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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第331回:万人がHDの時代へ、Inter BEE 2007
~ 基本路線を維持しつつ、クリエイター向け製品も大量展示 ~



■ 例年より1日早い会期

 11月20日から22日までの3日間、千葉幕張メッセにて毎年恒例の放送機材展「Inter BEE」が開催されている。いつもは水曜日から金曜日までだが、今年は金曜日が祝日であるため、開催期間が前に1日ズレている。最終日に行こうと思っている方は、注意していただきたい。

 さて放送業界の差し迫ったテーマとしては、来年開催される北京オリンピックがある。そういう点でも機材の更新が考えられるわけだが、各社ともそこにフォーカスした機材はまだお目見えしていない感じだ。ターゲットは4月のNABなのか、それともあまり北京五輪に期待していないのか。

 国内の放送局は、HD化に向けてすでに全体で1兆円を超える機材更新を完了している。さすがにこれからまたこの規模の設備投資が行なわれるとは思えないが、現状機器の増強という路線は考えられるだろう。

 では早速各社のブースから、主立った製品をピックアップしていこう。


■ クリエイター向けカムコーダが充実したSONY


多くの目玉商品を揃えるソニーブース

 放送機材展で多くの人がまず最初に立ち寄るのが、ソニーのブースだ。撮影から編集、中継車まで一通りの機材が一社で揃っているのは、ここぐらいしかない。ソニーのブースを見れば、今のトレンドがわかる。

 今年も多くの新製品を発表したが、もっとも注目を集めていたのがメモリに撮るカムコーダ、「XDCAM EX」の第一弾となる「PMW-EX1」である。今年4月のNABで発表されたが、実動機が日本で広く公開されるのは、今回が初めてとなる。

 発表が早かったせいか認知度は高く、放送関係者はもちろんハイアマにも注目され、撮影ブースは大混雑だ。レンズ交換こそできないが、Exmor(エクスモア)の3CMOS構成、ワイド端は35mm換算で31.4mmの14倍ズーム、スロー&クイックモーション撮影可能と、これまで「あったらいいな」をすべて実現したカメラとなっている。


メモリ記録のカムコーダ、「PMW-EX1」 撮影ブースは大変な混雑ぶり カットモデルも展示されている

 また先日発表されたばかりの、レンズ交換可能なHDVカムコーダ「HVR-Z7J」と「HVR-S270」も、大量に実機を展示、実際に撮影できるようになっている。発表が約1週間前ということもあって、ここに来て初めて知ったという人も多く、こちらも人気を博している。

 特に小型のHVR-Z7Jは、05年に発売された「HVR-Z1J」(HDR-FX1の業務用バージョン)の後継機と見られるが、こちらも今回撮像素子がExmorの3板となり、絵のほうも期待できる。ただセットレンズがカールツァイスなのが、ちょっとコンシューマっぽい。


レンズ交換可能な「HVR-Z7J」 ボディ側面にZEISSのロゴが

 注目の交換レンズだが、マウントは1/3インチバヨネットとなっており、レンズメーカーの業務用ENGレンズが装着できる。またレンズアダプタを使用することで、従来の1/2インチ、2/3インチビデオレンズも装着できる。さらに、αレンズも装着できるとあって、コンシューマでも注目を集めることだろう。ただし焦点距離が大幅に変わるため、実際には望遠レンズ用途で使われると思われる。

【レンズアダプタ装着時の焦点距離】
レンズタイプ 焦点距離倍率
1/2 1.3倍
2/3 2倍
α 7倍

 ショルダータイプのHVR-S270Jは、ミニDVだけでなくスタンダードサイズのカセットも入るため、HDVモードで276分、DVCAMモードで184分の撮影が可能。またビューファインダの上部に液晶モニタを別途設ける「デュアルファインダー」となっている。ローアングル時の撮影などには便利だろう。

