ワンセグは、いまや携帯機器に欠かせないものである。携帯電話はもとより、PCやスマートフォンなどを中心に、USBを使った外付けチューナのニーズも大きい。 PC向けのワンセグチューナは、ちょうど1年ほど前、低価格であることなどからブームとなったが、現在は市場も多少落ち着き気味だ。そこに登場した注目の製品が、アイ・オー・データ機器から11月末に発売された「SEG CLIP GV-SC300」だ。価格は11,130円。 GV-SC300は、Windowsパソコン用のUSBワンセグチューナだが、いままでの製品に無い特徴がいくつもある。最大のポイントは、PSPやmicroSDカードへのムーブに対応したことだろう。また、メモリーカードからパソコンに録画番組を書き戻す、ムーブにも対応。さらに、ワンセグ映像を倍となる秒間30コマで視聴/再生可能な「なめらかモーション」を搭載するなど、新機能を満載した製品となっている。 今回はこの製品を試用し、製品企画の狙いなどを、同社担当者に聞いた。
■ PSPへ、携帯へ、ワンセグ番組を「ムーブ」 GV-SC300で、もっとも注目されるのは、録画番組の「ムーブ」が可能となっていることだ。 ムーブというと、DVDレコーダを思い出し、なんとなく面倒なもの、という印象を抱くかも知れない。しかし、GV-SC300のムーブは、驚くほど気楽に使えるのが特徴だ。GV-SC300でムーブの対象となるのは、PSPと携帯電話である。ここでは、PSPを例に使い方を説明しよう。 GV-SC300では、録画した番組を「InfoBOX」というソフトウエアで管理する。見ての通り、番組をエクスプローラ感覚で管理するものである。PSPを「USBモード」でパソコンにつなぎ、「エクスポート」ボタンを押せば、ムーブが開始される。対象となるデバイスを選ぶ表示になるので、メモリースティックPRO Duoを選ぶだけでOKである。メモリカードの残り容量などもわかるので、作業はやりやすい。
ムーブの際には、映像形式の変換は行なわれない。ワンセグチューナで受信/録画したMPEG-4 AVC/H.264の映像を、そのまま転送するわけだ。BDやHD DVDレコーダで、DRモードを使ってディスクへムーブする時と同じ感覚である。ただし、転送時間は圧倒的に短い。1時間番組の場合で、実測でおおよそ2分程度、30分番組の場合で1分弱であった。容量は1時間分で約180MB、30分番組では94MBだから、純粋なファイルコピーにかかる時間と同じ、と考えていいだろう。
PSPでの再生は、PSPの「ビデオ」から行なう。PSP側のワンセグ機能は一切使わないため、ムーブ先はワンセグが使えない初代PSP「PSP-1000」でも、新型「PSP-2000」でも構わない。画質についてはワンセグそのものなので、アナログ録画番組をPSP向けにエンコードした映像と比べると、ブロックノイズなどは多めだ。特に、PSPの全画面表示では、ブロックノイズが目立ち、斜め線などにジャギーが見えやすい。とはいえ、PSPの液晶解像度がワンセグ放送に近いこともあり、かなり良好な画質といえる。 PSPの大画面で、どこでも見られるというのはやはり快適である。一般的なビデオを再生する場合と違い、一定間隔ごとにサムネイル表示し、見たいシーンを探せる「シーンサーチ」機能と、ビデオファイルのサムネイル表示はできないが、それ以外の機能は、すべて有効だ。
携帯電話で見る場合も、手順はほぼ同じである。microSDカードなどをパソコンにつなぎ、やはりinfoBOXを使って「ムーブ」する。 ただし、このとき重要なのは、SDカードスロットが、SDカードの著作権保護技術に対応しているものでなければならない、ということだ。一般的なSDカードリーダ/ライターの場合、著作権保護技術に対応しておらず、警告表示が出てムーブが行なえない。パソコン内蔵のSDカードスロットも同様だ。手元に著作権保護技術に対応したリーダー/ライターがなかったため、携帯電話へのムーブはテストできなかった。 この問題に対応するため、アイ・オー・データ機器では、2008年1月に、GV-SC300と著作権保護技術に対応したSDカードリーダ/ライターをセットにした「GV-SC300/SDM(14,280円)」を販売する予定だ。また、松下電器製の著作権保護対応SDリーダ/ライターなどもも利用可能となっている。なお、PSP以外にメモリースティックPRO Duoを利用する場合も、同様に著作権保護対応のリーダ/ライターが必要となる。 リーダ/ライター同様、メモリーカードも、著作権保護技術に対応している必要がある。対応メモリーカードはmicroSD/メモリースティック PRO Duo。
