は無視することになるが、ビデオカメラのフォーマットごとに画面解像度やフレームレートがセットになっていて、これらから選ぶだけである。 対応ビデオフォーマットは、MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4、H.264、DV、AVI、Windows Media、QuickTime、JVC Everio MOD(読み込みのみ)、3GP、ASF(読み込みのみ)、WAV、WMA(読み込みのみ)、ドルビーデジタルステレオ、PSD(読み込みのみ)、JPEG、PNG(読み込みのみ)、DVD、Blu-rayディスク(書き出しのみ)。 ただ、これらのフォーマットがどのビデオカメラの機種に相当するのかというのは、表現としてもう少しあってもいいだろう。例えばAVCHDのビデオカメラはその中でどのような位置付けなのかが、判然としない。
PE4のGUIは暗めのグレーが主体で、映像のプレビュー画面が大きくフィーチャーされている。編集はタイムラインとシーンラインを切り替えるスタイルで、いつのまにかこの両対応がエントリー向けビデオ編集ソフトの定番みたいになってきた。 試しに最近レビューで使用したカメラの映像読み込みを試してみた。Panasonic「HDC-SD7」はAVCHDでも1,920×1,080ドットで記録するタイプだが、読み込みはするものの、映像の再生ができなかった。Victor「Everio GZ-HD3」は、読み込み自体できなかった。TODという拡張子に対応していないこともあるが、拡張子をMPGに変更してもうまく読み込めなかった。 意外だったのは、これまで編集環境がほぼ壊滅状態であった三洋「DMX-HD1000」のファイルが読み込めたことである。ただ録画モードが違うものを同時に読み込ませると、不安定になるようだ。また読み込みはできるが、Core2Duo 2.66GHzのマシンをもってしても、スムーズに再生することができなかった。何かプロキシ編集のような仕掛けがないと、ダイレクトでH.264の編集はまだ厳しいようだ。 というわけで、正直に言えば最近のカメラの映像の読み込みはほぼ全滅だったので、HDVカメラから映像のキャプチャを行なった。映像フォーマットへの対応まだベータなので、製品版では安定することを期待したい。さらに読み込みのTipsなども、製品版リリース後にユーザー間で研究されていくことだろう。
■ 細かくステップ分けされたワークフロー
作業の大まかな流れは、右上の色分けされたタブで表わされている。つまり編集、オーサリング、書き出しという段階に分かれているわけだ。このタブの配置は、なかなかセンスがいい。 各タブの下は、さらにタブで分けられており、編集に関しては、プロジェクト、整理、取り込みの3つに分かれる。取り込んだ素材は、プロジェクトに関わらずずーっと覚えているようだ。今回のレビューではまだそれほど多くの素材を取り込んでいないが、長い間使用していると、素材がここに溜まっていくわけだろう。 素材の絞り込みに関しては、日付で範囲指定したり、「名札」と呼ばれるタグを付けたり、5段階で星印を付けたりできる。これらの要素を複合的に指定することで、目的のソースを絞り込むわけだ。ソースファイルがフィジカルにどこにあるかを管理せず、ある程度素材としてごちゃっと集めといて絞り込んでいくやり方は、Google Desktopといった検索の在り方に共通する部分がある。以前から編集ソフトを使っていた人には、違和感を感じる部分かもしれない。
ではHDVでキャプチャした素材を使って、実際に編集してみよう。これまでPremiereを始めとする多くの編集ソフトは、素材クリップをプレビュー画面に持っていき、そこでIN点/OUT点を指定したのち、タイムラインに降ろすというスタイルであった。 だが今回のPE4では、クリップをタイムラインなりシーンラインに配置しないと、プレビュー画面に映像が表示されない。クリップのダブルクリックでは、別の小さいプレビュー画面が表示される。ここでもIN/OUTの指定はできるが、やはり大きな画面で映像を確認するほうが使いやすい。つまり、トリミングする前にまずタイムラインなどに置く、というセオリーが標準となったようである。 これには賛否あるだろうが、例えばHDVからのキャプチャでは、シーンごとにクリップ分割されないため、長いファイルをまな板の上に載せて切り刻むような作業をしなければならない。こういう点からも、まず先にタイムラインに配置というほうが、メリットがあるのだろう。 またシーンラインで映像を配置したり、再生ポイントを動かしたりすると、プレビュー画面下にあるタイムスケールが自動的にみょーんと延びたり縮んだりして、最適な長さにFITしていく。このあたりの滑るようなリアルタイム感は、最近のGUIの流行である。 タイムラインでの編集は、従来とほぼ同じ使い勝手だ。ここでだいたいの構成を作っておいて、「テーマ」から内容にマッチするものを選択すると、オープニングタイトルや音楽を自動的に付けて、トランジションも自動設定される。ただトランジションは、ランダムに挿入されるようで、「なんで今このエフェクトを」と苦笑するようなことになりがちである。
エフェクト類は、かなりの量が揃っている。特に色補正関係が多いのは経験者にはうれしいが、初心者にはちょっと難しいだろう。まあ無理に使うようなものでもないので、出来る範囲からやればいい。今回の目玉エフェクトとしては、手ぶれ補正が修正できる「ビデオスタビライザ」がある。しかし残念ながら、手元に届いたベータバージョンには含まれていないようだ。 またプリセットとして、静止画をズームやパン、PinPしたりといったものが大量にある。必要なものを探すのが大変だが、左肩に検索窓があるので、キーワードで絞り込むことができる。 タイトルに関しても、アニメーションエフェクトが簡単に使えるようになった。プリセットを駆使して楽に見栄えのいいものが作れるが、いかんせん米国企業なので、全体的にセンスがアメリカンである。日本人が使うと、いかにも借り物といった感があって、使いどころが難しい。デザインにもうちょっと無国籍感というか、インターナショナルな感じが欲しいところだ。