 またメモリーレコーディングユニットを装着すれば、テープとCFカードのハイブリッド記録が可能。このユニットはカメラに標準で付属するため、これまでなかなかメモリ記録に思い切れなかったプロユースでも、メディアのノンリニア化が一気に進むかもしれない。


ショルダー型のHVR-S270Jは、デュアルファインダーを装備 標準付属のメモリーレコーディングユニット


XDCAMのフラッグシップモデル「PDW-700」

 またディスク記録のXDCAM HDも、フラッグシップモデルの「PDW-700」が登場した。従来のXDCAM HDは最高で1,440×1,080、35Mbps、4:2:0記録だったが、今回から新たにXDCAM HD422シリーズとして展開、1,920×1,080、50Mbps、4:2:2記録が可能になった。3CCDで、撮像素子も2/3インチ220万画素のフルHD仕様である。

 これまでは報道メインで使われてきたXDCAM HDだが、解像度が高まることで番組制作にも使用されていくだろう。発売時期は来年4月下旬となっている。

 またプロフェッショナルディスクのほうも、2層ディスクに進化しており、容量も1枚50GBに増えた。PDW-700は2層ディスクに対応しており、従来の2倍となる、最高約95分の記録が可能となっている。

 また国内専用モデルとして、CCDの転送方式をFIT型に変更した「PDW-740」も、来年6月下旬から発売する予定だ。FITとはフレームインターライントランスファの略で、CCDからの信号をいったんバッファリングしてから転送を行なう。

 この方式は、広く一般にビデオカメラで使われるIT(インターライントランスファ)方式に比べて、スミアに強いという特徴がある。報道の現場では、写真用のフラッシュがたかれることが多いが、IT方式のカメラではこれがスミアノイズとして見苦しい映像になることがあり、問題になっていた。FITは、日本の報道の現場からの声を重視して採用されたという。

 さらにハイエンドとしては、デジタルシネマ用カメラの最高モデル「F35」もあるが、残念ながら展示はされていなかった。F35は撮像素子に35mm相当の単板CCDを使い、シネマ用レンズとして広く普及しているPLレンズマウントに対応したモデル。日本ではオムニバスジャパンに3台納入されたという。


■ 意外なところで底力を見せるPanasonic


こちらも巨大なPanasonicブース

 メモリーカード記録の先駆者となったPanasonicだが、いよいよAVC-Intraコーデック搭載のソリューションが起動してきた。

 「AJ-HPX3000G」はAVC-Intraで撮影可能なハイエンドモデル。今年のNABで発表されていたが、公開は一部カスタマーに限られていた。だが今年は実働機が展示され、その威力を見ることができた。

 このモデルでは、レンズ色収差を補正するCAC機能が搭載されており、ズームレンズでも単玉に近い映像が得られるという。CACは補正テーブルが用意されている対応レンズに限られるが、逆に言えば補正テーブルが増えれば使えるレンズも増えていくわけである。

 ブース内ではAVC-Intra100モード(1,920×1,080、10ビット、4:2:2、100Mbps)と非圧縮映像の比較デモが行なわれていたが、その差を見つけることは容易ではない。過去にはDVCPRO HDでも100Mbpsのモードがあったが、今回はフルHD解像度、4:2:2でH.264なので、画質は十分だろう。


P2のハイエンドモデル「AJ-HPX3000G」 AVC-Intra100と非圧縮の画質比較デモ

 また10月末に発表されたAVCHDのショルダーモデル、「AG-HMC75」もアクリルケース内で展示されていた。写真で見ると大型のように思えるが、実際にはかなり横幅も薄く、ちょっとこれまでには見たことがないタイプのカメラとなっている。


「AG-HMC75」はアクリルケースに入っての展示 意外に本体部の厚みがない

 SDカードスロットは1つなので、P2が得意としているカードを差し替えながらの連続撮影はできない。国内よりもむしろ海外市場向けのようだ。発売時期は来年4月で価格は未定となっているが、おそらくかなり低価格での提供となるだろう。