携帯電話の場合、再生はワンセグ機能を介して行なうことになる。そのため、PSPの場合と違い、ワンセグの「データ放送」部分の表示も可能だ。すなわち、GV-SC300の録画データには、データ放送もセットで記録されている、ということである。 このように、PSPと携帯電話で同じ録画データを利用できるのはどうしてだろうか? アイ・オー・データ機器で、これらホーム向け製品の商品企画を担当する同社開発本部の加藤光兼氏は、「ARIB(社団法人 電波産業会)の規格に沿って実装しているため」と説明する。 DVDレコーダの録画と同様に、ワンセグに関しても、録画の基本的なルールはARIBが策定した規格に基づいている。メモリーカードへの記録については、SDカードやメモリースティックなど、メディアの種類ごとに規定がなされており、今回の製品についても、そのルールに則って実装されている。 この規則に基づき各社が実装を行なうため、「確認はしていないが、おそらく他社製品であっても、同じように再生が可能なはず」と加藤氏は話す。アイ・オー・データ機器のライバルであるバッファローも、ムーブに対応したワンセグチューナ「DH-KONE/U2V」を発表しているが、同様にPSP/携帯電話へムーブできる。
■ パソコンにも、PS3にも「ムーブイン」可能 ワンセグのムーブには、DVDレコーダの「ムーブ」と大きく違う点がある。それは、「ムーブイン」に対応している、ということだ。 いったんメモリーカードにムーブしたあとも、パソコンなどへ「再ムーブ」が可能となっている。たとえば、いったんPSPへムーブした映像も、GV-SC300付属の「Move In」というソフトを使えば、再び元通り、パソコンのHDDへ移すことができるわけだ。ただし、映像の再生には、録画に使ったものと同じワンセグチューナが必要で、暗号化技術が絡むため、単純なファイルコピーではダメだが、操作も単純なため、特に面倒だという印象はない。 それどころか、ムーブインする対象は、パソコンでなくてもいい。 ムーブした映像が入ったメモリースティックPRO DuoをPLAYSTATION 3に差し込むと、PSP同様、映像の再生が行なえる。それだけでなく、PS3内蔵のHDDに対し、「ムーブ」することも可能なのだ。ムーブした映像はPS3のハードディスク内に、暗号化された形で蓄積できる。
DVDレコーダで「コピーワンス」と「ムーブ」が嫌われる理由の1つは、ディスクにダビングしたが最後、そこが「コンテンツの終着駅」となるからである。だがワンセグの場合には、より理想的に「ムーブ」が機能する。これくらいの制約ならば、ムーブもそんなに悪役にならなかったのでは、と思える。 DVDレコーダの場合には、一度記録したらデータを消せないDVD-Rメディアも存在するため、メモリーカードのように「ムーブインしたら消す」ということが出来ない場合もある、という事情も関係しているだろう。
■ 安定した録画がPCの持ち味 ワンセグでムーブを実現した理由について、加藤氏は次のように語る。「以前から、パソコンで録画した映像をエンコードし、ポータブル機器へとコピーして持ち出す、という商品を提案してきたのですが、面倒臭さがあってか、こちらが思ったほど普及しませんでした。しかし、ワンセグのムーブならば、簡単で、転送時間の短さなどから、より簡単になると考えました」 確かに、録画番組のエンコードと転送は、現在の高速なパソコンをもってしても、さほど簡単、短時間で行なえるわけではない。ワンセグは画質面で不利ではあるものの、録画さえすればエンコードも不要で手軽だ。ワンセグムーブの場合、1時間番組で2分以内、仮に2時間分の映像を転送するとしても、作業時間を含め5分もかからない。 「携帯電話も含め、ワンセグ機器は様々なものが登場しています。それらと差別化し、パソコンでしかできないことを目指すには、“ムーブ”という機能が重要だったのです」と加藤氏は語る。 すでに、ワンセグの録画機能そのものは、決して珍しいものではない。携帯電話でもほとんどの機種が対応している。だが、それらのモバイル機器での録画には、大きな問題が一つある。それは、「本当に録画できるかわからない」ということだ。 移動に強いワンセグとはいえ、どこでも電波を受けられるわけではない。移動中に録画が始まると、受信品質が悪くなり、せっかくの録画が途中で欠けたりすることも珍しくない。録画中に別のチャンネルを見ることもできない。 移動中には、リアルタイムの放送を見るか、「録画しておいた番組を見る」のが一般的だろう。前者はともかく、後者をきちんとしたクオリティで行なうなら、携帯機器そのもので録画するのは理想的ではないのだ。そこでパソコンを使おう、という発想になるのは当然のことといえるだろう。 となると、パソコンに2つのワンセグチューナを刺し、「W録」をしたくなるところだが、残念ながら現状の製品では「2本差し」には未対応とのことだ。