■ 多彩な書き出しをサポート
「メニューを作成」のタブに移動すると、そこから先はオーサリングの世界である。PE4はBlu-rayにも書き出せるので、当然Blu-ray用のオーサリングも行なうことができる。だが何に書き出すかはこの後に決定するため、オーサリングはDVD Videoと共通で使える程度のものになっており、Blu-ray特有の何かがあるわけではないようだ。 メニュー画面内にリンクされるシーンのポイントは、最初にテーマを決めるときに自動的に割り付けられる。これはタイムライン上のメニューマーカーになっており、後からポイントをずらしたり、数を減らしたりといった変更は自由だ。オーサリングによるメニューは、それに合わせて自動的に構成が変わっていく。 「書き出し」タブでは、書き出しの目的を選択する形で、ファイルフォーマットを選ぶことになる。これまではDVDメディアが書き出しのメインだったが、時代に合わせてということか、YouTubeへの書き出しができる。
以前レビューしたAppleの「iMovie '08」もそうだったが、米国におけるYouTubeの受け止められ方は「Broadcast Yourself」のキャッチフレーズ通り、自分を放送するメディアとして捉えているようだ。このあたりは日本とはすでに温度差が違ってきている感じがする。 「オンライン」を選択すると、YouTubeとその他のWebサイトへのアップロードがプリセットされている。YouTubeに関しては、Flash Videoフォーマットで標準画質という具合に、決め打ちされている。ただこれ以上はまだ動作しないようで、実際にはアップロードはできなかった。環境設定では特に自分のアカウントを設定するようなところもないので、どのような仕掛けになっているのかわからないが、普通に考えればこのあとアカウントの設定画面が現われ、それからアップロードに進むのではないかと思われる。 気を取り直して、別の書き出しの新機能である携帯端末への書き出しを試してみよう。プリセットは結構豊富で、iPodを始めとするApple製品、オーディオポッドキャスト、Creative Zen、Microsoft Zune、SONY PSPなど、いろいろ揃っている。
1分半程度のムービーをiPodのプリセットで、上記のマシンスペックで出力したところ、約10分であった。HDからのリサイズもあるので、それなりの時間がかかるようだ。 自分で作ったビデオをiPodで見るのか、という話もあるのだが、写真をiPodで楽しむニーズがあるならば、同じようなものだろうという考え方はあるかもしれない。ただ、日本人にはそもそも家族の写真を持ち歩くという習慣が希薄なので、このあたりも温度差がある点だろう。
■ 総論
これまでPremiereというソフトは、様々なフォーマットのビデオを編集すること、編集したものを別フォーマットやビデオメディアに書き出すことを主体として進んできた。純粋にビデオ編集ツールとして留まっている間は、日米の差はほとんど無かったわけだが、今は日米のズレの狭間で動向が難しいソフトになってしまっているように思う。 ハードウェア面では、日本は圧倒的にビデオカメラの種類が多い。おそらく米国ではまだ発売になっていない、あるいは全然普及していないフォーマットも、日本では平行して普通に売れているというハードウェア対応のズレが一つ。もう一つは、プライベートなコンテンツをYouTubeで公開したり、iPodなどに書き出して持ち歩いたりというメンタリティのズレである。 他にもタイトルメニューのデザインがバタ臭いといった部分もあるが、それはまあ好みの問題だと片付けても、上記2つのズレはなかなか埋まらないだろう。既に日本では、舶来ツールをありがたがるという時代は過ぎ去りつつある。少なくとも日本で発売されているカメラに対して、どれに対応してどれに対応しないといった動作検証の情報が公開されない限り、市販パッケージとして買うソフトとしては、ユーザー側にとってリスキーである。 その一方で、タイムライン編集ツールとしては非常にレスポンスが良く、Premiereおよびその類似GUIのソフトを使っていた人には、普通に使いやすい。HDV機を使っているユーザーには、最終的にBDに保存できるというのは、大きなポイントだろう。ただスリップ編集のように、ツールを持ち替えることで違ったトリミング作業をするような機能は省かれている点は、CanopusのEdius Neoのほうが本格派だ。 以前SONYのVAIOでは、VAIO Edit Componentプラグインを使ってPEでプロキシ編集を実現していたが、同様の機能をPE4単体でできれば、もっと多くのユーザーに恩恵があっただろう。だが米国ではそもそもハイビジョンのビデオカメラ自体ほとんど普及していないので、ハイビジョン編集があまり本気でフィーチャーされていないのが残念である。 入力から出力まで、ライブラリ管理まで視野に入れた総合ツールとなったPE4。GUIも大幅に格好良くなったが、ユーザービリティの面では、そういう使い方を日本人がするかなぁ、といった疑問が、どうも払拭できないでいる。
(2007年10月3日)
[Reported by 小寺信良]
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