小型ライブスイッチャー「AV-HS400」

 また意外なところでは、小型スイッチャーに力を入れている。「AV-HS400」は、プライマリ8入力の小型ライブスイッチャー。SDとHDソースを混在して使用可能だ。今年12月発売で価格は140万円強。

 標準で4入力のHD-SDIがあり、オプション入力スロットを2基装備する。オプションボードでアナログコンポーネントや、DVI入力も可能だ。もちろん全部HD-SDI入力にもできる。

 このような小型スイッチャーは、ちょっとした収録やライブで必ず必要になるものだが、各社とも利益率が少ないのかあんまり数が出ないのか、新製品が極端に少なくなっている。Panasonicは昨年も、「AV-HS300」というプライマリ6入力の小型マルチフォーマットライブスイッチャーを出しており、この分野でもコンスタントにがんばっている。


■ いよいよ動き出すIkegamiとTOSHIBAのコラボ


並んでGFシリーズをアピールする東芝と池上

 今年4月のNABでは、池上通信機と東芝が共同開発するGFシリーズが発表され、業界をあっと言わせたのが記憶に新しいところだ。カートリッジ型メモリーパックを中心に展開するシリーズで、池上がカムコーダを、東芝がデッキとメモリーパックを開発する。Inter BEE会場では、両者が仲良く隣に並び、共同でGFシリーズをアピールしている。

 NABの時点ではまだモックアップだったが、予定通り実働機が展示された。東芝ブースでは、スタジオデッキの「GFS-V10」を出展している。まだジョグシャトル部分ができていないということで、レスポンスが確認できなかったが、再生、早送りなどの動作は可能。

 また内部に128GBのメモリを搭載しており、50MbpsのMPEG-2映像を約4時間収録・再生することができる。この内部メモリとGFパックを併用すれば、収録しながら別の映像を再生したり、ネットワークでファイル転送を行なったりといったマルチタスク動作も可能。

 メモリーパックのGF PAKは、カメラやデッキで使用する際にはシリアルATAで接続される。PCなどのノンリニア用としては、パック自体にUSB 2.0端子があり、別途読み取り用に専用ドライブなどの設備投資がいらないというのはありがたい。ファイルフォーマットはMXFとなっているので、対応ソフトも多そうだ。


デッキタイプのレコーダ「GFS-V10」 GFパックは32GBを標準で展示

 一方池上のブースでは、カムコーダの「HDS-V10」の実働モデルが展示されている。映像的にはほぼできているが、カメラ部での再生機能がまだ実装されていなかった。またメディアのマウント・アンマウント速度など、これからさらにチューニングしていくという。

 記録はMPEG-2 Long GOPの50Mbpsと、同じくMPEG-2だがIフレームオンリーの100Mbpsの2モードが予定されている。また撮像素子は2/3型のCCDとCMOSが選べるようになるとのこと。

 テープレス時代へ向けて各社とも動きが活発化しているが、アーカイブでも面白い製品が出てきた。池上では、ホログラムディスクを利用したデータアーカイブを提案している。

 現時点では参考出品に留まるが、ホログラムディスクは大容量で経年変化に強いというメリットがあり、アーカイブ用途の期待が高まっている。


カムコーダ「HDS-V10」も実働モデルを展示 ホログラムディスクのリーダー/ライターを参考出展

 メディアの開発ロードマップとしては、来年が第一世代でライトワンスの300GBからスタートし、2010年頃に第二世代となるライトワンスの800GBとリライタブルの300GB、2012年の第三世代ではライトワンスで1.6TB、リライタブルで800GBとなっている。

 現時点で放送局のアーカイブは、大手キー局はビデオサーバーベースへ移行が始まっているが、それ以外ではテープを棚管理するという具合に、かなりはっきり分かれている。収録がノンリニアへ移行することで、今後はアーカイブのノンリニア化も重要なテーマになってくるだろう。コスト的な問題、経年変化の問題をクリアできるのはどのメディアなのか、そろそろ考えなければならない時期に来ている。