■ PCのワンセグは「宅内」が中心 事実、昨年のPC用ワンセグチューナブーム以降、「パソコンのワンセグ」の姿は、多くの人が考えるものとは違ってきている。
「当初は移動中に、というニーズが多かったのですが、現在はむしろ、“宅内でながら視聴に”という人が増えています」と加藤氏は話す。実際にGV-SC300には、移動用のロッドアンテナの他に、通常のF型コネクタ(室内に出ているいわゆる「アンテナ線」)に接続するためのケーブルも付属している。同社がワンセグチューナ向けにF型コネクタを付属するようになったのは、ちょうど1年ほど前のことだという。 当初は、他社製品同様ロッドアンテナのみだったのだが、「自宅内で安定した品質で受信したい」という声が大きくなったため、添付と別売を開始した。同社に寄せられた利用者アンケートによれば、「一度も屋外に持ち出したことがない」、「ロッドアンテナを使ったことがない」という人も少なくないという。画質的に、小さなウインドウで「ながら見」するのに適している、という事情もあるだろう。そんなニーズを反映してか、GV-SC300には、番組をWindows VistaやGoogle Destop Searchの「ガジェット」に表示する機能も搭載されている。 画質向上を目指し、本来毎秒15フレームしかないワンセグの映像を演算で補完、30フレームに増やす「なめらかモード」を搭載したり、電車や自動車による高速移動時の電波特性にあわせて受信する「高速モード」を用意したりといった工夫もなされている。 なめらかモーションの効果は「劇的」とはいえないものの、特にテロップやアニメなどで感じやすい「カクつき」を低減できる。 これらも、「パソコンの性能と開発の容易さを生かし、差別化するための方策」と加藤氏は話す。実際のところ、前出のムーブを含め、ほとんどの新機能は、パソコン上のソフトウエアにより実現されているものだ。今回の新製品にあわせ、機能から操作性まで、すべてを見直した新アプリケーションを開発した結果である。
となると気になるのは、いままでに販売したワンセグチューナで、新ソフトが利用できないのか、という点である。加藤氏によれば、残念ながらそれは「不可能」とのこと。旧機種向けのソフト開発についても、「検討中ではあるが、現状では未定」という。価格の低い製品だけに、色々と難しい点はあるのだろうが、「パソコンらしさ」を重視するなら、ぜひサポートを考えていただきたいところだ。 ■ ワンセグの「使いやすさ」を12セグにも GV-SC300で実現された、「ワンセグムーブ」は、ワンセグ録画の可能性を大きく広げ、新しいタイム/プレイスシフト視聴の姿を実現した。カードリーダなどの周辺環境の整備はまだ始まったばかりとはいえ、今後のモバイルAV環境を大きく前進させる提案といえるだろう。 そもそも、ワンセグがPC向けに人気となる理由は、「価格が安い」という点に加え、「フルセグの地デジは、外付けで対応が難しい」という事情がある。 現在、コピーワンスの制限を緩和するものとして「ダビング10」の検討が進められているが、これも、「コピーワンスの使いづらさ」を根本的に解決する方法とならない。その理由は、「ディスクがコンテンツの終着駅になる」という事情に変化がない、という点にある。もし、録画番組へ暗号と特定のIDをひもづける「EPN」が採用されていたとしたならば、今回のワンセグと同様、各機器へのコンテンツ移動が容易になり、使い勝手もはるかに向上していたはずだ。 「ワンセグムーブ」の世界は、非常に大きな可能性を秘めたものである。それだけに「なぜフルセグでこれができないのか」、それがより残念に感じられてしまう。 □アイ・オー・データのホームページ (2007年12月6日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
|