■ ブースが巨大化したCanopus/GV


白と赤でまとめたCanopus/GVブース

 ご存じのように、米国放送機器大手のグラスバレーと日本のカノープスは、ともに仏トムソンの傘下となり、国内拠点も統合化されるなど、一本化が進んでいる。出展の方もCanopusとGV製品を一堂に集めた格好となっており、今年はかなり大きなブース展示となっている。

 EDIUSワークグループサーバーは、番組制作で使用できる素材共有ストレージサーバーとして開発中の製品。GVにはK2というハイエンドビデオサーバーのラインナップがあるが、EDIUSワークグループサーバーはそれの低価格モデルという位置づけである。デモ中のEDIUS Proは、バージョンは未定だが、GVのカメラ、Infinity、XDCAMEXに対応した新バージョンになっている。

 またGV製品としては、昨年のInter BEEでもお披露目された小型AVミキサー「Indigo」の実働モデルが出展されている。Indigoはスイッチャーとオーディオミキサーをオールインワンでまとめたもので、SDのベースユニットを拡張する形でHDとの混在が可能になる製品。HD-SDIだけでなくDVIも入力可能になっており、映像のスイッチングやフェードに合わせてオーディオも連動させることが可能。

 設定はタッチスクリーンで行ない、GVの上級スイッチャーで使用されているインターフェースとほぼ同じとなっている。またフェーダーレバーやスイッチ類も上級スイッチャーと同じものを採用しており、GV製品に慣れている人には使いやすいだろう。

 H.264エンコーダは、新開発「Mustang」チップを内蔵したモデルが登場した。今年のNABでは、プロトタイプのマスタングチップで画質のデモンストレーションを行なっていたが、いよいよ製品としてリリースされることになる。


低価格素材共有ストレージとして期待されるEDIUSワークグループサーバー 小型AVミキサー「Indigo」 新開発Mustangチップを搭載したH.264エンコーダ



■ 総論

 今年のInter BEEでは、全体的に初お目見えの製品は少ないようだ。以前からそうだったが、NABで発表した製品の実働モデルが見られるという流れが、ますます顕著化したように思える。

 ハイビジョン化に関しては、国内では当然という流れで進行しており、今年はさらにその上、4Kの映像制作ワークフローがそろそろ見え始めている。特にコマーシャルは、現状ハイビジョン制作のものがまだ全体の5%程度しかないため、ここをいかにHD化、デジタル化していくかが、日本での課題となってくるだろう。

 また機材の価格低下により、デジタルシネマ関係がそろそろ活性化してきそうな雰囲気になってきている。映像産業は放送が一番大きなところではあるが、それ以外の映像制作でも、デジタル化と低価格化の影響は少なくないはずだ。より良質なコンテンツを生み出すためには、才能ある人材のところに安く機材が提供される必要がある。

 放送機材は国内外のメーカーで、棲み分けがより進んだ印象を受ける。日本は撮影機材などのハードウェアを作り、それ以降のワークフローはほとんど海外製品のソフトウェア、あるいはサーバーで占められるという状況になってきている。

 ただ、その中で日本のソフトウェア系ベンチャーも出てきており、ソフトウェア面での巻き返しもそろそろ期待したいところだ。

□Inter BEE 2007のホームページ
http://www.inter-bee.com/2007/
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【11月20日】Inter BEE 2007が開幕。ソニーが有機ELビューファインダ
-42型マスターモニタも。松下は低価格AVCHDカメラなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071120/interb.htm
【2006年11月16日】【EZ】Inter BEE 2006レポート
~ 今年のテーマは「来年」!? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061116/zooma280.htm
【2005年11月22日】【EZ】Inter BEE 2005 レポート
~ HDをデフォルト化してゆく日本の放送業界 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051122/zooma230.htm

(2007年11月21日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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